Chapter 27

探索的タスク管理(ヒント集)

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2024.09.11に更新

前章では探索的タスク管理こと ETM の基礎編を解説しました。本章では参考にできそうなやり方や考え方のヒントを紹介していきます。

※本来は前章のことはじめ part5 で扱う想定でしたが、本書のプラットフォーム Zenn 側の仕様で 50000 文字以上書けないため、このような形で分けてあります。

ETM ことはじめ5 ~やり方や考え方のヒント集~

ここ part5 では参考にできそうなやり方や考え方のヒントを雑多に紹介します。ゼロから試行錯誤したり既存事例を探したりするよりも近道できるはずです。逆に「どうにもノリが合わないな」と感じたら、自分達で模索した方が良いでしょう。これらはあくまでヒントであって正解ではありません。

まずは文芸的タスク管理を

Ans: ETM は文芸的タスク管理をベースにしているので、その諸々が使えます。

基本的なテクニックは文芸的タスク管理の章も参照してください。ETM はネットワーク型のノートツールを使うため、まさにこれを使う文芸的タスク管理は参考になります。というより、ETM は文芸的タスク管理の上に探索的なアプローチを重ねて再構築したものです。前章冒頭にて前提としていると書いたのもそのためです。

スクイーズアウト

Ans: 有限化には「今の自分で 100% ひねり出した」との目安が使いやすいです。

ETM では「見えてきたら」を一つの合図にしています。最終的に求めたいゴールもここまでのトピック達を踏まえて「見えてきたこと」ですし、トピックもある意味「見えてきたこと」を言語化してつくります。

一方で、いつも見えてくるとは限りませんし、見えてこないこともざらにあります。特に見えてくるほどリソースを費やせない場面は非常に多いです。極端な話、アイデアが 100 個あるとして、この全部に対して見えてくるまで費やせるかというと不可能です。

探索的な ETM において正解はないため、通常はどこかで自分の意思決定をもって中断しなければなりません(有限化)。もちろん、テキトーに中断しても納得などできません。比較的上手くいく、ざっくりした目安してスクイーズアウトが使えます。

スクイーズアウト(Squeeze Out) とは、現状の自分で 100% ひねり出すことを指します。原義は「絞り出す」であり、果物を握りつぶして絞り出すイメージです――と書くと、死にものぐるいなニュアンスを抱くかもしれませんが、そうではありません。「現状の自分で」なので、今の実力や調子やモチベーションも反映できます。台詞でいうなら、たとえば「今の自分で出し切れるのはこんなところかな~」「これ以上は出なくなったんでいったんここまで」「飽きたんでこれくらいで」となります。

「出し切る」とか「出なくなった」といった言い方をしていることに注目してください。これは目に見える成果やかけた時間は関係無く、現状の自分がどれだけ出し切れるかを強調しています。筆者は「胸を張れるか?」との自問自答をよく使います。他を犠牲にして献身する必要はありませんが、現状の自分の範囲で 100% くらい絞り出したぞと言えそうかを問います。ベストエフォートと同義かと思われがちですが、少し違います。ベストエフォートは「まあ最大限頑張りますね」と言っているにすぎず情報量はありませんが、スクイーズアウトは出し切ったかどうかを見ます。主観でしかないのですが、端的な目安です。最初のうちは自分で自分の出し切り感を評価しづらいと思いますが、慣れてくると限界や傾向がわかってきて評価できるようになってきます。

スクイーズアウトは、ETM においてはかなり重要です。というのも、スクイーズアウトができているのならば(すでに出し切っているはずなので)納得感が高いですし、仮に出し切った上でも上手くいかなかったのであればインプットが足りないとか、何か見落としているとかいった形で疑うこともできるからです。すでに出し切っているので、これ以上自分で何とかすることはできない、意味がないのだと胸を張れるようになります。胸を張れると意思決定が加速します。つまり スクイーズアウトにより意思決定が加速します

ブロックライティングの話

Ans: ブロックベースでトピックをつくっていく手法を取り上げます。

本節ではトピックを育てていくのに便利な書き方の紹介します。CBS という単純なやり方に始まり、ブロックライティングの話へと広げていきます。

CBS(Consideration Breakdown Structure)

Ans: CBS はスクイーズアウトする際に使える発散収束方法の一つです。テキスト + 箇条書きで行えます。

ことはじめの part3 でも書きましたが、ETM は知的生産的な営みです。情報を出す発散と、それらを整理する収束を繰り返し行っていくことで本質を導こうとします。part3 ではトピックを広げる、詰める、導くとの言い方で説明しました。

知的生産の手法は様々存在します。カジュアルな意味でのブレストは発散を行うものとしてよく知られていますし、体系化されたものには KJ 法があります。書き方としてはフリーライティングやマインドマップが知られている他、Miro など無限キャンバスツールもあります。SCAMPER やオズボーンのチェックリストといったトリガーリストもあります。

本項で紹介する CBS は、書き方にあたるものです。名前は WBS(Work Breakdown Structure)から取っていますが、WBS のように階層的な網羅性は意識しません。

CBS(Consideration Breakdown Structure) とは、検討(Consideration)をブレイクダウンしつつ構造化しながら記述していくことで知的生産を支援する手法です。やり方はシンプルで、次のようなフォーマットを使うだけです。

以下のように行指向的に書きます
インデントは 1-space を使います

CBSとは
 Consideration Breakdown Structure の意
 検討のブレイクダウンと構造化を支援する知的生産手法
 メリット:
  数少ない知的生産手法の一つであること(知的生産のハードルを下げること)
  テキストで完結できるため、テキストエディタなどで素早く言語的に書けること
   またノートツール全般に適用できること
  Scrapboxのフォーマットや文化と親和性があり、知っている人はすぐに使えること
 デメリット:
  行指向、インデント、テキストといった世界観に慣れるハードル
  イメージや空間を使えない(使わない)ため、それらを用いて思考する人には不便
  通常の文章以上に、他人に読んで理解してもらうのが難しいこと

一般化すると次のようになります。

(検討1)
 (検討1の内容)
 (検討1の内容)
 ...

(検討2)
 (検討2の内容)
 (検討2の内容)
 ...

ちなみに 検討(Consideration) とは「タイトルのついた情報の塊」くらいの意味です。検討の名のとおり、自分で思考して言語化したものを想定していますが、思考と言えないほどの羅列や思いつき、また単に他者や他所の情報を集めて並べて名前をつけたもの等も含めても構いません。タイトルとありますが、ただの一言コメントや感想でも構いません。しかし、必ずタイトルは含まれている必要があります。一方で、一時的に、あるいは良いのが浮かばないのであえて無題を設定することも可能ですが、ここを許容するとただの情報保存場になってしまい知的生産ではなくなってしまいます。雑でも少量でもいいので、必ず自分の言葉で、少なくともタイトルはつけることを意識してください。

以下、CBS の書き方の説明を少し続けます。

インデントは 2-space 以上も可能です。

indent0(1つの検討を示す部分)
 indent1
  indent2
   indent3
    indent4
     ...

また、インデント配下は緩い包含を示します。厳密な包含関係や論理構造は必要なく、主観で関係があると思ったものを突っ込むだけで OK です。要はただのグルーピングです。

インデント配下は緩い包含を示します
 (内容1)
  ここにぶら下がった内容は、内容1に関するもの、という意味になります
  ここにぶら下がった内容は、内容1に関するもの、という意味になります
  さらに細分化もできます
  (内容a)
   ここは内容aに関するものが書いてあります
   ここは内容aに関するものが書いてあります
  ここは内容aに関するものではありません(内容1に関するものではあります)
 ここは内容1に関するものではありません(内容1の配下にはありません)

次に空行についてですが、空行無しで繋がった部分が「1つ分の検討」を示します。これを 検討ブロック と呼びます。ですので、検討内容がたとえば 4 個あるのなら、以下のように 3 つの空行で区切られて、検討ブロックが 4 つ並ぶはずです。

(検討1)
 検討1の内容...

(検討2)
 検討2の内容...

(検討3)
 検討3の内容...

(検討4)
 検討4の内容...

