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何故かデートの約束をしてしまった

 ライズさんが去っていった部屋の中で、俺に説教を受けたアリスは……すぐに復活してソファーに座る。


「しっかし、アレが胸の内をあそこまで話すとは、カイトさんは流石ですね~」

「うん? アリス、ライズさんと知り合いなの? って、六王だから当たり前か……」

「まぁ、そうっすね。てか、あの方は『お得意様』なんでそこそこ知ってますよ」

「……お得意様?」

「まぁ、毎回依頼に来る人員は変えてるみたいっすけどね~」


 含むような口調で話すアリス……それはつまり、裏の仕事の依頼人という事だろう。


「アレはアレで面白い人間っすよ。本人も言ってましたけど、才覚は平凡です。王としての優秀さは皇帝陛下の方が上でしょう。けど、アレは鼻が利きますし、自分が平凡だって事を良く分かってます」

「……うん?」

「自分の何処に隙ができるか理解して、そこに罠を張って待ち構えてますからね……上手く裏をかけてるって思った時には、ガブっていかれますよ……皇帝陛下は人間的には銅貨一枚、王としては白金貨一枚で、シンフォニア国王は、王としては銀貨一枚、人間的には金貨五枚ってところですかね。まぁ人間的な評価は、完璧私の好みですけどね。ああいう道化を演じてる人間は親近感覚えますね」

「……う~ん、俺にはよく分からない」

「あはは、カイトさんはそれで良いんですよ。なにも演じない自然体な貴方が、私は一番好きです」

「……あ、ありがとう」


 口元に楽しげな笑みを作り、好意を伝えてくるアリスに思わず照れてしまう……相手はアリスなのに、なんか悔しい。

 このまま話題を続けるのは、ちょっと恥ずかしかったので話題を変える事にする。


「そ、そういえば、アリス。前に頼んだ件って、どうなったんだ?」

「うん? ああ、4年前の事件の証拠ですね。集まってますよ~」


 そう言ってアリスはどこからともなく色々な物を取り出して机の上に置く。


「コレがすり替えられた報告書の本体、コレが作成に使われたペンにインク、コレが書き損じた用紙、コレがすり替えに関わった人物の数日間の行動報告、指示を出されて実行した人間も確保してます」

「確保?」

「はい、ちょっとの幻術魔法で頭の中シェイク――快く協力してくれましたよ」

「……お前、今何言いかけた?」


 何やら大変恐ろしい単語が聞こえた気がしたが、気のせいだろう……いや、気のせいだと思いたい。

 し、しかし流石は幻王と言うべきか……わずか数日でこれだけの証拠を揃えてしまうとは、4年も前の事件なのにどうやったんだろう?


「と、ともかく、これなら……」

「罪を暴くのは簡単ですが……今はやめときましょう」

「え? なんで?」

「いえ、実はその事件に関わった二人の貴族なんですけど、2年ほど前に辺境へ追い出されてるんですよね」

「……へ?」


 アリスが言うには、リリアさんの騎士団を罠にはめた貴族は、現在辺境に追いやられているらしい……なんで?


「ちなみに、やったのはシンフォニア国王です」

「ライズさんが!?」

「ええ、先程言った通り、アレは鼻が利くんですよ。当時の状況とかから、アタリは付けてたみたいですが……証拠が見つからなかった。だから別件でやや強引に吊るしあげて、アルベルト公爵から遠ざけたみたいですね~」

「なんで、ライズさんはそれをリリアさんに……」

「それはほら、4年前の事件に関しては証拠を入手出来なかった。相手はそれなりの力を持った貴族でしたから、アルベルト公爵が先走ったりしないように黙っていたんでしょう」


 どうやらライズさんは既にソイツ等に目を付けていたみたいだが、尻尾はつかみ切れなかった。

 だから別の事件で強引に王都から遠ざけたと、そう言う事らしい。


「まぁそう言う訳で、今ソイツ等辺境に居るんすよね。だからこのタイミングで罪を暴いても即座に拘束できません。領地に引き籠られても面倒でしょうし、タイミングを見ましょう。まぁ私なら簡単に捕まえられますけど、それはカイトさんの望む流れじゃないでしょう?」

