◆あの日少年だったぼくらへ~

今年、ノーベル生理学賞を受賞した山中教授の研究テーマは「iPS細胞」でした。将来的には臓器のクローンを生成して難病の治療に役立てられると期待されています。

その研究が今後進めば、理論的にはクローン人間の作成も可能で、今後は倫理的な問題も踏まえながら基礎研究が進んでいくことになるでしょう。

なんでこんな話をしはじめたかといえば……。

約30年前の自分たちにとって、「クローン人間」はSFの代名詞ではるか未来のお話でした。もちろん2012年という胸躍る近未来においては宇宙旅行も実現すると信じていましたから、30年後にその研究の礎が確立する、というニュースは、当時のぼくらにとってやや遅すぎる報せなのかもしれません。

しかし、当時のぼくらに次のようなニュースをささやいて、誰が信じるというのでしょう。

「30年後も仮面ライダーは放送されていて、主人公は魔法使いだ」

あ、間違えました。

「30年後、ギャバンがそのまんまな姿で映画になってるぞ」

まぁ、賢い子供ならそれもあり得ると分析するでしょうね。ギャバンという版権が外国にでも売られない限り、お金さえあれば映画化は可能なわけです。しかし……

「大葉健二がギャバン役で出てるぞ」
「キャラもキレもあの頃と変化なし!」

と言ってどれだけの子供が信じられるでしょう。

そして想像するに違いありません。

「そうか、それはきっと大葉健二のクローン人間だ!!」

……なんか無理矢理オチをつけてしまいましたが、そんな衝撃を味わえる映画でございました。
いやすごい。なんか眼福だった。

早いところ研究を進めて、大葉さんのクローンを後世に残すことを提言いたします。



◆あらすじ

火星へと飛び立つ若きふたりの宇宙飛行士。彼らは固い友情で結ばれた親友であり、ある研究に命をかける同志だった。だが火星で起きた突然の事故で、ふたりは行方不明になってしまう。

それから1年後、ふたりの幼なじみであり、彼らの研究を引き継いでいた河井衣月は、研究所で謎の怪人に襲われる。悲鳴を上げて逃げる彼女を救ったのは、銀色のスーツに身を包んだ騎士のような男。

「あなたは誰なの?」その姿に一瞬、ある人のイメージをダブらせながら衣月は呼びかける。

「宇宙刑事ギャバン!!」

タラッタ~♪ タラッタ~♪ タラッタラッタラッタタ タラッタラッタラッタタ……♪

以下略!!



この映画がなかなかに厄介なのは、これをどういう視点で観ればよいか――それが難しいというところ。

ギャバンというある意味新鮮なヒーローを広く子供に知らしめるのが目的なのか、それとも懐古世代のお父さんのハートをつかむマニアックなものなのか。

残念ながら、そのテーマ性というか目的がいろいろブレていて、新鮮ながら懐かしさもあり、最新鋭の技術にしてはチープで古くさく、それがまた味わいといえば味わいなんだけど、でも主演はあまりピンと来ない新米宇宙刑事……というけっこうカオスな感じとなっています。

特に冒頭は突っ込みどころの連続と言ってもよく、けっこうなホラー演出があるので周りの子供が怖がったりしてるかと思えば、リアリティ無視した話の筋立てで苦笑を誘ったり……対象年齢が謎すぎます。

まぁ、とりあえず劇場でなければ大声出して指さしてるところが、

HOPE

でしょうか……。

そうです。日本版スペースシャトルとも言われたアレです。H-2Aロケットの先っちょにNASAのスペースシャトルをそのまんま乗っけたなんともイカした(イカれた)お姿。スペースシャトル亡き今、あまりにも見事なパクリっぷりゆえにJAXAの黒歴史になったとばかり思ってました。それがなんと宇宙飛行士を乗せて発射されます。

いや待て。おまえ無人往還機だったろ!

しかも目的地「火星」て!!

火星にいけるくらいの科学力があるなら、もうちょっとマシなものに乗せてやれよ!

