3万8000人の投資家が参加する不動産小口化投資商品「みんなで大家さん」。大阪府と東京都による30日間の業務停止命令に、事業者側は法的手段で対抗した。100億円を超える解約請求が寄せられる中、ロンドン証券取引市場へのグループ会社上場を計画するなど、事態は異例の展開を見せている。

日経不動産マーケット情報 2024年8月21日掲載]情報は掲載時点のものです。

 業務停止という重い行政処分の解除から、わずか10日後に上場が決まった企業は、これまであるのだろうか。不動産小口化投資商品の販売会社、みんなで大家さん販売(本社:千代田区)のことである。同社は7月31日、ロンドン株式市場で、SPAC(スパック)と呼ばれるスキームを通じ、実質的な上場承認を得た。実施は現地時間の8月19日、時価総額は日本円で約80億円とされている。

 同社は7月20日まで、東京都から業務停止処分を受けていた身。処分の違法性を問う行政訴訟や解約請求が続く渦中での上場となる。

 SPACとは特別買収目的会社のことで、事業実態のないペーパーカンパニーとして先に上場し、後で未上場企業を買収する。これにより、後者が上場するのと同様の結果を得る。今回、みんなで大家さん販売は、英国現地法人のMOH Nippon Plcの下で、間接的に市場へのアクセスを手に入れることになる。これまで事業の中で従属的な存在だった販売会社が主体になるなど不明瞭な点が多いが、今後の資金調達に向けてグループが様々な策を練っているのは間違いないようだ。

裁判記録が明らかにした対立の経緯

 「みんなで大家さん」は、都内の不動産会社、共生(きょうせい)バンクとそのグループ企業が不動産特定共同事業法(不特法)に基づいて運用する、個人投資家向けの投資商品である。グループ内にはファンドの運用を行う「都市綜研インベストファンド」と、商品を販売する「みんなで大家さん販売」という2つの免許事業者が存在。それぞれの所在地に応じて、大阪府知事が運用会社を、東京都知事が販売会社を監督している。累計募集総額は約2000億円、投資家数は3万8000人に達しているという。

[画像のクリックで拡大表示]

 主力である「シリーズ成田」は、成田空港近くの開発用地を対象にした投資商品。東京ドーム10個分、約46万m2の土地に対し、共生バンクが成田市から開発許可を取得したのは5年前のこと。この土地を基にして投資家から金を集め、不動産開発を行う。合計18本のファンドによる募集総額は約1970億円。本誌が今回入手した資料を集計したところ、今年3月までの販売額は合計で約1500億円に達している。

 しかし、肝心の開発計画は資金募集を始めてから、数度にわたって見直しが繰り返されている。直近では今年5月、帝国ホテルにおける記者会見で、5000人収容の球体アリーナ「デジドーム」を含む壮大なプランを披露した。昨年5月にも、当初のレジャー施設から冷凍冷蔵倉庫などを含むフード関連施設へとコンセプトを一変している。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]

 その後の経過は日経不動産マーケット情報(以下、本誌)で既報の通りだ(記事1記事2)。今年6月17日、大阪府と東京都は前述の2社に対し、計画を大幅に変更したにもかかわらず、資産価値や収益性への影響を投資家に十分説明しなかったなどとして、両社に30日間の業務停止命令を下した。「大家さん」側の反応は素早く、翌18日には処分の取り消しと執行停止を求めて、大阪府、東京都を各地裁に提訴。「処分は取り付け騒ぎを誘発し、会社と成田プロジェクトの破綻を招く」と訴え、いったんは一時的な執行停止を勝ち取ったが、行政側も即時抗告で対抗した。6月28日には東京高裁が、そして7月4日に大阪高裁が地裁の執行停止決定を取り消した。これにより、行政側の主張が認められ、業務停止処分が再開されることとなった。業務停止はその後解除となったが、解約への対応状況の報告など、行政処分に盛り込まれた命令や指示はその後も継続している。

