メタの「Threads」がフェディバースにもたらすのは救いか、それとも破壊か?

メタ・プラットフォームズは、Mastodonなども採用している分散型プロトコルにThreadsを連携するとしている。フェディバースのユーザーが増えることは間違いないが、既存のユーザーの間ではメタの参加についての意見は分かれている。
Illustration: Jacqui VanLiew

メタ・プラットフォームズが新しいアプリ「Threads」を公開したのは23年7月上旬のことである。同社のソフトウェアエンジニアであるベン・サベージが、ウェブの標準化団体のひとつであるワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)の開発者グループに自己紹介をしたのはThreadsの公開から数日後のことだった。

この団体は、ソーシャルネットワークを互いに連携させるプロトコルであるActivityPubを管理している。そしてメタがActivityPubを採用する計画があるという噂が数カ月前に流れたときから、同団体はこの瞬間を待ち侘びていた。そして、そのときがついに訪れたのである。「サービスの相互運用が可能となる未来がどのようになるのか、とても関心があります!」とサベージは書き込んだ。

サベージのメッセージに対して温かい返信が届いた。だが、別の反応もあった。

「あなたが働いている会社は人々に最低なことをしている。人間関係を損ない、人々を孤立させている。壁を作り、その中に人々を引き込もうとしている。それでも足りないと、強烈な集団圧力を使うのだ。それはそうと、グループへようこそ、ベン。」

共有とオープンな精神が理念

Twitter風のサービスであるMastodon(マストドン)を含むアプリが使用するActivityPubをメタが導入することには違和感があると最初から指摘されていた。現在このプロトコルを使用している小規模なアプリや個人サーバーの集合体であるフェディバースは、利益の追求や10億人規模のユーザーベースの獲得ではなく、共有とオープンな精神を理念としている。

ActivityPubは、異なるアプリのユーザーが互いに交流したり、コンテンツを閲覧しやすくしたりするだけでなく、デジタル上の認証情報を特定のサービスから別のサービスに移行できるように設計されている。

フェディバースで最大のアプリであるMastodonはオープンソースのサービスであり、非営利団体によって運営されている。Mastodon、そしてPeerTubeやLemmyといった小規模なフェディバースのアプリは、YouTubeやRedditのような閉鎖的なサービスと対抗する存在としてしばしば引き合いに出される。そして通常、メタのような企業は敵とみなされているのだ。従って、メタがメーリングリストに参加したとき、ActivityPubの主導者らからは礼節を守るよう呼びかけがあったにもかかわらず、棘のある発言をすることを抑えられなかった人がいるのも当然なのである。

Threadsを懸念する反対派

10年以上も前から存在し、最近の月間アクティブユーザーが過去最高の約400万人となったフェディバースを、数週間前に登場したばかりのThreadsはすでに圧倒している。

フェディバースの愛好家には、このアンバランスさを勝利とみなす人もいる。突如として、フェディバースのネットワークがこれまでの何倍もの人にとって身近なものになるかもしれないのだ。一方で、そのような考えは甘く、メタの規模感がActivityPubを基盤とする小規模なアプリ群を望ましくない方向に進ませると予想する人もいる。Threadsのサーバーのコンテンツが自分たちのサーバーで表示されるのを予防的にブロックする協定を組む人たちまで現れたのだ。

「フェディバースのコミュニティは、メタへの恐怖と嫌悪だけでなく、期待感から動き出しています」と、ActivityPubの未来を討議するW3Cのグループのリーダーで開発者のディミトリ・ザギデュリンは話す。分散化の運動にメタが参加することを見込んで多くの人がプロジェクトを洗練させ、注目を浴びることに備えている。「怒涛の会議がなされています。助成金の申請が殺到しています。プルリクエストや、よりよいセキュリティ対策、よりよいユーザー体験、すべてをより良くするためのプッシュが来ているのです」と話す。

ザギデュリン自身もユーザーが重要な決定を全員で下し、協同組合として運営されているMastodonのサーバーの一員である。そこでは先日、Threadsを予防的にブロックするかどうかについての投票が実施されたという。この行為は「defederation」(連合しないという意味)と呼ばれている。投票の結果は賛成51%、反対49%だった。