空行は 2 行以上でも構いません。使い分けも自由です。たとえば「直近見ていない古い部分」をまとめて退避するために、3~5行(あるいはそれ以上)の空行を空けたりできます。あるいは --- のような区切り線を入れても構いません。以下は 2 行ずつ + 区切り線で空けている例です。

(今はこの辺の検討をやっている)
 内容...

(今はこの辺の検討をやっている)
 内容...


---


(こっちは古い内容)
 内容...

(こっちは古い内容)
 内容...

(こっちは古い内容)
 内容...

空行や区切り線の使い方には好みが出ます ので、自分の好みを反映して構いません。ただし複数人で ETM を行う場合は(自分ひとりが書く備忘的なページは好きにしていいとしてそれ以外は基本的に)統一した方が良いです。

検討ブロックの単位ですが、ここは本当に自由です。自分にとってわかりやすい単位をつくればよいです。先にゼロインデントで検討名(タイトル)を適当に書いた後、その中身を書いていくこともできますし、逆にたくさん書いた行を見ながら「これとこれはくくれる」「これは同じこと言ってるよな」「この辺はよくわからんからいったん未整理で束ねるか」などと判断しながら構造化していくこともできます。

検討ブロックや各行の並び順も自由です、かつ 順序性はありません。もし順序に意味があるのなら、その旨を明示してください。筆者は冒頭に数字を振る書き方をよく使います。ただし数字についても、単に「n 個存在しますよ」なのか「順番にも意味がありますよ」なのかがわからないので、その点は各自調整してください。ひとりで ETM を行っている場合も、未来の自分が汲み取れるとは限らないのでなるべく配慮した方がいいでしょう。

以下、典型的な書き方の例を示します。

まとめ
 検討3をさらに掘るかどうかってところかなー
  1 まず検討4にてスクイーズアウトして、検討2と3が出た
  2 検討3をさらに深堀りして、こっちはダメそうとわかった
   ただスクイーズアウトできるほど粘ってはいない
   なにかありそうな気はするけど、いったん諦めてる
  3 検討2は早々にダメってのは論文見つかって判明した
  4 検討1では有識者や関係者の声を列挙してるが、目新しいことはなし


---

(検討1)
 内容...

(検討2)
 内容...

(検討3)
 内容...

(検討4)
 内容...

いかがでしょうか。「まとめ」ブロックを見ると、どの検討ブロックがどういう風に流れていったのかが分かると思います。もちろん各検討の詳細は、そちらの検討ブロックを見ればわかります。

CBS の解説は以上です。細かいテクニックは他にも色々ありますが、単に 1-space インデントの箇条書きで、空行区切りで検討ブロックを書いていくというシンプルな手法です。

サマリー駆動

Ans: 適宜サマリーを切りながら仕切り直していく探索スタイルです。

CBS に関して、一つ重要な点を挙げるとしたら、書き込みが増えてくると収拾がつかなくなってくることです。これに対処するためには、どこかで大胆にまとめる必要があります。たとえば、きりのいいところで「この辺の検討ブロック達からはこういうことが言えます」のような要約または蒸留を まとめブロックをつくる形で 行い、以後そのまとめブロックをインプットにして、もう一度検討ブロックをゼロからつくる――のようなことをしたらどうでしょうか。収拾をつけつつ、先に進められる気がしませんか。

言ってしまえば意思決定の言語化にすぎませんが、これをしないと書き込み量の多さに収拾がつかなくなって破綻します。特に次に再開するときに思い出すのが絶望的になってしまいます。この点はコンテキストの管理でも述べました。まとめブロックをしっかりつくるのがきつい場合でも、最低でも高頻度で着手し続けるコンテキストメンテナンスか、再開時にすぐ思い出せるよう軽い要点を書いておくコンテキスト駆動くらいは行っておきたいところです。

このように、要所要所でまとめブロックをつくる → それをインプットにして仕切り直す、を行っていく営みを サマリー駆動 と呼びます。サマリーの言葉がわかりづらければチェックポイントやセーブポイントだと考えてください。ETM においては重要な概念です。認知コストの限界とコンテキストスイッチングの壁を超えるために、面倒でもサマリーをつくって絞っていく必要があるわけです。前項では CBS を紹介しましたし、他の手法も紹介しますが、最も重要なのがこのサマリー駆動です。これと同等のことができるのなら、手法は重要ではありません。

下から上に書く

Ans: 通常テキストは上から下に書いていきますが、CBS は下から上にブロックを置いていくこともできます。

私たちは通常、上から下へとテキストを書いていきますが、CBS では逆方向も可能です。以下は検討1が古く、検討3が新しいものとして、下から上に書いた例です。

(検討3)
 内容...

(検討2)
 内容...

(検討1)
 内容...

直感的ではないかもしれませんが慣れの問題です。新しい順に並んでいると考えれば、それほど違和感は無いと思います。主なメリットは書くときにスクロールしなくて済むことと、読む時も結論や最新の状況から読み進めていけることです。

ただし上から下に書いていくスタイルもあります。つまり CBS では 上から下なのか、下から上なのか、と二通りの方向が想定されます。方向がどちらかであるかは通常読み取れますが、たまにわからない・わかりづらいことがあります。書く人がわかりやすく補足を入れるか、見てわかるよう設計(検討ブロック名に数字を振るなど)するべきです。

ブロックライティング

Ans: CBS の手法を一般化したものです。検討とまとめ以外のブロックも使うため、より汎用的です。

CBS では検討ブロックをつくることと、最後にまとめブロックをつくることの二点が特徴でした。これをより一般化したものが ブロックライティング(Block Writing) です。CBS はブロックライティングの言葉で言うなら、検討ブロックを自由に使い、サマリーブロックは最後に一回だけ使ったものだと言えます。ブロックライティングをかなりシンプルにしたものです。

ブロックライティングの基本的な書き方やフォーマットは、CBSと同じですのでそちらの項を参照してください。ここではブロックライティングがサポートするブロックの種類に主軸を置いて説明します。

まず ブロック とは、空行で区切られた箇条書きの塊を指します。CBS ではブロック≒検討ブロックでしたが、ブロックライティングでは他にも様々な種類があります。

ブロックライティングの目的はサマリーを導くことです。CBS では最後にまとめを書きましたが、これと同じです。「ここまでのまとめ」をブロックとして書きます。これを サマリーブロック と呼びます。さらに、サマリーブロックは 1 個とは限りません。CBS では最後にまとめを書いて終わりでしたが、ブロックライティングではサマリーブロックをつくった後、それを踏まえてまた続けることができます。つまり前項のサマリー駆動ですね。

これで大筋は述べました。あとはどんな種類のブロックがあって、どう使っていくかの話となります。

先にブロックの種類を示すアルファベットについて解説します。ブロックレター、あるいは単にレターと呼びます。CBS ではインデント無しの行には(タイトルとしてたとえば)検討の名前や結果などを書くだけでしたが、ブロックライティングでは多数のブロックが存在するため種類がわからないと後で読みづらいです。そこでレターの形で指定します。指定は必須ではありませんが、あるのとないのとでは後で読む際の認知コストがかなり違うので指定を推奨します。すでに登場したサマリーブロックは s です。Summary から取っています。

ここまでのまとめ:

  • s サマリーブロック(Summary)

種類の解説に入っていきましょう。最も基本となる ABCD ブロック から説明します。これは Action(タスク)、Brast(ブレスト, ブレインストーミング)、Concept(概念)、Direction(方向性)の略です。

ブロックライティングでは、まず ブレストブロック を使って発散させていきます。スクイーズアウト(できるだけ頭を絞り切る)するつもりで出し切ります。この過程で収束ができそうなら行っても構いませんし、深堀りしたいテーマが見つかったらそちらに入っても構いません(後述する検討ブロックを使います)。ブレストブロックは一度のブレストで終わらせる必要はありません。たとえば 5 日後にちょっと足すことも可能です。ただし、終わりはないので適当なところで切り上げます。

発散(とついでに行えるなら収束)を経ていると色々と見えてきます。新しい概念や用語を導入した方が上手くいくと感じたならば、それを 概念ブロック で整理します。ここで整理した言葉は、以後使うようにしてください。逆に使わない、あるいは使えないのであれば概念ではないかもしれません。概念というよりは「こんな感じが良さそう」など方針や方向性に絡む何かが見えてきた場合は 方向性ブロック で整理します。

