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大きな何かが動きだすみたいだった



 涙目のリリアさんによる説教……うん、どう考えても俺が悪い。

 ノインさんの件に関しては何ヶ月も前から知ってた訳だし、文通もずっとしてたから、正体をリリアさんに話して良いかどうかの確認なんてする機会はいくらでもあった。

 というか今になって思えば、何でそれを考えなかったのかと、自分が情けなくなる。


 ちなみにリリアさんによる長い説教の間、アハト達に関してはルナマリアさんが屋敷を案内したりお茶を振る舞ったりしてくれていたらしい。こういう細かな気配りは流石だと思う……人をからかう悪い癖さえなければ、良いメイドさんだと思うんだけど……

 ともあれリリアさんも復活し、アハト達と言葉を交わした後は、三人の希望もあり俺の部屋に移動して雑談をする事になった。

 

 流石に二時間正座していて疲れたのか、自分の部屋に入ると思わず溜息を吐いてしまう。

 

「カイト、大丈夫か?」

「あぁ、まぁ……」

「ざっと話は聞いたが……強そうにゃ見えるかも知れねぇが、20歳そこそこの女なんだ。もう少し、お前の方が気遣ってやれよ」

「返す言葉もない」


 苦笑しながら話しかけてくるアハトは、やはり兄貴肌というか……意外と女性への気遣いもしっかりしてそうな感じがした。

 この辺をしっかりできるのがモテる男って事なのかもしれない……今後はもっと色々注意しよう。


「そう言えば、ノインさん。今さらですけど、リリアさんに正体バラしても大丈夫だったんですか?」

「ええ、別に頑なに隠しているという訳でもありませんし……」

「え? じゃあ、何で普段は甲冑姿なんですか?」


 ノインさんは普段から全身甲冑であり、今回も含めて二度しか素顔は見た事が無い。

 何せあの甲冑のままで、どうやってるかは知らないけど食事もしてるし……ある意味アリス以上に正体を隠している感じがしたんだけど……当のノインさんはそんな感じでは無い。


 俺が疑問を口にすると、ノインさんはモジモジと恥ずかしそうに体を動かす。

 普段は甲冑に隠れていて見えない顔がほんのり赤く染まり、その仕草は大変可愛らしかった。


「……は、恥ずかしい……からです」

「え?」

「だ、だって、世界中に変に誇張された私の物語とかありますし、肖像画とかも出回ってますし! 友好都市なんて私の名前がついてて、銅像まであるんですよ!?」

「……な、成程」


 た、確かに言われてみれば……この世界の人達にとって、初代勇者というのはとてつもないビックネームであり、今も英雄として語り継がれている。

 なんていうか、あちこちに自分の肖像画があるってどんな気分だろう? 有名なフライドチキンのチェーン店の創設者とかも、現代に生きていればそんな気持ちだったのかもしれない。


