Chapter 26

探索的タスク管理

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2024.09.11に更新

タスク管理は「指向的な」営みと言えます。計画、設計、目標、手順など色んな言い方がありますが、あらかじめ基準をつくってからそのとおりに動きます。そのとおりに動くことが前提となっているため、動けているかどうかの観測つまりは管理が必要です――至極当たり前に聞こえますが、これは考え方の一つにすぎません。限界や不向きも色々とあります。

本章では、もう一つの考え方となる「探索的な」営みにフォーカスします。基準に頼らず、好き勝手に動いてみることで視界を広げていきます。基準をつくる必要がなく管理も要らないため、自由に楽しく進めていけます。とはいえ何も無いと迷いますから、小さな基準を動的につくって羅針盤にします。指向的な考え方から見るといいかげんで適当に見えますが、これが有効となる場面も多々あります。特に指向的な考え方に必要な基準が無い、もしくはつくれない状況下で、そのヒントを集める際に重宝します。つまり、まず探索して、ある程度見えてから指向に切り替えるというハイブリッドです(このハイブリッド戦略はタスクソースの章でも少し述べました)。

本章では探索的タスク管理と題して、「指向的な営み」の前段階で使えそうな「探索的な営み」のやり方と考え方を整理します。なお、前章の文芸的タスク管理を理解していることを前提とします。つまり言語的な読み書きが多発します。

探索的タスク管理の概要

探索的タスク管理

探索的タスク管理(Exploratory Task Management、以下 ETM と略します) とは、探索的なタスク管理を指します。

探索的 = No ABCD

探索的とは No ABCD を満たすことです。以下の ABCD が無いという意味です。

  • Assign
    • アサインしない
    • 「やらないといけないこと」を正式に決めて、そこに誰かや自分を割り当てる、ということをしないという意味です
  • Ball
    • ボールを持たない・渡さない
    • そもそもボールは使いません
  • Consensus
    • 合意を取らない
    • 各自が好き勝手に好きなことをやればいいと考えます、合意はいちいち取りません
  • Deadline
    • 締切をつくらない
    • 締切に追われるといったことも発生しません

指向的な営みが排除されているとも言えます。正解もなければ基準もなく、どう動くかは自分次第です。自分の意思で、自分なりに動いていくことになります。これが探索です。

少人数を想定するが個人でも可能

ETM は少人数(2~5人程度)で行えるポテンシャルがあり、本章でも少人数で行うことを想定しています。前述の ABCD に他者とのコミュニケーション要素が含まれているのはそのためです。

しかし ETM は個人で行うこともできますので、適宜読み替えてください。

ETM はパラダイムシフト

ETM は 探索的(Exploratory)なアプローチ を使います。これは従来の考え方とは大きく異なるものです。この点を説明するために、まず従来の話から詳しくしていきます。

従来は 指向的(Directional)なアプローチ であり、冒頭でも述べたとおり、先に基準をつくってからそれに従うあり方でした。このアプローチは直感的でわかりやすく、管理もしやすいため、ビジネスから個人まで幅広く使われます。あまりに当たり前すぎるため名前すらついていません。しかし探索的な考え方を述べるにあたっては名前がないと不便ですから、指向的と名付けました(レトロニムと呼ばれます)。

指向的なアプローチには構造的な欠陥が二つあります。

一つは「あそび」がないことです。一度決めた基準に従うということは、基準以外を許さないことでもあります。余裕、余暇、余地といったものもありません。もっとも現実的には基準を「目安」程度に捉えつつ融通を利かせることも多いですが、それでもたかが知れています。基準へのとらわれからは逃れられません。基準を必要とする文脈では重宝しますが、そうではない場合は過剰なのです。なのに指向的なアプローチしかやり方を知らないから無理やりにでも基準を定めようとします。そしてそれが仕事だと、そういうものだと正当化します。特に現在は管理上の理由で都合が良かったり、その管理方法が会社のルールのレベルで組み込まれていたりするため抗いづらい――どころか抗う発想すら持てないという事情もあります。

あそびがないと何がまずいかというと、まず融通が利かないことです。仮に試せそうなやり方が 20 あるとしても、指向的なアプローチだとせいぜい数個しか試せません。20 を全部、は難しいにしても、もっとじっくり色々試してみようじゃないか、といったことができないのです。これは各々が自分の多様性を発揮して主体的に行動しづらいとも言えます。結局、誰かの監督下・指揮命令下で言われるがままに動く、という単純なモデルになってしまいます。前進させるには向いていますし、管理者が有能なら融通を利かせた制御もできますが、そんな有能な人はそうはいません。通常は管理者がボトルネックになり、融通も大して利きません。極端に言えばワンマンか、ワンマンに近しいあり方にしかなりません。

そして、仮に有能なワンマンだったとしても、従う側は楽しくないのです。特に管理過多(マイクロマネジメント)は最悪で、恐怖政治などムチをちらつかせるか、収入や立場など原始的な報酬というアメを与えるか、あるいは宗教信者的に信仰で盲信させる(筆者は「コエ」と呼んでます)かしないと続きません。人によってはそれでもストレスや過労で倒れます。管理過多というと、監視やルールばかりを想像しがちですが、それらがなくても単に忙しすぎる場合も同様です。実際に忙しすぎる人は十中八九ムチ・アメ・コエに依存していると思います。それを正当化します、たとえば資本主義だ、お金は大事だ、稼げるだけ稼いで何が悪い、稼げてない負け犬は黙っておれ――と、少し話がそれましたが、要はニンジンありきになってしまいます。

もう一つは「試行錯誤のペースが遅い」ことです。指向的なアプローチでは基準をしっかりとつくりがちですし、一度つくった基準はなかなか変えられません。特に基準をつくったり管理したりする側と、基準に従って動く側とが分かれているがゆえに、前者のフィードバックを後者に伝えづらいというコミュニケーションコストの高さもあります。複数人で協調したり、ひとりでも中長期的に望む場合はたしかに基準が大事(でないと活動がブレて収拾がつきません)ですが、大事にするがゆえに試行錯誤のペースが遅くなります。基準を上手くつくれるなら問題ないのですが、状況によってはそうもいかないことがあります。特に昨今は VUCA であり、先が見えない中で新しい取り組みをすることも少なくないでしょう。いきなり上手い基準などつくれるはずがありません。実際そうであるからこそ、リーンスタートアップやアジャイル開発など仮説検証のスピードを挙げる手法が登場したのだと思います。ちなみに、これらの手法もまだ指向的なアプローチの域を出ていません

まとめると、指向的なアプローチには以下の欠陥があります(※1)。

  • あそびがないこと
    • 融通が利かない。つくった基準やそれを管理する管理者の存在がボトルネックとなるため
    • ニンジンが必要になる。ワンマン的なあり方は楽しくないし、ストレスフルであるため
  • 試行錯誤のペースが遅いこと
    • 基準をつくる側とそれに従って動く側とで分かれているがゆえに、コミュニケーションコストがかかりがち
    • 先が見えない場面ではそもそも不適切
    • 仮説検証のペースを挙げる手法はすでに存在するが、これらもまだ指向的なアプローチの域

指向的アプローチそのものの必要性を否定しているわけではないことに注意してください。指向的なアプローチは(あえて言葉にするまでもなく)非常に有益ですし、これだけでも人生はやっていけます。それでも上記のような限界があるため、別の道具をつくろうとしているのです。それが 探索的なアプローチ です。

特に本書はタスク管理の本ですから、タスク管理と絡めて整理します。それが ETM です。あそびをつくり、試行錯誤のペースも早められるようなタスク管理のあり方を導きます。

    • 1 付随的なものなので挙げていませんが、欠陥はもう一つあります。「管理コストがかかる」ことです。全部で 100 のリソースが使えたとしても、管理のために 10~20 くらいは使ってしまいます。マネージャーの役割は言わずと知られていますが、これは管理コストがそれなりにかかるがゆえに専任者を置く必要があるからです。そして、マネージャーがいるということは、その分のコミュニケーションコストもかかってしまいます。実質敵に半分の 50 も使ええないことは決して珍しくありません。探索的なアプローチを取ると、この管理コストを(もちろんコミュニケーションコストも含めて)なくせます。マネージャーも要りません。100 使えるとしたら、90 くらい使えます。それでも多少の支えとやり取りは必要ですので 100 をフルで、というわけにはいきませんが。

メリットは自由と楽しさ

ETM のメリットは自由と楽しさです。

従うべき基準が無く、各自が好きなように探索するため自由です。この自由がパワーを生みます。

特に自由だと楽しいです。探索的なアプローチを行うと、私達がいかに基準に縛られているかがよくわかります。この感覚は創造的なもので、特に物語をつくっている営みと似ていると思います。逆を言えば、このような自由な営みに楽しさを感じられない人には合いません(おそらく指向的なアプローチでガンガン基準を決めてそれに従って、と猛進するのが合っているでしょう)。楽しさ、というと何とも幼稚に聞こえるかもしれませんが、楽しさは重要です(※1)。本書でも散々述べてきたように、私達は怠け者です。タスク管理に頼らねばならないほど、あるいは頼ることすらできないほど怠ける生き物です。だからこそ楽しさは貴重なモチベーションになります。子供は意味もなくあちこちをうろついたり、おもちゃをいじったりしますが、そのような根源的な楽しさが探索にはあります。

自由が生み出すパワーとして、もう一つ典型的なものがあります。納得感です。自由には責任が伴うと言いますが、まさにそのとおりで、何をどの順番でどれだけ深堀りするかも全部自分で判断して行うことになります。判断の連続であり、実は非常に疲れる(だからこそ ETM としてここを和らげるテクニックが重要)ものですが、ここには「すべて自分がやってきた」という確かな事実があります。当事者感と言い換えてもいいでしょう。自分で携わっているからこそ、たとえ結果が優れなくても、醜くても、納得感が得られます。

他にも様々なパワーを生み出すかもしれませんが、主なものは上記のとおり、楽しさと納得感だと思います。指向的なアプローチの欠陥だった「あそびのなさ」をカバーできています。

一方、もう一つの欠陥である「試行錯誤のペース」が上がることについては、メリットとしては掲げてません。ともすると上がらないかもしれません。試行錯誤は、仮説検証も含めて本質的に難しい営みだからです。ETM で「上がります」と言えるほど単純ではないのです。とはいえ、ETM により自由に楽しく取り組むことによって、初動のペースを上げることはできると考えます。指向的なアプローチの制約を取っ払って頭手足を動かすことは、とてつもなくエネルギッシュでエキサイトです。

    • 1 「楽しさ」がわかりづらければ「面白さ」でも構いません。楽しさドリブンや面白さドリブンという言い方も見られますが、まさにそのとおりです。通常このような生き方は個人プレイでなければできませんし、個人でもどうやればいいかわからなかったりするものですが、ETM は一つの解を与えます。

目的は視界を広げること

ETM の目的は単純明快で、視界を広げることです。

正解も無く、事例もなく、ともすると何がわからないのかさえわからないような場面は現代ではあるあるだと思います。ETM を使うと、この暗中を自分なりに照らすことができます。「自分なりに」なので正解とは限りませんが、それでもまがいなりには見えているわけです。見えていれば行動できます。それこそ、いつものように指向的なアプローチで攻めることもできます(し、見えたのならそうして一つずつ進めていくのが望ましい)。

ただ、指向的なアプローチだけではこのような場面に対抗できませんでした。だからこそ ETM を使うのです。まずは ETM で探索して視界を広げるのです。

適用シーンは Unknown Unknown

ETM が適しているのは「何もわからない」と言えるような場面です。制約が強すぎて何もできないというよりは、情報不足により何も思いつかないとか、逆に制約が無さすぎてどうとでもできてしまうとかいったことです。特に「何がわからないのかわからない(Unknown Unknown)」はあるあるだと思いますが、まさに ETM に適しています。

