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リリウッドさん不憫だ

本日は三話更新です。これは三話目なのでご注意を。

 アリスとメギドさんがクロに連れ去られた後、俺はマグナウェルさんに本題を話していた。

 ちなみにアイシスさんはやはり優しい方で、リリウッドさんを手伝うと言って、リリウッドさんと共に岩山や地面の修理に向かった。

 何故かリリウッドさんは「気持ちだけ頂いておきます。お願いですから来ないで下さい!」と言っていたが、それが何故なのかは分からない。いや分からないって事にしておきたい……あっ、また新しい岩山が壊れた。


『……ふむ、成程のぅ』

「どう思いますか?」


 足元から聞こえた声に、視線を戻す。

 現在俺はマグナウェルさんの顔の上に乗った状態で会話をしていた。

 というのもマグナウェルさんのサイズから考えると、俺は米粒みたいなもので、首をかなり下げないと話が出来ない上、迂闊に足踏みでもすればまた尻餅をつかせてしまうかもしれないって事で、顔の上に乗って会話をさせてもらっている。


 まぁ、マグナウェルさんは顔だけでも山のように大きいので、それこそ広大なグラウンドで足元から声が聞こえているような感覚ではあるが……


『先ず、お主が知らぬとは言え首を二度噛ませたのであれば、その白竜はお主をつがいと認識しておるじゃろう。無理に引き離そうとすると暴れるだけ、子供故分別も付きにくかろうて』

「……成程、どうすればいいと思いますか?」

『お主が責任を持って面倒を見るのが一番じゃが……そうするのであれば、ますお主は今後の身の振りを定めるのが先じゃろう?』

「ああ、それについては……もう決めてあります」

『……ふむ、なら良い。ここで答えは聞かん。己に恥じぬ決め事なら、自信を持ってその道を進め』


 マグナウェルさんの問いかけは、即ち……俺が一年という期間を過ごし終えた後、元の世界に戻るのか、それともこの世界に留まるのかという問題。

 アイシスさんから告白を受けた時にもかなり迷いはしたが、それについてはもう心の中で整理はついている。

 現状それを知っているのは……その件について相談したシロさんだけであり、シロさんは協力を約束してくれた。


『なれば白竜の子を引き取る方向で話すぞ……ワシの元を訪れたという事は、何かしらアテはあるのであろう?』

「……はい。アルクレシア帝国で聞きましたが、マグナウェルさんは毎年魔物を下賜かししてるんですよね?」

『うむ。成程な……その内の竜種を譲ってほしいという訳か』

「はい。あ、勿論お金は払います。それがもし無理であれば、下賜する先を教えていただければ、そちらで交渉してみようと思います」


 俺がマグナウェルさんの元を訪ねたのは、単純に相談に乗ってもらう為というのもあったが、以前モンスターレース場でアリスから聞いた話を思い出したからでもある。

 単純にモンスターレース場に行って購入するというのも考えたが、俺は竜種について詳しくないのでどれがというのも分からないと思うし、他の購入希望者も居るだろう。

 ただ、この世界において魔物をペットとして飼うのは一般的みたいだし、モンスターレース場以外にも購入できる場所があるかもしれない。

 その辺りも含めて竜王であるマグナウェルさんに相談してみようと考えた。


『構わん……と言いたいところではあるが、現状は難しいと言わざるを得ん』

「……と、言いますと?」

『ワシは無闇やたらに魔物を人族に下賜かししておるわけではない。魔物は動物と比べて個の力が強い。数が増え過ぎれば生態系に異常をきたす場合もあるのでな、その調整も兼ねておる。弱者を容赦なく殺す趣味はない……知能が低い種は致し方ないが、人族が飼える種に関しては従属魔法を施して下賜かししておる。つまり別にワシとしては、お主に下賜しようと他の人族に下賜しようとどちらでも良い訳じゃ』

