Chapter 17

動線とリマインド

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2024.09.10に更新

タスク管理でも最終的には行動が必要ですが、その行動を担うのは私たち人間です。一方で、特に現代人は忙しく、疲れやすいため、適切なタイミングで行動できる(行動するために思い出すことも含む)とは限りません。一般的にはカレンダーで予定をつくって、それを眺めて忘れないように祈りますが、それでも忘れてしまうことがあります。そうでなくとも目覚まし時計――アラームの概念が古典的によく使われているように、人間の性能そのものがポンコツなところもあります。私たちは自力で毎日決まった時間に起きることすらままならないほどポンコツなのです、がポンコツなままで許される人は稀でしょう。

よって必要に応じて行動できる、特に行動できるよう思い出せる(ようになる)ことは非常に重要です。これを担うのが動線とリマインドです。本章では動線とリマインドについて取り上げます。実は、単に行動できるようになりたいなら「環境や人の力に任せる」ことでも可能ですが、本章では取り上げません。本章ではあくまでも環境や人に頼らず、自分のみで、動線とリマインドに頼ることで行動できるようにすることを目指します。

動線

動線の概要

個人タスク管理の章でも少し取り上げました が、改めて書くと、動線 とは毎日頻繁に通る場所のことです。トイレのドアやオフィスの机など物理的な場所には限定せず、PCのデスクトップ画面、スマホのホーム画面、仕事で毎日使っているチャットツールなども動線の一種と言えます。

何が動線であるかは人によって違います。また、同じ人であっても動線は変わることがあります。極端な話、引っ越しをしてしまうと物理的な動線は何から何まで変わりますよね。同様に新しいツールを採用したり、同じツールでも使い方を変えた場合にも動線が変わることがあります。

動線は忘迷怠を減らす

動線を使うと忘迷怠を減らせます。動線は頻繁に通る場所ですから、そこにタスクを置いておけば頻繁に目にするはずです。目にすれば行動できる可能性も高くなるはずです。たとえば前日寝る前にゴミ袋を玄関ドアに置いておけば、翌日出社で外に出るときに忘れずごみ捨てを行えると思います。

と、先ほどから「はず」とか「思います」などとぼかして書いてますが、そのとおり、絶対ではありません。あくまでも目に入る機会を増やすだけです。目に入ったからといって忘れないわけではないし、まして迷いや怠けをなくせるわけでもありませんし、それでなくせるなら苦労はしません。それでも、目に入ることさえなければほぼ 100% 忘れたままです(何もせず自然に思い出せるならそもそもタスク管理は不要)。動線上にタスクを置いて目に入る機会を増やす――行動できる確率を上げるのは、極めて現実的な営みなのです。

動線にタスクを置く

動線にタスクを置く、とはどういうことでしょうか。

まず例を挙げましょう。現在、平日の昼で、在宅勤務で自宅にいるとします。終業後に買い物に行きたいので「買い物」と書いた紙に書いたとします。このままだと終業後に思い出せるとは限らないので、この紙を動線に置きましょう。置き場所は多数考えられます。

  • 1: ドアに貼る
    • 冷蔵庫、トイレ、玄関
  • 2: 紙を丸めて靴に入れておく
  • 3: 私有のカレンダーの、終業後の予定として「買い物」を入れておく
  • 4: 普段から多用している X に「今日は買い物する」とポストしておく
  • 5: 自分で自分に「買い物」とメールしておく
  • 6: 会社PCの収納先の棚の中に、紙を入れておく

以下、順に見ていきましょう。同時に重要な概念も取り上げていきます。

ネグレクテッド

  • 1: ドアに貼る
    • 冷蔵庫、トイレ、玄関

1: のドアに貼る案は、手軽ですが形骸化も容易です。冷蔵庫、トイレ、玄関はいずれも終業後より前に一度は通るでしょう。そのときに目にして「うん、終業後は買い物だよな」とそこで認識するのはいいですが、終業後にこれを思い出せるとは限りません。かといって、終業後にもう一度ドアを都合よく見るとも限りません。

加えて、仮に見たとしてもスルーしてしまう可能性がおそらく高いです。というのも、一度見て認識した項目を、あとでまた見ても認識しなくなるからです。「やっぱいいや」と確信的にスルーするのではなく、そのような判断すら介在せず、あえて言うなら無意識・無自覚レベルで読み飛ばしてしまいます。これを ネグレクテッド(Neglected) といい、個人タスク管理では非常によく遭遇する現象です。いつネグレクテッドになるかは人次第、状況次第ですが、筆者のようにストイックにタスク管理をまわせる人でも起こります。