ETM により自由に探索することによって、まがいなりにも視界が広がります。視界が広がれば、見えてくるものも増えてきて、さらに色々思いついたり気づけたりします。そうしていけば、そのうち「大体見えてくる」状態になります。ここまで来たらしめたもので、あとは従来どおり指向的なアプローチとタスク管理でどうとでもなります。

言葉にすると当たり前に聞こえますが、この最初の、探索して視界を広げる部分が難しいのです。ETM は、この部分を担う方法論の一つです。

ETM の歴史

筆者による提唱のため、歴史はありません。

参考にしているものは多数あります。特に文芸的タスク管理でも用いるノートテイキング(ノート取り)の話と、発想法に代表されるような知的生産(※1)の話を重点的に取り入れています。もちろん ETM もタスク管理ではあるのでタスク管理の話も入れてますが、前述のとおり指向的なアプローチではないため、「管理」の仕方も変わってきます。

    • 1 知的生産という言葉は多義語だと思いますが、特に書籍『知的生産の技術』をベースにしてます。引用すると『 かんたんにいえば、知的生産というのは、頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら――情報――を、ひとにわかるかたちで提出すること』です。筆者としては、自分なりに新しい情報(知識や見解)をつくって、かつ他者にもわかるように整理することと捉えてます。自分なりで良いこと、自分にとっては新しいこと、そして他者が理解できるよう言語化することがポイントです。

ダンジョンや地形を探索するイメージ

では ETM の考え方とやり方はどのようなものでしょうか。どのようにタスク管理を行っていくのでしょうか。

考え方としては、ダンジョンや地形の探索とアイテム集めに似ています。広大で不確かなそれらを自分なりに探索し、あとで迷わないようにマッピングもしながら少しずつ広げていきます。できれば完全制覇したいところですが、どれだけ広いかなんてわからないですし、疲労やモチベーションや実力(HP や攻撃力や魔法や装備といったステータス)の問題もありますし、さらにたとえを飛躍させると「ダンジョンや地形自体も変わることがある」ため、きりがありません。どこかで切り上げます。集めたアイテムが戦利品となります。これらを使って、次の(指向的なアプローチが通用する)ダンジョンや地形で勝負するのです。

どこまでやるかは自分次第ですが、ポイントが二つあります。まず冒頭でも述べたとおり No ABCD を心がけます。探索でも自分なりの管理は要りますが、ABCD を使うほどかしこまった管理はしません。次に、なるべく 100% を出し切って「現時点の自分ではこれ以上はない」と胸を張れることを目指します――というと過激に聞こえますが、「まあこんなものか」を自分なりに言語化して示せれば良いというイメージです。

次にやり方ですが、どこをどう探索するかの作戦決め、マッピングの仕方、自分自身のステータスの把握と、疲労やモチベーションやその他リソースなどの制御と監視といったことを行います。ETM も Task Management であり管理ですが、管理としてそういったことをするわけです。道具としては基本的にはノートを使って、言語で書きます(図や絵ではなく)。書いたものを読み返して膨らませたり、要らないとわかったのでバッサリ捨てて新しく書き始めたりもします。この点は文芸的タスク管理と同様です。

ETM ことはじめ1 ~情報単位を知る~

ここからは「ことはじめ」と題して、ETM を始めるのに必要なやり方と考え方を解説していきます。ここ part1 から始まり、part4 まであります。また、ヒント集として part5 も用意しています。

part1 では ETM において扱う情報単位について解説します。

最初にまとめ

登場する単位:

  • ゴール
  • カード
  • トピック
  • ブロック

各単位の関係:

解説:

  • ETM ではゴールを導くためにカードを集めます
    • ゴールとは「見えてきた」もの
    • カードとはゴールを導くための「役に立つトピック」
  • ETM ではトピックをつくっていきます
    • トピックとは「一つの話題を表現した単位」
    • トピックは一つのノートで表現される
    • どう表現するかに正解はない
  • トピックはブロックから構成されます
    • ブロックとは情報を何らかの観点でまとめた塊
    • トピックは n のブロックから構成される
      • 論理的とは限らない
      • ブロックからトピックを導く(ボトムアップ)こともあれば、トピックからブロックを洗い出していく(トップダウン)こともある

手札(カード)を増やす

ETM の目的は、次のように言い換えることもできます。

「見えてきたら」を導くための手札(カード)を拡充する。

カード とは一つの知識、見解、意思決定、想像や仮説等のことです。これらを集めて、貯めていきます。情報源から知識を理解して持ってくる(インプット)だけで済むこともありますが、たいていは足りません。それをどのように使うかとか、足りない部分をどう補うかとか、そのままでは使いづらいので少し組み合わせて新しい知識にする、あるいは解釈が一意ではないがいったんこのように解釈するなど、自分なりの加工が必要となります。

カードの粒度(どこまでまとめたものを一枚のカードとするか)や揃える枚数に正解はありませんが、粒度は細かめ、枚数は数百枚以上になることは珍しくありません。タスク管理でもタスクの分解・細分化が重要だったり、一つ一つのタスクは具体的で実行可能なものが望ましいとはよく言われますが、ニュアンスとしては同じです。カードも一枚一枚は小さめで、わかりやすい方が良いです。

別の言い方をすると「パーツを揃える」「ボトムアップに積み上げていく」とも言えます。コンピュータに詳しい方は、Linux の KISS 原則を思い浮かべてください。小さくて汎用的なツールを組み合わせて使う、とする哲学です。違うとすれば、カードは汎用的になるとは限らないことです。非常に狭い特殊解を述べたカード、もよくあります。

ゴールとは「見えてきたこと」

カードを集めて何をするかというと、何かを導きたいのです。この何かを ゴール と呼びます。

ゴールは前もって見えているものではありません。また、仮説として設定しておくものでもありません。カードを集めていくうちに 自ずと見えてくる ものです。あるいは執念でひねりだすものです。指向的なアプローチが染み付いていると、この感覚はわかりづらいかもしれませんが、そういうものだと捉えてください。

これは言い方を変えれば 使うカードが違えば見えてくるゴールも違ってくる とも言えますし、何なら 同じカードでもあって人によって見えてくるゴールが違う とも言えますし、さらには 同じカードと同じ人であっても見えてくるゴールが変わる とも言えます。一方で、カードや人が違っても大体同じゴールが見えてくることももちろんあります。良くも悪くもゴールは不定なのです。

また、ゴールは単一とは限りません。30 のカードからたった 1 つのゴールを導くこともできれば、6 つのゴールが出てくることもあります。

カードとは「役に立つトピック」

ETM では、実際にはトピックという単位で情報をつくっていきます。トピックについては後述します。

カードとは役に立つトピックのことです。たとえばトピックが 100 個あったとすると、カードとして使えるのは 20 個だったり 30 個だったり、あるいは 5 個だったりします。何をカードとみなすかに正解はありません。

トピックとブロック

ETM において実際につくっていく単位をトピックといいます。また、トピックはブロックから構成されます。ここは ETM の根幹となる概念なので詳しく解説します。

トピック

まずは トピック です。前章で述べたトピック指向に相当し、一つの話題を指します。

またトピックごとにノートを分けます。仮にトピックが 20 個あるなら、ノート(実際の単位はファイルだったりページだったりと使うツール次第です)も 20 個あるはずです。一つのノートに 20 個のトピックを全部書き殴っている、みたいなことはしません。その状態ではトピックとは言えません。1-トピック 1-ノートになるようにちゃんとつくっていく必要があります。ただし、色んな情報を詰め込んだ雑多なノートは、それはそれでトピックになります。ただしカードとしては使いづらいでしょう。最終的にはゴールを導くためのカードを増やしたいのですから、カードとして使いやすくするためにも 一つのトピックで一つの話題を表現する という単位感を意識したいです。これがトピック指向という考え方です。

トピックの例を挙げます。たとえば、とあるベンチャー企業で IT エンジニアを新たに数名雇いたいとして、そもそも IT エンジニアってなんだっけ、うちはどんなエンジニアが欲しいんだっけとなった場合を考えましょう。まずは自分達なりに IT エンジニアとは何か、を考えたいです。このとき、以下はすべてトピックとなります。

  • 1 「IT エンジニア」
  • 2 「IT エンジニアとは」
  • 3 「IT エンジニア = システム、ソフトウェア、ネットワーク、インフラ、サイトリライアビリティ」
  • 4 「IT エンジニア ≒ システム、ソフトウェア、ネットワーク、インフラ、サイトリライアビリティ」

1 や 2 は良いトピックとは言えません。ただの用語であり、カードとしては使いづらいです。おそらく「IT エンジニア」ノートや「IT エンジニアとは」ノートを開くと、中に定義や意見が色々と書き込まれているでしょう。散らかった机のように散乱している可能性が高いと思います。あるいは、単に用語の定義に留めるくらいならアリです。

3 や 4 は理解を端的に記述しており、良いトピックと言えます。4 の方はニアリーイコール(だいたい同じ)を使っていて、厳密性を持たせていないこともわかります。

実際には両方混ざることも多いです。たとえば「IT エンジニア」ノートをつくり、その中から切り出しを行って「IT エンジニア ≒ システム、ソフトウェア、ネットワーク、インフラ、サイトリライアビリティ」ノートをつくる、との流れはよくあります。抽象的なトピックもあれば具体的なトピックもありますし、作業としてたくさん書き殴っている未整理の汚いトピックもあれば、そこから導かれた本質をシンプルに表現した綺麗なトピックもあります。

ブロック

次に ブロック ですが、これは一つのトピック内に存在する一構成要素です。包含関係としては 1-トピック N-ブロックとなります。つまり一つのトピックは単一または複数のブロックを含みます。

トピックとブロックの関係は特にわかりづらいので、いくつか補足します。

  • 論理的であるとは限りません
    • あるトピックが 4 個のブロックを持っていたとして、そのトピックはその 4 個のブロックから論理的に導かれているとは限りません。各ブロックは使ったかもしれないし、使わなかったかもしれないのです
    • 統一的な使い方もありません。同じ 4 個のブロックでも、A さんと B さんとでは違うトピックを導くかもしれません
  • ボトムアップとトップダウンの両方がありえます
    • ボトムアップ: n 個のブロックからトピックを導く
    • トップダウン: トピックから n 個のブロックを導く
    • ETM ではどちらもありえます。カードからゴールを導く部分などボトムアップはわかりやすいですが、トップダウンもありえます。トップダウンとしてよくあるのはお題です。トピックとして何らかのお題を設定し、そこから思いつくことを書き込んでいきます。アイデア出しなど発散的な文脈でもよく登場します

さて、ブロックですが、単にトピックの中身を指すものではありません。トピックに単に情報が書き込まれた段階では、ブロックがあるとは言えないのです。ブロックとは塊であり、特定の観点でまとめられた情報群を指します。まとめ方は雑でも構いませんが、とにかくまとめます。最終的には「トピックは n 個のブロックから構成されている」という構図にしたいのです。

ETM では部品化(パーツ)を意識しています。ゴールを導く際にもカードという部品を使いますし、普段情報を読み書きするときもトピックという部品単位で行います。そして、トピックもまたブロックという単位で構成されているのです。このように部品化をイメージすることで情報を扱いやすくします。たとえば部品と部品を組み合わせるとか、この部品は要らないから捨てるといったことができるようになります。

また、トピックも同様、ブロックのつくりかたにも正解はありません。とはいえ、比較的使いやすいつくりかたはいくつかありますので後で紹介します。

ブロックについても例を挙げてみましょう。先の例を使うと、おそらく「IT エンジニア = システム、ソフトウェア、ネットワーク、インフラ、サイトリライアビリティ」トピックには以下のようなブロックがあるでしょう。

  • 辞書から抜粋した定義
  • Aさんの第一印象
  • Bさんの第一印象
  • Aさん vs Bさんの議論のログ
  • エンジニアの例を皆で洗い出したもの(システム、ソフトウェアなど多数並ぶ)
  • システムエンジニアとは
  • スタッフエンジニアとは etc

