元捜査員が異例の実名会見 週刊文春と木原官房副長官、妻巡る報道で対立 警視庁は事件性や圧力を否定するが・・・

2023年7月29日 12時00分
記者会見する元警視庁捜査一課の佐藤誠氏=東京都千代田区で

記者会見する元警視庁捜査一課の佐藤誠氏=東京都千代田区で

 岸田文雄首相の側近の木原誠二官房副長官と週刊文春の対立が深まっている。焦点は、木原氏の妻の元夫の死亡を巡る報道だ。当時死亡の経緯を捜査した元警視庁警部補が実名で同誌の取材に応じ、記者会見に臨むなど異例の展開をたどっている。捜査への圧力めいた話も報じられる中、木原氏自身は説明責任を果たしているか。(木原育子)

◆元警部補会見に報道陣140人

 28日、東京都千代田区の文芸春秋本社の会議室に、フリージャーナリストや警視庁担当の記者ら約140人が詰めかけ、通路にまであふれかえった。週刊文春に証言した元警視庁捜査1課警部補の佐藤誠氏(64)の会見を聞くためだ。
 「警察庁長官の会見で『事件性がない』とか言うので、カチンときた。被害者がかわいそうだって」。佐藤氏は冒頭、取材に応じた契機が露木康浩警察庁長官の発言だったと語った。何があったのか。
 事の経緯はこうだ。週刊文春は今月に入り、木原氏の妻の元夫が2006年に都内の自宅で死亡したことについて記事を掲載した。
 妻はその後、木原氏と再婚したが、18年、警視庁捜査1課が入り、元夫の死亡の経緯を見直す作業を開始。妻も聴取対象になったという記事の内容だった。
 露木長官は13日、「警視庁において捜査等の結果、証拠上、事件性が認められない旨を明らかにしている」と会見で述べた。

◆「いつでもクビを飛ばせる」と言われた

 だが、27日発売の最新号で、妻の聴取を担当したという佐藤氏が実名で登場。「事件性がない」との見方に異議を唱えた上、木原氏に「いつでもクビを飛ばせる」と言われたと主張した。突然、上司に捜査終結を指示されたと振り返るなど、政治的圧力をにおわせ、波紋を広げた。
 会見でも「異常な終わり方だった」と話す一方、露木長官の発言について「被害者に対して捜査結果の説明をしていないのに、警察トップが『事件性がない』と言ってしまった」と疑問視した。
 地方公務員法では退職後も守秘義務が科される。詳細な告白に、会場から同法に抵触する可能性への認識も問われた。佐藤氏は「当然分かっている」とした上で、実名で思いを語った以上、貫く考えを示した。
 会見について、警視庁は「特定の関係者のプライバシーにわたる内容や当時の捜査の具体的内容等が明らかにされたところであり、誠に遺憾。捜査への信頼にかかわる」と「こちら特報部」に回答。元夫の死や捜査については「証拠上、事件性は認められなかった。(圧力などの)働きかけなどなく、捜査・調査は公正に行われた」とコメントした。
 元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は「自分の印象や思いを語るのであればいいが、具体的な中身に言及すれば地公法に抵触する可能性がある」とし、「事件性を示す具体的な証拠が新たに出なければ、再捜査は難しいのでは」と話す。

◆木原氏の妻側は日弁連に人権救済申し立て

 一連の報道について、木原氏の妻側は、人権侵害が起こる可能性があるとして、日弁連に人権救済を申し立てた。ただ、木原氏本人は会見を開いておらず、詳細な説明はないままだ。
 木原氏の事務所に問うと代理人弁護士を通じ、「警察の対応に関わる事実関係はそもそも木原氏が知り合う以前の出来事である。人道上の観点から捜査当局にお尋ねを」とし、木原氏が圧力を加えたとの指摘には「事実無根であることを当初より繰り返し答えている」とした。
 ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「事実無根だったとしても、木原VS文春の構図が続けば、政権に影響が出る可能性がある。ただでさえ、岸田政権は人事についての危機管理が後手に回る印象がある」とし、「事実がどうであれ、木原氏自身の言葉で説明するけじめが必要かもしれない」と指摘した。

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