米学者に聞く「巨大IT企業の問題点」(上)
「私たちはSNSに働かされている」。メディア論が専門のニューヨーク市立大教授のダグラス・ラシュコフ氏は、ネット交流サービス(SNS)での投稿はIT企業(テック企業)をもうけさせるだけだと批判する。新著「デジタル生存競争」の出版を機に来日したラシュコフ氏に、市場を独占する米巨大企業の問題点を聞いた。2回にわけて掲載する。
征服者のような経営者たち
――なぜIT企業の経営者に批判的なのですか。
◆ダグラス・ラシュコフ氏 私はSNSについて「私たちはユーザーではなく、商品だ」と表現している。例えばフェイスブックは投稿などの行動データを企業に売り利益を得ている。私たちは労働力なのだ。データ販売が事業の主力なので、多く人々にSNSを活用してもらうことが重要になる。それは人々を幸せにするためのサービスではない。誰のためのサービスかが明白であり、私たちは彼らに働かされているのだ。
90年代の起業家はデジタルメディアのパイオニアだった。技術を使い新しい世界を人々に提供しようとした。ところが今の米テスラのイーロン・マスク氏やフェイスブックを運営するメタのマーク・ザッカーバーグ氏などの経営者たちは征服者のようだ。技術で人々を征服し、コントロールすることが狙いのようにみえる。
――経営者の姿勢が変わったきっかけは何ですか。
◆2000年のITバブルとその崩壊だ。同年1月にネット大手のAOLとメディア大手のタイム・ワーナーが合併を発表した。多くの評論家は「ニュー・メディア」と「オールド・メディア」の新旧企業の合併に好意的だった。しかし、私は失敗すると考えていた(09年にタイム・ワーナーはAOLを分離して独立させた)。なぜならAOLの創業者のスティーブ・ケースCEO(最高経営責任者)は実体のない資産の自社の株式から現物資産である企業(タイム・ワーナー)の株式を取得し、もうけたいのだと思ったからだ。
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