「タイミングって言うと……」

「その二人は第一王女派で、土の月21日目にある第一王女の生誕パーティには必ず現れます。そこで叩きましょう」

「……」


 アリスの中ではもう既にソイツ等をどうするかは決まっているみたいだ。

 しかし俺としては、最後はやはりリリアさんに決着をつけてもらいたい。

 そんな俺の考えを見透かしているかのように、アリスは穏やかな微笑みを浮かべる。


「大丈夫です。カイトさんの要望は理解してます。私が罪を暴いて倒すんじゃなくて、あくまでアルベルト公爵がソイツ等に勝つ……こっちでシナリオは用意しておきますよ」

「……ありがとう、頼む」

「御心のままに」


 こちらの意図をしっかりと読みとってくれているアリスに、感謝の言葉を伝えると、アリスは芝居がかった動きで頭を下げる。

 それに苦笑しながらも、感謝の気持ちでいっぱいになっていると……


「……あっ、鳥肌立ちました。真面目モード終わ――痛いっ!?」

「……お前……」


 しかしやはりアリスはアリス……即座にふざけた事を言ってくる。

 本当にもう少し真面目な状態が長続きしないものかと、考えつつ、ふとある事を思い出して尋ねる。


「そう言えば、話は変わるけど……前に言った通り、ちゃんと生活費は残して……」

「さあっ! 私は色々準備に取り掛からなければ!」

「ちょっと待て、こら……」


 聞くやいなや、即座に身を翻して逃げようとしたアリスの首根っこを捕まえる。

 以前部下に半分は給料として渡してると言っていたが、もう半分はギャンブルに使っていたようなので、ちゃんと残しておくようにと説教をしたばかりだったのだが……

 コノヤロウ……やっぱり目を離した隙に使いやがったな……


「俺、言ったよな? ちゃんとお金残しとけ、使い切ったら許さないって……」

「だだ、大丈夫ですよ。ちゃちゃ、ちゃんと残してますって」

「いくら?」

「へ? あ~いや、それは……」

「い・く・ら・だ?」

「……10R……」


 軽く目眩がした……以前俺が説教した時点で、アリスは部下の給料を除き白金貨10枚以上は所持していた筈、数日で全部使いやがったのか……

 そして俺が全部使い切るなって言ったから、10Rだけ残していたみたいだ……なんか、全部使い切ってるより余計に腹が立つ。


 しかし、どうしたものか? この調子だとまた説教した所で、改善しそうにないし、かと言って俺がいくら殴った所で六王であるこいつに明確なダメージは見込めない。

 いや、まてよ? そう言えば……


「……お前がそういう態度なら、俺にも考えがある」

「……へ? 考え? あ、ちょ、カイトさん、なんか顔怖い、ひぃっ!?」


 少し懲らしめてやろうと思って低い声を出しながら手を伸ばすと、アリスはまた殴られると思ったのか身を竦める。

 俺の手はそんなアリスの頭を素通りし、アリスが顔に付けているオペラマスクの紐を掴んで、引っぺがした。


「……へ? あっ、あれ?」

「……」

「そそ、それ、私の仮面……あ、あぁ……ひゃあぁぁぁぁ!?」

「っ!?」


 普段は仮面に隠れている美しい碧眼が露わになり、アリスは茫然とした様子で目を丸くする。

 そして俺の手にオペラマスクが握られているのを確認すると、ボンッと爆発するような勢いで顔を真っ赤に染めて絶叫した。


「はわわわわ、か、カイトさん、かか、返して……わわ、私、そそ、それが無いと……」


 ど、どうしよう? ちょっと懲らしめてやるつもりでやったんだけど……泣きだしてしまった。

 普段の仮面のインパクトが強くて忘れがちだが、仮面を取ったアリスは緩く波打つような髪が特徴的な金髪碧眼の美少女であり、その顔で泣かれると物凄く悪い事をしてる気がしてきた。


「ご、ごめん! やり過ぎた!」


 泣きながら縋りついてくるアリスに、俺は慌てて仮面を返す。

 アリスは俺から仮面を受け取ると、それを即座に装着し……ゆっくりと膝を抱えた。


「……汚されました……完全に凌辱です……もうお嫁にいけません……」

「い、いや、ごめん……まさかそこまでとは思わなくて、本当にごめん!」

「……豪華なディナー……」

「わ、分かった。なんでも奢る」

「……今度私と豪華なディナー付きでデート……」

「……わ、分かった」

「じゃあ、許します!」

「早っ!?」


 物凄く落ち込んでいる様子だったアリスに、必死に謝罪をしたが……物凄い勢いで復活しやがった。まさか、さっきの演技だったんじゃ……

 何となくアリスに嵌められたような気がしないでもないが……悪いのは俺だし、アリスの機嫌が直ってくれて良かったと思っておこう。


 拝啓、母さん、父さん――アリスは流石幻王だけあって、もう証拠を集めてしまっていたみたいだ。ただやはり駄目なのは相変わらずで、ちょっと懲らしめようと思ったんだけど――何故かデートの約束をしてしまった。

 

 


シリアス先輩「……もぅ、おうちかえる……」


ちなみに以前男爵一家の殺害を依頼したのはライズの手の者。

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