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リリアさんに叱られた



「ようこそいらっしゃいました。アルベルト公爵家当主、リリア・アルベルトと申します」

「っと……えっと、アハト……なんて言えば良いんだい?」

「しらねぇよ……すんません、俺とコイツはどうも育ちが悪くて、無礼な態度かもしれやせんが、大目に見てくだせぇ」

「いえ、どうぞ楽にして下さい」


 かなり時間はかかったが、ノインさんも落ち着き、改めてリリアさんの待つ応接室に連れて行った。

 アハト達はクロの家族ではあるけど、爵位級高位魔族という訳ではないみたいで、どうやら立場的には公爵であるリリアさんの方が上らしい。

 やや緊張した様子で話すアハトとエヴァの横からノインさんがスッと前に出て、リリアさんに対して深く頭を下げる。


「アルベルト公爵閣下、甲冑姿のままで挨拶を行う無礼、どうかお許しください。お初にお目にかかります。クロムエイナ様が家臣、ノインと申します。本日は突然の訪問にも拘らず快く受け入れてくださり、アルベルト公爵閣下の御厚意、感謝の言葉もありません」

「……成程、ああやって挨拶すんのか……」

「ノイン連れて来て正解だったねぇ」


 アハトとエヴァの二人とは違い、ノインさんは騎士の礼と言える片膝をついた姿勢で、しっかりとリリアさんに挨拶をする……さっきまでとは別人みたいだ。

 ノインさんの挨拶にリリアさんが穏やかに言葉を返し、姿勢を楽にして構わないと告げるとノインさんは礼を解く。


 そしてリリアさんに促されて、アハト達が席につくと、ルナマリアさんが感慨深げに告げる。


「……なんというか、お嬢様の方が来客より立場が上というのは、凄く久々の気がしますね。一応公爵なので、かなり偉い筈なんですが……」

「……ええ、本当に……ようやく、カイトさんもまともな相手を連れて来てくれました……そうですよね。もう……全部終わったんですもんね。もう物凄い方を連れて来て、気絶する事なんてないんですよね! 駄目ですね、私……神経質になっちゃってて……」

「……」


 心から安堵した様子で、明るい笑顔を浮かべるリリアさんを見て、俺の背中に物凄い勢いで汗が流れる。

 ど、どうしよう……ノインさんの事、伝えるべきか、伝えないべきか……


「おい、カイト……お前、一体何したんだ? あの公爵、地獄から解放されたような顔してるんだけど……」

「あ、いや、えっと……」

「……あ、あの、快人さん……これ、私、正体伝えるべきですかね?」

「……えっと、構わないんですか?」

「……ええ、私は大丈夫です」


 小声で話しかけてきたアハトとノインさんの言葉を聞きながら、俺は背筋がさらに冷たくなる感覚を覚えた。

 ちなみに余談ではあるが、ノインさんは俺が初代勇者と知っている事は分かってるみたいだ……というか、ノインさん的には最初に顔見せた時点で気付かれてると思っていたらしい。


