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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
856/856

832 クマさん、猿とウルフの戦いを見る

 爆発花の採取が無事に終わる。


「それで、ここから、どっちに向かえばいいの?」


 マーネさんの情報では爆発花に向かうまでしか聞いていない。


「正確な方角は分からないけど、小さい川に出たと言っていたわ」


 そう言って、マーネさんはリディアさんを見る。


「リディア、川の音、聞こえる?」


 いきなり話を振られて慌てるリディアさんだけど「やってみる」と言う。

 リディアさんは目を閉じ、耳を澄ませる。リディアさんの髪が僅かに靡く。

 マーネさんの言うとおりに、遠くの音を聞こうとすると髪が靡く。

 ちゃんと見ないと気づかない。

 リディアさんは目を開け、指さす。


「あっちから聞こえる」

「それじゃ、そっちに進みましょう」


 マーネさんは迷うことになく言う。

 そんなマーネさんの言葉にリディアさんは嬉しそうだ。

 リディアさんの耳が信用されているってことだ。

 わたしたちはくまゆるとくまきゅうに乗って、リディアさんが聞こえた川の音がする方へ進む。

 そして、しばらく移動すると小さい川があった。

 周囲は木々で生い茂っているので、上から見ても、木々が邪魔をして、わたしでは発見できなかったと思う。


「それで、川に来たけど、次は」

「川に沿って、下流に行くわ。でも、その前に薬草採取ね」


 マーネさんは川の近くに生えている花の採取を始める。


「わたしも手伝います」


 リディアさんはマーネさんの助手のように手伝いを始める。

 わたしとゼクトさんは周囲の確認をする。確認と言ってもわたしは探知スキルで確認するだけだ。

 近くに魔物はいない。

 近くに魔物が来れば、くまゆるとくまきゅうが教えてくれるので、探知スキルを閉じ、のんびりと小川を見る。

 水が流れる音だけが聞こえる。

 魔物がいなければ、静かで、良い場所だね。


 薬草の採取も終わり、移動を再開する。

 川沿いを下流に向かって移動する。

 ときおり、動物に出くわすが魔物には会わない。

 順調に進んでいると思っていると、くまゆるとくまきゅうが「「くぅ~ん」」と鳴く。

 探知スキルを確認すると赤猿と表示。

 赤猿……、猿の魔物。


「ユナ、もしかして魔物?」くまゆるとくまきゅうの反応を見て尋ねてくる。

「うん、赤猿がいるみたい」

「近く?」

「まだ、離れているって」


 探知スキルでは距離がある。


「でも、ここのまま進めば……」


 赤猿の反応は、わたしたちが向かっている方向だ。

 川が、急カーブでもしないかぎり、出会うことになる。


「赤猿ね。厄介な魔物ね」

「確か、群れで動くんですよね」

「他の冒険者には一匹見つけたら、その場から逃げろと言われたな」


 リディアさんとゼクトさんが赤猿の情報を教えてくれる。


「ええ、赤猿は群れで動き、動きも速い。木々も利用して襲ってくるから森の中じゃ、戦いたくない魔物ね」

「どうします?」


 マーネさんはリディアさんの質問に悩み、最終的にわたしを見る。


「確認だけど、ユナ、対処できる?」


 ゲームの中では猿系の魔物とは戦ったことがあるけど、この世界では戦ったことはない。

 だからと言って、クマ装備なら倒せないこともない。

 まあ、いざとなれば、くまゆるとくまきゅうがいれば、猿ぐらいからは逃げることはできる。


「多分、大丈夫。でも、くまゆるとくまきゅうから、絶対に離れないって約束をして」

「分かったわ」

「うん」

「分かった」


 わたしたちは進む。


「滝の音が聞こえるわ」


 リディアさんは、わたしが赤猿がいると言ってから、周囲の確認をしてくれている。


「その滝の下が目的地なんだけど」

「赤猿の群れがいるみたい」


 簡単に採取はさせてくれないみたいだ。

 運がない。


「滝の音で、魔物の音が聞こえない」


