いまは亡き辞書編纂(へんさん)者の見坊(けんぼう)豪紀(ひでとし)さんが、こんな趣旨のことを述べていた。世の中で使われる言葉の意味は、辞書の世界から無遠慮にはみ出すものだ―と。それが耳になじんだ言葉でも、不思議な用法に出合うことは確かに多い。
▼一例をあげれば、「防犯のための対策」を縮めた「防犯対策」である。定着した観のある表現ながら、辞書の意味に従えば「防犯」を打ち破るための「対策」、いわば犯人側の視点だろう。さりとて誤用と言い切れないことは、このところ首都圏で相次ぐ強盗事件が示している。
▼施錠した家の窓ガラスを割り、強引に侵入する手口からは粗暴な犯人像が浮かび上がる。一方で、抵抗を受ける恐れの少ない高齢者や女性の住まい、それも周囲の目が届きにくい戸建てが多く狙われていると聞く。防犯への策を講じた犯罪だろう。