票が割れたのは、フェディバースの未来に対するビジョンが異なるからだ。一方は、Threadsの参加は停滞しているネットワークを成長させ、活性化につながると考えている。開放性やユーザーにより多くの権限を与えるというフェディバースの理念は、Mastodonのようなプラットフォームに多くの人を引きつける魅力としては足りなかった。イーロン・マスクによるツイッター買収に伴う混乱で、長年のTwitterユーザーが新しいデジタルな居場所を求めたときに初めてユーザーが殺到したのである。

しかし、こうしたユーザーの流入も長くは続いていない。Twitterと比べるとわかりづらいフェデレーションのツールを見て諦めるユーザーも多くいた。それからBlueskyが登場した。これはツイッターの創業者であるジャック・ドーシーが支援している競合サービスで、大部分の原則は同じものの、ActivityPubとは競合する分散型プロトコルを開発している。

こうした課題があるなかで、メタが示したフェディバースへの関心は、フェディバースの運動の新しい活力となることが期待されている。同社には膨大なリソースと、幅広いユーザーにリーチする力があるからだ。「これはわたしたちの目標にとって明らかな勝利です」と、Threadsの公開日にMastodonの最高経営責任者(CEO)であるオイゲン・ロッコはブログ投稿に書いている

ブロックか“成長”か

一方で、メタには参加してほしくないと考えている人もいる。コミュニティのリーダーらがメタの意向に対して前向きな反応を示したことは、Vanta Blackのようなフェディバースのユーザーには裏切りのように感じられた。

自身のジェンダーアイデンティティに思い悩むVanta Blackが、Mastodonの小さなコミュニティに居場所を見つけたのは2017年のことである。このコミュニティではモデレーターとユーザーが交流し、憎悪的な投稿をフィルタリングする方法について共通の認識をもっている。だが、何百万人ものThreadsのユーザーがやってくれば、管理できないほど大量のコンテンツがフェディバースに流れ込んできてしまう。それをVanta Blackは恐れているのだ。

メタがActivityPubと連携するプロジェクトを計画しているという噂が流れた今年の春以降、Vanta Blackは「Anti-Meta FediPact(反メタのフェディバース協定)」を立ち上げた。これは、フェデェバースのコミュニティがメタが今後提供するサービスから事前に距離をとることに合意する協定である。

この協定にはこれまでに数百人の管理者が署名しており、その多くはフェディバースの小さなグループの代表者である。ほかの人たちは、ザギデュリンのグループと同じように議論を続けている。「オープン」なエコシステムのメンバーとして、新しい参加者を事前にブロックするべきかどうかについて活発に話し合っているのだ。

予防的なブロックをした前例はあるとVanta Blackは指摘する。極右派のソーシャルネットワークであるGabがMastodonのソフトウェアを使用し始めてから、Gabのコンテンツの流入を防ぐ集団的な取り組みが2019年に実施された。この取り組みは、Gabのコンテンツがフェディバースへの広範囲の流入を防ぐことに成功したと捉えられている。

コンテンツのモデレーションの方針だけでなく、人権侵害や世界的な対立においてメタが果たしている役割を踏まえると、メタをGabと同じようにブロックの対象にすべきだとVanta Blackは主張している。一部のフェデイバースのリーダーが主張する“成長を求める姿勢”は、コミュニティにとっての最善の施策とは相容れないとVanta Blackは考えている。「わたしにとってのフェディバースの成功は、いまあるフェディバースのあり方を維持することです」と話す。

Threadsが決めるべきこと

W3CのActivityPubのグループのメンバーであるヨハネス・アーネストは、個人の安全上の理由から「defederation」を望む人の気持ちを理解できると話す。しかし同時に、メタを引きつけることで、オープンプロトコルによる大きな夢の実現に近づけることを期待せずにはいられないという。

フェディバースの規模の小ささは、メンバー同士の近しい関係性を醸成できるが、分散型オンラインサービスの理念に興味はない家族や友人と繋がりたい人、または大規模なユーザーベースを対象とする新たなサービスをフェデイバースで構築したい人を疎外するものでもある。メタの参加により、ネットワークをゼロから構築するのではなく、1億人以上のユーザーにサービスを提供できる可能性が突如として生まれるのだ。「これはまったく別の次元の話なのです」とアーネストは話す。

