灰田の日記②
※4/1 追記
いや~最悪の目覚め過ぎて笑っちゃったよ。
え、ここどこ?俺って何?状態で、何が起きたのかしばらく全然把握できなかった。
一瞬天国か?とも思ったけど、これが天国ならあまりにもガッカリ過ぎる。天女もいなきゃ花畑もなく、あたりには悪臭が充満していてとにかく暗い。イメージ詐欺も甚だしいよ。これじゃレビューサイトも大荒れだろうね。
⭐︎2.5:楽園とは程遠いです。もう来ません。
真上では煽りにも見えるほど綺麗な満月がこちらを覗いてきており、出ない声で「見世もんじゃねえぞこの野郎」キレそうになった。少しずつはっきりしてきた意識の中で俺は、ようやく現状を悟る。
失敗した〜〜〜〜!!!笑
おいおいおいマジかよ~~!!あんなに意気込んだのにさぁ!!格好わり~~!
ごめんね読者のみんな…感動的な卒業式の次の日に遊びに来たOBみたいだよね…。
このやたら凄い吐き気や倦怠感は失敗による副産物か…危うくその場で嘔吐しそうになった。頭上をよく見たら結び目が解けて一本になったロープがベランダから垂れ下がっていた。
全てが最悪過ぎてマジで笑いが止まらなかった。
世界はまだ俺のことを必要としてるってか~?
そ、そんなに俺のこと好きなの!?!?!…いや別に迷惑とかじゃないけど…いきなりだから戸惑うっていうか…(照)
まあ、なら…もうちょっとだけ付き合ってやっても…はぁ、ダリ~!!!!!
とか思ってたらさ…
あれ、なんか赤ちゃんの声聞こえて来ねえか!?!意識朦朧としてるから気のせいかもしれないけど、どこからか赤ちゃんの声聞こえるんだよ!!
助けに行かなきゃ!!…と思ったんだけど、思いのほか体にダメージあったっぽくて動けず、なんとそのまま二度寝。
赤ちゃ~ん!ごめんねもう少し待っててね~!!
2061年4月1日
最悪の目覚め2("最悪の目覚め"の続編)
身体動くようになってたから起床、時刻は朝6時過ぎだったと思う。とにかく移動しないと吐き気止まらなそうだから無理やり起きた。とんだエイプリルフールですわ、とほほほほ…笑(ほ増量中)
なんとか這うように部屋に戻って、布団ないから床で寝た。
…そういえば今日は赤ちゃんの声聞こえなかったな。まだ元気だろうか。迎えに行けなくてごめんね…
2061年4月2日
う、うわー!!!!!!!!
元気になったから外出たらヤバいもの見つけてしまった!!!!
じ、じじ、ジアルフの!!
ジアルフの空艇!!!!!!!!
なんで!?なんで急に!!?!
4月になったから!?
新学期始まるから!!?
入社式終わったから!?!?!
何しに来たんじゃゴルァ!!!!
2061年4月3日
え~昨日は取り乱してしまい申し訳ありません。
突然のことにびっくりしてしまいましたが、元気です。元気過ぎてダッシュで空艇を追いかけてしまい、膝を擦りむいてしまいました(何歳?)
え~というわけでなんか突然ジアルフの空艇が現れました。
出現してからおそらく2~3日経ったけど変化はなし。そもそも今更なんで???経過観察?定期健診?何が目的なんだよ!言え!
そして俺自身にはめちゃくちゃ変化あり。先月末の自分とは別人みたいにやる気に満ち溢れている。なんかもう死ぬのとか絶対ナシっしょとか思っちゃっている。
一体なぜかって?そりゃあねえ…あんなの見せられちゃあ感じざるを得ないでしょ、希望ってのをさ。
ジアルフの空艇がなんの理由もなしに来るはずはないよね。そしてこの前の赤子の声、さらに俺が生きているという事実…。これってつまりまだ生存者がいるってことだよね!?そういうことだよね!?!?