動線による忘迷怠の軽減は、ネグレクテッドとの戦いでもあります。ネグレクテッドが起きないように、動線のどこに何を置くかを設計しなければならないのです。これを 動線のデザイン といいます。動線のデザインは、あなた自身の仕事です。将来的に動線デザイナーのような役割も登場するかもしれませんが、現時点では先進的すぎて(あとマネタイズが難しくて)まだ出ないでしょう。自分で設計することからは避けられませんし、ここが嫌なら動線による忘迷怠軽減は諦めてください。動線のデザインについて、また後で取り上げます。

アクティブリマインド

  • 2: 紙を丸めて靴に入れておく

この 2: は、特定の行動(この場合は靴を履く)時に発動するよう仕込んだとも言えます。実はリマインダーの一種です。リマインダーというと指定時間にアラームが鳴るよう仕込みますが、一般化すると「何かが起きたら知らせる」わけで、その何かとして「靴を履いたら」を使っているわけです。ただ、靴を履いたら、を仕組みとして直接検出することはできないので、靴に何かを入れておけば履いた時に気づけて事実上検出できるよね、としています。

このやり方のメリットは、まさにリマインダーの効果もそうですが (向こうから)強く訴えてくる ことです。目覚まし時計のアラームは一番わかりやすいですが、めざわりな音で聴覚的にうったえてきますよね。この 2: の案も、足裏や足指先の触覚にうったえるという意味では、それなりに強い訴え方と言えます。少なくとも文字を目に入れて自分の意志で読むよりはずっと強いです。強い分、行動しようという気にもなります。はっとするわけです。

このように仕組みの方から訴えてくるリマインド手法を アクティブリマインド といいます。デジタルツールを多用する人はポップアップメッセージや通知ダイアログなど視覚で訴えるものが馴染み深いでしょう。そうでなくとも目覚まし時計アラームなど聴覚的なものは誰もが知っているはずです。スマホだと音だけでなく振動(バイブレーション)で伝えることもできますが、これはポケットに入れているときは触覚的に伝えるとも言えます。靴に紙を入れておくのもこの触覚のカテゴリです(※1)。

    • 1 五感として残りは嗅覚(匂い)と味覚(味)がありますが、これらを用いたリマインドはまだ無いと思います。そのうち開発されるかもしれませんが、とっさに匂いを出したり、何かを口に含んだりは難しいと思うので、あるにしてもおそらく遅効的――少しずつ滲み出させて気付かせていくタイプのリマインドになるとは思います。

トラップリマインド

  • 3: 私有のカレンダーの、終業後の予定として「買い物」を入れておく
  • 4: 普段から多用している X に「今日は買い物する」とポストしておく
  • 5: 自分で自分に「買い物」とメールしておく
  • 6: 会社 PC の収納先の棚の中に、紙を入れておく

3: のやり方は、「カレンダー」という実行確度の高い――そのとおりに行動する可能性の高いツールに仕込んでいると言えます。これを トラップリマインド と言います。未来の自分にやらせるために、前もって仕込んでおくニュアンスです、と言うと小難しく聞こえますが、予定の設定は誰もが使っているかと思います。それを使って、予定としてタスクを入れておくわけです。

やり方はカレンダーに限りません。たとえば毎日何度も見る TODO リストを持っているとして、毎日必ず項目を全部つぶしているような生活習慣が確立されているとしたら、このリストに一行書き足すだけで十分でしょう。もちろん先送りの癖がついている場合はネグレクテッドが発生しやすいため注意が必要です。

4: のポストや 5: のセルフメールについては、人によってはトラップリマインドになりえます。X を頻繁に使っており、誤字脱字をチェックしたくて自分のポストを何度も見返す人なら 4: でも買い物を思い出せると思います。あるいはそうでなくとも、X をひとり用の鍵アカウントで使っていて、日記帳 TODO リストのように使っている場合でも、おそらく思い出せる可能性が高いでしょう。メールについても、終業後にプライベートのメールをチェックする習慣があるとしたら、そのタイミングで気付けるはずです。

