[日経不動産マーケット情報 2024年9月19日掲載]情報は掲載時点のものです。
最初の記事から読む
「病気で働けない息子に残そうと思っていた大切なお金。早く返して欲しい」。都内で日経不動産マーケット情報(以下、本誌)の取材に応じたAさん(60代・男性)は、4時間を超えるインタビューの間、憔悴(しょうすい)しきった様子で繰り返した。昨年12月に「シリーズ成田」に投資したのは、30年ほど前の交通事故で長期通院した際の補償金、千数百万円だ。年間7%の好利回りに惹かれ、知人の勧めもあって投資を決めたが、後悔の念にさいなまれているという。
「みんなで大家さん」は、共生バンク(本社:千代田区)とそのグループ企業が手がける不動産投資商品である。不動産特定共同事業法(不特法)に基づいて組成され、グループの都市綜研インベストファンド(本社:大阪市)が運用している。今春時点で3万8000人が投資しており、その総額は約2000億円。今年6月17日、免許を所管する大阪府、東京都から30日間の業務停止命令が下り、事業者側がこれを不服として行政訴訟に踏み切ったことは、本誌既報 記事1 記事2 記事3 の通りだ。
「担当者の対応からは全く誠意が感じられない。本当に返す気があるのかも疑わしくなってくる」と語り、会社側への不信感をあらわにするAさん。行政処分からほどなくして、販売元の「みんなで大家さん販売」(本社:千代田区)に解約を申し込んだが、9月初旬の本稿執筆時点でも返金の連絡がないという。「工事の進捗を尋ねると『開発主体はグループ会社で、販売担当の我々に細かい話はわからない』と逃げられる」(同)。
5900万円、6400万円、8400万円…。本誌が訴訟記録の閲覧により確認した、行政処分直後の元本償還請求の一覧からは、驚くべき高額投資の一端が垣間見える。複数の情報源によると、直近では約4000人の投資家から総額220億円あまりの請求が寄せられている。今のところ、説明会の開催予定もないようだ。
老後資金を狙い撃ち
「老後問題」を時代劇風に演出したテレビCMや、「第二の年金」をキャッチコピーにしたネット広告は、資産運用に悩む層に「大家さん」の魅力を強く訴求した。同社が2022年2月に実施した顧客アンケートによれば、51歳以上が全体の約8割を占めている(下グラフ参照)。
なかでも2020年11月発売のシリーズ成田は、前年、金融庁の報告書に端を発した「老後資金2000万円問題」を追い風とするかのように、販売を伸ばしてきた。成田空港近くで進む複合開発「GATEWAY NARITA」の用地を投資対象にしたファンドで、グループ内の別会社に貸し付けた土地の賃料収入を配当原資とし、発売以来、今年3月までの販売総額は約1500億円に上る。販売活動の加速に合わせて広告宣伝費も増加しており、2022年度における支出は47億2000万円に上った。翌2023年度も同等以上を投じたとみられる。
今回、本誌は複数の投資家に接触し、シリーズ成田に関連する多くの販促資料や契約書面を入手した。直近で2月に発売された成田18号のパンフレットを見ると、全24ページのなかで「安定」「安心」「安全」の言葉が合わせて30回以上も登場する。「元本評価割れなし15年間の実績」「過去1度も想定利回りを下回ることがない」などといった実績も強調。事業者自身が総投資額の2割を負担する「優先劣後システム」の説明と合わせて、いかに問題のない商品であるかをアピールする。これらを好感した投資家の中には、商品が組成されるたび、2〜3カ月ごとに出資額を増やしていった人も多いようだ。
2013年、「大家さん」を運用する都市綜研インベストファンドが、資産の過大計上で60日間の業務停止命令を受けた際も、約2000人いた投資家の間に解約騒動が巻き起こった。この時の元本はほぼ償還されたもようだが、投資家の数が20倍ほどに膨らんだ現在、万一の際の社会的影響は計り知れない。同社の今年3月時点の現預金は100億円あまりである。
なお、6月の行政処分から数日後、公式サイトに解約(営業者に対する契約上の地位の譲渡契約)の申込フォームが新設されたが、その場で返金日程が決まるわけではない。「大家さん」側は、今後確保する予算の範囲内で順番に譲渡契約書類を郵送するとしており、月間の予算は最低5億円、全ての解約請求に応じるには6カ月から1年かかる見通しと、7月26日に公表している。電話などで直接問い合わせた複数の投資家の話によると、その原資確保には土地からの賃料収入のほか、グループが保有する不動産の売却や金融機関からの借り入れを想定しているもようだが、説明に具体性はなく不透明さが残る。
一方で、販売担当者らは成田開発の進捗について強気の姿勢を崩していないようだ。投資家の問い合わせに対し、「土地の造成工事は7割完了していて、来年秋頃から建物工事を開始する予定。2027年春頃には一部施設がオープンする」との公式見解を繰り返している。行政処分を受け、今年7月31日付で投資家宛てに送付した書面(商品概要・重要事項説明書の改定)の中にも、当局に要求された造成図面の訂正や追加のリスク説明に並んで、自らを正当化する文言が並ぶ。
例えば、行政処分の引き金になった、直近2度にわたる事業計画の見直しについては「計画見直し前の年間の利益の見込み額が394億円であったものが、2023年11月の段階で681億円へ、その後、2024年5月のマスタープランでは744億円と大幅な増加」を見込むと説明。自社で取得した不動産鑑定評価も根拠に挙げ、あくまでも「不特法上の損失発生要因には該当しない」と強調している。
創業半年の投資会社に売却?