メタがActivityPubをThreadsにどのように実装するかは、フェディバースの“ビッグバン”とも言える現象の結果を左右することになる。「連携してすぐに機能するものではないのです」とアーネストは指摘する。Threadsのユーザーがほかのどのフェディバースのサーバーと、どの程度密接に連携できるかを、メタは決めなければならないのだ。

これにはユーザーが自分のアカウントとネットワークをほかのサービスにどの程度簡単に移行できるか、ユーザーの移行先にフォロワーをリダイレクトするツールなどを提供するかなどの決定が含まれる。また、メタの経営陣はThreadsのどのようなコンテンツをフェデイバースに向けて配信するのか(こうした投稿は広告の役割を担う可能性がある)、そしてThreads外のユーザーが自分のプラットフォーム上でそうした投稿をどのように見たり、関わったりできるかを決定しなければならない。メタにこの点についてコメントを求めたが、回答は得られなかった。

Threadsが一挙にフェディバースのユーザーとコンテンツの大部分を占める可能性があることを考えると、こうした選択は分散型アプリの既存のユーザーに大きな影響を与えることになる。また、フェディバースでアプリを作成する人は、基本的にThreadsのユーザーとのコンテンツ共有を前提に開発しなけばならなくなるかもしれない。

現在のネットワークにおいては、相対的に規模が大きいMastodonがこの役割を果たしているとアーネストは語る。とはいえ、Mastodonはフェディバースの開発者とオープンな交流があり良好な関係を築けている。巨大な営利企業にそれと同じことができるとは限らない。

統合は「まだ遠い未来」

ウェブメディアの「The Verge」によると、メタの幹部は先週社員に対して、ActivityPubの統合は「まだ遠い未来のことだ」と伝えた。大きなプラットフォームがプロトコルに対する関心をいち早く表明する一方で、実際の実装の進行は遅い前例はあると、ザギデュリンは指摘する。TumblrはActivityPubとの連携を昨年発表したが、まだ実装されていないのだ。

メタも過去にオープンプロトコルを採用した取り組みでは移り気だった。10年前、同社はマイクロソフトなどの競合他社とともに、相互運用可能なメッセージングプロトコルであるXMPPを一時的に採用した。しかし、この取り組みはすぐに放棄されている。

しかし、当時といまでは状況が異なる。大手テック企業のプラットフォームをどのように規制するかを検討している政府関係者は、企業に相互運用性を求める方向に変わっていると、MITデジタル経済イニシアティブ(IDE)の研究者であるジョルジオ・ペトロプロスは説明する。

Threadsは現在、欧州では利用できない。少なくともその原因の一部は、欧州の新しいデジタル市場法やほかの規制、特にThreadsのユーザーのデータがほかのプラットフォームのデータとどのように連携するかに関連する規則によるものだとペトロプロスは考えている。

新しい欧州の規制には、まだ詳細について話し合われている相互運用性に関する規定も含まれる。信頼されているグローバルな標準化団体であるW3Cが部分的に管理し、すでにTumblrなどのほかの大手プラットフォームを引きつけているプロトコルをメタが採用することは理にかなうと、ペトロプロスは話す。しかし、メタが相互運用性にどの程度真剣に取り組むかはまだわからない。

この間にもザギデュリンやVanta Blackのようなユーザーは、メタがフェディバースと連携、あるいは取り込むことを見通して行動を開始している。

ザギデュリンが参加している協同運営のサーバーは、この先どのように物事を進めるべきかを決定するために再び投票を実施する見通しだ。コミュニティの意見はほぼ半々なので、コミュニティを2つのサーバーに分ける道も検討しているという。つまり、メタの巨大サービスと通信するサーバーとしないサーバーに分けるということだ。Vanta Blackはサービスを分けることについて楽観視していない。「一方が明るく、一方が暗い2つの城をつくるよりも、いまの状態を維持するほうがいいと思います」と話している。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma)

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