もう一つ、ABCD ではないですが、検討ブロック もよく使います。ブレストブロックはテーマ未定で何でも発散しますが、検討ブロックは特定のテーマ(お題)を定めて、それについてブレストします。ブレストも検討も行っていることは同じで、発散的な営み&収束も適宜行っていくものです。検討とブレストを厳密に区別することに意味はないので、あまり深く考えなくても結構です。ブレストの最中に一つのテーマを深堀りしに行くこともありますし、逆にあるテーマの検討中に色々浮かんできて実質ブレストになっていることもよくあります。筆者は検討ブロックを使うことが多いです。検討ブロックは k で記述します。

最後に、やることが見えてきたらタスクブロックを使います。レターの a はアクションから来ていますが、意味的にはタスクです。タスクブロックはタスクリストや TDOO リストと同等です。特に具体的に実践可能なものを指します。なので行ごとに ✅ などをつけて区別できるはずです。実際、どこまで終わってるかを可視化したいので区別は重要です。とはいえ、いちいちつけるのも面倒くさいので、運用には好みが出ます。

ここまでを踏まえると、一連の流れを定義できます。ブレストや検討で発散して、概念や方向性やタスクで肉付けしつつ、きりのいいところでサマリーをつくる――これを サイクル と呼びます。ブロックライティングはサイクルを何回でも繰り返せますが、通常終わりはないので、どこで切り上げるかは自分で選びます。もう一つ、次のサイクルを開始する際は、なるべく前回のサイクルのサマリー だけを インプットにしてください。ブロック全部をいちいち見ていてはきりがないためです。本質をサマリーブロック内にコンパクトにまとめることを意識してください。

ここまでのまとめ:

  • ブロックの種類
    • s サマリーブロック(Summary)
    • ===
    • a タスクブロック(Action)
    • b ブレストブロック(Brast, Brain Storming)
    • c 概念ブロック(Concept)
    • d 方向性ブロック(Direction)
    • k 検討ブロック(検討, Kento から k です)
  • ワークフロー
    • 以下で 1 サイクル
      • 1: b や k で発散していく
      • 2: c や d で概念や方向性をつくっていく
      • 2: やることが見えてきたら a でタスクリストを書く
      • 3: きりのいいところで s でサマリーをつくる
    • サイクルは n 回繰り返すが、どこで切り上げるかは自分次第
    • 次のサイクルを行う場合は、前回のサマリーをインプットにする

これだけでもブロックライティングは十分に行えますが、他にも便利なブロックがいくつかありますので紹介します。

用語ブロック(g, Glossary) は、新しい用語が必要そうなときに使うと便利です。概念ブロックとの使い分けが悩ましいですが、用語とは「以後その言葉を実際に使う」ことを前提とするものです。トピックを見ている読者も用語ブロックに書いてある用語は「このノート内で使われている」と捉えます。名前のとおり、用語集です。一方、概念ブロックは「こういう概念を定義したら便利だよね」「まだあまり言語化できないけど、こんな感じの概念があるよね」といったことを言語化して名前をつけて捉えるのに適しています。用語になるとは限りませんが、おそらく重要なものではあります(重要だからこそわざわざ名前をつけて概念化しています)。とはいえ、使い分けは細かい話です。適当で構いません。あるいはサマリーブロックの中で解説してしまう手もあります(筆者もそうしがちです)。用語ブロックは、どちらかというとサマリーをつくる前に読む人が主要用語を知るためのブロック、と言えるかもしれません。

参考情報ブロック(r, Reference) は、主観と事実でいう事実の方を集めたブロックです。何らかの URL だったり、書籍や文書の名前だったり、あるいは人の発言だったりします。これらは検討時の制約として踏まえることが多いので、ブロックライティングでも扱います。とはいえ、バカ真面目に書いていてはただの勉強ノートになってしまいますので、重要な部分のみ取り上げます。特に引用や抜粋をコンパクトに行うのがコツです。一つ例を挙げます。異文化理解力の「日本は階層主義で合意形成的」との文化をトピックにした場合です。

s
 異文化理解力の用語
  階層主義とは、……
  合意形成的とは、……
 日本は階層主義と合意形成的が両方当てはまる唯一の国
 象徴的な文化が「稟議」

k コメントエリア
 Aさん
  ...
 Bさん
  ...
 Cさん
  ...

---

s
 勉強して考察と議論して理解が一致した

✅k 本文読んで勉強する 引用ベース
 ...

✅k 考察と議論
 ...

r
 エリン・メイヤーの異文化理解力: https://www.amazon.co.jp/dp/B013WB5BJS/
 [中国人やインド人が、すぐにちゃぶ台返しをする理由:日経ビジネス電子版 https://business.nikkei.com/atcl/seminar/20/00046/081700004/]
  ※ちなみにこれは Scrapbox の記法です

参考情報ブロックは最後の r の部分です。

※良い機会なので、ここまでの書き方も入れています。これを見ると、まず 1 サイクル目で理解を一致させて、2 サイクル目で改めてまとめをつくっており、検討ブロックでコメントエリアも置いています。参考情報ブロックは 1 サイクル目の方にあります。またサイクル間には --- で区切りを入れています。なくてもいいですが、あると見易いです。ちなみにサイクルは「上から下に」並んでいます。--- の下が 1 サイクル目で、上が 2 サイクル目です。

文脈ブロック は、開始時や現在の文脈をまとめたブロックです。前章のコンテキスト駆動にあたります。レターは cx を使います。開始時の文脈なら cx0、それ以降はきりのいいところで現在の文脈を cx1, cx2 のように番号を増やす形で書いていくと良いでしょう。目安としては、1-サイクル 1-文脈ブロックです。あるいは cx0 以外はサマリーブロックに書いてしまっても良いでしょう(筆者もよくやります)。

最も重要なのは cx0 で、開始時の文脈を書きます。「このトピックを検討しているのはなぜなのか」「なぜ起きたのか」といった背景や事情や思いなどを書いておくわけです。すると検討が煮詰まったときに原点に立ち返ることができます。やっぱり重要だからやろうと判断できたり、逆に別に要らないよなーと中断や放棄の判断もできます。開始時の文脈がわからないと、捨てていいかがわからないのでいつまでも気にすることになり疲弊します、あるいはギャンブルのようにランダムに捨てることしかできず後で(もっと重視して取り組むべきだったのにしてなかったせいで)後悔するかもしれません。

例を挙げます。以下はひとりで ETM をしているとして「引っ越ししたい」トピックです。

cx1
 色々検討始めてるけど、選択肢多すぎてなんかだるいなーってきもち

r 友達に聞いてみる、一言でまとめる
 友達1「...」
 友達2「...」
 ...

✅k 都会?田舎?
 徒歩で生活できるならどこでもいい
 徒歩片道20分くらいなら許容、チャリもあるし

k どんな家が欲しい?
 ネットは必須、動画見たいゲームしたい
 1K 25㎡は狭すぎ、もう一部屋広いの欲しい
  KとかワンルームとかLDK?とかわからんので調べる → [間取りの一覧]
 最上階、上の足音うるさいの本当にむり

k 郊外の選択肢を調べる
 隣接する県
  神奈川 埼玉 千葉 ❌山梨
  23区なので山梨はない
 路線を調べる
  ...

cx0
 都内の家賃キツイので引っ越したい、郊外?