人類!完全に諦めちゃっててごめんね!!ちょっと事情が変わった!!俺もうちょっとだけ頑張ってみるわ!!
2061年4月4日
以前、勉強の話になぞらえて「目に見える目標がないと頑張れない。だから生存者探しはや~めた!」という話をしたと思う。魚のいない川に釣り糸を垂らすようなもの、という例えもした気がするが、まさにそんな気分で以前はモチベーションが続かずにやめてしまった。
でもほら、空見て!あんな一番見えるとこにモチベの塊がずっと浮いてる!人類滅ぼした感じどうだった!?ぜひ感想聞かせて!クソ!!!!
俺は一昨日あの空艇を見た時、怒りと共に謎の感情がこみ上げてくるのを感じた。再会が嬉しいのかな?もしかして好きなのか?あれが!趣味悪っ!!!!
とにかく、あれがある限り俺ずっと頑張れると思う。この昂りは俺を動かすのに十分だった。ありがとうジ~君!!(ジ~君!?)
ぜって~ひと泡吹かせてやるからなテメェ!!
そんなわけで今日から街で生存者探し再開!!
随分久しぶりに声も出したから、一瞬で喉カスカスなって萎えた!!人体脆過ぎるだろ!!ざぁこ!(オスの中年)
2061年4月5日
超久しぶりに鏡見たらマジで急に知らん浮浪者現れてびっくりした。え、こいつが人類の望み?嘘でしょ?小汚いをだいぶ通り越して巨(きょ)汚いよ君…。
というわけで数十日ぶりに髭を剃り、眉毛も整えてみた。ついでに髪も短く切って、きちんとセットしてみた。
声を出し、鏡の自分に微笑みかけてみる。素敵やん…。人間の尊厳ちょっと戻ったやん…。
2061年4月6日
声の調子も戻った!鏡見たらビジュ良くて嬉しい!ほんと数日前が嘘のように活力が溢れている。
とにかく腹が減り、ついこの前まで一切手を付ける気が起きなかった調理系の飯(パスタ茹でるくらいだけど)を扱えるくらい元気だった。
二束茹でてモリモリ食った。そしてちょうど一束分くらい残した。調子に乗り過ぎました。
あと声の調子を整えるため、今日から発声練習始めます!
人類がせっかくあり得ない時間かけて進化してきたのに、たった三か月で退化しかけてて腹立ったから声帯鍛える!やり方とか知らないからとりあえずアニソン歌った!タイガーボールのOP!
隠そうや♪タイガーボール♪
2061年4月7日
空艇に依然変化はないけど、常に動向を見られているような気がする。でも襲ってこないのなら好都合、徹底的に見せつけてやる!俺が元気に過ごしている様をとくと見やがれ(ツイストを踊っている)
ちょっと遠くまで散歩してたら中学校で桜が咲いてた。やっぱ滅亡してても桜はいいなぁ…。
ズボラ君の柔軟剤が桜に見えていたあの時の精神状態なんだったんだよ。
2061年4月8日
体力づくりのためにジョギング始めた!