6: の会社 PC 収納先も同様で、仮に毎日在宅勤務を終えるときに、会社 PC 一式を専用の棚に収納する習慣があるとしたら、その棚は「終業時にアクセスする動線」となっているわけですから、ここに紙を置いておくことで「終業時に目にする」をデザインできます。逆にこのような習慣がないか、定着していない場合は意味がありません。

いずれにせよ、トラップリマインドとは実行確度の高い部分に仕込むことを意味します。ここを見誤るとタスクを実行すべきタイミング(この場合は終業後)までに認識できなかったり、あるいはそれ以前に何度も認識してしまってネグレクテッドが起きたりします。

ちなみに筆者がやるとしたら、(3~6のいずれでもありませんが)毎日何度も見ている TODO リストがあるので、ここに書き足すでしょう。あるいは 6: も使えそうです。筆者は在宅勤務終了時に、メリハリをつける意味でも会社 PC 一式を必ず別の部屋に収納しているので、ここに仕込むと確度は高いです。具体的には、PC 一式をバッグに入れて吊るしているので、フックに紙をぶっ刺しておく、とかですかね。

動線のデザイン

動線にタスクを置いて忘迷怠を軽減するには、動線のデザイン――どの動線に何を置いておくかをよく考えて置くことが重要です。

まず不便なので一つ用語をつくります。動線にタスクを置くことで忘迷怠を減らすことを 動線リマインド と呼ばせてください。動線にタスクを置くことで、あとで思い出せるようにする(リマインドさせる)ということです。さて、動線のデザインとは動線リマインドをどう仕込むか、とも言えます。

ネグレクテッドもロストも回避する

前提として動線リマインドの性質――実行タイミングというものが存在します。ここまでの例では「終業後に買い物したい」であり、「終業後」というタイミングがありました。

さて、リマインドの頻度ですが、このタイミングを自然に満たしたいです。多すぎると形骸化します( ネグレクテッド )。逆に少なすぎるとタイミングを逃してしまいます(ロスト と呼びます)。

つまりネグレクテッドが起きないよう少なめに、しかしロストしないように早く、とのバランスが欲しいのです。このバランスを担保できるように、動線のどこに何を設置するかを考える必要があります。

ハブとジョイントを使い分ける

次に押さえたいのが動線の種類です。ハブとジョイントの二つがあります。

  • ハブ(Hub)
    • 「拠点」の意
    • ホームポジションと言い換えても良い
    • 一日のうち、ここを起点にして行動する、というような場所のこと
    • 何か行動してはここに戻ってきて、また行動しては戻ってきて、を繰り返す
    • 何らかのツール、ファイル、リストなど「普段から使っていて」「自分でも書き込める」場所がハブに相当する
      • ≒何らかの画面、または記入領域になる
  • ジョイント(Joint)
    • 「関節」の意
    • よく通る通過点のこと
    • ハブ以外の動線はすべてジョイントと言える
    • 玄関のドアはここに該当する
    • 毎日複数回チェックするが、自分では書き込めない場所(情報収集全般やコミュニケーションツール全般)もここに該当

まずはハブにまとめ、オプションでジョイントを

動線リマインドは基本的にハブが望ましいです。ハブは言わば、自分にとって手慣れた作業場であり、ここにタスクをささっと書いておけば、あとで思い出せるはず――との安心感と安定感があるからです。もちろんハブ次第では安定感が出ないこともあります。筆者は TODO リストでも安定的に忘迷怠なくこなせますが、それだと上手くいかずカレンダーに頼らないといけない人もいるでしょうし、カレンダーでもダメだという人もいるでしょう。

ハブがない人はハブをつくるところからです。これは(ツールを用いた)習慣をつくることにも等しいので、それなりに難しいです。カレンダーを日々使っている人はそこがハブになるでしょう。戦略の章で言えば、デイリーエリアも比較的採用しやすいと思います。他にも戦略はあるので参考にしてみてください。また次章では習慣を扱っており、こちらも参考になるかと思います。

ハブがあるからといって、タスクを置けば済むかというとそうとも限りません。すでに述べたとおり実行に適切なタイミングというものがあり、ここを尊重できないとネグレクテッド(リマインドしすぎて形骸化)かロスト(リマインドが遅すぎて行動できず)が起きます。こればっかりは、実際に置いてみて試してみるしかありません。目安は よほどのビジーやイレギュラーがない限り、置けばほぼ 100% 忘れることなく処理できる です。これができない場合、あなたのハブは動線リマインドには向いていません。あるいは、あなた自身が動線リマインドに向いてない可能性もあります。

