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ノインさんの様子がおかしい

 木の月20日目。よく晴れた空の元、俺はリリアさんの屋敷の庭に立ち、キョロキョロと視線を動かしていた。

 実は今日リリアさんの屋敷には来客が来る予定で、俺はその出迎えという訳だ。


 何故リリアさんの屋敷の使用人では無い俺が出迎えに来ているのかというと、今回の来客が俺の知り合いだから……う~ん。そろそろ来ても良い頃なんだけど……

 そう考えた直後、よく通る大きな声が聞こえてきた。


「お~い。カイト!」

「アハト!」


 青い肌に二本の角、2メートル近い身長の大型な男性……以前クロに誘われたバーベキューで知り合い、友達となったブルーオーガのアハトだ。

 以前俺が頼んだ通り、人間の姿で来てくれたみたいでニカッと爽やかな笑顔を浮かべ、大きく手を振りながらこちらに歩いてくる。


「いや~悪い、ちと道を間違えちまって遅くなったな」

「ううん。いらっしゃい、アハト」

「おぅ! ああそうだ、紹介するぜ。コイツが俺の相方で……」

「黒狼族の特殊個体、銀狼のエヴァルってんだ。よろしくね」


 アハトの言葉と共に、後方から美しい銀髪の女性が現れる。

 ライオンのたてがみを彷彿とさせる長く毛量の多い長い髪に、大きな三角の獣耳、さらに腰からは長い銀色の尻尾が覗いており、これぞ獣人といった容姿の美女。

 何となく頭に、もふもふという単語が思い浮かんだ。


「宮間快人です。こちらこそ、よろしくお願いします。エヴァルさん」

「エヴァって呼び捨てで構わないよ。あたしはこの馬鹿と同じで、良い育ちはしてないからね。畏まった話し方なんてされると、背中がむず痒くなっちまうよ。あたしの方も、カイトって呼び捨てにさせてもらうからさ」

「分かりました……あ、いや、分かったよ」


 姐御肌と言うのか、エヴァはアハトによく似た性格をしている気がする。

 そのままエヴァは、気風の良い美人という言葉が当てはまりそうな爽やかな笑顔を浮かべる。


「前のバーベキューには、あたしは参加できなくてね……うちの『馬鹿旦那』が何か変なことしなかったかい?」

「……旦那?」

「うん? ほれ、そこのアハトの事だよ」

「……え? えぇぇぇ!? あ、アハト、結婚してたの!?」

「お~い、カイト。何でそんなに驚いてる……てか、お前俺をなんだと思ってたんだ……」


 くっ、何て事だ……明らかに色恋沙汰には無縁そうな感じだったのに、アハトめ、ちゃっかりこんな美人と結婚していたとは……リア充爆発……あ、いや、駄目だ。俺もアイシスさんがいる時点で、リア充だ……


「い、いや、ごめん。相方とは聞いてたけど、まさか奥さんだとは思わなくて……」

「うん? あぁ、そういや言ってなかったか……これでも夫婦になって800年は経ってるぜ」

「……はぁ、なんであたしは、こんな馬鹿と一緒になっちまったかねぇ……」

「おいおい、さっきから馬鹿呼ばわりとは、ひでぇじゃねぇか……」

「……あたしが楽しみにしてた酒、飲んだの誰だっけ?」

「……すんません」


 うん。もう短い会話で完全に力関係は分かった……アハト尻に敷かれてる。

 まぁそれだけ仲がいい証拠……って、エヴァとの挨拶が先だったから聞いてなかったけど、確認しないといけない事があった。


「……アハト、ノインさんも来るんじゃなかったっけ?」

「あぁ……おい! ノイン! お前、いつまで隠れてるんだ!」

「……へ?」


 今回はアハトとエヴァの他に、ノインさんも来る事になっていた筈だが……最初からずっと姿が見えない。

 それをアハトに聞いてみると、アハトは後方を振り返りながらノインさんの名前を呼ぶ。


 すると……かなり離れた場所、というかリリアさんの屋敷の門の影から、見覚えのある甲冑の頭が現れた。


「……だ、駄目です。まま、まだ、ここ、心の準備が……ふふ、普通、会うのは、ここ、婚礼直前では?」

「何をさっきから、あんたは訳の分かんない事を……ほら、おいで」

「あぁぁ!? 離して下さい、エヴァ様!? ここ、婚前交際は駄目なんです!? 私は嫁入りまで綺麗な体でいなければならないのです! でで、ですが、私は、かか、快人さんに、もも、求められたら、断れる自信がありません!?」

「いや、飛躍しすぎでしょ……」


 門に隠れたまま一向にこちらに来ないノインさんを、エヴァさんが溜息を吐きながら引きずってくる。

 引きずられている最中も、ノインさんは訳の分からない事を言っていた。


「……ねぇ、アハト。ノインさん、もしかして調子悪い?」

「……お前……マジか?」

「え?」

「……カイト、甲斐性って大事だぞ……」

「……へ?」


 何故か呆れた様子で俺の肩をポンッと叩いてくるアハト……なんだろう? さっきのノインさんの言葉、俺に求められたら断る自信が無い? 