ジョギングついでに発声練習もすることにしたので、大声タイガーボールジョグおじさんという新進気鋭の不審者として家の周りに出没している。ジョギングの近くの薬局に寄り、サプリをいくつか持って帰ってきた。人間ってビタミン自力で作れないらしいからね、ざっこ♡(オスおじ)
2061年4月9日
生存者捜索も新シーズン開幕ということで以下アプデ情報まとめ
〇生活について修正しました
・一日最低でも二食は食べるようになりました。
・昼夜逆転生活を修正しました。
・布団を新調しました。
〇灰田の清潔感を調整しました
・どこで誰に会うか分からないので、こまめに髭を剃るようになりました。
・二日に一度は身体も洗うようになりました。
・服装にも気を付け始めました。
今後も灰田をお楽しみください。
今日は銀座のあたりまで行ってVelouréのアウターを拝借。値札を見たら19万って書いてて、無意識に「ヒエ」って言っちゃったよ。かなり懐かしいなこの感じ、と思ってめちゃくちゃ笑った。
そうしているうちに、根拠のない自信がどんどん湧いてくる。
まだ見ぬそこの君!待ってろよ!今助けに行くからな!!タイガーボールジョギングで!!(不審者)
2061年4月10日
タイガーボールジョグ中に(タイガーボールジョグ中???)ふと、もし生存者に会った時のことを考えた。
「あ、初めまして、灰田です…」
「あぁ…初めまして灰田さん…権田と申します…」
「あぁ権田さん…珍しい苗字ですね…ハハ」
「ええ、ハハ、灰田さんも珍しいですよ」
「ハハ…滅亡、しましたね」
「そうですね滅亡、はい」
おい、ちゃんとした地獄じゃないか。この期に及んでなんでこんな空気なんだよ、もっと感動的なはずだろ。滅亡してんだから苗字に珍しいもクソもないだろ。
生存者がふてぶてしいギャルだった場合もっとヤバいことになる。
「あ、初めまして、灰田です」
「あぁ…で?」
「で?…と申しますと…」
「なにアンタわら あっちいけし」
「あ、いやその…何か困ったことがあれば…」
「困ったこと?わら 今がその時なんですケドわら」
「あぁ…すみません…行きますね」
おい完全に終わってるじゃないか。トゲトゲギャルの餌食じゃないか。滅亡生活の唯一良いポイント「他人の評価が気にならない」を一気に粉砕じゃないか。あとギャルって滅亡してもブレずにギャルなんだ。
俺ってトークの引き出しなさすぎるな…。さっきまで無限にあった自信に少しだけ陰りが、マズい。
2061年4月11日
昨日独自に行ったシミュレーションにおいては、生存者を発見しても高確率で地獄の空間を発生させてしまうことが発覚。まだ見ぬ彼が頼れるのは目の前のアニソンを口ずさむ謎の男しかいない。そいつが絶望的につまらないとあっては最悪、見つけてもらわない方がまだいくつかマシだろう。
なので今日から面白トーク修行もすることにした。
タイガーボールジョグ中はタイガーボールで口が埋まっているため(タイガーボールで口が埋まっている??????)、生存者を探しながら街中で行うことにした。
今日はポストに話しかけたり電柱に話しかけたりしてみた。結果として一日の不審者でいる時間の割合が爆増してしまった。
2061年4月12日
最近ボイトレの成果が出てるようで、タイガーボールのサビのめっちゃ高い「レッツゴーアドベンチャー♪宝の山、夢の海♪」のとこが歌えるようになってた!あとなんかビブラートとかもかかってる気がする!!!あぁ誰かに聞かせたい…!
トークの練習もなかなかいい感じで、鉄板!滅亡エピソードトークとして「おせち」を仕上げた。これはかなり大衆にウケそうだ(大衆どこ)
ボイトレもトークも結構いい感じだから、早く生存者に会いたいな~!!
2061年4月13日
この前咲いてた桜もかなり散っていて、春も終わりかと思う。今考えれば、いつの間にか冬も終わってたな。
そうだ!そろそろ衣替えすっか!と思い、部屋を整理。ウォークインクローゼットの中に冬服をしまっていると、この前拾ったラジオが「お久しぶりです」みたいな顔して出てきた。
俺はピーン!ときたね。
何も聞こえないなら、作ればいいじゃん。
2061年4月14日
ラジオ作るぞ~!
よっしゃーラジオ♪ラジオ作るぞ♪
ラジオ♪ラジオ♪
…え、ラジオってどうやって作るんですか?
粘土とかでいけます?…ムリですか、そうですか。
あ、じゃあ小麦粉とかですかね?
…そうですか。はぁ~ラジオってこねないんですね。
ラジオを作ると意気込んだものの、本当にこのくらい何をしたらいいのか分からない。ラジオって何?????