検討ブロックを立てて色々検討しています。見ての通り、軽い気持ちから始めたものなので検討はしばらく続くでしょう。都会?田舎?については結論が出てます(ので✅をつけて完了を示してます)が、全体としてどう転がるかはまだわかりません。ここで重要となるのが、cx0 として書いた開始時の文脈です。ここでは「家賃がキツイから始めた」と読み取れます。また現在の文脈 cx1 ではダルさを吐露しています。

このトピックは、おそらく cx0 を読み返して「問題の本質は家賃だ」と気付ければ、家賃を下げるまたは収入を上げるための検討に絞れるでしょう。もしかすると「転職する」「副業を考えてみる」のようなトピックに派生するかもしれません。逆に cx0 を書いてなかったとしたら、家賃という本質を思い返せず迷走するでしょう。

まとめ:

  • ブロックの種類
    • s サマリーブロック(Summary)
    • ===
    • a タスクブロック(Action)
    • b ブレストブロック(Brast, Brain Storming)
    • c 概念ブロック(Concept)
    • d 方向性ブロック(Direction)
    • k 検討ブロック(検討, Kento から k です)
    • ===
    • cx 文脈ブロック(ConteXt)
      • 開始時の cx0 はできれば書きたい
      • それ以降の cx1, cx2... はサイクルごとに1つで良い、またサマリーに書いても良い
  • ワークフロー
    • 以下で 1 サイクル
      • 1: b や k で発散していく
      • 2: c や d で概念や方向性をつくっていく
      • 2: やることが見えてきたら a でタスクリストを書く
      • 3: きりのいいところで s でサマリーをつくる
    • サイクルは n 回繰り返すが、どこで切り上げるかは自分次第
    • 次のサイクルを行う場合は、前回のサマリーをインプットにする
  • その他
    • 完了したブロックには✅などをつけるとわかりやすいが、律儀な運用は面倒。好みが出る
    • サイクルなど区切りを書くと視覚的にわかりやすい
      • ---===、その他何でも良い
      • 文字数も問わないと多すぎると逆にうるさくなる、筆者的には 1~4 くらいがおすすめ

レターをカスタマイズする

Ans: 必要に応じてレターをつくったり変えたりしても構いません。

ブロックライティングはカスタマイズしやすい手法でもあります。本質的には色んな種類のブロックを並べているだけであり、ブロックの種類も上述したものがすべてではありません。他にも便利なものがあれば適宜定義しても構いませんし、レターについても自分が使いやすいもので構いません。

たとえば筆者は文脈ブロックは cx0、cx1 などは使わず、開始時の文脈を cx で記載しています。これ以外のサイクルごとの文脈はサマリーブロックに書くか、あるいは書きません(サマリーがあれば事足りるため)。他にもエンジニアの立場として「具体的にどうつくるか」を考えるときに実装ブロック(Implementation, レターは i)を使ったり、サイクルの名前をつけるのにタイトルブロック(Title, レターは t)を使ったりもします。もちろん、タスクブロックのレターが a なのはわかりづらいから t にしよう、といった改造も可能です。

ただし複数人で ETM をしている場合、メンバーによって認識が違うと混乱するので統一はしましょう。「レター一覧」のようなトピックをつくってメンテナンスすると便利です。

下から上に書く part2

Ans: ブロックライティングでも下から上にブロックを並べる書き方はよく使います。

少し前に CBS では下から上に書くこともあると書きましたが、ブロックライティングも同様です。さらにサイクルごとに異なる場合があります。例を示します。

cx1
 2サイクル回した、もう時間ないので次で決定したい

---

s
 ...

k
 ...

b
 ...

---

cx0
 ...

b
 ...

k
 ...

k
 ...

s
 ...

これは以下の構造になっていると読み取れ、

3サイクル目

---

2サイクル目

---

1サイクル目

かつ、1サイクル目は上から下に書いており(cx → ブレスト → 検討 → 検討 → サマリー)、2サイクル目は下から上に書いている(ブレスト → 検討 → サマリー)ように読み取れます。あくまでも例です。実際は人によってクセが出ます。方向の読み取りが負担になるようなら、一言補足しておくと良いでしょう。

理想を言えば、そもそも読む方向はあまり重要ではありません。ブロックライティングはブロックを並べることで本質を導くものであり、ブロックの読み方や順番自体にさほど意味はありません。書くときや読むとき(特に書くとき)にちょっとやりやすいかな、というくらいです。それよりもサイクルの区切りとサマリーの内容の方がはるかに大事です。

個人と協調の線引き

Ans: 複数人で ETM を行う場合、各個人の書き込みを上手く尊重できないと居心地が悪くなり形骸化します。

どのように尊重していくかを解説します。

トピックは個人でつくる

Ans: トピックは誰かひとりがつくってから、それを他の人に見てもらうのが良いです。

複数人で ETM に取り組む際、トピックは誰か一人で率先してつくります。従来のメンタルモデルだと最初から皆と一緒に打ち合わせ等で話し合いながら進めていくことが多いですが、この発想は ETM では捨ててください。むしろ、一人でつくってそれをレビューしてもらうスタイルが合っています。前章にて当事者は可能な限り一人が良いことを説明しましたが、当事者が出る前の、単にトピックを自由に書いていい段階(3T でいう Topic の段階)であってもこの原則は有効なのです。というのも、トピックそのものにれっきとした正解が無いことが多く、最初から協調すると十中八九こじれてしまうためです。誰か一人がとりあえず形にしてみて、それを皆で好き勝手にこねる方が良いのです。

たとえば A さんが書いたトピック T1 が気に入らない B さんがいるとします。従来のメンタルモデルだと T1 を直したり直してもらうよう議論したくなりますが、そうはしません。代わりに B さんが T2 をつくって、それを A さんに見せるようにします。A さんもまた、B さんの T2 を直接修正しようとはせず、自分の T1 を修正します。個人の領分を尊重しながら、お互いに言及し合ったり見せ合ったりするイメージです。この例では領分の単位はトピックですが、ブロックや行の場合もあります。

パーソナルスペース

Ans: 個人の領分をパーソナルスペースと呼びます。比較的上手く共存できて、理解もしやすい捉え方としてレイヤーがあります。

前項で言及した個人の領分を パーソナルスペース と呼びます。

パーソナルスペースには以下の種類があり、レイヤーと呼びます。

レイヤー 名前
4 会場
3 トピック
2 ブロック
1

前項ではトピック(つまりレイヤー3)の例を示しましたが、これより大きな単位(レイヤー4の会場)もあれば、ブロックや行といった小さな単位もあります。

どのレイヤーを領分と感じるかはその人次第、その状況次第で変わります。いずれにせよパーソナルスペースを適切に取り、また尊重することは ETM を継続する上で重要です。ここが犯されてしまうと、まともに書けなくなってしまい形骸化の一途を辿ります。

とはいえ、いきなり尊重しきるのは不可能ですから、通常は ETM を行いながらすり合わせていくことになります。たとえば A さんはパーソナルスペースが広めだが B さんはかなり狭いなど人によっても違ってきますし、チーム全体としても傾向が出てきます。そういったことを暗黙のうちに心がけていくか、それが厳しいならガイドラインを書いて明文化します。筆者の体感としては、日本はハイコンテキストであり「言わないけど我慢してる」「無視してる」ことが多いので、率直な議論はしてみた方が良いと感じます。そうしないと、パーソナルスペース尊重派がマジョリティとなってあまり書き込まれなくなるか、逆に遠慮なく書き込む派がズカズカ踏み込んできて前述のトピックは個人でつくるが発生しにくくなります。前者は想像しやすいですが、後者もあるあるで、たとえるなら会議で空中戦になって何も決まらず終わるようなものです。

パーソナルスペースの各レイヤー

各レイヤーの詳細も見ていきましょう。

レイヤー 名前
4 会場
3 トピック
2 ブロック
1

4 会場レイヤー

「ひとりで ETM を行っている会場」そのものがその人の領分になっている状態です。

たとえば複数人で ETM を行っているメインの会場とは別に、各個人が自分用の会場を別途(あるいは普段用として)つくる場合などが当てはまります。この会場は通常非公開で運用されがちですが、公開またはメンバーだけに限定公開することもできます。

ETM においては非推奨です。ETM をやるならメイン会場に書き込んでください。会場レイヤーのパーソナルスペースが乱立すると ETM は成立しなくなります。ETM をやるからには、メイン会場一つだけをつくって、皆がここに書き込むことは絶対です。メイン会場内だけでも成立させるのは大変なのに、会場が分かれてしまっては絶望的です。

会場レイヤーのパーソナルスペースの主な用途は以下のとおりです。

  • メイン会場に書けないか、書いても明らかに他のメンバーの役には立たない「個人的すぎる」内容を書く
    • 他人が読んでもわからないメモや思考の断片
    • 個人情報などセンシティブな情報
    • 他のメンバーには参考にならないと思われるレベルの備忘録や下書き etc
  • 自分の情報発信手段として運用する
    • 文章を公開するブログは知られていますが、その発展系として個人の ETM を公開する例があります
    • Scrapbox 界隈で稀に見られます(※1)
      • ただのブログと違うのは、探索的なタスク管理の過程も公開していることです(※2)

