カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールが、セブン＆アイ・ホールディングスに買収提案をしてからまもなく2ヵ月。この大型M＆Aの糸を引くと言われるクシュタールの創業者アラン・ブシャールとは、どのような人物なのか。地元ケベック州以外ではあまり知られていないというその人となりや経営理念を、英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」が関係者などに取材している。 【画像】「店でゴミ拾い」「病的な実業家」…セブン買収の糸を引くカナダ企業会長の知られざる素顔

不遇だった子供時代

カナダのケベック州の給油所で、ドライバーをウインクして出迎えるのはフクロウ──アリマンタシォン・クシュタールのロゴマークだ。 クシュタールは、仏語で「夜のフクロウ」を意味する。 1980年に第1号店を開店したクシュタールは、いまや世界中に1万6700店舗を構え、時価総額は530億ドル（約7兆9099億円）に達するという。 クシュタールがいま狙うのは、世界最大のコンビニチェーンであるセブン-イレブンだ。クシュタールは持株会社のセブン&アイ・ホールディングスに対し、390億ドル（約6兆円）の買収提案をして、拒絶された（10月に買収額を約7兆円に引き上げている）。 コンビニ業界や投資銀行の幹部、アナリストらによれば、クシュタールの買収戦略の糸を引いているのは、創業者アラン・ブシャール（75）だという。ブシャールは10年前にクシュタールのCEOを退任して会長職に就いたが、彼をよく知る人たちによれば、いまも経営に深く関与している。 ブシャールはクシュタールの筆頭株主で、その12.9％（約1兆円相当）を保有する。カナダを代表する富豪のひとりであり、妻と慈善事業にも取り組んでいるが、居住するケベック州以外でその名はほとんど知られていない。 カナダのダルハウジー大学のシルヴァン・シャルルボワ経営学教授は、「彼は信じられないような偉業を達成してきました。そう見えないのは、業界が地味なせいでしょう」と話す。 ブシャールを知る人は彼を、控え目で地に足のついた人物と評する。毎日のように店舗を訪れ、落ちているゴミを拾っているという。 ブシャールの伝記を書いた作家のガイ・ゲンドロンによれば、ブシャールの家庭環境は不安定だった。幼い頃、父親が勤めていた会社が倒産したのだ。ブシャールが9歳になると、父親は北東部ラブラドール州の鉱山で働かざるを得なくなり、一家はトレーラーハウスでの生活を余儀なくされた。 母親が一時期、精神科に通院していたため、12歳の長女がブシャールら5人のきょうだいの面倒を見ていたという。ゲンドロンは本紙の取材に対し、生い立ちがブシャールに与えた影響をこう語る。 「ブシャールは人生に復讐したかったのでしょう。彼は病的な実業家です」