とはいえ最低限忘れることを防げれば OK です。忘迷怠のうち、迷うことと怠けることはよくありますし、筆者もちゃんと認識した上で「今日はだるいし買い物しなくていいか」と怠けることもよくあります。それはそれでいいのです。単に忘れてしまっているのと、忘れず思い出すことができた上でサボるのとでは天地ほどの違いがあります。前者はただ忘れているだけですが、後者は意思決定です(意思決定も処理の一種であり、意思決定の結果として先送りすることも立派な処理です)。

次にジョイントですが、ハブで上手く運用できない場合や、ハブで運用するのが面倒くさい場合にジョイントを使います。筆者の場合、ごみ捨てを忘れないようにゴミ袋を玄関に置いておいたり、直近買いたい日用品を玄関の棚に付箋で貼り付けたりしていますが、これは玄関というジョイントにタスクを置いている例です。私は習慣として毎朝ごみ捨ての時間帯の前に必ず一度は散歩か運動をしますし、買い物時には棚の付箋をチェックするよう染み付いてもいるので、これで忘れず処理できます。普段使っているハブ(TOOD リスト)に記載する必要はありません。

しかし一般論を言えば、ジョイントにタスクを置くのは面倒くさいし、定着する・しないも激しいので、できればハブに集約したいのです。そういう意味でハブが望ましいと書きました。個人差もありますので、ジョイントに置くだけで済むならそれでも構いません。

ちなみに、個人差は本当にあるようで、知人は「玄関前にゴミ袋を置いていたが、またいでスルーしてしまったから信用してない」のようなことを言っていました。そういうケースもあるんだなぁと思ったものです。逆に筆者は身体感覚や空間認識には敏感かつ機敏な方で、物理的に置いておけばまず気付きますし、気づけば処理しますが、一方で文字の読解はいいかげんなもので、ネグレクテッドは非常によく起きます。特にリモートワークになってから毎日出社時と退勤時に報告する必要があるのですが、出社報告をすっぽかしたことが何度もあります。ちゃんと TODO リストに書いているにもかかわらず、ネグレクテッドが発生して、なぜかすっぽかしてしまうのです(他の行動は問題ない)――と、このように本当に個人によって上手くいったりいかなかったりするので、すでに述べたとおり、動線のデザインは自分で試行錯誤していくことが重要です。奥深いものです。

RSAF サイクル

動線リマインドとしてハブを使う際に、心がけると良いあり方が RSAF サイクル です。

rsaf

RSAF とは以下のサイクルを指します。

  • 1: ツールを見る(Read)
  • 2: タスクを選ぶ(Select)
  • 3: 行動する(Act)
  • 4: 行動後、ツールに戻ってきて状況を更新する(Feedback)

RSAF サイクルは、いわばツールをハブにしています。ツールとは何らかのタスク管理ツールです。手帳だったりスマホアプリだったり PC で使ってる Web アプリだったり、あるいは見せ方もリストだったりテーブルだったりボードだったり、と色々ありえますが、ともかく何らかのツールを使っているわけで、このツールをハブにするのです。

といっても、いきなりお使いのタスク管理ツールを RSAF 的に使うのは難しいでしょう。そもそもお使いのツールが定まってないかもしれません。段階としては、以下のようになります。

  • 1: 選定の段階
    • タスク管理として常用しているツールがないのなら、まずは一つ決める
  • 2: 親近の段階
    • 1 のツールを、既存の動線(ジョイントでもハブでもいい)に置く
    • 置けば触れる(使う)機会も増えます
    • よく知らない人と親しくなるために、会う機会を増やすイメージです
  • 3: RSAF の段階
    • 1 のツールを RSAF 的に使う
    • つまり普段扱うタスクをなるべく全部ツールに入れて、RSAF 的に過ごします

前段として、選定と親近が必要というわけです。あちこち色んなツールに浮気していては定着しないので、これを使うんだと決めてください。そして実際に使う機会を増やすために、既存の動線に仕込んでください。やりやすいのは「ツールにタスクを追加する」とか「ツール内のタスク一覧を見る」といった指示を書いて、動線に置いておくことでしょう。もちろん、動線に仕込まず自分の意志でこまめに使える人はそれでも構いません。ここは人付き合いと同じです。