いずれにせよ他のメンバーに読んでもらうことは期待できません。少なくともメイン会場からリンクを張る必要があります。

    • 1 本書で紹介できそうな、最もわかりやすい例はHelpfeel社のCosenseを一部公開でしょう。ただし ETM 的ではなく、単にコミュニケーション手段・ナレッジ共有手段として使っている側面が強いですが、会場のイメージは掴めます
    • 2 ただのブログや備忘録として使っているものはカウントしません。あくまでも ETM または同等の文章を公開しているものをカウントします。2024 年 8 月時点では珍しいため、稀にと書きました。筆者が知らないだけで、Scrapbox に限らず存在しているかもしれません。たとえば Obsidian などのノートツールでバリバリひとり ETM を行っていて、それを静的サイトや GitHub などで公開している人くらいはいるかもしれません

3 トピックレイヤー

ETM では頻出するレイヤーです。詳細はトピックは個人でつくるを参照してください。

2 ブロックレイヤー

おそらく ETM において最頻出するレイヤーです。トピック、つまりは 1 つのノート内に n 人のパーソナルスペースが存在する形となります。別の言い方をするとブロック単位のパーソナルスペースであり、A さんのブロック1、B さんのブロック1、A さんのブロック2――といった形で各メンバーのパーソナルスペースが並ぶことになります。

各自が好き勝手に書き込めるので非常にやりやすいですが、ともすると「パーソナルスペースが並んでるだけ」でそれ以上発展しなくなる現象がよく起きます。ETM としては意思決定していきたいところなので、これは望ましくありません。これの対処として ETM では当事者などターゲットの管理(3T モデル)がありますが、別解としてパブリックスペースがあります。

以下、少し寄り道してパブリックスペースと表札の解説をはさみます。

パブリックスペース

パブリックスペース とは、その名のとおり誰でも入れるニュアンスです。かつ、パーソナルスペースとは違って誰かが領分を主張することはできません。あくまでも共有地であり、メンバー全員が自由に書き込める他、メンバー全員の利を優先します。いわゆる Wiki は、個人的な事情や無駄な情報を省いて客観的に皆に役立つナレッジを端的にまとめます(※1)が、そのイメージです。つまり トピックにはパーソナルスペース的なブロックと、パブリックスペース的なブロックが並ぶことになります。このハイブリッド戦略であればパブリックもパーソナルも両立できます。

表札

ブロックレイヤー以下のパーソナルスペースを主張するときに使う文字や画像を 表札 と呼びます。

表札がないと、どのブロックが誰のスペースなのかがわかりません。古典的には(吉良野すた)のように名前を書いて示しますが、このやり方はいちいち書くのも面倒ですし視認性にも優れません。

良い例は Scrapbox です。アイコン記法が採用されており、Ctrl + i キーで自アバターの画像をアイコンとして挿入できます。

このような機能がない場合は、絵文字で代替します。たとえば筆者は🐰(うさぎ)をよく使います。よく使うので辞書登録などを使ってすぐに打てると便利です(筆者は「うさ」で登録)。何の絵文字を使うかは自由ですが、アバター画像と同様、誰であるかがわかるよう対応を取ってください。慣れないうちは対応を記載したノートをつくって、わかるようにしておくと良いでしょう。あとで変更するのは面倒くさいので、なるべく変更は想定せず使い続けるようにしてください。

表札はブロックレイヤー、または後述する行レイヤーで使えます。以下に例を示します。「ブレストって何?」トピックです。

ブレストという言葉の意味に乖離がある
皆の意見を聞きたい

🐰
 アイデア出し、くらいの認識
 個人か集団かは関係ない
  ただ集団でやるのは正直無理、人類には早すぎると思ってるので基本ひとりブレストをイメージする
   🐴人類には早すぎると思う理由が気になる
   🐰こっちで → [ブレストは人類には早すぎる]

🐴
 オズボーンが考案した会議手法じゃないの?
 [ブレインストーミングの原点]

🐼
 複数人で対面で集まって行うアイデア出し

ブロックレイヤーでは三人分の表札があります。また、🐰のパーソナルスペースには、🐴による行レイヤーの表札もあります。これにより、基本的に🐰のスペースだが、この行だけは🐴のスペースであることが見て取れます。

1 行レイヤー

レイヤーの解説に戻りましょう。行レイヤーとは行単位で設けるパーソナルスペースを指します。

具体的には単一行と複数行があります。上記の例を再載して説明します。

ブレストという言葉の意味に乖離がある
皆の意見を聞きたい

🐰
 アイデア出し、くらいの認識
 個人か集団かは関係ない
  ただ集団でやるのは正直無理、人類には早すぎると思ってるので基本ひとりブレストをイメージする
   🐴人類には早すぎると思う理由が気になる
    (ここも🐴のパーソナルスペース)
    (ここも🐴のパーソナルスペース)
    ...
   🐰こっちで → [ブレストは人類には早すぎる]

まず🐴の表札で始まる「人類には早すぎると思う理由が気になる」の行は、行レイヤーのパーソナルスペースです。これは単一行です。この行の次行からインデントを入れてぶら下げたとすると、同様に🐴のパーソナルスペースになります。これが複数行です。ですので、🐴はいちいち表札を書かずにぶら下げることができます。一方、🐴以外の人は、表札を入れた方がいいでしょう(でないと🐴が発言したかのように見えてしまいます)。

意思決定はパブリックスペースで

Ans: パーソナルスペースばかりだとまとまりがないので、パブリックスペースをつくってまとめていきます。

ETM では多数のトピックを扱いますが、意思決定をはさんでいかないとなかなか終わりが見えません。特にパーソナルスペースばかりだと各自が意見を並べて終わり、となってそれ以上進みませんので、パブリックスペースをつくって(暫定的でもいいので)確定をしてください。このトピックではこの意見を採用するのだ、と確定するのです。

あるいはブロックレイヤーの項で言及したとおり、3T モデルを使って当事者を決めても構いません。当事者を決めるとは、そのトピックをその人のパーソナルスペースにすることを意味します。ただ完全にパーソナルだと他のメンバーが絡みづらいので、通常よりも読みやすさやツッコミのしやすさを確保してください。

もちろん、すべてのトピックでこれら意思決定を行うのは非現実的です。特に意見を聞いたり雑談をしたりする用のトピックではパーソナルスペースだけが並んでいることがよくあります。

個と和のバランス

Ans: 個人の尊重と全体の整合のバランスをどう模索していくのか、そのヒントを紹介します。

複数人で ETM を行う場合、基本的に個人を尊重するべきです。やり方や考え方が違っていても是正するのではなく容認します。気に入らなければ直接是正するのではなく持論を書いてそれを見せたり、単にスルーしたりします。一方で、パブリックスペースの話を前述したように、何らかの決定をして皆がそれに合わせることも必要です。このあたりのバランスを取るためのヒントをお伝えします。

興味ドリブン

Ans: 自分の興味関心に基づいて自然に動くと上手く共存しやすいです。

仕事や私生活では通常、あまり興味がないことや場合によっては嫌いなことであっても我慢して対応することがよくあります(義務ドリブン)が、ETM では望ましくありません。ETM は各人がトピックの形で残しながら自由に動くことによる化学反応を期待します。遊びのようなものです。従来の我慢は要りません。

それで整合性が取れるのか、と疑問に思われるかもしれませんが、意外と取れます。重要なトピックや皆が面白いと感じるトピックは自然と盛り上がるからです。そういう意味で、ETM では自分の興味関心に基づいて動くのが基本的には良いと考えます。これを 興味ドリブン と呼びます。おそらく大半のトピックは自分ひとりか、多くてもう一人が反応するくらいの寂しいものになりますが、それでも構いません。1の成功には100の失敗があるという類の格言は多数ありますが、ETM も同じで、最終的に導くカードやゴールの下にはその何十倍何百倍もの寂しいトピックがあります。

何より興味ドリブンでなければモチベーションや精神が保ちません。ETM はただでさえ探索的な営みであり、正解がなくて孤独です。従来の指向的なアプローチにおいて義務ドリブンが成立するのは、正解があるからです。たとえ興味関心がなくても、正解に向かって進んでいけばいいという作業的な営みであれば人間は比較的耐えられます。ETM にはそれがないのです。

