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地球温暖化懸念やエネルギー安全保障への関心が原子力発電を後押し
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欧米では英国とフランスが原発復権の先頭に立っている
原子力発電は長い間衰退傾向にあり、世界の発電量に占める割合は1990年代半ばの18%から9%と半分に落ち込んでいる。しかし、今、復活の兆しが見られる。
中国とインド、ロシアで原子力産業の拡大が止まることはなかったが、欧米では原子炉建設コストの高さやより安価な代替エネルギーの普及で、原子力発電から離れていく国も多かった。
だが最近では、地球温暖化懸念や、ウクライナに対しロシアが始めた戦争を背景したエネルギー安全保障への関心から、原子力への関心が再び高まっている。
各国の原子力エネルギー投資
一部の国は、新しい大型原子力発電所の建設に着手している。また、既存原発の耐用年数を延長するため資金を投入する国も増えている。
先進国における原子炉の多くは、一般的に40年とされる当初の耐用年数終了が近づいている。原子炉の寿命は延長可能だが、改修に多額の投資を行う必要がある。
小型モジュール炉(SMR)への投資も行っている国も多い。標準化された部品を工場で製造し、現地で組み立てることで建設コストを抑える仕組みだ。しかし、SMRの商業化は遅れており、実用化にはまだ何年もかかると見込まれている。
世界の現状
- 欧米では、英国とフランスが原発復権の先頭に立っている。現在、原子炉が発電量の約15%を占める英国は、2050年までにその割合を25%に引き上げることを目指し、その一環として最大8基の大型原子炉を建設する計画だ。すでに発電量の70%を原発に頼っているフランスは、今ある原子炉の寿命を延長しながら、新たに6基の原子炉を建設する予定
- かつて世界最大級の原発大国だった日本は、11年に起きた東京電力福島第1原発事故後、原発再稼働が進んでいない。地震と津波による3基のメルトダウン(炉心溶融)により、10万人以上が避難を余儀なくされたが、それでもなお30年までに原子力発電の割合を電力構成の50%に引き上げることを目指している
- その他の欧州地域:
- ハンガリーはロシアのロスアトムと共同で2基の原子炉を建設中
- チェコは韓国水力原子力発電に原子炉2基の建設を託し、ポーランドはウェスチングハウス・エレクトリックに最初のプラント建設を委ねるが、いずれも資金はまだ確保されていない
- ドイツは23年4月に最後の原子炉を閉鎖したが、世界の核燃料市場では依然として重要な役割を果たしている
- 米国では30年ぶりとなる新規原子炉が完成した。ただ、新たなプロジェクトは計画されておらず、投資家の関心はSMR開発や閉鎖プラントの再稼働に向けられている
- アラブ首長国連邦(UAE)は24年3月に4基目の原子炉の運転を開始。UAEの原発を建設した韓国は、今後10年間で国内に少なくとも3基の原子炉を新設し、さらに多くの原子炉を海外に売り込みたいと考えている。バングラデシュやエジプト、インド、イラン、ロシア、トルコでも原発建設が進められている
中国とインド、ロシアの動き
中国は原子力エネルギーの利用を急ピッチで進め、24年末時点の建設中原子炉は28基。インドは原子炉7基を建設中。
ロシアは世界最大の原子力技術輸出国だ。ロスアトムは国内で4基を建設しており、さらに19基を国外で建設中。
原発反対派の意見
福島での事故は原子力が危険過ぎることを示す新たな惨事に他ならないと原発反対派は主張している。1979年には米国のスリーマイル島、またその7年後には当時ソ連の一部だったウクライナのチェルノブイリで、放射能漏れ事故が発生した。
また、原子炉の廃棄物が、何千年もの間、危険な放射能を放ち続ける可能性もあり、その処理には費用と環境リスクが伴う。
欧米では、原子炉の新設プロジェクトが巨額のコスト超過に悩まされているという批判もみられる。大規模プラントの新設に10年を要することもあり、2030年までに温室効果ガスの排出量を半減させるという目標を掲げる多くの国々にとって、これは十分なスピードとは言えない。
反対派は、太陽光や風力による発電をバッテリーでバックアップするなど、よりクリーンで安全なエネルギー源の方が、もっと速やかに展開できると論じている。
Clean Power Rising
Low-carbon electricity generation grew 80% in less than two decades
Source: BloombergNEF
原発推進派の意見
原発推進派は、原発事故はまれで、化石燃料は事故や汚染で毎年より多くの死者を出していると指摘(公衆衛生に関する研究では、福島の事故での放射線被ばくによる健康への悪影響は認められていない)。また推進派は、将来の進化した小型原子炉はさらに安全になるとも主張している。
推進派によれば、選択肢は、原子力エネルギーか再生可能エネルギーかということではない。両者を併用、もしくは、気候変動がもたらす最悪の事態を回避できないかのどちらかだ。
23年には、低炭素エネルギー源が世界の電力供給の約4割を供給しており、再生可能エネルギーの広がりと原子炉稼働率向上により、26年にはその割合が50%にまで上昇すると想定されている。
気候変動対策としての原発推進の動きは、22年に欧州議会が原子力エネルギープロジェクトをグリーン投資と見なすことを支持し、弾みがついた。
米国の大手テクノロジー各社は、人工知能(AI)システムを稼働させるため建設している大規模なデータセンターで用いられる環境に優しい電力源として、原子力に目を向けている。
原題:Long-Unloved Nuclear Power Is Staging a Comeback: QuickTake (抜粋)