学費値上げ、地方私大にも拡大 光熱費、物価、人件費高騰で支出増

増谷文生

 東京大が20年ぶりに学部授業料の引き上げを決めるなど、学費を値上げする大学が相次いでいる。国からの運営費交付金や私学助成といった基盤的経費が抑制されるなか、光熱費や物価の高騰、人件費の上昇などで支出が増えた影響だ。値上げするのは大都市圏にある大規模私立大が中心だが、地方にも広がり始めた。

 今夏に朝日新聞と河合塾が実施した共同調査「ひらく 日本の大学」で、授業料や入学金など新入生が払う「初年度納付金」について質問したところ、2025年度に「全学で値上げ」「一部学部・学科で値上げ」を行うと答えた大学は合計で14%、私立大に限ると19%だった。

 私大を中心に、値上げに踏み切る大学が年々増えている。24年度に、一部も含めて「値上げした」と答えたのは14%(私大は17%)。23年の調査への回答では、23年度に値上げしたと答えたのは6%(同8%)だった。東京理科大のように、24年度に一部の学部で値上げし、25年度には全学部で値上げする大学もある。

 毎年のように値上げしている大学が目立つのは、「入学定員3千人以上」の大規模私大だ。23年度は28%、24年度は36%が値上げし、25年度は48%が値上げすると回答した。

 24、25年度ともに全学で値上げする明治大は、「主には教育環境の整備や、緊急事態に対応するための学生支援体制の強化」を理由とする。同じく青山学院大は「施設設備料は漸増方式をとっているので、全学部で緩やかな値上げを毎年行っている」と説明する。

早大「少人数教育の推進などに必要」

 一方、中長期的(今後5~10年)に「値上げする方向」と答えたのは全体で17%だった。国立大は0、公立大は3%だったが、私大は22%で、大規模私大に限ると24%だった。

 早稲田大はコロナ禍による経済状況悪化に配慮して授業料の値上げを3年間延期し、24年度に全学で実施した。直近で学費改定の予定はないが、「少人数教育の推進、学部生の全員留学、キャンパス整備、経済的困窮者への奨学金拡充など、常に改善・改革のマインドを持ってあらゆる策を今後も実行していく。そのため、中長期的にある程度の学費の値上げは必要」と説明する。

 25年度に全学で授業料などを値上げする愛知県の私大も、「短期的な支出の増大(不安定な国際情勢や円安の影響、光熱費の高騰や資材不足など)や、長期的に持続可能な財政基盤の構築、さらには教育・研究環境の充実(施設設備の整備など)」に向けた予算を確保するため、中長期的に値上げを行う方針だ。

 ただ、25年度の値上げについては「未定」との回答が8%あり、回答期間(6~8月)以降に方針を決めた大学もある。調査に回答しなかった大学を含め、値上げを行う大学はさらに多いとみられる。

地方私大「仕送りに比べれば…」

 24年度まで、値上げを実施するのは大都市圏(東京、愛知、京都、大阪、福岡の5都府県)にあり、人気が高い大規模私大が多かった。一方、少子化が深刻な地方では、志願者離れが起きることを心配して、大半の大学は値上げに踏み切れずにいた。

 ところが25年度は、少し様相が変わり、「東海・北陸」「北海道・東北」といった地方でも、値上げを決めた私大が目立つ。

 静岡県の私大は25年度、全学で値上げに踏み切る。「物価高騰と賃金上昇分を学生等納付金へと転嫁する」と説明する。中長期的な値上げの方針についても、「消費者物価指数と県の人事委員会勧告の上昇率などを踏まえ、学納金に転嫁する」と回答した。

 関東近郊の私大も24、25年度で、全学で授業料を合計6万円値上げした。電気代や物価の高騰のほか、教職員の賃上げによる人件費の増加など支出が増えたためだという。

 同大の学生は、8割が自宅から通学している。学長は「下宿して東京などの大学に通えば、学費以外に毎月10万円程度は仕送りが必要になる。自宅から通える大学が学費を年に数万円上げたとしても、学生や保護者に大きな抵抗はないと考えた」と話す。

「その他経費」引き上げる国立大も

 国立大では、今回の調査には回答していない東大が、25年度の入学者から学部の授業料を値上げすることを決めた。文科省が定める「標準額」の53万5800円から、上限である1・2倍の64万2960円に、約11万円値上げする。

 このほかの国立大でも、19年度に旧東京工業大や東京芸術大が初めて値上げに踏み切って以降、一橋大や千葉大、旧東京医科歯科大、東京農工大の6大学が1・2倍程度に引き上げている。

 いずれの大学も、「国際化やデジタル化などによる教育環境の高度化」を理由に挙げる。こうした費用に使われるべき国からの運営費交付金が減らされたうえ、電気代や物価の高騰などで支出が増加。国立大学協会が「限界です」と声明を出すほど各国立大の財務状況は悪化しており、今後も値上げを決める大学が相次ぐ可能性がある。

 授業料は変えず、その他の経費を値上げした国立大もある。

 徳島大は24年度、「経済情勢の悪化」を理由に、一部学部の「その他経費」を値上げした。後援会費や学生教育研究災害傷害保険料などで、薬学部が2200円、総合科学部が700円、医学部が300円、それぞれ値上げしたという。

 鹿屋体育大は24年度、コロナ禍で中止していた新入生合宿研修を再開したことにともない、参加費3400円の徴収も復活。新入生に配るテキスト代も、物価高騰の影響で440円値上げした。(増谷文生)

 「ひらく 日本の大学」 朝日新聞と河合塾が共同で、2011年から全国の大学(大学院大学、通信制のみの大学はのぞく)を対象に実施。今年の調査は6~8月に781大学に行い、629大学(81%)から回答を得た。

「朝日新聞デジタルを試してみたい!」というお客様にまずはお得にお試し体験

この記事を書いた人
増谷文生
論説委員|教育担当
専門・関心分野
教育(主に大学)、運輸
  • commentatorHeader
    吉川ばんび
    (作家・コラムニスト)
    2024年10月14日7時0分 投稿
    【視点】

    そもそも、光熱費や物価が高騰しているにもかかわらず国からの運営費交付金が減らされていることが問題だと感じます。30年前と比べ、社会保険料なども含めて何もかもが値上がりしている中で、学費は上がり、平均年収は横ばいか微減、というのが現状です。おまけに奨学金にも所得制限がありますから、経済的困窮家庭では以前と比べても大学に進学しづらい事情があり、学費を上げるにしても、何らかの救済措置が必要でないかと感じます。数年前に「身の丈にあった受験を」と発言した文科省大臣がいましたが、平均の年収が400万円かそこらの国で、一年間の大学の学費が数百万かかるのであれば、今後ますます少子化にも拍車がかかるでしょうし、今この国で行われていることは、将来的に、優秀な人材の獲得機会の損失でしかないのではと思います。

    …続きを読む
大学入学共通テスト 問題・解答・分析はこちら

大学入学共通テスト 問題・解答・分析はこちら

最新ニュース、時間割、受験生応援企画などをお届け。試験当日は問題と解答を速報します。[もっと見る]