そして滅亡生活の鉄則「こういう時は図書館にレッツゴー」
マジで都合よく「ラジオの仕組み」っていう本あって超笑っちゃった。
ほうほうなるほど、はいはい…
理論上は可能…ってことか(眼鏡クイ)
2061年4月15日
ラジオをやるに必要なのはどうやら「AM送信機」「アンテナ」「動力」この三つが絶対必要らしい。発電機はポータブルの物がすぐ手に入るから問題ないとして、問題は「AM送信機」だ。
まず、なんですか?それ
アンテナはなんとなくわかる。屋根に付いてるあのナナフシみたいなやつだろ?あとは優勝した力士が日本酒飲むやつみたいなのだろ?
AM送信機ってなんなんだよ…
2061年4月16日
「ラジオの仕組み」を読んでたら、激震走る。
一切意味分かってなかったけど、どうやら無線とラジオって使ってる帯域が違うだけでほぼ同じ仕組みらしい!!え!!やったー!!じゃあなんとなくわかるんですけど!!
昔被災地に派遣された時に無線部隊の手伝いしたことがあって、その時なんかごちゃごちゃ用意してたアレか!!AM送信機!!うわ~!当時全然わかってなかったけど今解明した!人生の伏線回収!気持ちい!!!!
急に完成のビジョンが見えて嬉しかったので桃缶を開けた。滅亡してても桃は美味い。
2061年4月17日
一日色んなリース屋を回ったりして無線機のカタログを色々見ていたら、やっと見つけた!今ある小さい発電機で動いて、しかも一般的なAMラジオの周波数に対応してるやつ!!
VCOM VC-9900というマシンだけど、どこのリース屋にもさすがに現物はなかった。そりゃそうだよな…
「ラジオやりたい!貸して!」ってやつ滅亡前にいたら怖いもん。いやいやポッドキャストやれよという話だもん。
とりあえずレンタルという線は捨て、明日は家電屋を回ってみようと思う。
2061年4月18日
家電といえばあそこっしょと思い秋葉原へ(安直)
30年ほど前まではオタクの街だったらしいが、今となっては家電と外国人の街になってしまったな(それすらもう過去の話だけど)
一軒一軒家電屋を探したけど、PCパーツは多いがそういう家電は少ない。ましてや俺が探しているのは掃除機とか電子レンジとかじゃなく、AM送信機とかいう誰も欲しがらないやつ。
明日もうちょっと探してみるか…。
歩き過ぎて足が痛くなってちょっと休もうとしたら、旧ラジ館ビル(今グローバルハブ…?みたいなのになってた)の近くに絶滅危惧種に指定されてるでお馴染み、メイド喫茶を発見。感動。
秋葉原ってこういうの残してた方が外国人喜んだんじゃないか…?
2061年4月19日
あった!!!!!!!!
丸二日歩き回って、もう諦めかけたその時ついに見つけた!!!!!正真正銘VCOM VC-9900!!!!!
結局秋葉原になくて日本橋まで移動してようやく見つけた!レトロショップMori!!!最高!!!!!!
ついでにアンテナと接続するケーブルもあったし、アダプターも!!お礼にレトロショップMoriの前で喜びのタイガーボールを披露。
いや~なんかこんなに達成感あるの久々だなぁ。やっぱ”目標”って人生において一番大事なスパイスなのか…。
かなり疲れたけど今の俺は誰にも止められない(カッコいい)
明日はアンテナを回収しに行こうと思うけど、こっちはアテがあった。昔、海自の知り合いから話を聞いたことがある。
「安全航行のために、船には必ず強力なアンテナが付いてる」
2061年4月20日
すげぇアンテナを手に入れるにはデケェ船。デケェ船と言えばあそこっしょ!!!ということで東京港フェリーターミナルへ(安直)
船デカすぎてアンテナも持って帰れないサイズだったらどうしようという今更過ぎる不安が俺を襲う。
甲板をくまなく探してたら、傘立てに刺さっているゴルフクラブを発見。「P」って書いてあるけどなんだこのP。Pっぽい形してるからか?