このようなブロックを色々書いた上で、IT エンジニアとはシステムエンジニア、ソフトウェアエンジニア、ネットワークエンジニア、インフラエンジニア、SRE(サイトリライアビリティエンジニア)の 5 種類があるのだな、などと判断するわけです。判断した結果がこのトピックであり、ノートで表現すると「IT エンジニア = システム、ソフトウェア、ネットワーク、インフラ、サイトリライアビリティ」ノートになるわけです。もちろん判断の仕方次第で如何様にも変わります。たとえば、この例ではスタッフエンジニアという役割を含めていません。もちろん含めることもできますし、両取りすることもできます――「IT エンジニア」ノートから「従来の IT エンジニア」ノートと「最近の IT エンジニア」ノートをつくり、後者の定義にスタッフエンジニアを含める、といったことです(ちなみにスタッフエンジニアは 2023 年頃から提唱され始めた比較的新しめの役割)。これもあくまで一例でであり、やりようは他にも無数にあります。

カードは「特に役に立つトピック」

カードとトピックは同義ですが、カードは使えること――特に繰り返し使えたり皆が使えたりすることを重視しています。

トピック自体は使えるものから使えないものまでたくさんありますが、それら全部を手札としたところで収拾がつきません。それこそゴミがたくさんあっても仕方ないわけです。なので、ちゃんと使えるもの(カード)を揃えます。

ETM ことはじめ2 ~トピックの育て方を知る~

part1 ではトピックの概念を整理しました。ここ part2 では、トピックをどのように育てていくかを扱います。

広げる、詰める、導く

トピックに対して行えることは、大まかには以下の 3 つです。

  • 広げる(Spread)
  • 詰める(Detailize)
  • 導く(Summarize and Distill)

ETM ではこれらの操作を行き来しながらトピックを育てていきます。このとき、複数のトピックにまたがることも珍しくありません。

典型的な営みを一つ挙げます。たとえば「引っ越し」トピックで引っ越しの検討をしている(詰めている)ときに、ふと本棚が圧迫されている話になって、電子書籍を本格的に導入するべきか迷っていることを思い出したとします。引っ越し自体の検討はきりがいいとして、タイミングも良かったとします、ならちょうどいいですね、考えてみましょう……というわけで「電子書籍を導入する?」トピックをつくって、思いつくことを書き込みます(広げる)。幸いにも急ぐ必要はないため、何日もかけて、のんびりやりました。二週間ほど経ちましたが、ダラダラ続けても仕方がないので、そろそろ結論を出したい考え、まとめに入りました(導く)。自分の本心は何なのか、何がしたいのか、という観点でこれまでのノートを読み返し、気付いたことも追記して考察を続けました。その結果、「そうか、図書館や作家の書斎みたいに広々とした空間で読書を楽しみたいんだ」と気付きます(導く)。まだ違和感があるので、さらに粘って、最終的には「私にとって狭いことは非常にストレスフルらしい」とわかりました(導く)。ついでに、この観点で今回の引っ越しを見直すために、「引っ越し」トピックにて思いつくことを書き殴ってみます(広げる)――

いかがでしょうか。必要に応じてトピックをつくったり移ったりしつつ、広げてみたり、逆に詰めてみたり、あるいはある程度集まったので導いてみたり、と行き来していることがわかります。自由奔放に見えますが、本質は広げる・詰める・導くの 3 つです。

続いて各操作の詳細を見ていきます。

広げる

広げる(Spread) とは発散です。思いつくことや洗い出せることを出していきます。たとえば、お題に対して思いつくことを書いてみる等です。より具体的には、引っ越ししたい場合や転職したい場合などに、お題を「引っ越し」とか「2024/08/20 前々から転職したいと思ってるので広げてみる」などと設定して、思いつくことを書いてみたりします。お題は明確である必要はありません。「なんかモヤモヤする」と題して、思いつくことを書いてもいいのです。アイデア出し、フリーライティング、ひとりブレストなど、この手の営みや手法は多数存在しますし、大喜利や連想ゲームなど娯楽として行われることもあります。

ETM ではトピックをベースとするので、実際には「引っ越し」ノートや「なんかモヤモヤする」ノートをつくることになります(お題名のノートをつくる)。あるいは、どのノートで行っても構いませんが、あとでトピック化(最低でもブロック化)します。より実践に即して言えば、ノートツールの都合でノート名が被ることがあるので「引っ越し1」や「引っ越し 2024/08/20」など番号や日付をつけて区別させることもよくあります。名前を考えるのが面倒な場合は「untitled」「無題」とか「あ」とか「aaaaaa」とかでも構いません。あるいは「メモ1」「メモ2」など雑に書く用のノートをあらかじめつくっておいてそれを開く、でも良いでしょう。

詰める

詰める(Detailize) とは拡充です。わからないことや不明なことを調べたり、自分なりに検討してみたり、色んな人の声を集めてみたり、あるいはリンク集など情報を集めたり動線を整えたりといった作業も含みます。中身を詰めて埋めていくイメージです。英語の Detailize は造語ですが、Detail(詳細)をつくっていくニュアンスを込めています。

何をどう詰めるかについては後述します。

詰めるものは事実と主観に大別できます。この 2 つはなるべく区別した方が良いでしょう。特に ETM を複数人で行う場合、事実と主観のバランス感覚 が人や組織によって違うためにこじれやすいです。どちらを、どれだけ、どのように使うかに正解はありません(※1)し、各々が模索するしかないことですが、それでも区別ができていなければ使い分けることもできなくなります。区別の仕方についても後述します。

    • 1 事実ばかりだと意思の無い学者になります。主観ばかりだと根拠のない評論家になります。状況により、どちらかへの偏重が重要となることこそありますが、どちらにどれだけ頼ればいいかには通常正解はありません(というより際限なく追求できてきりがない)。その都度バランスを模索することになります。とはいえ、現実的には ETM を行う個人や小集団の価値観に左右され、また扱うトピックもその価値観に合った方が重視される傾向があると思います。

導く

導く とは、広げたものと詰めたものを見て、何かを導き出すことです。

要約と蒸留があります。

要約(Summerize) は、今ある部品から忠実に導きます。部品は改変せずに全部使います(使えない部品を意図的に使わないのはアリ)。導出の整合性はピンキリで、論理的だったり、ストーリーテイストで情動的だったり、あるいは考察や私見をたくさん交えて主観的にすることもできます。いずれにせよ自分なりにもっともらしくつくれれば OK ですが、ともかく部品は忠実に全部使います。

蒸留(Distill) は、部品をヒントとみなすスタンスです。部品を全部使わなくてもいいですし、そのまま使わず適当にアレンジしたり一部だけ切り取って使っても構いません。導くときに新しい思いつきや主観を入れても OK です。良く言えば大胆、悪く言えば誠意の無いスタンスです。このスタンスを筆者は ダシにする と呼んでいます。元ネタは知的生産の技術で、以下に抜粋します。

いわば本をダシにして、自分のかってなかんがえを開発し、そだててゆくというやりかたである。……このやりかたなら、読書はひとつの創造的行為となる

本をダシにするとありますが、ETM では本に限りません。トピックも、ブロックも、部品化されていない文章も、すべてダシにすることができます。それこそ他者の意見や作品をダシにすることもできますし、やります。

どちらも一長一短です。要約は堅実で荒れにくいですが、ETM のメリットである自由と楽しさを発揮しづらいです。創造性を発揮しづらいとも言えます。一方、蒸留は自由で楽しく創造的ですが、非常に失礼な行為となることもあり、使い方を間違えれば人間関係に亀裂が入ります。また(特に個人の場合は)視野狭窄に陥る恐れがあります。

それでも、できれば蒸留に頼りたいです。蒸留による飛躍――特に肯定的な急進を ブレイクスルー と呼びますが、このブレイクスルーこそが ETM の醍醐味だからです。究極的に言えば、ETM とはブレイクスルーを味わうための創造的な営み です。そもそも要約で済むなら指向的なアプローチで事足ります。それでは通用しない場面や段階があるからこそ、探索的なアプローチを――ETM を採用するのです。このような状況では正解は存在せず、自分がどう意思決定するか次第で無限の未来が広がっています。このときに頼れるのは自分の主観に他なりません。主観をフル活用して、あらゆるものをダシにして本質をひねり出すのです。そうすることでしか見えてこないものがあります。仮に見つからなかったとしても、それはそれで構いません(ひねり出したという経験から納得感とひねりだせなかったという事実がある)。

と、小難しく書きましたが、要は創造的な解決を狙っています。そのために ETM ではトピックという形で言語的に部品を扱うのです。No ABCD を掲げ、自由を謳うなど制約が少なく設計されているのもそのためです。ETM は実は創造的な営みなのです。

トピックを用いた知的生産にすぎない

広げる、詰める、導くとまとめましたが、このような営みは既に知られており、言及の仕方も様々です。

広げるについてはブレインストーミングはよく知られていますし、個人で文章を書くやり方ならフリーライティングもあります。またGTDでも、収集ステップとして頭の中にある「気になること」を出していきますが、これも発散の一種です。娯楽としても大喜利やマジカルバナナなど連想ゲームは多数知られています。

詰めるについては、これ単独というよりも広げる行為とセットで扱われることが多いでしょう。発散と収束という言い方はすでにビジネス用語ですし、アウトライナーの文脈ではTak. による「シェイク」の概念もあります。科学でも演繹法と帰納法がありますし、より一般的にはボトムアップとトップダウンともいいます。共通しているのは広げる行為と詰める行為の行き来です。両者を行き来することで色んな考えや気付きが得られ、思考の隙をなくしていけます。

導くについては、最終的な結論を出す部分です。仕事の文脈では意思決定と呼ばれて、素早く行うとの前提を含むことが多いですが、プレゼンでサマリーをつくったり、物語のあらすじを考えたりなど意外と身近です。専門的になりますが、ソフトウェア開発の一手法であるドメイン駆動開発は、用語集と設計モデルを用いた顧客との対話を通じてコアドメイン(ビジネスの資産となる概念的な本質)を導こうとします。これは蒸留と呼ばれており、ETM の用語もここから取ってきています。

仮にこのような営みを知的生産と呼ぶとして、知的生産自体は別段珍しくも何ともありません。この 3 つをすべてこなしてしまう手法として KJ 法がありますが、これは 50 年以上前から存在しているようです。

ETM も知的生産の一手法にすぎません。文芸的タスク管理をベースにして、探索的にタスク管理を行うために、トピックだとかブロックだとかいった概念を導入して再構成したにすぎないのです。ですので、知的生産の営みをご存知の方は、それらを思い浮かべながら読み進めていただくと理解しやすいでしょう。逆にご存知ない方は、上述した既存の手法から勉強・試行してみることでも理解が進むと思います。

ETM ことはじめ3 ~タスク管理の仕方を知る~

part1 にてトピックの概念を、part2 にてトピックの育て方を整理しました。ここ part3 ではタスク管理の話に入ります。ETM におけるタスク管理とは何か、またどのような考え方とやり方に従うかを扱います。

ETM におけるタスク管理

ETM におけるタスク管理は以下から成ります。

  • タスク管理以前の管理
    • 1 ロードの管理(直近何を重視するか)
    • 2 ターゲットの管理(直近何のトピックを重点的にいじるか)
    • 3 リソースの管理(体力ややる気と上手く付き合う)
    • 4 コンテキストの管理(あとで再開しやすいよう日頃から整理する)
  • タスク管理
    • 5 タスクの管理(文芸的タスク管理)

実はタスク管理以前の管理がメインです。ETM は探索的なアプローチであるため、探索を上手くやるための管理への比重が重くなります。それが 1~4、ロードとターゲットとリソースとコンテキストです。無理やりタスク管理という言葉を使うのなら、「終了条件の見えない曖昧なタスク」の管理と言えます。自分が何をどれだけやるかという自己制御に力点を置きます。

