地球上に2頭だけ残るサイ 絶滅から救うカギは「雄同士で…」
残ったのは母と娘の2頭だけ。もはや自然には繁殖できない――。
ケニアで保護されているキタシロサイは、世界で最も絶滅の危機にひんした動物だ。1960年代にはアフリカ中央部に2000頭以上生息していたが、漢方薬の材料や装飾品として角が高値で取引され、密猟や環境破壊で激減。国際自然保護連合のレッドリストで「野生絶滅」とされている。
キタシロサイを絶滅から救おうと、最先端の生命科学を駆使した国際プロジェクト「バイオレスキュー」が進む。まだ生殖能力がある娘から採取した卵子と、すでに死んだ雄の個体の凍結した精子や体細胞を使い、人工的に繁殖させる試みだ。
同時公開の記事があります。
◇生命科学の進歩が問う「命」 宗教学者・島薗進さんが出した答え
※『神への挑戦 第2部』好評連載中。生命科学をテーマに、最先端研究に潜む倫理や社会の問題に迫ります。これまでの記事はこちら
次回:人は「生命」を生み出すか(4月25日午前6時公開)
ただし、仮に子供が生まれても、同じ遺伝子同士の「近親交配」を繰り返すことになる。遺伝的多様性は失われたままで、長くは子孫を残せない。
そこで考えられているのが「同性生殖」だ。
キタシロサイの雄の体細胞は、5頭分が保存されている。もし雄同士のペアから子供ができれば、遺伝的に多様な子孫ができる可能性がある。
そんなことが可能なのか。カギを握るのが、プロジェクトに参画する林克彦・大阪大教授(生殖遺伝学)の研究だ。
iPS細胞で同性生殖
林さんはマウスを使った実験で、雄同士から実際に子供を作ることに世界で初めて成功。2023年3月に英科学誌ネイチャーに発表した。
雄のiPS細胞から卵子を作り、別の雄の精子と受精させ、雌マウスの子宮に入れたという。どういう手法なのか。
雄のiPS細胞には、性染色体のXとYがペアで入っている。ところが、1週間ほど培養していると、Y染色体だけが欠けた細胞が1~5%の割合で現れる。
「通常、体内での細胞分裂ではこうした現象はほとんど起きない」(林さん)。ところがiPS…
この記事は有料記事です。
残り2239文字(全文3097文字)