そのくらいの乏しいゴルフ知識だったが、気分転換に素振りをしてみたらそれなりに気持ち良かった。
太陽と水平線、波音、カモメの鳴き声…あれ、これ滅亡してないんじゃね!?って一瞬なるくらい爽快だった。
ただそんな気分は振り返って真っ先に目に入った空の異物でかき消され、「あぁそうだアンテナアンテナ」とキビキビ身体を動かした。
そんなのも含め、乗船してから小一時間でアンテナを回収。
よりによってマストの上かよ!危ねえよ!!!!
2061年4月21日
機材は大方揃ったので、ついにラジオブースの場所決め!
障害物が少なくて近くに高い鉄塔がある場所を探して都内を走っていると、あるものが目に飛び込んでくる。
2058年、老朽化が原因で開業100周年目に解体された東京タワーに変わる東京都の新たなシンボル「シンパシーピラーTOKYO」。東京タワーのすぐ近く、芝公園のど真ん中に建てられたこの塔は、めちゃくちゃ世間から批判されながらも半ば強行的に建設された。公募によって決められた「シンパシーピラーTOKYO」というネーミングはなかなか皮肉が効いてていいよね。
公園なので障害物も少なく、塔の高さも申し分なし。ということでシンパシーピラーTOKYOの根元にあるエントランス施設の横の公園管理小屋をブースにすることに決定。
中には芝公園を整備するための器具もたくさん入っていて、丸一日かかったけど中身を出し終えられなかった…でも楽しい…!
自分だけの秘密基地を作っている感覚、最高の滅亡生活♪
あと中にあった金色のスコップもカッコいいから持ってきた!小さくて持ちやすいし何より先が尖ってて殺傷能力高いのがいいね…(物騒)
この調子で明日も頑張るぞ~!
2061年4月22日
ブース作り2日目。
小屋の中身を全部出して、掃除も完了!花の肥料とかが重すぎて心折れかけた…。
中に機材とか小さい棚とかも入れたし、ほぼほぼ完成!ついでに近くのホムロから椅子とかテーブルとかも拝借してきて搬入した。こういうの選んでる時が一番楽しいわ。
あとはアンテナを取り付けるだけなんだけど、ちょっと問題が発生。
地上100メートルくらいに取り付けたいんだけど、地上50mから上は外の非常階段から登れなくなってて、どうやらよじ登るしかないっぽい。ちょっとさすがに躊躇するよあの高さはさ…
2061年4月23日
マジでめちゃくちゃ後悔してるんだけど、最初ブースの入り口施錠されてたから安易に破壊したら扉ちゃんと閉まらなくなって肌寒い。冬も使うのにね…あたしってほんとバカ…。
というわけでここ最近動きっぱなしだったので今日はオフの日!と思って久々に家帰ったら凄いものを発見。
なんと…なんと…リチャードパーカーがベランダの下で咲いてる!!
うわぁ!リチャードパーカー!!ってリアルに声出た。
ごめんなあの時は!!!俺どうかしてたよ!この世界と同化してたよ(感謝の押韻)元気だったかリチャードパーカー!!よくぞ頑張ったなリチャードパーカー!お前は正真正銘ミニトマト、いや、ミニじゃないな!!立派なメガトマトだよ!!!!!はぁ!!?!?!?!?
奇しくも俺がベランダから毎日投げ捨ててたウ〇コを肥料に、リチャードパーカーはたくましく育っていた。さすがに秘蔵のおかず、ズワイガニ缶と常温ビール飲みました。あれカニってこんな感じだったっけ…?
あとごめんリチャードパーカー、さすがにお前を食べてやることはできねえ…。
リチャードパーカー「!!?!」
2061年4月24日
よくよく調べたら、フェリーについてたアンテナとAM送信機は周波数の帯域が違うらしく、このままではうまくいかないことが発覚。先に言え!!!海自の友達が言ってた「マリン無線」ってそういう意味だったのか。というわけで周波数を変換する機械を探しに再び日本橋へ。
レトロショップMoriさん、またお世話になりやす…へへ…と冗談半分で入ったら本当にあって笑っちゃった。レトロショップMori、何者?