たとえるなら「親友をひとりつくる」ようなものです。親友をつくるためには、まずはコミュニケーションの機会を増やして仲良くならないといけません。機会をどう捻出するかは人次第ですよね。定期的に予定をつくるかもしれませんし、不定期で会って適当に喋ることを繰り返すだけでいける人もいるでしょう。もちろん、機会を増やしたからといって必ず親友になれる保証はなく、合う合わないはあります、合わない場合は距離を置くでしょう。ツールも同じで、このツールなら自分と合いそうだというものと出会える(あるいは自分が見出す)まで試行錯誤は続きます。

そうして一つのツールにある程度触れられるようになってから、ようやく RSAF サイクルを試せます。普段の生活で扱うタスクをなるべく全部ツールに入れた上で、常にそのツールを見て次の行動を決めるようにします。これはGTDでいうネクストアクション(の実現)そのものであり、別の言い方をすれば ツールに従って行動する機械になれ ということです。だからといってロボット戦略を取る必要はなく、何度も言うようにツールは色々あり、ツールの使い方も色々あります。自分の好みで構いません。また親友のたとえをしますが、親友の価値は親友が優秀かどうかではなく、親友と合うかどうかだったり、長らく過ごしてきたことによる信頼関係や愛着だったりしますよね。ツールも同じことです。自分に合うものを使ってください。

リマインド

リマインドの概要

リマインド(Remind) とは指定タイミングに指定要件を思い出させる仕組みです。事前にタイミングと要件を仕込んでおくと、そのタイミングになったときにその要件が何らかの形で知らされます。たとえ要件を忘れていても、知らされれば思い出せるので問題ないわけです。

リマインドを行う手段を リマインダー(Reminder) と呼びます。またリマインダーによって設定された個々のリマインド設定をリマインダーと呼ぶこともあります。リマインドを自分だけで実現するのは不可能ですから、リマインダーなる道具を使う必要があるのです。

リマインドのメリット

リマインドのメリットはただ一つで、予定を確実かつ手間なく思い出せること です。予定というと開始時間を守らないといけない事柄ですが、意識するだけで守れるとは限りません。かといって常にカレンダーを見ておくわけにもいきませんし、見たとしても思い出せるとは限りません(特に忙しいとき)。しかしリマインダーを設定していると、開始前に知らせてくれるので思い出せます。知らせてくれさえすれば思い出せるのです――と、まるで 100% のように書いていますが、もちろんそんなことはありません。それでも何も設定しないよりははるかに確率は上がります。

何より、一度設定しておけば、あとは忘れることができる(思い出せてくれるから忘れても問題ない)のが大きいです。予定を常に意識しておくと疲れますが、リマインダーを設定しておけば意識を捨ててセーブできます。

自分ひとりで完結できるのもポイントです。権力や経済力がある人なら、部下に頼んだり秘書やマネージャーを雇ったりすればいいだけですが中々そうもいきませんし、あらゆる用事を任せられるわけでもないでしょう。リマインダーであれば、自分ひとりで設定できます。

まとめると、以下のようになります。

  • 何もしない → 忘れる
  • 常に意識する → 忘れにくいが、疲れる
  • 人に頼る → 力が必要だし、何でも頼めるとは限らない
  • リマインド → 忘れても思い出せる、疲れない、設定は自分で行う必要がある

リマインドはバランスの良い方法なのです。

リマインドの限界

リマインドが行えるのは要件――事前設定した「思い出すためのヒント」を提示するところまでです。それを受けた上で実際に思い出したり、行動したりといったところは自分にかかっています。リマインダーはそこまではしてくれません。

ただしリマインダー側で工夫することはできます。リマインドの強度を上げる と表現しますが、より確実に思い出せるように、またすぐ行動に起こせるように、強めの設定を行うのです。

たとえば以下は、番号が大きいほど強度が挙がっています。13:50、つまり 10 分前にリマインドするものと考えてください。

  • 1: 画面上に「14 時」のメッセージを出す
  • 2: 画面上に「14 時から会議」のメッセージを出す
  • 3: 画面上に「14 時から昇格面接」のメッセージを出す
  • 4: 画面上に「14 時から昇格面接」のメッセージを出す + アラーム音も鳴らす
  • 5: 4 のリマインダーを 13:50 のみならず 13:30 にもセットする