興味を引く

Ans: 他のメンバーに読んでもらう・書いてもらうために指示命令による強要はしません。代わりに、興味を引く書き方をして誘います。

他のメンバーに読んでほしかったり、コメントが欲しかったりするときはよくありますが、ETM では強要はできません。代わりに興味や関心、もっと言えば注意を引くことで誘導します。やりすぎるとうるさい宣伝のようにノイジーとなってしまいますが、様々なやり方があります。いくつか例を挙げます。

  • 動線上で紹介する
  • 文芸的タスク管理のアイキャッチとエキサイトメント
  • トピックの名前を平易でわかりやすくしたり、キャッチーにしたりする
  • 皆がよく見に来るトピック T1 上で、読んでほしいトピック T2 を紹介する
    • T2 の見せ方が強引だと意味不明なので、T1 の問題解決方法として T2 が使えるよなど自然な連携を心がけます
  • ギブアンドテイク、というよりギブ
    • 他のメンバーの検討を支援したり、コメントを書いて助けたりすると、相手も助けてくれます
    • 情報は出す人のもとに集まるとも言います。ギブ重視で会場を肥やしてあげると存在感も増えて、他メンバーから注目されやすくなります
    • しかし他のメンバーに尽くしすぎると自分が疲弊しますので、興味ドリブンを逸脱しないようにします

要はアピールの仕方を工夫するという話です。すでに仕事や趣味などで実践している人も多いと思いますので、そのテクニックを使っても良いでしょう。ETM の他メンバーは仲間であると同時に、アーリーな顧客でもあるのです。

スルーを許容する

Ans: 無理してリアクションを取ったり返信を書いたりする必要はありません。

従来のあり方ですと、相手のことを考えてリアクションを増やしがちです。お礼や感謝を頻繁に差し込んだり、挨拶のみならず定型文を書く人も多いでしょう。しかし ETM では情報を並べる世界となるため、このようなリアクションはあまり自然ではありません。意識しなければ(あるいはよほど他人思いの人でなければ)従来よりも書く機会が減りますが、それで構いません。むしろこういったリアクションは情報量自体は皆無であり、ノイジーにもなりかねません。

一つの目安として スルーを許容する と良いでしょう。無理してリアクションをつける必要はないということです。チャットでは既読無視が問題視されたり、その息苦しさのせいで SNS 疲れが起きたりしますが、ETM ではありませんし、あってはなりません。これはもっと言えば、リアクションが必ず来ることを前提にしてはいけない とも言えます。

リアクションするな、と言っているわけではないことに注意してください。やりたい人ややってしまう人がいれば、それはそれで構いません。ですので、全体としては、たとえば「よくお礼を言う人」「たまに言う人」「ほとんど言わない人」などが混在したりします。よく言う人は言わない人を、言わない人はよく言う人を気持ち悪く感じたりしますが、そこは個性として許容しましょう。ETM では別に仲良くなったり関係を深めたりする必要などありません。トピックを皆で書いてゴールをひねりだせればそれで良いですし、それでも楽しいのです。そして楽しければ尊重と共存も進みます。

オタク注意報

Ans: 自由だからといって自分しか興味がないコンテンツをたくさん共有するのは控えましょう。

ETM では各人が自由にトピックを書きますし、雑談的な営みもできます。この快適な状況下では、たまにまるでオタクの早口語りのようにたくさんトピックをつくる人が現れます。たとえば自分が嗜んでいる書籍や音楽や映像などを 1-作品 1-トピックで一気に20個つくったりします。これを 捲し立て(まくしたて) と呼びます。

捲し立てはノイジーなのでやめましょう。ETM の会場がネットワーク型ノートベースで、かつスルーも許容できる場所であるとはいえ、限度というものがあります。おそらく会場にはトピック一覧を表示するビュー、そして最近更新された順で表示するフィルタリングがあるはずで、捲し立てをされるとここが乱れます。捲し立てられたコンテンツがずらりと並ぶわけです。

どうしても捲し立てをしたい場合は「映画好きの俺がおすすめをひたすら紹介するページ」トピックをつくるなど、専用の場所をつくってからそこでやります。これなら 1 トピックしか使わないのでノイジーにはなりません。1つの作品やその中のワンシーン、ワンセンテンスなどをトピック化したいと思ったら、そのときにつくりましょう。作品には有益な金言やわかりやすい説明があることが多く、ETM でもよくトピックになります。ただ最初から捲し立ててたくさんつくるのは違うよね、限度を弁えたいよねという話です。

もちろん細かいラインはチームや状況によって違うので、必要なら話し合ってください。少なくとも「Aさんの捲し立てがうっとうしい」「でも直接言うのはなぁ……」なんてことがないようにしてください。ここを放置すると、捲し立てが増えて会場の治安が下がります。各人が自分の好きなことをブクマするだけの展示場となってしまいます。ETM の会場は展示場ではありません。このあたりの議論は Scrapbox 開発者 shokai による右記ページも参考になります: WOM(Write Only Member) - 橋本商会

明示的な否定

Ans: 全員のコメントを要求されている場合、その気がないならその気がない旨を明示的に書きます。

ETM は各自で好き勝手に進めていくものですし、No ABCD の Ball のとおり返事待ちを前提とした個別宛のコミュニケーションさえも行いません。それでも次第にトピックが収束してきたり、全員に関係する概念が出てきたり、あるいは特に仕事だと会社の関係上全員に見てもらわないといけない話題が出てきます。メンバー全員(あるいは大半)のコメントを聞かねばならない場面が起きるのです。これを ウェイト(Wait) と呼びます。

ETM ではウェイトは可能な限りゼロに近づけるべきです(※1)。できないにしても、通常は全員自律的に動けているはずですので現実的な時間内にコメントが返ってくるはず(もし慢性的に「来ない」場合はメンバーとして向いていません)ですが、それでも返ってこないことがあります。自分にとってポジティブなトピックだとすぐ返せるのですが、ネガティブだと返しづらくなりスルーしてしまうからです。

このようなときに使えるのが 明示的な否定(Explicit Negative) で、これは「いいえ」とか「だるいんでやめときます」とか「興味ないんでどうでもいいです」とかいったリアクションを明示的に書くことです。日本の文化だと否定はしづらいですが、ウェイトが宙ぶらりんになっていると精神的な負荷になりますし、反応がない人を催促する行為は催促者に負担がかかりますので、さっさと書いて済ませてください。否定したことで問題が生じるなら、その点は別途議論してください。トピックを一つつくって、そこでやるといいでしょう。

ウェイトは 反応を返さない怠惰なメンバー からもたらされます。怠惰が許容されてしまうと、常に誰かが催促の負担を負ってしまいますので許容してはなりません。この怠惰の主因が(そもそもメンバーとして向いてないことを除けば)否定のしづらさですので、明示的な否定により打開するのです。明示的に否定を出すのはやりづらいかもしれませんが、怠惰の許容による弊害には ETM を形骸化してしまう力さえあるので、頑張って慣れてほしいと思います。

    • 1 基本的にウェイトは起きないはずです。起きるようなトピックを扱っているとしたら、おそらく扱い方がおかしい(ETM なのに他のメンバーに指示しすぎ)か、そもそも ETM で扱う事柄ではないかのどちらかでしょう。特に会社の場合はありがちですが、全員に必要となる諸々については、ETM とは別の手段でカバーすることをおすすめします。たとえば 3 週間の探索期間(1 日 8 時間勤務とする)を設けているとしたら、1 日の探索を 7.5 時間にして、残り 0.5 時間は会社雑務をこなす時間に充ててねとする等です。ただし、このやり方も油断するとすぐ「毎日 16:30 から 30 分を雑務時間にしようか」「定例会議にします、この間は通話やメンションには答えてもらいます」などとなってしまい、ETM の自由さが損なわれます。一見すると探索時間からは外れていますが、探索直後に会議があることには変わりはなく、会議の参加をすっぽかさないよう準備・調整が必要となるからです。実質的に探索時間の一部が侵食されているわけですね。そもそも無闇に会議をすると(本来 ETM で議論するべきことを)会議の場で行ってしまい、かつその内容を会場にフィードバックしない現象が起きます。会場の裏で活動することがまかりとおってしまうのです。それでは ETM の意味がありません。前章でも書きましたが、探索期間・探索時間という聖域は侵食させてはなりません

