定まったメンバーで構成されず把握が難しい匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による広域強盗事件が相次いでいる。社会不安を引き起こす事態だ。警察は摘発を重ねて撲滅してほしい。
8月以降、男らが住宅に押し入り住人を襲う強盗事件が首都圏で少なくとも7件起きた。さいたま市では80代母親と60代娘が頭を殴られ、東京都国分寺市の60代女性はハンマーで顔などを殴られ腕を骨折した。埼玉県所沢市の80代男性は刃物で切られた。
同じ指示役が仕切っている疑いがあるという。これ以外にも同種事件が発生している可能性がある。凶悪極まりない。
逮捕された実行犯は交流サイト(SNS)上の求人に応募していたが、身分証明書を送った後に脅され犯行に加担した。秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」で指示を受けたという。
指示役らにとって実行犯は使い捨ての駒だ。「高額報酬」をちらつかせ、個人情報を得たら脅し、コストをかけず強盗を実行する。捕まるのは実行犯ばかりだ。その後も個人情報を握る指示役からの脅迫や制裁に怯(おび)え続ける。報酬どころか人生を棒に振ることになってしまう。
ネット上のうまい話には乗らず、秘匿性の高いアプリへの移行を求められた際には闇バイトを疑うことを徹底させたい。警察に相談しやすい環境の整備が必要だ。警察や地域社会はこうした啓蒙(けいもう)をもっと強めたい。
懸念は「指示役がどうやって強盗の標的を選んでいるのか」だろう。警察の捜査を待ちたいが、気になる情報がある。国分寺事件の被害者が以前、飛び込みのリフォーム業者を自宅に上げ、工事を依頼していたというのだ。資産状況などが把握され、その情報が流出して犯行に使われた疑いがあるという。
実行犯の中には逃走後、特殊詐欺の「受け子」をしているところを逮捕された者もいた。頻発する強盗は特殊詐欺犯の変形とみるべきだろう。
現在は特殊詐欺と、そこから変質した強盗、SNS投資詐欺が猛威を振るう時代だ。防圧するには摘発するのみだ。かつてグリコ森永事件に触発された企業恐喝の頻発が社会問題化したが、警察の徹底した摘発の積み重ねにより沈静化させた。逮捕を重ね、犯行は無理だと悟らせる。警察の真価が問われる。