 本誌は今回、一連の裁判記録を調査するとともに、各行政機関への情報公開請求や、複数の専門家へのインタビューを通じて、その背景の把握を試みた。

 今回の行政処分の理由は、本来は開発許可の対象ではない土地を誤って投資勧誘や契約の書類に記載した、造成工事完了後の形状や構造を記載せずに完了前の形状を記載していたことなど。いずれも事業者側の情報開示姿勢に問題があったことをうかがわせるが、形式的で些末なミスを指摘したもののようにも思える。しかし、記録を精査すれば、「シリーズ成田」の販売が本格化した2021年初めの段階から、行政側が繰り返し質問への回答や資料の提出を要求しながら、より本質的な疑問に迫ろうとしてきた様子が浮かび上がってくる。大阪府は、ファンド運営の主体である都市綜研インベストファンドに対し、今年6月の処分に至るまでの間に、約10回にわたり、文書での質問や資料提出要求、聴取を行った。

[画像のクリックで拡大表示]

工事進捗率は2%

 行政側の関心の一つは、開発用地の資産価値だ。シリーズ成田に組み入れられた土地の価格は1m2あたりおよそ171万円。1号〜18号までの総額で約2500億円に達する。取得資金のうち、2割は都市綜研インベストファンド自身が劣後出資するので、投資家の負担割合は8割。その簿価約2000億円は、分配金を7%の利回りで割り戻した金額と整合的だ。

 昨年2月、大阪府は業務停止命令を念頭にした警告を事業者企業側に発するとともに、成田で投資家に販売されている土地が「周辺の固定資産税標準宅地価格である1万6400円と比べ、100倍以上の差がある」ことについて根拠の提出を求めた。当局は今回の即時抗告の場において、「仮にプロジェクトが実現しなかった場合、対象不動産が付近の固定資産税評価額でしか売却できず、事業参加者に対して元本がほとんど償還されないおそれがある」とも主張している。これに対し、事業者は、成田市が国家戦略特区に指定され、発展性があることを挙げ、通常の郊外地評価と同様の取引事例比較法による価格算出にはそぐわない旨、応じている。

 なお、グループの代表である栁瀨健一氏の著書「成田空港の隣に世界一の街を造る男」(2021年)によると、成田市から開発許可を得た2019年10月当時の話として、土地購入費などの経費は30億円程度、設計費や造成工事費などを含めても約100億円とある。

 二つ目は、成田プロジェクトの実現可能性。当初、2024年とされた開業時期は、数度にわたって見直され、直近では2027年春の一部開業を謳(うた)っている。2021年末には、開発予定地で天然ガスが発見されたため、工事が1年程度遅れると大阪府に釈明することもあった。裁判記録とは別に入手した、今年2月に共生バンク名義で千葉県に提出された工事状況の報告書によると、現場の造成について、この時点で69%が終了したと書かれている。しかし、建物を含めた全体工事における進捗率はわずか2%。この報告書では工事状況について、インフラの供給元との調整に遅れが生じ、「いまだに着手ができていない状況」と苦しい実情も明かしている。

 三つ目の焦点は、共生バンクグループ内の取引スキームだ。まず、都市綜研インベストファンドは投資家から集めた資金で、親会社である都市綜研インベストバンクから土地を購入。「成田ゲートウェイプロジェクト5号」などと呼ばれるSPC群が都市綜研インベストファンドに賃料を支払い、ファンド社はこの賃料を原資として年7%の分配金を支払う流れとなっている。つまり配当は、未完の開発プロジェクトに対し身内のSPCから支払われる賃料に依存する。府と都は「安定した賃貸利益があることは、開発者に賃料を支払うだけの資金が現状はあるということを示しているだけであって、開発事業が実現する可能性とは何の関係もない」(大阪高裁、東京高裁への即時抗告における申立書)と指摘している。

 行政処分を受けて急増する解約請求。最初の発表後わずか1日で投資家約470人から解約申し入れがあり、請求総額は28億円超になったのは前号で報じた通りだ。今回は、6月末までの13日間で、1722人から総額95億6100万円の解約申し入れがあったことがわかった。2024年8月時点では、100億円を優に超えていると推定される。気になるのは都市綜研インベストファンドの財務状況である。

