タスク管理の体系化は前々からやりたかったことでした。プロジェクト管理やチームワークで使われるようなものではなく、個人が個人のタスクを上手く管理するための諸々を上手く整理したかったのです。タスク管理、特に個人タスク管理は本質的に個人的なものだと思っていますので、真の意味での体系化は難しいでしょう。しかし、現状はあまりにも整理されてなさすぎるし、何より使われてなさすぎる――。所詮は趣味の範疇ですし、私もそのつもりでした。働き方や過ごし方なんて人の勝手ですから、どうとでもすればいいし、正直どうでもいいのですが、最近は特にそうも言ってられなくなってきました。
パンデミックによりリモートワークが加速しましたが、落ち着きを見せたところで世の中は再び出社に回帰しつつあります。週に n 回するとのバランス(ハイブリッドワーク)もよく見られますし、リモートワークは「最悪の過ち」か、グーグル元CEOらが是非に言及 | 日経クロステック(xTECH)の記事も見て衝撃的でしたが、私は前々から心の中で何度も何度も「違う」「そうじゃない」と思っていました。オードリー・タンはブロードバンドは人権と言いましたが、私は「リモートは人権」だと唱えたいです。なぜなら、リモートワークのおかげで、通勤を初めとする「拘束」から解放され、各々の生活が尊重されるようになったからです。もちろん、あらゆるケースで当てはまるわけではありませんが、それができることが示されたからです。生活の尊重は水準となったのです。一度上がった水準はもう戻せませんし、戻すべきではありません。なのに、回帰に伴って、この水準も壊されつつある……。
私は仕事術を研究していることもあり、この流れを止めたくて微力ながら抵抗していました。常にリモートでいるべき、などと過激な主義を押し通したいのではありません。出社派も、リモート派も、どちらも共存できるようにしたいのです。リモートという選択肢を、多様性の一つとして確立したいのです。現状は前者が幅を利かせています。ハイブリッドワークもまさにそうで、週に n 回とはいえ強要されているわけです。いやいや、フルリモートしたい人がフルリモートするくらいもうできるでしょ、テクノロジーは十分なのだからできるはずだ――そう信じていましたが、道のりは非常に険しいのだとわかりました。
改めてわかったのは、テクノロジーだけではダメだということです。テクノロジー(技術)の他にメソドロジー(方法)も必要そうだな、との感触が日に日に濃くなってきました。特にリモートでは、各々が自律的に動いて情報を残すことが必須のリテラシーとなりますが、そもそもこれを持っている方が圧倒的にマイノリティなのです。テクノロジーがもっと発展すればリテラシー無しでも実現できるでしょうが、まだまだ遠そうです。まがいなりにも私がこんなことを言えているのは、単に私が研究してきたからにすぎません。実情としてはそもそも Unknown Unknown(何がわからないのかがわからない)ですし、人間が社会的な動物であり対面と非言語を求める仕様になっている点も手ごわさに拍車をかけています。こういったことをクリアしていくためにも、メソドロジーの開拓を進めていかねばなりません。長々と書きましたが、その一つが「タスク管理」であり、本書の執筆も開拓の一環なのです――
と、堅苦しい話はここまでにしましょう。
本書はいかがでしたでしょうか。読者の皆さまが自分なりに、自分のタスク管理というものを考えるきっかけになりましたら幸いです。また、本書をたたき台として、さらに色々なものが生まれていったら、作者としてこれほど嬉しいことはありません。
2024/09/11 吉良野すた(自宅でスズムシの音色を聴きながら)