 あぁ、ひょっとして……以前味噌汁を飲ませて欲しいっていった件か!? いやいや、本当に出来ればって話だし、無理に頼もうなんて思ってないんだけど……


 ノインさんが慌てている理由が思い浮かんだ俺は、エヴァが連れてきたノインさんに近付いて話しかける。


「……ノインさん」

「ひゃい!?」

「無理しなくて大丈夫ですよ。本当に俺は、気長に待ちますから……ノインさんの心の準備が出来てからで、大丈夫です」

「あっ……は、はい。申し訳ありません……意気地の無い女で」

「いえいえ、気にしないで下さい。そういう控えめな所も、ノインさんの素敵な所だと思います」

「へっ!? あ、はは、はぅ……あぅ……」


 ノインさんは大正の女性らしく、とても控えめな方だ。

 手料理一つ振舞うにしても、相手としっかり親密になってからと、そんな感じなんだろう……大和撫子って言うのかな? なんだか、男性の三歩後ろを歩いてついて行くみたいな感じで、可愛らしいと思う。


 その気持ちを素直に伝えると、ノインさんはガチャガチャと甲冑を動かした後、顔を伏せてしまった。

 元々甲冑で顔は見えないが、どこか落ち込んでいるようにも感じる。責任感の強い方だし、俺に気を使わせたと恐縮してるのかもしれない。


「……ねぇ、アハト……あれ、素で言ってると思う?」

「……たぶん、ていうか、間違いなく。確かに、前会った時からそれっぽい感じはしてたが……ここまでとは……」

「あたし、ちょっとノインが不憫に思えてきたよ……よしっ! ちょっと協力してあげるとするか!」

「お~い、あんま余計な事は……」


 何かアハトとエヴァが話している声が聞こえ、その後でエヴァは俺とノインさんの方に近付いてくる。


「ねぇ、カイト……ノインって、良い子だと思うだろ? しっかりしてるし、料理も上手い……良い奥さんになると思わないかい?」

「なぁっ!? え、ええ、エヴァ様!? いきなり何を!?」

「え? ええ、ノインさんはとても素敵な方だと思いますよ。きっとお嫁にもらった方は幸せでしょうね」

「っ!?!? あわわわ、かか、快人さん!? しし、幸せだなんて、そそ、そんな……だだ、駄目です、まま、まだ早くて……」


 エヴァが尋ねてきた言葉に答えると、いよいよノインさんは体を大きく揺らし始め、甲冑の音がやたら大きく響く。


「ノインさん? 大丈夫ですか? なんだか、様子が……」

「ひゃわっ!? かか、快人さん、顔、近……」

「もしかしてどこか調子が悪いんじゃ……顔が見えないので、ちょっと甲冑脱いでもらえますか?」

「ぬぬ、脱ぐ!? そそ、それは、えと……わわ、私は、でで、出来るだけ、よよ、要望には、ここ、応えたいと思っていますが……しょしょ、初夜は、べべ、ベットで……」

「初夜? えっと……今、そんな話はしてない気が……ともかく、甲冑を脱いで下さい」

「だだ、駄目です!? ここ、こんな昼間からなんて、わわ、私は……」


 むぅ、やっぱりノインさんはどこか調子がおかしい。

 さっきからいまいち要領を得ない事ばかり言ってるし……これは本格的に具合が悪い可能性があるし、少し強引にいった方がいいかもしれない。


 そう考えた俺は一歩ノインさんに近付き、甲冑の兜に手を伸ばす。


「はわわわっ!? かか、快人さん!?」

「すみません、少し強引かもしれませんが……兜外しますよ。もし具合が悪いなら、見てもらわないと……」

「あぅ……はぅ……そ、その……や、優しくしてくださぃ……」

「……はい?」


 消え入るような声で呟くノインさんに、俺は再び大きく首を傾げた。


「……この二人、面白いけど……このままじゃ、本当に話進みそうにないね」

「だから、余計なことするなっつたのに……」

 

 拝啓、母さん、父さん――アハトが相方……エヴァを連れて遊びに来てくれた。そしてノインさんも一緒に来てくれたんだけど、なんだかずっと妙な感じで、要約すると――ノインさんの様子がおかしい。

 




ノインはテンパり出すと、歯止めが効かずに大暴走します。


慌てるとポンコツになるノインちゃん可愛い!


そして当人の宣言どうり拒否できませんでしたね……快人は爆ぜろ。


備考、クロの家族は皆数字が名前の由来(ラズだけ少し捻ってる)


アインはドイツ数字で1

ゼクスはドイツ数字で6(ゼクスの部下、セイはイタリア数字で6、セーディッチ魔法具商会はセーディチからイタリア数字で16)

ラズリアは七宝の一つラピスラズリから7

アハトとエヴァルはそれぞれドイツ数字の8とハワイ数字の8

ノインはドイツ数字の9


と順に古株です。

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