というわけで周波数問題も解決。
というかよく見たらレトロショップMoriにアンテナも置いてあったからここで全部揃ったじゃんという野暮なツッコミはよせ。
2061年4月25日
マイクとかミキサーとかの細かな周辺環境も揃え、ブースが本格的に完成。ON AIRと書いたランプもついでに置いたのでかなりブースらしくなった。昔からの夢だった自分のラジオ、まさかこんな形で実現するとはな~。
そして見上げると目に入ってくる、シンパシーピラーTOKYO。
まだ完成して2年も経っていないというのもあって、その綺麗さは滅亡したこの街から明らかに浮いていた。
1100億円もの費用を投じて強引に推し進められたシンパシーピラーTOKYOだが、何よりも問題だったのは「外国人観光客向け」に作られたことだった。
最上階には海外のレストランだけを誘致し、公募で決定した名前も「シンパシーピラー東京」から勝手に「シンパシーピラーTOKYO」に表記が変更されていた。
この塔の完成に伴って一昨年の大晦日からこの芝公園ではカウントダウンセレモニーが開催され、年明けと共に大きな花火が上がった。もはや東京の街が国内外から「Neo York」と揶揄されているのを見て、当時の俺は何か言葉で言い表せない変な感情に陥っていたのを覚えている。
一度だけこのシンパシーピラーTOKYOの一階の温泉施設に入ったことがある。外国人の喜びそうな内装のプール施設のような空間の中、軽食やアルコールが提供されたりなどかなりやりたい放題な印象だった。屋根や壁もチープで、1100億円のうちどれだけが中抜き、海外への利益横流しがされてるんだろう、というのが率直な感想だった。
当然世間の批判は凄まじく、建設前からよくこの芝公園ではデモ活動が行われていた。過激化し過ぎた事態を鎮圧するために出動命令がかかったこともあるが、彼らのあまりの熱量にかなりビビったことを今でも覚えている。
そういう意味でも、このシンパシーピラーTOKYOには思い入れが強かった。正直俺もこのタワーにはかなり反対だったし。どうせなら伝統を重んじる和風の忍者屋敷みたいなカッコいい塔がよかった。それはそれで外国人向けって怒られそうだが。
様々な利権が絡み、欲に塗れたシンパシーピラーTOKYO。
まるで滅亡した東京の街を無視するかのように整然と立っているこの塔の下で、俺は滅亡を受け入れ、決して希望を捨てずにラジオをやるんだ。
俺はまだこの塔を好きになれそうもないけど、だからこそここで始めたい。いつかそれは、想像以上の意味をもたらしてくれるような気がするから。
…いや、ないかもしれないです。
ごめんなさい、あんまり自信はない。
本気で掃除をしたからブースの中はかなり綺麗だ。家具も新品で高級なものを揃え、レイアウトも工夫を凝らせた。
シンパシーピラーTOKYOの関連施設と言われても差し支えないくらい素晴らしい仕上がりになったと思う。
だからこそ俺はここを、「瓦礫の山ブース」と名付けることにした。
最大級の愛と皮肉を込めてね。
2061年4月26日
超簡単な手書きの台本が完成。
こんなのなくてもいいだろという内容だけど、せっかくの冠ラジオだしこういうのはあったほうが頑張れそう。ラジオには台本が付き物だ。発電機の稼働テストをしてみたところ、放送はできて10分程度。みじけぇ…。
俺が東京の街でトーク練習してきた内容を喋れば一瞬で終わってしまうが、こればかりは仕方がない。出力を抑えて長時間やるより広範囲に、ダラダラ長時間やるより短く質の良いラジオをやろう。
さあどうしようかな、肝心のラジオのタイトル。
2061年4月27日
「なんかこうやって色々準備してるとさ…文化祭みたいだね…」ってボソっと言ってみた。滅亡してる世界でおじさんが一人、さすがに文化祭みたいではない。
もやい結び(きゅん…)をまた練習している。
おっと、今回ぶら下がるのは俺じゃないから安心してくれよ!