 リディアさんの耳も万能ではなかったみたいだ。

 周囲の音がうるさかったり、同じ方向から、別の大きな音が聞こえれば、小さい音は掻き消される。


「どうするの?」

「数は分かる?」

「くまゆるとくまきゅうが言うには、50体以上いるって」


 探知スキルには赤猿の点が無数にあって、数えることができない。

 重なっているところもあるので、正確な数は分からない。

 なにより、この点を数えるのが面倒くさい。


「……最悪ね」


 それは、そうだ。

 目的地に魔物の群れがいれば。

 でも、わたしからしたら50でも100でも敵ではない。


「それなら、わたしが先に赤猿を倒してこようか?」


 そうすれば、安心して採取することができる。

 でも、わたしの言葉に3人が呆れるような顔で、わたしを見る


「散歩に行ってくるような感覚で、魔物50匹と戦おうとする人を初めて見たわ」

「そもそも、そんな人はいないから」

「俺も、そんなカッコいいセリフ、言ってみたい」


 言うのは誰でも言えるよ。ただ、実行に起こしたら命の保証はしないけど。


「とりあえず、ギリギリまで近寄って、見てから判断しましょう」


 だから、わたしが戦うって。

 それを口にすると戦闘狂と思われるから、言わないけど。

 わたしたちは静かに移動する。

 滝があることも助かったかもしれない。音に敏感な魔物だったら、気づかれていた可能性もある。

 猿って、音や嗅覚てどうなんだろう。

 人と変わらないのかな?

 でも、魔物だし。

 考えても分からないので、気をつけて進む。

 滝の音が大きくなる。


「あそこが滝みたいね」


 くまゆるとくまきゅうから降り、ゆっくりと滝に近づく。

 滝は高く、高い位置から水が落ちていく


「あった」


 マーネさんが見ている方向を見ると、滝から少し離れた場所に大きな木あった。


「あれが目的の木?」

「たぶん、近くで確認しないと絶対とは言えないけど」


 その木の周囲には赤っぽい猿が無数にいる。


「なんだ、あの数は」

「しゃがんで」


 マーネさんの指示に従い、這いずるように地面に倒れ、滝の下を伺う。


「数が多いわね」

「あんなのに、一斉に襲われたら……」

「逃げられないな」


 たくさんの猿が木の周囲にいる。

 凶暴そうだけど、倒せない魔物ではない。


「みんなは、ここで待機していて、わたしがちょっとサクッと倒してくるよ」


 ここに住んでいる猿には悪いけど、マーネさんのためだ。


「ちょっと待って」


 立ち上がろうとするわたしをマーネさんがクマ服を引っ張る。

 木を中心した周りが光り出す。

 それは森の中まで広がる。

 そして、光が消える。


「なんだったの?」

「地面が光ったな」

「魔法陣……」


 リディアさんとゼクトさんの問いに、マーネさんが小さい声で言う。


「こんな巨大な魔法陣、見たことがないわ」


 森の中まで光っていた。

 そのことを考えるとかなりの大きさの魔法陣だ。


「今、光ったのが魔法陣なの?」

「ええ、見えたのは一部だけど魔法陣の形をしていたわ」


 魔法陣に詳しいマーネさんが言うなら、信憑性は高い。


「でも、どうして魔法陣が、こんなところに?」

「そんなの、作った本人しか分からないわよ」


 こんな隠れた場所に魔法陣を作る人間の思考なんて、本人しか分からない。

 ただ、良いことには使われていないことは確かだ。


「でも、どこかであの魔法陣を見たことが……」


 マーネさんが魔法陣のことを考えていると、くまゆるとくまきゅうが小さく鳴く。

 探知スキルで確認するとウルフの群れが集まってくる。


「ウルフ!」


 一匹のウルフが地面にいる赤猿に襲いかかる。

 猿は身軽に躱し、ウルフの背中に乗ると噛みつく。ウルフの悲鳴があがる。

 それを切っ掛けに大乱闘が始まる。


「なにが起きているんだ」

「縄張り争い?」

「どうして、こんなところを? 別に戦う必要はないだろう」


 ゼクトさんの気持ちは分かる。

 どうして、殺し合いまでして、この場所を欲しがる?