グループの支援を強調

 同社は7月29日、停止していた解約依頼の受付を再開したと発表した。月間の予算は5億円以上で、全ての譲渡に応じるまでに6カ月から12カ月を要するとの見通しを示している。同社が公表した今年3月末時点の最新の財務諸表によると、自己資本比率は3.2%。同社の総資産3044億円のうち、2900億円あまりは前述の手法で計上された土地などの固定資産で、現預金などの手元流動性は約100億円しかない。この状況でも、同社は年間100億円を超える配当を継続しなければならない。加えて、開発用地の約半分は成田国際空港からの借地であり、販売可能な土地の大部分はすでにファンドに組み入れ済みだ。

 共生バンクグループ代表の栁瀨氏は、昨年5月の大阪府との質疑において、「栁瀨個人の資産を投入してでも、出資金の償還を行う所存」と強調。成田の土地とは別にグループ内で一定の換金性資産を保有するほか、今後、3倍〜5倍の企業価値増大を達成する可能性もあるとして、出資金の償還には全く問題がないと説明している。

 いずれにせよ、主力商品の成田シリーズに行政からイエローカードが出された以上は、新たな収益源を探す必要があるのは間違いない。そんな状況で発表されたのが、冒頭に挙げた、販売会社を使ったロンドン市場への上場。共生バンクグループにとっては、窮地からの逆転を狙った大勝負になりそうだ。

 2024年8月時点では「みんなで大家さん」側は本誌に対して、個別取材には応じていないと回答している。

価格の妥当性をめぐり応酬


 「みんなで大家さん」の運営元である都市綜研インベストファンド、および共生バンクグループの各企業。足かけ10年以上に及ぶ行政当局とのドラマは一つの山場を迎えようとしている。行政の即時抗告における法廷でのやりとりを中心に、双方の見解を紹介する。

“分配の安定性と償還可能性は関係ない”

(大阪府・東京都の主張)

 「抗告人(編注:大阪府など)が業務停止処分により防止しようとしている損害は、既存の事業参加者(編注:投資家)の損害ではなく、今後新たに事業参加者となる者の損害である。付近の固定資産税標準宅地価格は、開発実現を前提とした事業者側の評価額の100分の1以下。業務停止処分を行わなければ新規の多数の投資者に、30日あたり約40億円もの損害が発生する可能性がある」

 「成田商品のパンフレットは、元本の安全性と安定した利回りを強調している。過去に想定利回りを下回ることがなく運用されているのだから、損失が発生するリスクはほとんどないと投資者は思い込み、投資を行ってしまうおそれがある。利益分配金の支払いが停止・遅延していないことと、開発が目論見どおりに完了して、償還を受けられる可能性がどれほど高いかとは、何ら関係がない」

“5000億円超の価値がある”

(都市綜研インベストファンド、みんなで大家さん販売の主張)

 「抗告人は、開発造成による対象不動産の価値向上を勘案していない。これは不動産特定共同事業の根幹を否定する考えであり、根本的な誤謬(ごびゅう)がある。実際、成田の開発用地は全体で5012億1400万円と評価されている」(編注:所有権3411億4300万円、借地権1600億7100万円の合計。共生バンクの依頼による鑑定書を提示)

 「軽微な記載ミスやすでに治癒した問題などを蒸し返して過重な行政処分を行えば、信用不安を惹起(じゃっき)され、取り付け騒ぎを誘発し、ひいては申立人(編注:事業者)のみならず成田プロジェクトの破綻を招来する可能性が極めて高い。グループの不特法商品の顧客数と優先出資総額は、それぞれ3万8000人、総額1986億円を超えている。解約権が行使されるなど、甚大な被害が生じることが優に予想される」

 なお、大阪高裁は7月4日、行政処分差し止めの緊急性に乏しいとして、事業者側が要求し、いったんは地裁が認めた申立請求を却下している。解約による約95億円の減収がただちに事業の遂行にとっての困難と言えないことや、2012年と2013年の行政処分が、事業者に対する「回復しがたい信用失墜」とならなかったことなどを理由に挙げている。

【注】 双方の主張の要旨は、大阪高裁、東京高裁での即時抗告の記録を基に本誌作成

続報はこちらから

(「日経不動産マーケット情報」2024年9月号より)

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

秋割実施中

この記事はシリーズ「Views」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。