役割を工夫する

Ans: 各メンバーには得意苦手、好き嫌いがあるので、それらを「役割」の形で明示化します。

ETM ではしばしば適性が分かれます。ある得意領域とそれに基づく行動を示したものを 役割 と呼び、通常メンバーには複数の役割がつきます。

役割の例を以下に挙げます。

  • ブレスター。思いつきやアイデアなど発散が得意な人
  • サマライザー。発散した事柄の要約や蒸留が得意な人
    • 要約と蒸留を分けたい場合は「サマライザー」「ディスティラー」と分けてもいいかもしれません
  • リンター。会場(ノートツール)の文法的・慣習的に不適切な書き方にツッコミを入れたり修正したりする人
  • リンカー。あるトピックを見て、それと関係がありそうな別のトピックを提示する人
  • 意思決定者。最終的な意思決定を行う人。通常は社長やマネージャーなど一人
  • スティッカー。厳しい意見をズバッと書いてくれる人
  • トリックスター。他のメンバー全員が到底真似できない独特なことを書く人
  • リマインドマン。反応が遅かったり検討が進んでなかったりする人に催促する人

たとえば A さんはブレスター(発散が得意)とリンカー(結びつけが得意)、B さんはトリックスター、C さんはリンカー(結びつけが得意)とリンター(書き方の修正)といったように役割が分かれます。ここで 役割のとおりに行動しろと言っているのではなく、その役割が示すアクションが得意であるか、よく行うか、との意味にすぎない ことに注意してください。強要するものではありません。

役割はこれ以外にも無数にありますし、上手く言語化できれば何でも定義できます。ともかく、色んな役割が通常自然に発生しています。役割に則った行動を重視し、それ以外は別の役割の人に担ってもらう意識で過ごすと ETM は上手く回りやすくなります。なぜかというと、人によって得意苦手や好き嫌いが違うからです。それらを役割の形で捉えて、明示的に尊重できるようにするのです。

ETM では役割は動的です。同じ人が常に同じ役割を続けるやり方もできますが、おそらく状況や気分に応じて変わるのが自然だと思います(ちなみに探索は遊びでもあるので気分も重要です)。これを 動的な役割(Dynamic Role) と呼びます。あうんの呼吸で過ごしても構いませんが、自分達なりに役割を言語化しておくと、やり取りする上でもスムーズで便利です。言語化の過程で「こんな役割があると便利なんだけど」「A さんは~~の役割に向いてる気がする」といった議論から始めるのも良いでしょう。しかし最も使いやすいのは、「じゃあ今からブレスターとして書き込んでみます」のような使い方でしょう。使う役割を宣言し、そのとおりに行動するのです。これを ロールプレイ(Role Play、RP と略す) と呼びます。いまいち進展がないときや、やる気が起きないときでも、特定の役割であればロールプレイできることがあります。もちろん、やりすぎるとウザくなりますので使う頻度やタイミングを調整しながら会場の様子を見てください。また、役割にすがって怠けてしまう心理もあるあるですので気をつけてください。特にリンターやリンカーなど、頭を使わず指摘すればいいだけの役割は「すがり先」として使われがちです。

さきほどから注意点ばかりですが、ストレングスファインダーMBTIといった適性診断とも違うことに注意してください。適性のある役割を担うのが自然ではありますが、ETM では「苦手だけど一時的にやる」「興味ないけどやってみたい」のような場面もありえます。発展的にはランダムに役割を割り当ててみることさえあります。役割とは、いうなれば「~~役」と書かれた帽子があって、メンバー各々が勝手に被ったり、他メンバーに薦めたりするようなものです。かつ、被った帽子は見えているので「ああ、A さんは今はブレスターなんだな」といったこともわかります。帽子を被りさえすれば誰でもなれます。誰が何を被るかは自由であって、適性の有無で縛られるものではありません。

便利なトピック

Ans: つくると便利なトピックをいくつか紹介します。

ここで紹介したトピック以外にも便利なものは多数存在します。また、必要に応じて生み出すこともできるでしょう。便利な使い方を見つけたら、ぜひとも名前をつけて提案してみてください。トピックの使い方を制する者は ETM を制します。一方で、使い方を定めすぎると窮屈になってしまい、自由のメリットが損なわれてしまいますのでバランスも重要です。

日付トピック

Ans: 共同日記トピックがあると何かと便利です。

文芸的タスク管理の章にて日付ノートを紹介しましたが、これは複数人で ETM を行う場合も便利です。ひとりずつパーソナルスペースをつくって、つぶやきや日記を並べていくイメージになります。今日が 2024/09/02 なら 2024/09/02 ノートに、明日は 2024/09/03 ノートに皆が並べていく感じです。

日付トピックがあると誰が何をしているかわかりますし、雑談や相談も弾みやすいです。情報共有もやりやすいでしょう。日付ノートはホームでもあり、皆が高頻度に見に来る場所なので、ETM の最中はここを拠点にする感覚で過ごすと自然に過ごせます。

単位としては日単位と週単位がありますが、書き込む量はそれなりに多いでしょうから日単位がおすすめです。逆に明らかに少ないのであれば週単位でも良いかもしれません。ノート自体は誰かが毎回作る必要があります。面倒くさいなら自動化してください。誰かがつくることを期待して様子見していると、意外と誰もつくらず何も書き込まれないなんてことがよく起こります。こういう手抜きが続くとすぐに形骸化してしまうので、なるべく意識的に潰したいところです。

メンショントピックとポストトピック

Ans: 特定の人に見てほしいときは、それ用のトピックをつくります。

ETM は No ABCD なので、従来のように声を掛けたりメンションして通知飛ばしてといった形で見てもらうことはできませんし、するべきではありません。そうはいっても、見てほしい場面はやはり存在します。そんなときに使えるのがメンショントピックとポストトピックです。

メンショントピック は、ノート名(トピック名)の形で直接聞くこと、特にそのようなトピックを指します。たとえばビジネスアイデアコンテストが 3 日後に迫っているとして、アイデア X が完成したが有識者 A さんに見てほしいときは @Aさん アイデアX見てほしいです のようなトピックをつくります。わかりづらいですが、これは「@Aさん アイデアX見てほしいです」という名前のノートをつくる、ということです。これを見ると、いやノートの内容を見なくともノート名だけで明らかに A さんに向けて書かれたトピックだとわかりますので、A さんもおそらく気付けるはずです。

前提として、ETM では多数のトピックが日々並ぶので、あるトピックが必ずチェックされる保障はありません。スルーされることも多いです。より盛り上がっているトピックであれば目にする機会が多くなるためほぼ気づけますが、大半はそうではありません。よって、どうしても見てほしいものがあれば、気づいてもらう率を上げる必要があるのです。メンショントピックはこの役に立ちます。

もう一つのやり方が ポストトピック です。郵便ポストなどのポストに由来しますが、これは A さんのインボックス(受信箱)的なノートをつくっておいて、A さんに言いたいことがある人はそこに書き込みをする、というものです。たとえば inbox @A というノート――つまりは「inbox @A」という名前のノートをつくっておき、A さんにお願いしたい人がお願いを書いたりします。この性質上、A さんは自分のポストトピックをチェックする義務に駆られます。あるいは「単に更新されたら上がってくるのでそれでたぶん」「普段はチェックしてないです」「もしかしたら見逃すかもだけどごめんねー」ならそれでも構いません。ETM では強制はしませんし、自分自身もまた義務感に駆られる必要はありません。

メンショントピックとポストトピック、どちらのやり方が合うかは状況によりますが、両方使うとノイジーなので片方だけ使いましょう。筆者としてはメンショントピックを推奨します。というのも、ポストトピックは持ち主の負担が大きいからです。何が書いてあるかは開けてみるまでわからず、まさに郵便ポストに入っているチラシのような負担感があります。これは自由な探索をウリとする ETM の心地を損ねます。メンショントピックの方が、トピック単位で相手にする感じがあって自然にやりやすいです。