 ウルフと赤猿の戦いは、赤猿が木を上手に利用して、有利に進めていく。

 木の上から襲い、ウルフの背中を取り、噛み殺す。

 ウルフも一方的にやられるわけではない、木の上からの攻撃の躱し、逆に噛みつくウルフもいる。

 さらには、赤猿に噛みつかれているウルフを救うために赤猿を噛みつくウルフもいる。

 そして、戦いの勝利者が決まる。

 赤猿が勝った。

 ウルフは食われる。


「なんだったの」


 リディアさんの体が震えている。


「大丈夫だ。ここなら気付かれない」


 ゼクトさんが安心させるためにリディアさんの手を握る。


「あの魔法陣は……」


 ウルフと赤猿の戦いも凄かったけど、マーネさんは魔法陣についてつぶやいている。


「……あの魔法陣と似ている。……ありえない」

「マーネさん、なにか分かったの?」

「……可能性の1つ」

「その可能性の1つって」

「魔物を呼び寄せる魔法陣……」


 その言葉で、王都の一万の魔物、サーニャさんが言っていた魔物の移動。

 パズルのピースがハマる。


「でも、仲がたいしているよ」


 わたしが知っている王都の魔物一万事件は、魔物は争っていなかった。


「そんなこと知らないわよ。もし、あの事件と関わりがあるなら、命令をする者がいないせいで、争っているかもしれないわ」


 わたしも国王から聞いただけだから、詳しいことは知らないけど、国王に恨みがある魔法使いが、復讐のために魔物を集めて、王都の破壊を企んだ。

 でも、その魔物をわたしが倒しちゃったから、男の復讐は叶わなかった。

 その魔法使いが魔物を従わせていたなら、十分に可能性はある。

 少し前にシアの学園の魔法の交流会でユーファリアの街に行ったことがある。

 その時に、同様の力を持った魔法使いがいた。

 その魔法使いも魔物を従わせてた。


「ねえ、さっきから何を言っているの? わたしたちにも分かるように説明して」

「まあ、王都の冒険者なら知っていることだから話すけど」


 わたしとマーネさんは話せる範囲でリディアさんとゼクトさんに説明した。

 王都が魔物一万匹に襲われるところだったこと。

 魔物はとある冒険者によって討伐されたこと。


「噂で聞いたことがあるかも」

「知り合いの冒険者が、笑いながら言っていたな」

「事実よ。あと、これは、わたしも最近知ったことだけど。その魔物は、この森から連れて来られたらしいわ」

「……!?」

「……!?」


 マーネさんの言葉に2人は黙り込んでしまう。


「そして、魔法陣が光ると、ウルフが集まってきた」

「辻褄が合うな」


 ゼクトさんの言葉にリディアさんも頷く。


「それで、この魔法陣が魔物を呼び寄せるものではないかと」

「ええ、そして、魔物を命令する魔法使いがいないから、呼び寄せられた魔物が争っているのが、わたしの考え」


 マーネさんの説明に納得した感じだ。




目的地到着、でも不審な感じ。


※投稿日は4日ごとにさせていただきます。

※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合は活動報告やX(旧Twitter)で連絡させていただきます。

※PASH UPにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ127話公開中(ニコニコ漫画122話公開中)

※PASH UPにて「くまクマ熊ベアー」外伝20話公開中(ニコニコ漫画16話公開中)

お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。


【くまクマ熊ベアー発売予定】

書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)

コミカライズ12巻 2024年8月3日に発売しました。(次巻、13巻発売日未定)

コミカライズ外伝 2巻 2024年3月5日発売しました。(次巻、3巻12/20発売日予定)

文庫版11巻 2024年10月4日発売しました。(表紙のユナとシュリのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2025年1月20日、抽選で20名様にプレゼント)(次巻、12巻発売日未定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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