探索を行っていると次第にタスクも見えてきます。あるいは、見えなくとも「いったんこれとこれをやる」と決める(タスク化する)こともできます。このような時にようやく 5 のタスク管理が登場します。やり方や考え方としては文芸的タスク管理に従います。詳細はそちらを見ていただくとして、ここでもかんたんにまとめておくと、次のとおりです。

  • ホームを基点として日々ノートを育てていきます
  • タスクについてはタスクの詳細を書くタスクノートと、複数のタスクを俯瞰するタスクビューを使い分けます
  • 文芸的タスク管理ではカバー出来ない部分(アンカバード)については、素直に既存のツールに頼ります

別の言い方をすると、1~4 では「やってもやらなくてもいい」ことを扱います。やるやらないの判断やどこまでやるかの判断が頻繁に必要であり、単に忘迷怠を減らして一つずつこなせばいいだけではないため従来のタスク管理は使えません。探索を上手くやるための管理が必要であり、それを ETM ではロード、ターゲット、リソース、コンテキストという形で整理しています。次に、探索を通じて、ある程度見えてきたら「やらなきゃいけないこと」や「やると決めたこと」などタスクという言葉が従来持つ意味合いのものが増えてきますので、ここで従来のタスク管理を使います。手段としてはノートに頼っていますので、5 のとおり文芸的タスク管理にて行います。

以降では各管理を詳しく見ていきます。

ロードの管理

ETM では直近何に取り組むかを動的に決めます。たとえば普段の持ち分は 5 個、今週は A,B,C,D,E の 5 個に取り組む、来週は F と G をやりたいのでいったん A と C は保留にする、といったようなことです。これを ロード(Load) と呼びます。

ロード

ロードの直訳は荷重、積荷、負荷ですが、ETM においては 直近取り組みたいこと(重視したいこと)として抱えているもの を指します。

ロードにはいくつか性質があります。

  • ロードキャパシティ
    • 何個抱えられるかが人によって違います
    • 5 個かもしれませんし、3 個や 7 個かもしれませんが、おそらく一桁に収まるはずです
    • 同じ人でも普段は 5 個だが調子が悪いときは 3 個、など変わります(かつ変えても良いです)
  • 粗さ
    • タスクよりもかなり粒度が粗いです
      • ⭕ 「引っ越し」「転職を検討する」「生成 AI との付き合い方を考えねば」
      • ❌ 「引越し先業者の選定」「大手 n 社の採用ページを調べる」「ChatGPT Plus を契約して使ってみる」
    • ロードは様々なタスクを内包しています
      • そういう意味ではタスクソースも似ていますし、目標事項や維持事項はまさにロードにできます
  • 不確定性
    • ロードは探索の対象となる事柄であり、通常終わりは見えません、あるいは見えていても変更が可能です
    • どこまでやるか、どこで終わらせるかは自分自身で意思決定します
    • ここで終了・ここで中止と決定すれば終わりですし、決定しない限りは続きます

ニュアンスとしては「常に背負っている荷物」です。終わらない限りはずっと背負い続けたままですし、そんなにたくさん持つこともできません。人間ひとりが持てる荷物などたかが知れています。また、常時持っているので毎日使う機会があります(ので使いやすい=取り組みやすい)、もちろん毎日必ず使わなければならないわけではありません。

一桁の原則

ロードキャパシティですが、身軽に過ごして融通を利かせたいなら少なくするべきです。逆にどうしても重視したいものが多数あるなら、できるだけ積みたいところです。それでも限度があり、一桁(9個以内)には収まるはずです。これを 一桁の原則 と呼びます。

筆者の体感では 9 個でも多すぎます。半分の 5 個でもちょうど良いか、まだ多いくらいです。もし一桁の原則を超えられるというなら、それは単にロードの捕捉が下手なだけでしょう。たとえば、やることが明確だったり比較的すぐに終わったりする「タスク」をロードとして掲げているかもしれません。あるいは十分な実力があれば(常人にとってはロードでも)タスクのように処理できますが、これは稀ですし、それができるなら ETM は要りません。それができないからこそ ETM にて探索的にアプローチするのです。

ロードキャパシティの可視化

複数人で行う場合、メンバーのロードはお互いに見えた方が良いでしょう。ロードノートやロードページのような場所をつくってもいいですし、ホームに載せてもいいです。ただ人に知らせたくないプライベートなロードもありますので、そこは伏せても構いません。たとえば「そろそろ結婚したいのでマッチングアプリや婚活をガチっている」という場合、正直にロードとして見せなくても、「私用」の一言で OK です。内容を伏せていてもロードが存在することはわかります。逆にロードとして計上する必要がないのであれば、いちいい書く必要はありません。

このとおり、重要なのは ロードキャパシティの可視化 です。ETM では他者を管理しないので、可視化したところで何らかの干渉を行うわけではありませんが、可視化できていれば皆の様子や全体の状況がわかり、自分の行動にも反映できます。また誰が何を重視しているかを見ることは刺激にもなります。皆のロードキャパシティは、いわば空気と呼べるものです。

ターゲットの管理

ETM ではトピックをつくっていくのでした。トピックは多数つくられます。何十、何百は当たり前ですし、中長期的に続ければ何千や何万にも増えていきます。これらにすべて均等に取り組んだり、真摯に深堀りしたりするのは不可能です。選別が必要です。

トピックを 3T モデルで選別する

選別の手法として 3T モデル があります。これはトピックを Topic, Target, Task の 3 状態で捉え、より重視したいものを Topic → Target → Task と昇格させていきます。

各状態は次のようになっています。

  • 1: Topic
    • ただのトピック
    • 誰でも好き勝手に読み書きできる
    • やってもやらなくてもいい
  • 2: Target
    • 「当事者」が存在するトピック
    • 当事者は責任を負い、自らリードして進める。意思決定権も持つ
    • 当事者以外は「助言者」であり、助言は可能だが意思決定権は無い
  • 3: Task
    • 当事者が存在し、かつ当事者への「催促」も許されたトピック

トピックはデフォルトでは 1 の Topic です。これはただのトピックであり、誰がどのように読み書きしようが自由です。スルーも可能ですし、「興味ないからいいや」と投げることもできます。自由です。もちろん熱心に取り組んでも構いません。

Topic のうち、より重視したいものは Target にします。トピックに対して誰かが 当事者 を名乗り出ると、そのトピックは Target になります。Target は当事者のリードで進めていきます。意思決定権も当事者が持ちます。当事者はリードの責任を負うかわりに裁量を得るのです。当事者以外は全員助言者(※1)となり、意思決定権はありません。

Target のうち、催促したいものは Task にします。ETM では管理は行わず、これはつまり 通知も飛ばさないことを意味します(なので会議を開催したりメンションを飛ばしたりすることも想定していません) が、一方であまり悠長にされると困る Target というものが出てきます。そんなときに Task に昇格させます。Task 状態のトピックでは、当事者に催促を行うことが許可されます。催促とは忘迷怠のフォローを行うこと です。といっても通知は飛ばせないので、新しくノートをつくったり、ホームなど動線上で行ったりします。「~~の件どうなってる?」とか「3 日間音沙汰無いけどどした?」といったことです。その名のとおり、早くしてほしい旨をつっつくわけです。

この 3T モデルは非常に重要、かつ中身も濃いので、以降ではもう少し詳しく補足していきます。

Target は表明

トピックに対して当事者だと名乗り出ることは表明にも等しい行為です。「私は今からこのトピックを少し重視しますよ」と皆に告げるようなものですし、Target が出たということは各人も「ああ、この人がこのトピックをこれから重視するんだな」と理解します。

しかし約束ではありません。何度も言うように ETM では強制や管理はしません。ただ重視することを表明するだけです。

当事者キャパシティとロードキャパシティ

ETM を実践する各人は 2 つのキャパシティを持ちます。

  • 前述したロードキャパシティ
  • 当事者として抱える Target の数を示した 当事者キャパシティ

両者は違うことに注意してください。ロードキャパシティは「直近はこういうことを重視します」という大局的な方針(ロード)のキャパシティを示したものですが、当事者キャパシティは「直近はこれこれのトピックを重視します」という局所的、というよりトピックレベルのキャパシティを示したものです。

当事者キャパシティについても一桁の原則は当てはまります。ロードよりも粒度が細かいため、10 以上抱えることも難しくないですが、あまり Target が多すぎても形骸化するだけですので一桁で十分です。だからといって何個抱えているかを意識する必要もありません。多すぎたら形骸化の兆候――Target の割には更新されないトピックが増えてきたとか、Task への昇格が増えてきてなんか慌ただしいなとかいったことが出てくるので、その時に減らせば済みます。

可視化については、当事者キャパシティには必要ありません。トピックをどう読むかは各人に委ねられていますし、盛り上がっているトピックがあるとノートツール上でも目立つため気付けるからです。ただし当事者の新着くらいはわかるようにしておいた方が便利でしょう。たとえばトピック A で当事者になりたい場合に [当事者][[当事者]] のようにリンクすれば、「当事者」ノートからバックリンクの形でトピック A がわかります。

当事者はよく変わる

当事者の席は動的です。

最初 A さんが当事者になったが、実力やらやる気やらが芳しくなくて早々に「やっぱやめます」と諦めて外したとします。このトピックにはもう当事者はいないのかというと、そんなことはなくて、「じゃあ次は私がやってみるわ」と B さんが当事者になってもいいのです。その B さんも一区切りつけて、いい感じに仕上がった後に、さらに上手くやれるからと今度は C さんが当事者になってさらに詰めて――なども可能です。

ダメならば外せばいいだけですし、助言者による助言にも助けられます(ひとりで行う場合は期待できません)。変に敷居を上げず、気軽に付けたり外したりすれば良いのです。

強いて言えば、細かい議論に凝りだすときりがないので、トピックから派生させると良いでしょう。つまり一段落ついたら、そのトピック A は確定とみなして、もう当事者になるのはやめます。かわりに、何か言いたいことやさらに詰めたいことがあるなら、そのトピック A から派生する形で新たなトピック B をつくり、B で当事者になるようにします。そもそも収束が遠い場合は当事者にならず、Topic の状態で議論を重ねた方が良いです。

当事者は数人でも良いが、できれば 1 人で

当事者は複数人も可能ですが、現存する当事者全員の同意がなければ増やせません。1 人目は早い者勝ち、2 人目は 1 人目が同意したら OK、3 人目は 2 人が同意したら OK――という形です。

とはいえ人数が多いと当事者というシステムの意味がなくなるので、通常は 1 人だと考えてください。これを 単一当事者の原則 と呼びます。もし 2 人や 3 人が望ましいと思える場合も、トピックの粒度が粗いことが多いです。トピック A を B, C, D に分解して、それぞれ 1 人ずつ当事者になった方が上手くいきます。

ETM は探索的な営みであり、探索は一人で行うものです。一番わかりやすいのは作家だと思います。作品は作家一人がつくります。分担やレビューこそありますが、複数人で一緒につくることはありません。正解が無い世界なので、いちいち協調していてはきりがないのです。なので一人で責任を持ってつくって、つくったものをチェックして品質を高めます。ETM も同じです。Target には当事者を一人だけ立てて、その人が責任を持って詰めて、その結果を皆に見てもらうのです。もちろん途中で助言を受けることは可能ですし、推奨しますが、あくまでも詰める責任は当事者自身にあります。

もし当事者を 1 人にしづらい場合、構造的な問題が潜んでいます。具体的には 権限委譲がしづらい組織構造や文化になっている か、探索が有効となるシチュエーションではない かのいずれかです。対処が必要ですので、次項で説明します。