ラジオをやるにはあと「アンテナ取り付け」というめちゃくちゃ嫌な作業が残ってる。シンパシーピラーTOKYOを50m登り、アンテナをロープで引き上げるときのためのもやい結び(きゃわ…)というわけさ!!!!!
前回のミスを踏まえ、かなり入念にテストした。うん、完璧だ。今日から俺のことはもやい結びのプロフェッショナル、ひと呼んで「もやフェッショナル」とでも読んでくれたまえ。
2061年4月28日
晴れていたのでまた東京港に行った。あそこ好き。
前みたくPで素振りを何回かやって帰ろうとしたら傘立ての中にゴルフボールを発見、せっかくなので打ってみることに。
ゴッ!!…コロコロコロ…チャポン…
思いっきり地面を叩いて大幅に勢いを失ったPは惰性でボールにぶつかり、同じく惰性で転がったボールは情けなく海に落ちていった。マジで悔しい。カモメお前、何笑ってんだよコラ…!
悔し過ぎたのでもっとちゃんと練習することを決意。絶対上手くなってやる…!
ふと、滅亡前の自分と滅亡後の自分がまるで別人のように感じる。世界が滅亡してからはずっと「楽しい!」「嬉しい!」という具合だが、以前はもっと色んな感情に脳内を支配されていたはずだ。何かをするたびに心をすり減らしていた滅亡前と今、果たしてどちらが自分にとって良い環境なのかと問われれば答えるのが非常に難しい。改めて、この生活に陥ったのが自分でよかったなと思う。
最近は特に、世界が滅亡してることを忘れそうになるほど毎日が楽しい。とにかく色んな事への関心や意欲が溢れてくる。
ただ、決してあの頃も忘れたくないなと思う。平和だった頃から目を背けるのは、希望を捨てることと同義だからだ。
俺は今一人だけど、孤独という事実から逃げてはいけないし、逃げるつもりもない。孤独を背負うことで"生存者を見つける"という希望を捨てずにいられるはずだから。
あの日空艇を見た時もそうだった。あの時に感じた感情の昂ぶりは、整地されかけていた感情を再び隆起させた。孤独を受け入れるというのは、希望の火を燃やして前に進むための大切な燃料だ。
そうだ、パーソナリティの名前は”ロンサム灰田”にしよう。
ロンサムはLonesome、「寂しい」「独りぼっち」みたいな意味だ。ガラパゴス諸島に住んでいたゾウガメ、ロンサム・ジョンから拝借した。孤独を忘れないようにするには、うってつけの名前だ。
2061年4月29日
ラジオのコーナーや自虐ネタなどはどんどん思いつくんだけど、肝心要のタイトルは決まってないんだよな~。
「ロンサム灰田の世界の残り香」
「ロンサム灰田のロストワールド」
「ロンサム灰田のシャングリレディオ」
全部違うな…シャングリレディオが特に違うな…
なんとか明日中にはタイトルを決めなければ…。
放送開始を決定した!明後日5月1日!!!!なんでかって?キリがいいからね!!(既視感)
それに合わせてアンテナも取り付けを明日中にしなければ!忙しくなるぞ~♪
2061年4月30日
今日は朝からかなり活動的に動いた。
タイガーボールジョグも済ませたし、天気が良かったので布団を干したり、服を洗ったりもした。タイガーボールジョグ、もう上手くなり過ぎてキー+2とかで歌ってる。タイガーボールのことなら俺に任せてくれ。
そして現在15:00。
いつもは寝る前に書くこの日記も、今日はこの時間に、そして瓦礫の山ブースの中でこれを書いている。なぜいま書いてるかって?いやぁ、もしかしたらこれが最後になるかもしれないからね。好きだった漫画が突然打ち切りになったら悲しいだろ?好きな人から訳も分からず連絡を断たれたら嫌だろう?