コーナーに追い詰められたように見える共生バンクは、事業の継続に向けてどんな奥の手を使うのか。前号 2024年9月号 で報じた、ロンドン証券取引所へのSPAC(スパック=特別買収目的会社)上場に続いて、世間の耳目を集める発表があったのは9月3日だ。
同社は米国の投資会社、Lloyds Capital(ロイズ・キャピタル) LLCによる発表資料の“日本語訳” とする文書を公開した。この中でロイズは「共生バンクグループからゲートウェイ成田開発プロジェクトのSPV(注)の100%株式を取得するための、拘束力のある契約を締結した」としている。取引完了は今年11月30日までを予定。共生バンクの窓口担当者は本誌の問い合わせに対し「交渉がまとまれば、成田開発は上物も含めてロイズが引き継ぐことになる。細かいことは言えないが、ファンドに対しては同社が賃料を払っていくことになると思う。投資家への配当も継続していく」と説明する。
ロイズは租税回避地として知られるデラウェア州に本籍を置き、ワシントンDC、ドバイ、東京に展開。日本時間9月11日時点の同社ウェブサイトには、アドバイザーとしてトランプ政権で国務長官を務めたMike Pompeo(マイク・ポンペオ)氏や、国際協力銀行(JBIC)会長で、岸田文雄政権の内閣官房参与も務める前田匡史(ただし)氏などが名を連ねていた。ただし、同州の法人登記によると、ロイズは今年2月に設立されたばかりで、その活動実態は不明。存在するとされる英文発表資料の所在についても、本稿執筆時点で共生バンクからの情報提供はない。JBICの前田氏は広報を通じて、「アドバイザーを務めている事実はない」と本誌に回答を寄せた。この問い合わせの後、同氏の写真はロイズのサイトから削除されている。
実は、共生バンクグループが成田プロジェクトに関して、海外からの巨額投資の存在を主張するのはこれが初めてではない。裁判記録によると、同社は今年5月2日に大阪府に提出した文書において、香港籍の中国系建設会社による5000億円規模の投資や、上海の投資会社による2000億円規模の投資が契約済みと主張。さらに、タイ企業による生成AI計算センターやR&D施設の誘致契約締結も近いなどと述べ、「不利益処分を下すと、償還に重大な悪影響をおよぼす可能性がある」と強調している。
投資家のAさんは、「メールが届くたび、『大家さん』からの悪い知らせかと思いドキリとする。毎晩のように悪夢を見てよく眠れない」と話す。一刻も早い正確な情報提供が待たれる。
「テレビCM」と「元本割れなし」で投資を決意
「みんなで大家さん」の顧客の中には、不動産投資の経験を持つ人も少なくない。2021年以来、毎号のように「シリーズ成田」に投資してきたBさん(60代・女性)に話を聞いた。
東京郊外に住む彼女が、初めて1口(100万円)を購入したのは、同年8月発売のシリーズ成田8号だ。「それまでは九州のバナナ加工施設や伊勢のテーマパークなど土地勘のないエリアの物件でしたが、成田なら比較的容易に現地も見られます。実家から引き継いだ賃貸マンションを運用している経験から、納得できる配当水準だとも思いました」(Bさん、以下同)。7%の利回りがあれば、5年間の間に合計35%の分配金が入る。「これだけの配当があれば、評価額が多少落ちても大損はしない。普通に考えて、不動産の価値が5年で半額に下がることはまずないだろうと判断しました」。
彼女が「大家さん」を知ったのは約10年前のこと。最初は家族の反対で投資を見送るが、同商品はその後、“元本割れなし”で運用を続け、2021年頃にはテレビコマーシャルも頻繁に目にするようになって、信用できると判断した。「優先劣後システムで、値下がりしても20%までは会社側が損失を負担する点も評価できました」。本当は成田7号に申し込むつもりだったが、当時は販売が大盛況で、申込書類が会社に着くまでに完売になったため、8号から開始したのだという。それからは、新たなファンドが組成されるたび1口ずつ投資していった。1口につき1万3000円〜1万8000円のギフトカードが提供され、投資残高に応じて1口あたり2000円〜6000円の追加還元もあった。一連のやりとりは郵送とメールで行われ、しつこい勧誘などは記憶にない。
解約殺到で回線がパンク
一抹の不安が芽生えたのは、昨年5月のこと。成田プロジェクトの進捗について、共生バンクのウェブサイトで告知を確認するようメールが届き、計画変更や工事の一時中断を知ることになる。いずれは解約を、と考えた。ただし「日割り計算で分配金を受け取る仕組みのため、あまり早々に手続きする気になれず、アンテナだけは張っていました」。
決断を後押ししたのは今年5月上旬、土木技術者の解説で成田開発の進捗を取り上げたYouTube動画(資産形成チャンネル)だ。「動画を見た人が一斉に解約する事態を恐れ、乗り遅れまいと申請しました」。6月17日の行政処分を聞いて再び不安になり、先方に電話で確認を試みたものの、回線がパンク状態で繋がらなかった。結局、数日経ってから返金の連絡をもらったという。引き留めはなく、60営業日後の8月初め、解約手数料3.3%を除いた元本の入金が確認できた。
株や投資信託のように日々の値動きがなく、安定しているところに不動産投資の魅力を感じると話すBさん。上場他社が手がける不動産クラウドファンディング商品について 「10万円くらいなら投資してもいいか」とも考えるという。
(「日経不動産マーケット情報」2024年10月号より)
登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
この記事はシリーズ「Views」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。