単一当事者の原則を阻む問題に対処する

まず権限委譲のしづらさについては、従来ありがちな階層組織だと解消は難しいです。特にマネージャーなど権限を持つ者がボトルネックになります。役割分担や適材適所は構いませんが、メンバー全員が対等であることが必要です。対等とは意思決定のレベルで委譲できることを指します。「必ず私のチェックを通せ」「私がチェックするまで待て」ではなく「わかった、任せるよ」ということです。

これは想像以上に難しく、意思決定者に権限を握らせるのをやめさせるだけではなく、各メンバー側にも自律性と主体性が求められます。自分の意思を出さない人には務まりません。できるかどうかは実質メンバー全員の能力と性格(相性含む)次第です。もし再現性のあるやり方が欲しいなら、助言者モデルの例でも述べたティール組織が現状の解だと思います。

次に探索が有効となるシチュエーションではない件については、まず No ABCD を当てはめられるかが目安です。ETM では No ABCD ができないと話になりません。よくある原因のトップツーは「変えることのできないタイトなスケジュール」と「メンバー全員が継続的に探索を行えないほど少ない予算」ですが、ちゃんと見れば意外と行える余地はあります。たとえば、一見すると変えられないスケジュールがあったとしても、実は単にお偉いさんやその中間の管理職が適当に言っているだけだったりします。特に現代のサラリーマンや経営者はまだまだ指向的なアプローチが根強く、細かいスケジュール管理を課してくる傾向があるので、意識的に抗わねばなりません。このあたりのやり方は次の part4 で述べます。予算についても、1日1時間の時間くらいなら捻出できるでしょうし、ETM を普段のコミュニケーション手段にすれば日常の一部にもできます。

もう一つ、ETM において意識したいのが トピックはブースターである という点です。ブースター(Booster) とは実際行動に移す際に使える各種情報のことで、行動をブーストさせるとの意味合いがあります。実は ETM で行うのは、実際の行動というよりも 行動可能なところまで情報(考察や議論を経た意思決定も含む)を揃える 部分です。というのも、いざ行動するとなると現実の様々な制約に阻まれてしまい、探索的なアプローチができないからです。ETM はトピックをこねてゴールを導くものですが、もっと言えばトピックをこねる形でブースターを揃えることでゴールを導く、とも言えます。

つまり行動まで済ませようとするシチュエーションは ETM には合いません。ETM はあくまで行動する直前の、準備や整理の部分までを済ませるものです。この準備や整理を自由に楽しくやろうぜ、と言っているのです。

一つ例を出しましょう。ある大企業で新規事業用に少人数チームを組んで ETM をしているときに、利便性とセキュリティの観点から「全員に社有の iPhone を持たせるべき」とのトピックが出たとします。これは Target として、A さんが当事者となって出した結論です。ETM の範囲は、この結論を出すところまでです。実際に iPhone を入手して、会社の調達体制も整えて、予算や会計もちゃんと反映させて――といった行動はしません(かんたんにできるのならやっても良いが、この文脈では無理でしょう)。全員に社有の iPhone を持たせるべき、というトピックはこれ自体が有益なブースターです。探索的な検討や議論を経た結論だからです。実際に採用するかどうかは別問題です。この点も次の part4 で述べますが、実際に行動に移すのは ETM でゴールを見つけた後になります。ETM の最中ではありません。ETM の最中は、あくまでも探索によりブースターを増やすことに専念します。

リソースの管理

本書でも度々顔を出してきた厄介者として「やる気」があります。他にも「体力」はよく知られています。体力というと身体能力をイメージしがちですが、頭脳面でもあります。判断に使う資源は注意資源とも呼ばれ、これが枯渇すると頭が働かなくなりますし、スマホや SNS でも消耗します。他にも社交エネルギーとかソーシャルバッテリーといった言葉もあります。

私たちは電気さえあれば無限に動けるロボットではなく、実際に動くためには何らかの資源(リソース)を使わねばなりません。リソースが残ってないと動けませんし、残っていたとしても、それをどう使うかの判断でもリソースを使いますから実際動ける分は意外と少ないのです。タスク管理というと、タスクをいかに可視化して一つずつこなすかにフォーカスされがちですが、実は、その可視化したタスクにどうリソースを振るかという意味での管理こそが重要だったりします。本書でも全体像を俯瞰したりヒントとして様々なやり方考え方を提示してきました(※1)。このリソース管理の必要性は ETM でも変わりません。

ETM は文芸的タスク管理でもあり、文芸的タスク管理でもこれだけでカバー出来ない部分(アンカバード)は通常のタスク管理に頼ります。なので、ここまで紹介してきたリソース管理あるいはそのためのヒントは ETM でも活用できます。しかし ETM において押さえておくと便利な考え方がありますので、本節にて整理します。

管理 2.0

ETM ではリソースを管理 2.0 的に管理します。

管理 2.0 とは、理想状態を維持できれば良いという前提のもと、理想状態の因子と計測するという管理のあり方です。従来は成果物の進み具合を進捗(n% 進んでます等)や予実(予定と実績の乖離を見る)によって管理する 管理 1.0 でしたが、そうではなく、あくまで状態を見ます。

元ネタはソフトウェア開発の話ですが Engineering Effectiveness で、出力の計測ではなく入力の計測と表現されています。また、生活の文脈では日々体調を記録するセルフモニタリングが知られており、これも管理 2.0 的と言えます。要は 結果を管理するのではなく、結果を生み出すもとである私たちの状態を計測しましょう とする潮流です。名前自体は筆者が名付けたものですが、概念自体は目新しくはないと思います。

ETM は探索的な世界であり、管理もしないのでした。管理 1.0 はできません。しかし何もしないと忘迷怠が発生しますし、やる気と体力の問題があることは既に述べたとおりです。そこで折衷案として、自分のリソースの状態を計測するのです。日々計測し、記録していくことで、こういう状態だと生産的に過ごせるとか、逆にこういう出来事があると集中しづらくなるといった傾向を見つけます。傾向を把握できたら、あとは理想の状態に近づけるよう働きかけを行うだけです――良い状態の因子を増やしたり、逆に状態を悪くする因子を減らしたりします。

先の Engineering Effectiveness では計測因子の例として「コードレビューにかかる時間」「割り込みの量」「計画外の作業量」が挙げられています。エンジニアリングは創造的な仕事であり、指定されたテーマに、まとまった時間を使って集中して取り組むのが大事です(理想の状態)。レビューや割り込みや計画外といったものは、この理想を削ぐ因子なわけです。これらを計測することで、たとえば「レビューが半日以上続いた日はまともに生産できてない」とか「割り込みが 2 回以内の日は落ち着いて生産できるが、3 回を超えてくるとその後も増えていて平均 6 回ある」とかいったことがわかります。これらの記録を考察すれば改善できます。たとえば割り込みの回数を 2 回以内に制限したり、レビューを行う日を限定したりすれば良いでしょう。

管理 1.0 的に成果物の進捗や予実を管理しているわけではありません。そもそも単純作業でもないのに 1.0 的に管理すること自体に無理があります。かわりに、できるだけ理想状態を維持できればいいと考えます。理想状態の最適化です。そのために理想状態に絡んでそうな因子を計測します。それが管理 2.0 であり、ETM もこのやり方に則ります。

理想状態とは

そもそも理想状態とは何かという議論がありますが、明確な解は用意していません。

ETM は管理無しに自由に行うことを前提としているので、あえて定義するなら「自分の生活と心身を尊重しながらも、普段のパフォーマンスを発揮できること」でしょうか。

筆者は健康であること、ひとりで集中できること、でも退屈と阻害も無くフィードバックも来ること、自分のペースが尊重されること、情報がオープンでありいちいち伺わなくても存在すること、あるいは言えばすぐに出してくれるか、出せないならその理由もちゃんと出してくれること、そして恒常的に余裕があることなどを好みます。会議やイベントなどの拘束は好みませんし、むしろ害悪だと捉えます。しかし全く無いのは寂しいし、望ましくないので、たまには(稀には)欲しいです。一方で、毎日顔を合わせてワイワイしたい人もいるでしょうし、純粋にライフスタイルだけを見ても筆者のように超朝型の人もいれば夜型の人もいますし、ワークライフバランス的にメリハリをつける人もいれば、ワークアズライフ的に区別はせず隙あらば仕事を差し込む人もいます。人によって理想は違います。

しかしながら ETM は探索的なアプローチを取るため、探索を阻害する状態――もっと言えば管理的な営みを肯定または促進するような状態は想定しません。別の言い方をすると、理想状態は個人に閉じており、また完結させるべきです。「必ず週に一度は出社して顔合わせをして遊ぼう」のようなことは人を巻き込んでいる(管理に等しい)ため、ETM における理想状態とは言えません。

計測因子のポイント

実はこれを計測すればいい、と言えるほどの知見はまだありませんが、あたりはついていますのでいくつか紹介します。

計測の方針としては、以下を意識すると無駄な苦労を迂回できるでしょう。

  • あまり細かい情報を計測しても意味がないこと
    • それこそライフログのように何でもかんでも記録したところで、後で読みません
    • また自動で記録できる情報にはあまり使い道がありません
  • 計測する因子の個数は厳選して、一桁以内(~9個)に抑えること
    • いまいち傾向が見えてこない場合は、計測する因子を変えます
    • また一桁といっても 9 個は多すぎて形骸化します、まずは数個以内にしたいです
  • 計測する因子の選定は遠慮無く突き詰めること
    • もしかすると「A さんと顔を合わせた回数」が因子かもしれません
    • おそらく「これじゃないか」と感じる因子候補があるはずで、これを遠慮なく捉えるところから始まります

次に因子にはポジティブとネガティブがあります。ポジティブな因子は理想に近づけるもの、ネガティブな因子は理想から遠ざけるものです。別の言い方をすると、起きたらプラスになるのがポジティブで、起きたらマイナスになるのがネガティブです。朝のルーチン(食事 → 散歩 → シャワー → 軽くゲームして頭をあたためる)を全部こなせた日に仕事が捗っているというのなら、このルーチンはポジティブです。雨の日にパフォーマンスが出ていないとすれば、雨天はネガティブな因子です。あるいは「朝に日光を浴びる」というポジティブな因子があって、それを満たせてないのかもしれません。

理想状態を維持する戦略は、以下の 3 つがあります。

  • 1 ミニマイザー。ネガティブを減らす戦略
  • 2 マキシマイザー。ポジティブを増やす戦略
  • 3 ハイブリッド。両方。ネガティブを減らすし、ポジティブも増やす

一見すると誰にでもポジティブとネガティブがあるので全員ハイブリッドか、と思いがちですが、意外と偏ります。ミニマイザーの人は、別に良いことなんてなくてもいいからとにかく嫌なことを避けたい、嫌なことさえなければパフォーマンスなんて出せると考えるタイプです。筆者もこちらにあたります。一方、マキシマイザーは、嫌なことが多少あってでも、それ以上に良いことを得たいと考えます。

目安として使えるのは旅行です。海外旅行に行きたい人はマキシマイザー、逆に行きたくない人はミニマイザーだと言えます。割合的にはマキシマイザーの方が多いのでそちらの解説は割愛して、ミニマイザーの心理を解説すると「慣れ親しんでてインフラと治安も整ってる日本から出る意味がわからん」となります。海外旅行を普段の生活水準が乱れるネガティブなイベントだと捉えているわけです。あるいはひとりビジネスホテルのように旅行先でも自分の居心地を重視するあり方や、転じて「じゃあ単に遠出してホテルで過ごしてみればいいのでは?」となるような思考もミニマイザーでしょう。ここでコンフォートゾーンを出ないのがミニマイザーと思いがちですが、そうではありません。旅行はあくまでも例です。ミニマイザー、マキシマイザーにかかわらず出る人は出ますし、出ない人は出ません。ただ理想の定義と維持の戦略が違うだけです。

ミニマイザーの人はネガティブな因子を計測するのが良いです。マキシマイザーの人はポジティブな因子も計測できます。しかし、パフォーマンスは(特に ETM のように探索的な営みでは)繊細であり、邪魔されないことの方が重要ですので、総合的には ネガティブな因子を計測する方が重要です。ポジティブな因子は、見つかったらラッキーくらいの意識でいる方が良いでしょう。