 どうしよう、リリアさん怖い、超怖い……でも、たぶんここで黙ってて、後でバレたらもっと恐ろしい目にあう。

 となるとやっぱり、ここで正直に言っておくのが正解か……ノインさんも構わないと言ってくれてるし……


「……ノインさん、ごめんなさい。お願いします」

「……分かりました」


 あまりにも安堵しきった表情をしているリリアさんを見て、俺は血の気が引いていく感覚を味わいつつ、やけに渇いた喉を紅茶で潤してから口を開く。


「あ、あの、リリアさん……」

「はい?」

「……い、いいですか、落ち着いて聞いてください」

「……え? なんですか? 物凄く嫌な予感がするんですけど……」

「私からもお願いします。この事はどうか、他言無用で……」

「……え? えっと……ノイン様? 一体何を……」


 真剣に話す俺とノインさんの言葉を聞いて、リリアさんは表情を曇らせ、額に一筋の汗を流す。

 そんなリリアさん達の前で、ノインさんが甲冑の兜に触れると、甲冑は黒い霧のようになって消えていき、美しい黒髪の日本人女性が現れる。

 葵ちゃんの髪が艶のある濡羽色だとするなら、ノインさんの髪は黒曜石のように深く力強い黒色で、整った顔立ちも相まって大和撫子という言葉がピッタリと当てはまる。


 そして、素顔になったノインさんを見て……リリアさんは椅子から転がり落ちた。


「……」


 そしてずるずると地面を這ってルナマリアさんのスカートを強く掴む。


「……ルナ、ルナァ……私、あの方見た事ある……友好都市の銅像と同じ顔してる……」

「……おお、落ち着いて下さいお嬢様、たた、他人の空似ですよ」

「……そ、そうですね! すみません取り乱してしまって」


 リリアさんはルナマリアさんの言葉を聞いて、少しは冷静になったみたいで、優雅に立ち上がるが……そこへ容赦なくノインさんが言葉を発する。


「改めまして、今はノインと名乗っておりますが……私の本名は九条光と申します」

「……」


 力強く告げられた言葉を聞き、リリアさんの顔から表情が消えた。


「……え? クジョウヒカリ……え? 初代勇者様? ほ、本物?」

「はい」

「……あ、えっと、はわ、あわわ……わわ、私、ごご、御無礼を……きゅ~」

「お嬢様!?」


 表情をどんどん青くしていったリリアさんは、目を回していき、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 ルナマリアさんが慌ててリリアさんの元に駆け寄り、ゆっくりと戦慄したような視線を俺に向けてくる。


「……ミヤマ様……まだカードを隠し持っていたとは……何て恐ろしい方。何がなんでもお嬢様の胃を破壊するという、熱い信念を感じました」

「……いや、そんな信念はないです」















 しばらく経って、気絶から立ち直ったリリアさんは、椅子に座り両手で頭を抱えていた。


「……初代勇者様が魔族になってた? 大事件じゃないですか……衝撃の事実じゃないですか……もぅ、やだぁ……カイトさん、怖い……次は絶対、実は生きてた魔王とか……そんなの連れてくる……カイトさん、怖ぃ……もぅ、おうち帰りたい……」

「落ち着いて下さいお嬢様、ここが家です」


 ブツブツと青ざめた顔で呟くリリアさんを、ルナマリアさんが必死に慰める。

 そんな光景に茫然としていると、アハト達が俺に話しかけてくる。


「……カイト、お前本当に何したんだ……なんか小動物みたいに怯えてるが……」

「い、いや、まぁ、色々と……」

「カイトって、意外とSなのかねぇ……」

「いや、そんな事は……」

「私もまさかここまで驚かれるとは……というより、あの反応はまるで、六王様全員と会ったみたいな……いえ、それ以上ですね」

「……」


 ごめんなさい、六王全員どころか、最高神とも全部会いました。


 そしてリリアさんはそのままブツブツと呟いた後、スッと椅子から立ち上がり……恐ろしい程綺麗な笑みを浮かべる。


「アハト様、エヴァル様、クジョウヒカ……いえ、ノイン様。恐れ入りますが、しばらくお待ちください……カイトさん」

「はは、はい!?」

「……ちょっと、別室に行きましょう。大事な話があります……とても、大事な話です……」

「……はぃ」


 完全に座った目でこちらを見つめるリリアさん、大変恐ろしい。

 

 そして俺は反論の余地すらなく別室に連行され……正座をする事になった。


「どういう事ですかっ! なにがどうなったら、初代勇者様!? 貴方は本当に……というか、あの口振りならもっと前から知ってたんでしょう!!」

「ご、ごめんなさい!?」

「いいえ、今日という今日は、もう許しません!! ちょっと前に、容赦してくれって言ったばかりなのに……舌の根も乾かない内に貴方は!! 知り合うなと言ってる訳ではありません、ちゃんと報告をして下さいと言ってるんです! そもそも貴方はいつもいつも……」

「……す、すみません」


 そして俺は、修羅と化したリリアさんに大変長い説教を受ける事になり、アハト達の元に戻ったのは……2時間後だった。


 拝啓、母さん、父さん――アハト達とリリアさんが出会い、ノインさんの正体を知ったリリアさんはまた気絶した。そして、まぁ、完璧に俺が悪いんだけど――リリアさんに叱られた。


 


流石アルベルト公爵閣下、一度気絶したと思ったら、即座に次の気絶フラグをぶったてやがった。

そこに痺れるけど、憧れない。

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