そう、俺はこれからアンテナを取り付けにこの塔を登る。
まともな昇降もないから、落ちたら間違いなく死ぬ。なんでそんなギャンブルするの?地上から50mのところに付ければいいじゃん!って思う方もいるだろう。
…でもそれじゃあダメなんだ。
より広い範囲にラジオを届けるためには100メートル必要なんだ。このラジオをやると決めた以上、できることは全部やらなければならない。
これはシンパシーピラーTOKYOから突きつけられた俺への挑戦状だ。
俺はこれを乗り越えなければならない。
乗り越えなければ前に進めない。
なあに、大丈夫さ。
今の俺にできないことはないさ。
それでは、行ってきます。
世界に5月が訪れますように!
必ず帰ってくるよ。
灰田
※追記
ははは…!
やったぞ…俺はやった!!
乗り越えてやったぞ!!!
シンパシーピラーTOKYO!!ジアルフ!!みたか!!
人類の強さを舐めるなよ!!バーカバーカ!(小学生)
地上から100メートルの高さにアンテナを取り付ける作業は予想に反してかなり順調に進んでいった。
まともな命綱無しで鉄骨を登っていくのは相当なスリルで、少しでも下を見てしまうと進めなくなりそうだったから。なので俺は口笛を吹きながらどんどん登っていった。
目的の高さまで登り、腰から下がったロープをたぐりよせてアンテナを引き上げる。今回は完璧だったもやい結びが、計画の成功を予感させた。アンテナをクランプで固定し、落下防止のワイヤーも無事接続。作業自体は5分程度だったと思う。
そしてさあ、降りようかというその時である。
そう、こんなに引っ張ってこのまま何も起きないわけないよね。
「ポキッ!」「あっっ?」
掴んでいた金具が外れて、俺は落下した。
あ、終わったと思った。
こういう時って世界がスローモーションに見えたり、今までの走馬灯が脳内を駆け巡ったりって言うけど全っ然そんなことないね。一瞬の出来事過ぎてなにも感じなかったよ。
唯一見えたのは、なんかジアルフの空艇がめっちゃ光ってるように見えたくらい。最後に見た景色はそれだけ。
え、じゃあなんで生きてるの?この日記は何?
ええ当然の疑問ですよね。
いや~我ながら生命力強すぎて笑っちゃったよ。
そのまま俺は地面に叩きつけられるかと思って死を覚悟した。だって高さ100メートルだからね。生きてられるわけないじゃん。
でも俺は生きてる。まさに奇跡だった。
落ちたところが、温泉施設の真上だったんだ。勢いよく俺はドームの屋根を突き破り、そして悪趣味なプールに落下した。皮肉にも俺は手抜き工事の温床に救われてしまったってわけさ。くぅ~!!
着水した時には気を失ってしまったけど、偶然近くにあった浮島のおかげで溺死も回避。俺しぶとすぎてワロタ。
シンパシーピラーTOKYOの建設反対運動を見た時に俺は彼らのエネルギーに気圧され、そして心のどこかで憧れに近いものを抱いたんだと思う。
「戦うことから逃げてはいけない」
彼らの意志は届かなかったが、俺の中にはこうして生き続けている。
改めて、この塔の下にブースを構えてよかった。
目的は違えど、彼らの執念は形を変えてこの理不尽な世界に抗い、希望をもたらす力になってくれるはずだ。
俺が量子アーカイブ計画の被検体に選ばれたのも、こうして元気に生き残ってしまったのも、全てに意味があったのんだろうな。
アンテナは取り付け完了、命も無事。
これで全ての準備が整った。
明日から、やっとラジオを始められるな。
ようやくしっくりくる番組タイトルも思いついたしさ。
「ロンサム灰田のラジオレジスタンス」
よし、これでいこう。
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