最後に、因子の観点についても取り上げておきます。特にネガティブな因子を捉えるのに使える観点を挙げます。

  • 拘束の数
    • 拘束とは指定時間中、場所や時間が束縛されることです(イベントの章を参照)
    • 要は会議やイベントが多いとか、会議でなくとも話し込むことが多いとかいったことです
      • 拘束に慣れている人は前者のうち、特に大きなものや疲れるものだけをカウントすればいいでしょう
  • 割り込みの数
    • 割り込みとは何かに集中しているときに割って入られて中断させられることです
    • 仕事や人によっては割り込みに応じて動く世界もありますが、ETM では自分ひとりが自分のペースで取り組むことが大事なので、この因子は重要です
      • 別の言い方をすれば、前者のメンタルモデルで過ごす人は転換を余儀なくされます
    • できる限りゼロを目指したいです、少なくとも「多すぎて計測してられない」状態は論外であり、この状態をチェックするのにも役立ちます(計測できる程度には少ないことが ETM の必要条件)
  • メンタルロードの数
    • メンタルロードとは頭の中で高頻度にちらつく不安や不満のことです
    • 一つ一つは大した害がなくとも、意外と理想状態を遠のかせています
    • この個数がある程度以上増えてくると一気に遠のきますので、増加の兆候をウォッチしたいです
  • 暴力の有無
    • 暴力の定義は自分次第ですが、物理的な暴力はもちろん、各種ハラスメントや怒鳴ることも含みます
      • 筆者は個人的に「手で殴るのは昭和まで、怒気で殴る(怒鳴る)のは平成まで」との格言を掲げています
      • 別の例として、ソフトウェア開発の文脈では「優秀だけどイヤな奴」をブリリアント・ジャークと呼び、このような者は採用しなかったりクビにしたりする組織もあります
      • またマサカリではなくマシュマロとの考察もあります(マシュマロ派にとってはマサカリ自体が暴力だと解釈されうると思います)
    • この因子が 1 回でもあった場合、理想状態は大きく遠のきがちです
  • 体調不良の有無
    • セルフモニタリングとして日々記録している人もいらっしゃるのではないかと思います
    • 例: 低気圧、筋肉痛、花粉、生理
  • ネガティブなフィードバックの有無
    • ここでネガティブなフィードバックとは、成果物や意見やプロセスではなく自身の容姿・性格・主義思想に向けられたものを指します
    • わかりやすく言えば人格批判・否定であり、これは 1 回あっただけでも理想状態を遠ざけがちです
      • たとえば表面上は気にしない演技ができても、メンタルロードとしてくすぶり続けたりします

観点の度合いとして「数」と「有無」を挙げましたが、他にも「長さ」があります。計測のしやすさは 有無 > 数 > 長さ です。長さの計測は非常に面倒くさいので、可能ならば数、できれば有無にしたいところです。

計測方法とタイミング

計測方法もタイミングも正解はありません。自分に合ったやり方を選んでください。詳しくは習慣の章を参考にしていただきたいですが、ここでもかんたんにまとめておきます。

方法については、習慣トラッカーを使うか、自分で律儀に記録を取るかの二択となります。場合によってはデジタルツール上のログやデータを見ることでも知れますが、計測結果は日ごとに俯瞰できることが重要なので、それができる程度には加工が必要です(結局記録を取るのと同等の作業が要ります)。個人的には、先に観点を記述しておいて、あとから振り返って当てはまる部分に印をつけるのがシンプルで良いと思います。これを突き詰めたのがまさに習慣トラッカーです。

どこに記録するかについても自由です。ETM で使っているノートでもいいですし、ノートから離れて別のアプリを使ってもいいですし、手帳などアナログでも良いでしょう。

タイミングについては、人によって最適解が分かれます。大まかには一日の終わりに一度だけ振り返って書くか、一日に数回(昼休憩前・退勤前・就寝前など)書くか、あるいは気付いたときに随時書くかの三択です。タイミングを減らせば減らすほど楽はできますが、何が計測されたかを覚えているとは限らず記録の精度が落ちます。逆にタイミングを増やせば精度は増やせますが、純粋に記録を取るのが面倒です。

計測結果を踏まえてどうするか

計測しました。結果が出ました。では、これらを踏まえて何をすれば良いでしょうか。

もちろん理想状態に近づくための対処を考えます。

ポジティブな因子の場合、どうやったら増えるかを考えて取り入れましょう。たとえば「普段はリモートだけど 1on1 でたっぷり雑談した後はなぜかパフォーマンスが良い」とわかったとするなら、たっぷりの雑談がおそらくポジティブな因子ですので、雑談する機会を増やします。個人的にリモート雑談を申し込んでもいいですし、機会を増やすために出社頻度を増やしてみてもいいでしょう。あるいは業務中に雑談をせず、プライベートで確保してもいいかもしれません。

しかしながら、狙って増やせることはあまりありません。ポジティブな因子は突発的なイベントによってもたらされることが多いからです。「起きたらラッキーだよね」と捉えるくらいがちょうどいいと思います。あるいは、狙って機会を増やしに行くことももちろん可能ですが、大きな労力がかかりがちです。なぜなら、後述するネガティブな場合(取り除けばいい)とは違って、新たに獲得する営みになるからです。何を手に入れたり増やしたりすることは、通常捨てることよりもエネルギーも時間もかかります。マキシマイザーの人ならそれでも増やしにいけるでしょうが、ミニマイザーの人は腰が上がらないと思います。腰が上がらない自分を責める必要はありません、そういうものです。

ネガティブな因子の場合、どうやったら減らせるかを考えて取り入れます。発生源が何かしらあるはずで、そこから距離を置いたり、それに直接働きかけたりします。そういったアクティブな対応が嫌な場合は、自分の心持ちを変える(捉え方を変える)ことでも可能ですし、自己啓発的にはよく言われることですが、そんなことができれば苦労はしません。あるいはできるにしても、中長期的に悟っていくものであり、短期的にすぐに身につくものではありません。発生源との対峙は多かれ少なかれ必要です。ここを認めて、愚直に行動できるかどうかに軽減の成否がかかっています。

たとえば仕事でも私生活でも趣味でも何でもいいですが、前述したブリリアントジャーク(優秀だけどイヤな奴)がいて、その人の物言いのせいで有意にパフォーマンスが落ちていることがわかっているとします。この問題は、その人を追放するか、その人を変えるか、自分がその人から離れるかしない限りは終わりません。かんたんに対処できれば苦労はしないですし、こちらが消耗することもよくありますが、それでも何かしら行動しない限りは終わりません。

そういう意味で、リソースの管理には結局痛みを伴う行動が求められます。本書でも何度も述べてきた盤外戦ですね。もし、これを行う気がないのだとしたら、管理しても意味はないので管理しなくて良いです。性格的に向いてない人はいます。無理して取り組む必要はありませんし、取り組むことが是というわけでもありません。とはいえ、他人に働きかけるのは無理にしても、自分の行動を変えるだけで対処できるものもあります。仮に X を見すぎているせいでパフォーマンスが出ないのだとしたら、X のアプリやアカウントを消せば済むことです(依存症的な側面もありこれはこれで難しいですが)し、仮に自分で消すことさえできなかったとしても単に「X のせいでパフォーマンスが落ちている」と知れているだけでも違います。

そうです、仮に行動できなかったとしても、リソースの管理にてネガティブな因子を把握しておくだけでも違うのです。把握できていたら、そのうち対処のモチベーションやタイミングが訪れるかもしれません。

コンテキストの管理

ETM ではロードを管理することで直近何をやるかを掲げ、ターゲットを管理――3T モデルに基づいて当事者をに志願することで直近どのトピックを重視するかを掲げます。この二つの管理は取り組む対象を有限化していると言えますが、これだけではまだ不十分です。

ETM は探索的であり、一度の着手では終了しないことがよくあります。トピックは多数あるので、同じトピックばかり着手し続けるとも限りません。ある程度期間が空いてから再度着手するとか、全く別の頭の使い方をしたあとに再開するとかいったことがよくあります。このとき、前回はどこまでやっていたのかとか次は何をするつもりだったのかといった文脈(コンテキスト)を思い出す必要があり、これをコンテキストスイッチングと呼びますが、非常に消耗する営みです。ETM を上手くやれるかどうかは、このコンテキストスイッチングの消耗をいかに抑えるかにかかっています。

つまりコンテキストの管理とはコンテキストスイッチングの対処であり、ロードコンテキスト(頭の中に入れる文脈情報)の管理だと言えます。コンテキストの章ではコンテキストスイッチング・モデルとして土地でたとえる説明をしましたが、本節では論点を小さく絞った上で、実践的なテクニックの紹介に比重を置きます。

本節では以降から ロードコンテキストのことをコンテキストと略して書くことにします。

忘れない程度に継続するか、すぐ思い出せるよう整えるか

コンテキストの管理として本節で紹介するのは 2 つです。

  • コンテキストメンテナンス
    • 忘れないように高頻度で着手します
  • コンテキスト駆動
    • 着手を終わる前に、その時点のコンテキストを残しておくようにします
    • そうすると次、着手するときにその残したものを読むことですぐに思い出せます

以降でそれぞれ詳しく見ていきます。

コンテキストメンテナンス

コンテキストメンテナンス(Context Maintenance) とは、今取り組んでいる事柄のコンテキストを脳内に留めるアプローチで、忘れない程度に高頻度に、その事柄に取り組むことを指します。一流の職人やアスリートは感覚を鈍らせないために毎日欠かさず練習しますが、似たようなものです。忘れてしまうのが問題なら、忘れないよう高頻度に続けてしまえば良いのです。

とはいえ、一日 n 時間以上、のように一流の練習量をつぎ込むわけにはいかないでしょう。そこでコンテキストメンテナンスでは「ほんの少しでも着手できたら良い」と考えます。この考え方は習慣の章ですでに紹介した「着手ベース」他、書籍としては『先送り0(ゼロ)』で訴求されています。これらの考え方をさらにアレンジして、コンテキストメンテナンスでは「着手はゼロだけど読み返した」も許容します。コンテキストを維持できれば良いからです。たとえ進捗が無かったとしても、読み返すだけで脳内のコンテキストはある程度保持されます。つまりコンテキストメンテナンスとは 脳内のコンテキストを維持するために、とりあえず触れるだけの行為 と言えます。

もっともわかりやすいのが長大な文書の作成でしょう。プレゼン資料、論文、レポートやブログや書籍など、何回も取り組まねば完成に至れない文章の仕事がありますが、このような仕事はまさにコンテキストの管理が求められるものです。しかし実質、やっていることは「書いたことを読み返す」ことのはずです。読み返していれば脳内のコンテキストは保持されやすいですし、仮に頭が仕事モードではなかったとしても温まってきたりします。触れるだけでもそれなりに効果があるのです。ETM も本質的には言語を用いたノート取りであり、これらの仕事と似たようなものです。

コンテキストメンテナンスの良い点は、取り組みやすいことです。たとえ疲れていて続きに取り組む気力がなかったとしても、軽く触れる程度であればできます。ダラダラ読んでもいいですし、タイマーを 30 秒にセットして読むだけでも OK です。そもそもそうした補助も面倒くさいので、その時その時で行える程度でやればいいでしょう。

コンテキストメンテナンスをやるかやらないかで、後日のコンテキストスイッチングの負担が変わってきます。それはあってもなくてもわからないような軽微な差かもしれませんが、ETM ではたくさんのトピックを扱います。この小さな差が後々聞いてきます。一流を持ち出すつもりはありませんが、この小さな蓄積はコンテキストを脳内に留める訓練の蓄積であり、中長期的に ETM 実践者の地力を引き上げます。