1~3 はメッセージだけですが、3 の方が具体的で重要性を思い出しやすそうです。4 については音も出しているので、はっとして行動を切り替えやすいでしょう。5 については、リマインダーを 2 つに増やしています。かつ、13:50 という 10 分前でなく、30 分前にしていることで、おそらく行動にも余裕が生まれるでしょう。仮にそこを逃してたとしても、従来の 13:50 でもう一度思い出せるチャンスがあります。

特に 1 と 5 を比べると、5 の方がリマインダーとしてかなり強いことがわかるでしょう。その分、 5 のリマインドは設定の手間も(おそらく 1 よりもだいぶ)面倒くさそうです。強度と手間はトレードオフです。

リマインダーは様々

リマインダーとして何が思い浮かぶでしょうか。数個くらいの人が多いと思いますが、実は様々なものが存在します。

アクティブリマインドの例

一番有名なのは目覚まし時計でしょう。事前に起床時刻を設定しておくと、その時間が来たときに音(アラーム)で知らせてくれます。目覚まし時計は以下の性質を持つリマインドということができます。

  • 目覚まし時計
    • タイミング = 起床時刻
    • 要件 = 起きる
    • 知らせる手段 = 音(アラーム)

ただし、目覚まし時計に要件(言語として記述される必要があります)を設定する機能はありません。ツール自体が「目を覚ますための道具」なので、要件は言わずとも固定されており、「起きる」としています。何のために起きるかはわからず、ここは自力で思い出せなくてはなりません。

次にスマホなど携帯電話のアラーム機能を思い浮かべてください。目覚まし時計と違うのは、メッセージを表示させたり振動(バイブ)させたりが可能なことです。性質を見てみましょう。

  • 携帯電話のアラーム機能
    • タイミング = 起床時刻
    • 要件 = 指定可能
    • 知らせる手段 = 音(アラーム)、振動(バイブ)

目覚まし時計よりも豊富であることがわかります。要件を思い出せない人なら事前にちゃんと書いておけばいいですし、音がうるさくて鬱陶しいと敏感な人ならバイブだけで済むかもしれません。また、設定も複数つくれるので、7 時に起きたいとしたら 6:30、6:35、6:45 など多段で設定することもできます。

次に、録音目覚ましという手段を考えます。これはアラーム音として自分が録音した音声を使う目覚ましです。iPhone の例になりますが、音声を自分で準備すれば純正でも可能ですし、アプリもあります。

  • 録音目覚まし
    • タイミング = 起床時刻
    • 要件 = 指定可能
    • 知らせる手段 = 音(録音した音声)

知らせる手段が音である点は変わりませんが、使う音声が変わっています。何なら変えられます。アラーム音では起きれない人や、アラーム音だとノイジーすぎてすぐに切って無視してしまう人にも効果があるかもしれません。

すでに述べましたが、これらは仕組みの方から働きかけてくれるものであり、アクティブリマインドと呼びます。

トラップリマインドの例

アクティブリマインドほど確実性はないですが、リマインドとして機能する手段は他のもあります。

これもすでに挙げましたが、トラップリマインドです。動線上にタスク(を想起するもの)を置いておけば、自然と目に入るので思い出せる、というものです。たとえば平日出社する前にごみ捨てを忘れず行ないたければ、前日の夜にでもごみ袋を玄関に置いておきます。玄関は、出社する際に必ず通る動線のはずですから、出社前にちょうどごみ袋が目に入るはずです。

これも性質として記述してみましょう。

  • 玄関ドアに物タスクを仕込む
    • タイミング = 玄関を通るとき
    • 要件 = 置いた物から思い出す必要がある
    • 知らせる手段 = 目に入る

ちなみにトラップリマインドは、仕掛け方を工夫すればアクティブリマインドになります。すでに「タスクを書いた紙を靴に入れておく」例を挙げましたが、視覚以外の五感に訴える手段(この場合は触覚)を使うと、より気づきやすくなるのです。強度が強いわけですね。これも性質を挙げておきます。

  • 靴の中に「タスクについて書いた紙」を入れる
    • タイミング = 靴を履いたとき
    • 要件 = 紙を踏んだときに思い出すか、紙を広げて読んで思い出す必要がある
    • 知らせる手段 = 足裏または足指先の触感