「……成程、つまり今は、そういった魔物は居ないという事ですね」

『いや、おるにはおるが……白竜を超える竜種はおらん。白竜はかなり高位の魔物……その飛竜便は、よい魔物を仕入れておる』


 どうやらマグナウェルさんは、魔界の生態系を管理しているみたいで、増えすぎたりした魔物を下賜しているらしい。

 そして白竜はやはり相当高位の魔物みたいで、中々希少らしい。

 確かに御者さんも白竜は希少だと言っていたし、やはりなかなか難しいみたいだ。


 元々難しい頼みなのは自覚していたし、今度はモンスターレース場の支配人さんとかに相談して探してみる事にしよう。


『じゃが、別に方法はそれ以外にもある』

「……え?」

『最近は平和になったからのぅ、ワシの配下にも暇を持て余しておるものが多くおる。そやつらをその飛竜便へ派遣してやろう。無論タダでという訳ではない。契約料は貰う……が、お主に白竜を譲ることを条件に、格安で契約を結んでやろう』

「……いいんですか?」

『うむ。丁度ワシも配下共の気が抜けておるのには悩んでおった、丁度良い』

「ありがとうございます」


 マグナウェルさんは、配下を飛竜便に派遣する契約を結んでくれるらしい。

 詳しくは飛竜便の人達と相談してからになりそうだが、一先ず光明が見えたといった感じだろう。


「本当に助かります」

『いや、構わん。竜種に求愛されるとは……ますます面白い人間よ。竜種は全て、ワシの眷族のようなもの……大切にしてやれ』

「はい」


 穏やかな口調で話すマグナウェルさんの言葉に、しっかりと頷く。

 すると丁度そのタイミングで、またまた視界に映っていった岩山が崩れ落ちた。しかし直後に、消えた筈の岩山が現れる。


『……やれやれ、あやつ等……直しておるのか壊しておるのか……まぁ、壊しておるのはアイシスじゃろうが』

「リリウッドさんの悲鳴が聞こえてくるみたいです。ま、まぁ、アイシスさんにも悪気はないと思うんですが……」

『あやつは壊す事にかけては一級品じゃが、直すのは苦手じゃからのぅ……しかし、このままでは、リリウッドが余りに不憫じゃ……ミヤマカイト、少々協力してもらうぞ』

「え? あ、はい」


 リリウッドさんが不憫というのは大変同感だったが、その後の言葉の意味は分からずに首を傾げる。

 するとマグナウェルさんはゆっくりと首を上げ、恐らくアイシスさんとリリウッドさんが居るであろう方向に声を発する。


『アイシス……ミヤマカイトが、お主と話をしたいと言っておるぞ』

「……分かった」

「早っ!?」


 マグナウェルさんが言葉を発した瞬間に、アイシスさんは目の前に現れていた……早い。

 ともかくこれでマグナウェルさんの意図が分かった。つまり、リリウッドさんが修繕を終わらせるまでの間、俺にアイシスさんの話相手になって欲しいという事だろう。


「……えっと、あ、そうだ! アイシスさん、この前頂いた本なんですが……」

「……読んでくれたの? ……嬉しい」

「はい、なのでその本について、アイシスさんの感想も聞きたいなぁ~って」

「……うん!」


 俺の言葉に嬉しそうな笑顔を浮かべるアイシスさんを見て、俺も微笑みを浮かべる。

 先程壊れた岩山の位置に、「助かります」と光る文字が浮かんできたのを見ると、リリウッドさんの苦労のほどが伝わってきた。

 まぁ、俺はアイシスさんと話すのは楽しいし、それがリリウッドさんへの手助けにもなるなら、一石二鳥と言っていいと思う。


『アイシスと話すのが楽しい……か……お主は、本当に変わっておるのぅ』

 

 どこか穏やかで囁くような声が聞こえてきた気がした。


 拝啓、母さん、父さん――子竜の件でマグナウェルさんに相談したところ、かなり良い案を提案してくれて本当に助かった。しかし、それはそれにしても――リリウッドさん不憫だ。




アイシス「……リリウッド……私も……手伝う」

リリウッド「あぁ!? アイシス、そんな馬鹿げた魔力を込めたら……」

アイシス「……あれ? ……壊れた……ごめんなさい」

リリウッド「も、もう良いですよ、アイシス。貴女の気持ちは十分受け取りました。とても嬉しい気使いでしたから……も、もう、この辺で……」

アイシス「……次は……上手くやる」

リリウッド「……(誰か助けて)」


多分こんな会話が繰り広げられていた。


新情報:快人は一年後どうするかを、もう決めている。

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