コンテキスト駆動

コンテキストメンテナンスは「忘れない程度に高頻度に触る」でしたが、別のアプローチもあります。それが「忘れても思い出せるようにしておく」であり、具体的に言うと 着手を終わる度にその時点でのコンテキストを書いて残しておきます。すると、次に着手するときにそこを読むことで、前回のコンテキストを思い出せるのです。これを コンテキスト駆動仕事(Context Driven Work)、あるいは単に コンテキスト駆動 と呼びます。

コンテキスト駆動の論点は以下 3 点です。

  • 1 コンテキストはどの単位で書き残すのか
  • 2 コンテキストとして何を書き残すのか
  • 2 コンテキストをトピック内のどこに書くのか

1 の単位については、トピックです。原理的には 1-トピック 1-コンテキスト が望ましいですが、さすがにやってられません。そもそも作業的でないトピックにはコンテキストもありません(自分がいつ読んだとか読んでどう思ったか等の感想を書くこともできなくはない)。そういうわけで、現実的には必要に応じて書いてください、となります。

次に 2 の何を書くかですが、正解はありません。未来の自分がまた来て読んだときにすぐ思い出せるような文章であれば何でも構いません。思い出せるなら文章ではなく単語でも良いです。推奨したいのは「次に何をすればいいか」と「なぜこのトピックに取り組んでいるのか」の二点を明らかにすることです。やることややる理由が不明瞭だとモチベーションが出ずに先延ばしにしがちです。特に後者のなぜについては、与えられた状況だけではなく自分の見解もセットで書いてください。「だるいけど必要なのでやる」や「必要らしいけど気に入らないのでやる気ない」といった気持ちが見えていると良いです。というのも、ETM は管理も強制もせず、やるやらないもどこまでやるかも自分が決めることだからです。意思決定の変遷(特に直近)もコンテキストに含めてください ということです。

よくあるアンチパターンとして進捗を書く人が多いですが、これも ETM においては望ましくありません。もう一度書きますが、ETM では管理はしません。進捗は管理のための観点であり、ETM では基本的に使うことはありません。あるいは全体像を書いて俯瞰したり、今どこまで終わっているかを可視化してやる気を引き出したりするためには使っても良いですが、少なくともコンテキストとして書くことは避けたいです。進捗という概念は本質的に管理的であり、これをコンテキストの中に含めてしまうと、コンテキスト駆動の営みそのものが管理の色を帯びてしまいます。

最後にコンテキストをトピック内(ノート内)のどこに書くかですが、ここも正解はありません。筆者はノートの行頭が好みですが、進行中の部分――行末でも全 100 行中の 36 行目付近でもどこでも構いません。重要なのは、どこにコンテキストが書いてあるかを迷わずにすぐ探して読めることです。記号や区切り線をつけたり、📒(ノート)や🧠(のうみそ)など絵文字をつけて視覚的に目立たせても良いでしょう。テキストがお好みなら (context) のようなタグ文字列を書いて、それを検索してヒットさせることもできます。

同時にはしない

コンテキストを管理する方法としてコンテキストメンテナンスとコンテキスト駆動を紹介しましたが、片方ではなく両方を使った方がより管理が捗ります。

その際、コンテキストメンテナンス中はコンテキストを書かないようにしてください。コンテキストを書いたり更新したりすることは、単に読むことよりもはるかに消耗するからです。消耗するからと腰が上がりにくくなり、コンテキストメンテナンス自体の腰も上がりにくくなってしまいます。

両方使うというのは、たとえばトピック A ではコンテキストメンテナンスを行って、トピック B ではコンテキスト駆動をするといったこと、あるいはトピック A で元々コンテキストメンテナンスしてたけどコンテキスト駆動に切り替えるといったことです。トピック A においてコンテキストメンテナンスとコンテキスト駆動を 両方同時に行うことは意味しません。なぜ同時がダメかというと、頭の使い方が違うからです。使い方の違う営みを混ぜてしまうと非常に消耗します。

特に「あ、良いこと思いついた」など不意に良い考えが振ってくることがありますが、これをコンテキストに含めてしまうと、後々未来の自分が見たときに混乱します。思いついたことがあれば、それはコンテキストとしてではなく、そのトピックのコンテンツとして、コンテキスト以外の部分に書いておきましょう。その場で深堀りできるならしてしまえばいいです(コンテキストメンテナンスのつもりが普通の検討になってますが望ましいことです)し、できないならメモとして残しておくだけです。もちろんメモの場合は、忘れないうちに後で処理することを忘れずに。

タスクの管理

本節冒頭でも解説したため割愛します。

まとめ

  • 探索を上手くやるための管理が色々と必要です
  • ロードの管理
    • 直近重視すること(ロード)を掲げます
    • 抱える個数は一桁以内にします(一桁の原則)
    • 抱えられる個数は人によって違うので、自ら尊重します(ロードキャパシティ)
    • メンバー全員のロードを可視化しておくと、全体の「空気」が出てきて便利です
  • ターゲットの管理
    • 直近重視するトピックを掲げます
    • 3T モデルに従い、Topic → Target → Task と昇格させていきます(当事者の志願)
    • 当事者にもキャパシティがありますが、個人的なものなので可視化は不要です
      • しかしどのトピックに当事者が表れたかはわかるようにしておきたいです
    • 当事者は可能な限り 1 人が良いです(単一当事者の原則)
      • 満たせない場合、構造的な問題が潜んでいます
    • 重要な考え方として、ETM はそもそもブースター(行動時に使う "よく検討された" インプット)を揃えるものです
      • 実際に行動することとは切り離してください。その前の準備や整備までを行います
      • もちろんかんたんに行動できるのならやってしまって構いませんが、No ABCD など探索的な世界は壊さないようにします
  • リソースの管理
    • 理想状態に影響を与える因子を計測します(管理2.0)
    • 因子にはポジティブとネガティブがありますが、ネガティブな因子の計測が重要です
    • 計測結果が何をすればいいかを教えてくれます
      • 理想状態を遠ざける or 近づけてくれる因子がわかる → その因子のもとに働きかける
    • 計測結果があるからといって行動できるとは限りませんが、結果があるだけ(因子を特定できているだけ)でも意味はあります
  • コンテキストの管理
    • コンテキストスイッチングの負担を減らします
    • 忘れない程度に着手し続けるコンテキストメンテナンスと、忘れてもすぐ思い出せるよう書き込んでおくコンテキスト駆動があります
    • 両方とも取り組むのが望ましいですが、同時に二つを行わないようにします
      • 特にコンテキストメンテナンス中にコンテキスト駆動をしてしまわないように注意してください

ETM ことはじめ4 ~ワークフローを知る~

part1 と part2 ではトピックベースの世界観をお伝えしました。part3 ではどうやって探索的にタスク管理するのか、特に何をどう管理するのかをお話ししました。

ここ part4 では、ETM を実際に始めて運用していくための全体の流れを解説します。

全体の流れ

ETM の流れ自体はシンプルです。

  • Step1: セットアップ
    • スコープと期間を決める、参加者を決める、会場をつくる
  • Step2: ETM
    • step1 に基づいて ETM を行う
  • Step3: ゴール判定
    • step1 の期間が終了したタイミングで振り返りを行い、次のアクションを決める
    • 足りているなら指向的なアプローチに切り替える。足りてないなら ETM を再度 step1 から回す

Step1: セットアップ

ETM を始める前に準備が必要です。

スコープと探索期間

まずはスコープ(ETM にてどんなゴールを導きたいか)と期間(いつまで ETM を行うか)を決めます。

スコープは探索的なアプローチが通用するものである必要があります。No ABCD が通用することに加え、以下の三点を満たしてください。

  • 絶対クリアしなければならないミッションなるものがないこと
  • 定量的な指標が含まれていないこと
  • 達成できなくても存続が可能であること

また、目指すべきゴールはどうせ変わるので暫定で構いません。そういうわけで、実は「何か新規事業をつくる」くらいにラフでも良かったりします。むしろこれだけラフな方が「そもそも新規事業とは」「うちの状況は?」「なんでつくりたいんだっけ?」「今持ってる手札やリソース」など色んな観点を出せます。スコープは最初の方向づけにすぎず。抽象的な方が上手くいきます。ただし、あまり抽象的すぎて何も出ないという場合は、具体側に寄せた何かを暫定でいいので掲げてください。

もう一つ、いつまで ETM を行うかという期間も決めます。「今日から二週間」「8/14 から 1 ヶ月間」といったように連続して取ります。これを 探索期間 と呼びます。探索期間はフルタイムで取るべきであり、週に一度だけ 20% ルールとして探索する、のようなことはあってはなりません。探索期間中は探索のみ行えるようにし、従来行っていた指向的なアプローチは一切ストップさせます。この点は非常に重要で、ここができないなら ETM は諦めてください。ETM をやりたいなら、探索期間中のフルコミットを確保しなければなりません。妥協案として「午前中」か「午後以降」のどちらか片方だけフルで取るハーフも可能ですが、探索が阻害されないように注意してください。たとえば午前中に探索、午後は通常どおりとした場合、午前中に探索だけします(No ABCD を保障します)。油断するとすぐに侵食されてなんちゃって探索期間になってしまいます。

探索期間はたとえるなら長期休暇のようなものです。休暇中に一切仕事を入れないように、探索期間中も一切指向的なアプローチを入れません。これは実質的に、ETM を行うメンバー全員に(探索期間中を自律的に過ごせるだけの)自律性を要求します。また、彼らをフォローする側もこの流儀に従わねばなりません。よくあるのが、ETM を行っているメンバー達の管理者が探索期間中に「経過を聞きたいから会議設定よろしく」などとすることです。No ABCD を破ってはなりません。管理者が状況を知りたいなら、自ら ETM の会場に足を運んで、No ABCD の流儀に基づいて情報収集・コミュニケーションをしてください。探索期間という聖域は絶対に侵攻させてはなりません。しつこく強調しますが、この点は ETM において最重要とも呼べるほど重要です。

ここで探索期間中は一切指向的なアプローチをしない、と言っているわけ ではない ことに注意してください。あくまでも仕事への取り組み方の話です。探索期間中の仕事の過ごし方は No ABCD でなければなりませんが、スコープから外れた仕事や私生活はその限りではありませんし、期間中にスコープ外のタスクをこなすのはもちろん OK です。ただし、ETM は探索期間中はフルコミットすることを前提としていますので、絶対的なリソース(時間やお金)がそもそも足りない、なんてことがないようにしてください。仮に 1 日 6 時間(午前3h + 午後3h)働くとしたら、許容できるのはハーフ(3時間)までです。さらに言えば、ETM は探索的な営みであり、まとまった時間は絶対に必要ですので、最低3時間は確保してください

この時間、つまりは探索期間中の「一日における探索時間」を 探索時間 と呼びます。探索時間は最低 3 時間確保してください。それ以上でも問題ありませんが、各自の事情を反映してください。1 日 8 時間働く会社では 8 時間(ハーフなら 4 時間)になるでしょうし、融通の利く組織や個人であれば 3 時間でも 5 時間でも 10 時間でも自由にできるでしょう。

メンバー

ETM を行うメンバーを選別します。

本章で散々述べてきたとおり、特殊な手法ですので適性があります。向いていない人のカバーやフォローは想定していないので、そのような人を含めてはなりません。必要な要素を言語化するのは難しいですが、参考までに 4 つほど挙げます。

  • 自分ひとりでも読み書きしていける自律性
  • 文芸的タスク管理を行える程度の各種リテラシー
    • 言語化能力やタイピングスピードやツールの使い方など
  • 親しい相手でなくともコメントや意見を率直に書き込める何か
    • 感性でも性格でも演技力でもメンタルでも構いません
    • ETM は読み書きの営みであり、親しさの醸成は通常できないか、少なくとも遅いので、できないまま進める力が必須です
  • 会話や会議に頼らずに過ごす耐性、またはメンバーを巻き込まず自分で勝手に解消する要領