いずれにせよ分量が多すぎるとノイジーなので、ここぞのときだけ使いましょう。1日1回届く、でもまだ多いと感じます。そもそもこのようなやり方に頼るのは ETM に反します。基本的に一度も使わないに越したことはないですし、通常は日付トピックに書いておくなり、A さんのパーソナルスペースに一言書き込んだりすれば気付いてもらえます。もしメンションやポストを何回も使わないといけないのだとしたら、おそらく ETM の前提を満たしていません。前章のセットアップを参照してください。

サルベージトピック

Ans: ある話題が会場内でどう扱われているか知りたいときは、検索や再読をしてみてまとめノートをつくります。

情報収集先として「ETM を行っているこの会場」も挙げることができます。しかし会場は各自が自由にトピックを広げたり詰めたりしている場所であり、記事や書籍のようには整っていません。そのままではインプットしづらいです。というより、ヒントは散らばっているが正解が示されていない状態であることが多い ので、単に読むだけではあまり役に立ちません。「これらを踏まえて私はこう理解した」といったように自分の解釈を交えることが重要になってきます。

これを行うのがサルベージトピックです。サルベージは救出・復旧の意であり、トピックの海から特定の話題を復旧するニュアンスを込めています。具体的には検索結果をコメントつきでまとめていく、ということをします。

仮にリモートワークについて深堀りしたいとして、「リモートワーク」をサルベージしてみるとしましょう。以下のようなノートをつくることになります。

リモートワークのサルベージ
 (リンク1)。(一言二言で所感を書く)
 (リンク2)。(一言二言で所感を書く)
 (リンク3)。(一言二言で所感を書く)
 ...
リモートワークのサルベージ
 (リンク1)
  (一言二言で所感を書く)
  ...
 (リンク2)
  (一言二言で所感を書く)
  ...
 (リンク3)
  (一言二言で所感を書く)
  ...
 ...

つまり検索してヒットしたノート名とそれを見た上での所感を並べていきます。具体的に書いてみた例を挙げます。

リモートワークのサルベージ
 [Remotty]
  ソニックガーデンのバーチャルオフィスツール。2分ごとに自席のカメラ画像を反映したものを一覧表示してて皆の様子がわかる
  🐰さんが[ソーシャルプレゼンス]と一般化してる
 [デスク爆弾]
  >職場などで自分のデスクに前触れもなく近づいてきて延々と雑談や仕事の相談をされること
  Z世代のワードとあるが、リモートワークの普及に伴って生まれた現象の一つってイメージ
 [ラセングルのリモートワーク]
  FGOをつくってる会社のリモワ工夫事例
  会社としては「場所を問わない」がコンセプトなので、ツールと啓蒙を頑張ったそう
 ...

ここでは 3 トピックほど挙げましたが、選び方に指定はありません。3 つでもいいですし、10 つでもいいです。先に検索結果からめぼしいトピックを 5 つあげて、そこからさらに 3 つだけ読むことにする、などでも構いません。何を挙げてどう書くかは完全に自由です。

サルベージを行うと、(そもそも会場にそれなりの情報が書き込まれている必要はありますが)その話題に関する様々な情報が見つかります。本質が見えてきたり、自分が知らなかった視点と出会えたりして検討が先に進みやすいです。どちらかと言えば個人で ETM をやっている場合に重宝すると思います。

複数人で行っている場合でも、高頻度で登場するワードであればサルベージする価値があるかもしれません。特にプロジェクト、タスク管理、DX など「人によって捉え方が全然違う言葉」は結構ありますので、サルベージトピックをつくることでそのあたりの違いを可視化できます。

デメリットを挙げるなら二つで、純粋に疲れやすいため多用しづらいことと、実践する人の主観がゴッリゴリに混ざるため内容に偏りが生じやすいことです。

ステーショントピック

Ans: ある話題 T を深堀りしたいときに、T の前線基地(ステーション)をつくります。

ETM ではトピックが散らかりがちなので、作業デスク的な前線基地をつくって、そこで作業するようにするとやりやすくなります。このようなトピックを ステーション と呼び、トピック名には必ず「ステーション」をつけます。たとえば雑談的に自転車の話をガチで行いたい場合は「自転車ステーション」トピックをつくって、ここから各種議論や情報を辿れるようにします。名前に「ステーション」が入っているので「ああ、ここは自転車ネタの基地なんだな」とわかります。

ステーションは主にリンク集になります。ここで検討を深めるとすぐにとっ散らかって収拾がつかなくなるので、検討は別にトピックをつくってそちらで行い、ステーションからはなるべくリンクを張るようにします。全体状況やブロックライティングの文脈ブロックなど書いておくと便利な情報は適宜書いてもいいですが、まずは ステーション≒リンク集 のつもりで運用してみると感覚がわかってくると思います。

つくりかたのコツは、リンクを自分の言葉で束ねることです。以下に例を示します。

日記で盛り上がってる日
 [2024/08/21]
 [2024/08/15]
 [2024/08/14]
 [2024/08/11] ここが発端、なぜか自転車の話題が大盛りあがり

自転車ネタのトピック例
 [ママチャリ vs クロスバイク]
 [A-bike city 折りたたみ自転車]
 [とあるロードバイクガチ勢が皆さんを沼に引きずり込むページ]
 [Bianchi ROMA 4]
 [自転車通勤]

自転車ネタから出てきた議論やアイデア
 [自転車通勤を認めてほしいです]
 [広い敷地を持つ事業者向けにスポーツバイク導入を提案する]
 [自転車エバンジェリストとか自転車エクササイズとか]
 [自動車はすでにソフトウェアの塊だが、自転車も間もなくそうなる説]

[自転車どうしてます?]
 皆さんの現状や所感を書いてほしいです!🐷

これは 4 つの観点で整理していますが、ただリンクを無造作に並べるよりもわかりやすいと思います。たとえばビジネスアイデアを見たい人は 3 番目のブロックを見ればいいとすぐにわかります。

余談ですが、4 つ目のブロックだけは少し書き方が違っていて、束ねるものがない代わりに🐷さん(🐷の表札を使っているメンバー)がお願いを書いてますね。本来なら 2 つ目のブロックにぶら下げてもいい気がしますが、🐷さんが書き込んでほしくてあえてそうしたのかもしれません。

良いステーションの目安は「このトピックから辿って読んでいくのが一番近道」だと言えることです。通常、ETM では、話題 T について知りたいときは自分なりに探索的に読み進めていきますが、ステーションがある場合は T のステーション(≒リンク集)から辿っていく形になります。

文芸的タスク管理の言葉で言えば、ステーションとはリンクばかりが並んだトランク(幹)です。

まとめ

  • ETM に役立つヒントを紹介しました
    • 個人で取り組む場合に役立つもの、複数人で取り組む場合に役立つもの、両方当てはまるものが混在しています
  • ====
  • 文芸的タスク管理
    • そもそも ETM は文芸的タスク管理をベースにしているので、困ったらまずはおさらいする
  • スクイーズアウト
    • 絞り切る(自分なりに 100% を出し切る)ことが納得感に繋がり、意思決定も加速する
  • ブロックライティング
    • 1-space インデントの箇条書きの塊(ブロック)をつくっていく手法
    • 発散や検討を行いながら概念、方向性、タスク、そして要約をつくるのを 1 サイクルとする、これを繰り返す
    • ブロックには種類があり、種類を示すためにアルファベット一文字(レター)をつける
  • 個人と協調の線引き
    • トピックは個人でつくって、それを見てもらうのが良い
    • パーソナルスペースとパブリックスペースを使い分ける
  • 個と和のバランス
    • 興味ドリブン、スルーの許容、オタク注意報という感じの世界観を心がけると上手くいくと思う
    • ETM は No ABCD だがメンバーからの反応を待つときがある(ウェイト)、ウェイトはなるべくなくしたい
      • 主因として「否定的な反応をしづらい」があるので、明示的に出すと良い
    • 役割も意識して、言語化して捉えられると意思疎通がスムーズになる
      • 役割は動的になりがち
      • 帽子を拝借して一時的にロールプレイするつもりで望むと、使いやすいかもしれない
  • 便利なトピック
    • 日付トピックは日々の動線になる
    • 特定のメンバーに言いたければメンショントピックやポストトピック
    • トピック化されていないが、よく使われている言葉があればサルベージすると何か見えてくるかも
    • ステーショントピック(リンク集)をつくるのも便利