もちろんHOPEはスペースシャトル問題点をそのまま継承しているので、現在計画は凍結されております。

あと、このお話は宇宙刑事シリーズと時系列が同じなので、普通に地球出身の人が銀河連邦警察の一員になったりしてるんですが、その辺の世界観って整合性あるんでしょうか?

行方不明になった人を勝手にスカウトして組織に加えるとか、一歩間違えると危険な感じです。

それはさておき、冒頭のシリアスな雰囲気からは一転して、中盤以降はかなりコメディタッチでお話が進行していきます。いや、敵の目的や行動は本当に恐ろしいものばかりなんですが、なんというか内容が当時のまますぎてテレビを観てるみたいな……。

特に平成の世に宇宙犯罪組織の一員として「魔女」なるものが出てくるとは……。

魔女キル、最高でした。昭和や、昭和の魔女や!!

しかも演じる人見早苗さんはまさにギャバン放映の年に生まれた人ですよ? なんでそんな人がここまで昭和のワル魔女演じられるんですか? JAEすげーな!

まぁその間にもギャバンこと十文字撃やその親友との関係、幼なじみの女性をめぐる『タッチ』的な展開が語られる訳なんですが、そこがちょっとチープでしたね。周りの子供たちがぐずる、ぐずる……。

一方、相変わらずの安セットで作戦を練る新マクーのみなさんは、時間が止まったかのような懐かしい演出でギャバンを苦しめにかかるわけですが、そこで登場するのがぼくらの先代ギャバンです。

この瞬間、劇場の空気が変わりました。

結局この映画版ギャバンの演出のすべては、大葉健二さんのためにあったと言ってもいいと思います。熱演ながらややちぐはぐ感のあった雰囲気が一文字烈の登場と同時にリセットされ、拳法の“型”のごとく枠に収まり演舞となってスクリーンからほとばしる……そんな感じでした。

それはつまり、スター不在のままスターありきの映画を撮ってしまっていた、そんな感じです。

大葉さんの動きのキレは相変わらずで、激しい戦いの中にアドリブや顔の演技を入れる余裕、お茶目さも持ち合わせていて懐かしいやらかっこいいやら。

そして、大葉さんとコンビになることによって、つかみ損ねていた撃のキャラクターもスッと入ってくるから不思議です。

後半、魔空空間に引きずり込まれたあとのふたりのバトルの楽しそうなこと。地球の命運がかかっているとは思えない雰囲気で、けれども真剣にエンターテイメントしていました。

逆に言えば撃というキャラクターだけで物語を成立させられなかったということですから、残念な展開なのかもしれませんが、動く大葉さんをたっぷり観られたことには感謝したいです。

特に、悩む撃の心の内を看破した烈が拳をもって撃に渇を入れるシーンは見物です。

けっこうむちゃくちゃな理屈なのに、あの顔で殴られたらなんか納得しちゃう。

男ってスゲーな。ぐずぐずすんなよってことだな。



◆まとめ

ダブル蒸着に震えろ!! 
※赤射と焼結は特に必要なし


個人的な評価としては“まあまあ”な作品だったのですが、蛇足に思えたのがシャリバンとシャイダーの参戦です。

正直嬉しい登場なのですが、あまりにもあっさり過ぎ、カメオ過ぎでした。例えるなら、『エクスペンタブルズ』一作目のシュワちゃんくらい。

ストーリーに盛り込めないならいっそのこと出さない方が、ギャバンの成長物語としてまとまりがよかったと思いますが、ここは本当に好みの問題でしょうね。

お祭り的な雰囲気を出すのなら冗長なドラマ――特に男女の恋愛ものを入れてほしくはなかったし、そういうことをするのであれば、ガッツリ大人向けにこだわってほしかったとも思います。

ただ、『電人ザボーガー』のように超絶マニアックになるのもどうかと思うので、難しいところですね。

また、お子様の反応としてはやや残念な感じでした。物語終盤に「トイレいきた~い」のコールがあちこちで鳴りはじめたのは苦笑でしたね。これなら、去年と同じく戦隊と共闘させる映画の方がよかったかな~と思わずにはいられない、そんな内容でございました。

ううむ、大葉さんの出演が素晴らしかっただけに、ちょっと残念!