一つでも欠けていると、おそらく ETM は続かないでしょう。

適性がある場合、できるとかできそうだとすぐにわかります。逆に無いか、わからない場合は無理だと即答したり「いやわからんけどどうなんだろう」と悩んだりします。もし現時点で適性がわからないなら、練習してみることをおすすめします。

筆者がおすすめするエクササイズは ミュートデイ です。これは一日間、誰とも一言も喋らず、またメンションなど通知を要する拘束も行わずに過ごすことを指します。ミュートデイができたら、次は ミュートウィーク に挑戦してみましょう。こちらは一週間です。どちらも非常に難しく感じるかもしれませんが、本章でここまで述べてきたことがヒントとなっています。この程度もできないようでは ETM は務まりません。ミュートデイやミュートウィークは一日または一週間、と短期であり、中長期に耐えるためのメンテナンスと管理が不要で済む分、まだ易しいのです。

よりステップアップ的にやりたいのであれば、以下の順が良いでしょう。

  • 1 ひとりでミュートデイ
  • 2 ひとりでミュートウィーク
  • 3 メンバー全員でミュートデイ
  • 4 メンバー全員でミュートウィーク

ひとりで行う場合は退屈や孤独に勝たねばなりません。複数人で行う場合は会話や会議といった誘惑・衝動に耐えねばなりません。両方とも必要です。ひとりで ETM を行うなら前者だけで問題ありませんが、複数で行う場合はメンバー全員が前者も後者もどちらも備えておかねばなりません。前者を備えてないと病みますし、後者を備えてないと備えてない人が足を引っ張って ETM が破綻します。

ミュートデイやミュートウィークは良い練習になりますし、実際にやってみることで課題が山ほど出てきます。つまり一度の実施で可否が確定するものではなく、必要なら繰り返すことで鍛えていけます。

会場

ETM を行うとは、何らかのノートツール――特にネットワーク型エディタを使ってトピックを読み書きしていくことです。ツール上にワークスペースやプロジェクトといった実際の場所(会場 と呼びます)をつくります。

準備としてツール選定と会場作成が必要です。もう一つ、ツールの習熟も必要ですが割愛します。

ツール選定については文芸的タスク管理の章を参照してください。

会場作成については、ひとりで行うのならホームノートをつくるだけで事足ります。複数人で行う場合は、メンバー全員を招待した会場と権限まわりなどいくつかの設定が必要でしょう。Scrapbox の場合、プロジェクトをつくって、メンバーを招待して、必要なら管理者権限を付与して、としていきます。Scrapbox の導入や練習は拙作の『Scrapboxing』でも紹介していますが、内容が古いと思います。より最新は公式サイトなどを参照してください。また公式のサポート資料ヘルプも重宝します。

Step2: ETM を始める

Step1 にて会場までつくれたら、あとは実際に ETM を始めていくだけです。

会場を正しく準備できているなら、各自が好き勝手にノートを書いていけるはずです。複数人で行う場合、どのように秩序を保つかが論点となりますが、正解は無いため各自模索してください。この部分を解説すると、それだけで本が何冊もできてしまうため割愛します。ETM 以前に、ネットワーク型エディタ自体の作法やベストプラクティスについては Scrapbox まわりの資料やコミュニティが参考になります。上述した拙作でも取り上げています。

ETM に関する部分については、まずは本章でここまで取り上げてきた内容を運用してください。ことはじめとしては part 1 にてトピックベースでノートをつくること、トピックはブロックから成ること、トピックからブロックをつくったり、ブロックからトピックを導いたりすることを、part 2 にてトピックは広げたり詰めたり導いたりできること、part 3 にてロード、ターゲット、リソース、コンテキストといった管理を行うこと(会場に書かず個人的に管理すればいいものもあります)を扱ってきました。その他、細かいテクニックは次の part 5 で扱いますので、適宜ヒントにしてください。

注意点としては、ゴールはこのステップでつくってください。ゴールは次のゴール判定ステップでつくるのではなく、ここ Step2 でつくります。というのも、ゴールは最後の最後につくるものではなく、道中で導くものだからです。ゴールもまた仮説検証の対象であり、とりあえず掲げてみては修正して、と何度も書き換えたり増やしたり減らしたりします。

Step3: ゴール判定

探索期間が終わったら ETM も終わりです。ここまで探索してきた内容を踏まえて、どうするかを決める会議を行います。これを ゴール判定 と呼びます。会議と書きましたが、真面目に打ち合わせをしても良いですし、合宿やパーティーの形でくつろいでも構いません。

時間としては半日以上、一日以内が良いでしょう。短すぎると満足がいくほど話せませんし、逆に長過ぎてもだらけてしまいます。探索はもう終わりましたので、従来どおり指向的なアプローチで、有限時間でばしっと意思決定するべきです。ETM の延長で行えるならそれでも構いません。

ゴール判定で行うのは以下 2 点です。

  • ETM を続けるかどうか
  • 今後何をするか

まずは ETM をここで終わらせるか、それともまだ続けるのかを決めます。続ける場合はまた Step1 から始めてください。

次に今後何をするかを決めてください。ETM としては方向性や方針を決める程度を想定しており、この時点ではあまり精度の高い計画や約束はしません。そちらはゴール判定が終わった後に、今まで通りのやり方で(つまりは指向的なアプローチで)やってください。ゴール判定自体は ETM の範疇であり、ETM はブースターを拡充するものでした。ゴール判定にて決めることもまたブースターの一つにすぎません。ですのでゴール判定の時点では「現時点ではよくわからない」「これから追々詰めていこうか」のような結論になることもよくあります。それはそれで構いません。ブースターが拡充されているならば、ETM としては成功なのです。

いずれにせよ、上記二点を行うときはゴールを使ってください。正しく ETM を行っているのなら、すでにゴールを導けているはずです。ですので通常は ゴールというトピックを広げる・詰めることで上記 2 点を導くことになるはずです。30 分以内で終わることもありますし、何なら会場にゴール判定トピックをつくって、そこで(会議をせずに)やりとりしておしまい、ということも十分ありえます。最後のゴール判定というと大きな出来事にしたくなりがちですが、上手く探索できているならその必要はなく、どうすればいいかは割と明示的です。逆を言うと、ゴール判定で荒れたり長期化したりするとしたら、そもそも ETM が上手く行ってないか、上手く行ってはいるが足りていません。後者の場合は、単に ETM を再開すれば事足ります。

と、このとおり、短時間で終われるし、何なら集まる必要さえありません。なのになぜ半日以上、一日以内と書いたのでしょうか。これは 人が節目を意識する生き物 だからです。メリハリは大事です。ずっと探索ばかりだと息がつまりますし、探索の頭だと、この先行動していく上では支障が出ます。探索期間はもう終わったのだということを自らに教えねばなりません。そのために節目のイベントを設定して、ある程度長い時間を過ごすのです。しかし上述のとおり、ゴール判定として行うことは(上手く行ってるなら)すぐ済むはずですから、残りの時間は何しようか、となります。これについても 2 点あります。

  • 1 打ち上げ
  • 2 自由時間

1 の打ち上げは、プロジェクト終了時にもよく見られますが、その認識で合っています。一日以内と書きましたが、この目的であるならば数日以上でも構いません。探索は非常に疲れる営みで、一日で疲れを取って切り替えるのは難しいことがありますから、(探索期間にもよりますがたとえば)数日旅行するくらいしてもいいかなと思います。ただし旅行の場合、すぐに決めることは難しいでしょうから、探索期間の間に旅行トピックでもつくって練っておきましょう。ちなみに、次の part5 でも書きますが、こういう雑談的・遊び的な営みも適宜はさんだ方が ETM は上手くいきます。

2 の自由時間は、会議の場としてはすぐに解散して、各自自由時間を過ごすというものです。このとき、仕事を入れてはいけません。休むのも遊ぶのも自由です、各々が好きに過ごします。要はインターバルを個々に取らせる、というものです。こちらについても数日確保しても良いでしょう。

打ち上げと自由時間のどちらが良いかはメンバー次第です。通常は打ち上げしたいメンバーとひとりで自由に過ごしたいメンバーに分かれますので、どちらもサポートする(打ち上げを自由参加・途中入退場アリにする)のがおすすめです。

動的な ETM

ETM のワークフローは 3 ステップでした。別の言い方をすると、始まりと終わりがあります。しかし ETM をより動的に行っていく(日々に組み込んでいく)こともできますので、最後にこの点を取り上げます。

ETM にはワークスタイルのポテンシャルがあります。つまり普段の仕事の仕方として採用することができます。とはいえ、さすがにずっと No ABCD 的に進めるのは不可能でしょうから、探索モードと指向モードを用意して、探索モードのときに ETM を行うようにすると良いでしょう。

探索モード のときは ETM を行います。No ABCD も働くため管理は発生しません。指向モード のときは ETM は行いません。従来どおりのコミュニケーションや管理を使ってください。

重要なのは両者を同時に行わないことです。ETM は、No ABCD に基づいて全員が探索的に動くからこそ成立します。指向モードの混ざった人がいると ETM の秩序が乱れます。指向モードが必要な場合は、ETM からは抜けてください。あるいは少なくとも ETM を行っている間は探索的に動いてください。ETM では「仕事として ETM に専念している(探索のみを行っている)」ことを期待します。忙しいから全然できてませんとか、重要な用事なので会議で伝えます皆さん参加してください等は通用しませんし、持ち込むべきではありません。探索期間の項でも書きましたが、指向モードの理を絶対に持ち込まないでください。

モードの切り替えにはいくつか戦略があります。

  • チーム単位でモードを切り替える
    • チーム全員が探索モード or 指向モードになります
    • ひとりだけ指向モードになっている等は許しません
  • ひとりひとりが必要に応じてモードを切り替える
    • 5人チームがあるとして、2人が探索モード、3人が指向モードで過ごしている等がありえます
    • 探索モードだった A さんが指向モードに移る、といったこともありえます
  • 人ごとにモードを固定する
    • 常に探索モードで ETM を行っている人と、常に指向モードで動いている人が生じます
      • ちなみに現代以前の従来のあり方は後者 100% だということができます
    • 指向モードの人は探索モードの人を拘束せずにインプットを行う必要があります
      • 「探索結果を知りたいから会議開催して説明して」は通用しません
      • 指向モードの人が ETM の会場を読みに行くか、そこでやりとりを行う必要があります

正解はありませんが、合うやり方と合わないやり方があるので、合うやり方で進めましょう。いずれにせよ切り替えは疲れるため、なるべく少なくて済むあり方が良いです。

まとめ

  • ETM のワークフロー
    • Step1: セットアップ
      • スコープ、探索範囲、メンバー、会場を設定します
    • Step2: ETM の実施
      • ゴールもこの段階で導きます
    • Step3: ゴール判定
      • ETM の再開要否と今後何するか(ざっくりで良い)を決めます
      • 節目として過ごすことも想定しており、数日以内で打ち上げか自由時間に充てるのも良いです
  • 探索モードと指向モードを切り替える、と捉えれば ETM をもっと動的に取り入れることも可

ETM ことはじめ5 ~やり方や考え方のヒント集~

紙面の都合上、次章にて扱いますのでそちらを参照してください

おわりに

高度なタスク管理としてプレーンテキストによるタスク管理(PTTM)文芸的タスク管理(LTM)、そして本章にて探索的タスク管理(ETM)を紹介しました。

指向的・探索的アプローチの話から始まって、従来のタスク管理とは全く異なるあり方を整理してきましたが、無論この ETM が探索的な状況における唯一解ではありません、本章で挙げたこと以外のやり方や考え方もあるでしょう。特に本章では No ABCD など大胆な原則を定めており、誰もがすぐに適用できるほどかんたんで利便性の高いものではありません。

それでも従来成す術がなかった探索の領域に、新たな可能性を提示するものと思います。