「しかも銅像とかだけならともかく! 昔の日記とか、書いてボツにした手紙とかも発見されてるんですよ!? もう表なんて歩けません!!」

「そんな気にする事でもないと思うけどねぇ……」

「エヴァ様……で、でも……」

「そういや友好都市には、ヒカリまんじゅうだったかって菓子もあったけ?」

「……」

「アハト!? あんたも余計な事を……」

「あっ、悪ぃ」


 ノインさんは顔を両手で覆って座りこんでしまった……失礼だと思うけど、大変可愛らしい。

 そのままアハトとエヴァが、慌ててノインさんを慰めている光景を見て、少し微笑みを浮かべる。


 こういう仲が良い光景を見ると、やっぱりこの方たちは家族なんだという事を強く実感出来るし、少し……羨ましくも感じる。

 何となく穏やかな気持ちになりながら、そのまましばらく俺は三人を見つめていた。


 少し時間が立ちノインさんも落ち着いてきたタイミングで、ふと、今月末にあるクロとのデートを思い出した。

 正直まだデートコースについて苦戦していて、どうしようかと思ってたが……アハト達に聞けば、クロが喜んでくれそうな場所が分かるかもしれない。


「……あの、話は変わりますけど……ちょっと相談しても良いですか?」

「うん?」

「え?」

「はい?」


 俺が声をかけると三人はすぐにこちらを向き首を傾げる。

 少し話し出す事に恥ずかしさを感じつつ、ゆっくりと話を切り出す。


「……実は、今度クロと出かけるんですけど……どこかいい場所……」

「いつですかっ!?」

「うぉっ!? あ、アリス? 何でここに……」

「そんな事は良いですから、その日程はいつなんですか!?」


 アハト達に相談しようと口を開いた直後、俺の目の前にはアリスが現れた。

 しかもアリスの様子は普段からは想像できない程鋭く、緊迫しているようにも見える。

 それだけでは無く、なんでも知っている筈のアリスにしては本当に珍しく、心から驚いている感じだった。


「あ、アリス……えと、てっきり知ってるんだと思ったんだけど」

「……クロさんはカイトさんと部屋で会う時、強力な結界を張ってます……この部屋で、貴方とクロさんが二人で交わした会話は……私には分かりません。と、ともかく、日程を教えてください!!」

「き、木の月30日……だけど?」

「木の月30日……私の予想よりかなり早い……くっ!? カイトさん、お願いがあります!」

「え、なに?」


 捲し立てるようなアリスの口調に気圧されつつ、続けられた言葉に首を傾げる。

 分からない……アリスはなんで、こんなにも慌ててるんだろうか?


「木の月29日、クロさんと出かける前日、私の店に来て下さい。私に、一日時間を下さい!」

「え? うん?」

「お願いします! 重要な事なんです!!」

「わ、分かった……」


 アリスの言葉の意図は分からなかったが、アリスはふざけている感じでもないし、本当に何か重要な話があるんだと思う。

 アリスは俺の言葉を聞いて、ホッと息を吐いた後、鎖の付いたローブを翻して叫ぶ。


「緊急招集! 伯爵級のみ来なさい!」

「「「「なっ!?」」」」


 アリスが告げた瞬間、俺の部屋に十体の黒いローブ姿の存在が現れる。

 先程のアリスの言葉通りなら……この十体はいずれも伯爵級高位魔族……魔界でも上から数えた方が早い実力者揃い。


 突然の出現に驚く俺やアハト達の前で、アリスは真剣な口調のままで口を開く。


「私はこれから、緊急の用事で離れます。私が戻るまでの間、カイトさんの護衛につきなさい……カイトさんにかすり傷の一つでもあれば、首が飛ぶと思って下さい。後、言うまでもない事ですが、カイトさんの命令は全てに優先すると思って対応するように……」

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」


 一糸乱れぬ統率のとれた動きで十体の高位魔族は片膝をつき、直後に姿を消す。

 アリスの言葉通りなら全員が俺の護衛……隠れながら俺の護衛についているという事らしい。なにそれ、落ち着かない……俺のプライバシーどこへ消えた?


「……カイトさん、すみません。私は数日空けます……その間、何か御用があれば配下に対応させますので、なんなりと申しつけてやってください」

「え? あ、あぁ……」

「では、失礼します」


 まだ戸惑いから抜け出せてない俺にそう告げ、アリスも姿を消す。

 なんだろう、あの感じ……まるで異常事態でも発生したような感じだったけど、何でそんな事になってるの?

 いや、だって、俺、クロと出かけるって言っただけだよ? まるで大戦争でも始まるみたいな緊迫だったけど……


 拝啓、母さん、父さん――アハト達にクロとのデートについて相談しようと思ったら、突然アリスが現れた。その様子はいつもと違っていて、本当に真剣そのもので……まるで何か――大きな何かが動きだすみたいだった。




シリアス先輩「夜行バスで帰ってきた! ついにターンが!!」


そう、ついに始まるクロムエイナ編……シリアス先輩、最後の戦いが!


シリアス先輩「……最後?」

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