ごみ袋を置いておくやり方と似ているようで、だいぶ違うことに注目してください。どちらでも通用する人はかんたんな方を使えばいいですが、片方しか通じない人は通じる方を使った方が良いですし、どちらも通じない人は別のリマインド方法を考えなくてはなりません。

ロケーションリマインド

ロケーションリマインド とは、特定範囲に入ったら or 出たらリマインドする、というものです。また iPhone の例になりますが、リマインダー機能に搭載されており、位置情報を追加することで行えます

使い道は色々あります。会社を出たらリマインドする、自宅に近づいたらリマインドするなど普段の行動のどこかに仕込めば、定期的なタスクを忘れずこなせます。

他にも普段は足を運ばないデパートに近づいたらリマインドする、としておけばそのデパートで買いたかったものを買うかどうかをそのとき(そのデパートに近づいたとき)に判断できます。思い出せる自信がないなら「~~を買うかどうか決める」など要件もちゃんと書いておくと良いでしょう。このようなリマインドは何気に重要で、これを設定しておけば頭の片隅からも捨てることができます。デパート一つだと実感が湧きませんが、仮に買い物好きで色んな場所に行くようなライフスタイルなのだとしたら、ばかにならないと思います。たとえば 10 の場所分を全て頭の片隅で意識しておくのと、さっさとロケーションリマインダーをつくって忘れておくのとでは、だいぶ負担に違いが出ます(※1)。

    • 1 このように要件を頭から外に出して忘れてしまうことは重要です。頭に留めておくと疲れますし、集中や注意も削がれやすいからです。一つ一つ、一瞬一瞬は微々たるものでも、これが何時間、一日と続くと結構な負担になります。別のたとえをすると、貧乏で収入や出費をいちいち気にする人と、ある程度余裕があって些細な支出を一切気にしなくていい人とで、どちらが認知的に余裕があるかといえば後者です。言うなれば、リマインダーは認知資源という貴重なリソースを節約する節約術 とも言えます

ヒューマンリマインド

本節冒頭では人に頼ることはリマインドではない、のような書き方をしましたが、あえてリマインドとして頼ることもできます。これを ヒューマンリマインド と呼びます。

以下に例を挙げます。下に行くほど使いやすいと思います。

  • 秘書にスケジュール管理全般を任せる
  • 部下に「会議忘れてそうなら声掛けてくれ」と頼んでおく
  • 同居人と普段から予定を共有しておく(忘れていたら思い出させてくれることを期待)
  • 友達にモーニングコールをお願いする

人に頼る分、仕込むのがかんたんなのがメリットです。特にツールの扱いに慣れてなかったり、いちいちツールを操作して仕込むのが苦手な人には向いています。一方で、容易に想像できるように、融通が利きづらい上に不確実性も高いのがデメリットです(一部の秘書など高品質な手段は除く)。また冒頭でも挙げましたが、要件の内容を相手に教える必要があるため、機密性の高いものやプライベートすぎる内容も扱えません。

余談ですが、個人的には、このヒューマンリマインドを誰でも活用できるような仕組みがあったら流行る気がします。推しを持つオタクの人向けに推しがコールを行うとか、友達間でグループをつくってリマインドし合うとか、見ず知らずの誰かのリマインドがたくさん漂う世界でボランティア的に誰かに(リマインドとして)声を届けるなど、色々できそうな気がします。リマインダーが非常に有用な手段である割に、あまり使われていないのは、面倒くささと味気無さによるものだと思っています。人の介入や人の声には、それらに抗える魅力があります。

雰囲気リマインド

本章冒頭にて「環境や人の力に任せる」件は扱わないと書きましたが、少しだけ取り上げます。

環境の力を借りるリマインド手法として 雰囲気リマインド(Atmosphere Remind) があります。一番わかりやすいのは学校で、移動教室や体育など何かと慌ただしいですが、基本的に問題なく追従できると思います。これは教室という場があり、そこにクラスメイトや先生が居ることによって雰囲気が存在するからです。この雰囲気が「次は移動だ」との圧力をかけてきます。よほど外界を遮断していない限りは気付けますし、そもそも集団生活では「次に皆が参加するべき予定」の形で制約されていることが多いですから「ああ私も参加しないと……」とその気になりやすいです。ヒューマンリマインドと同様、不確実性は高そうですが、意外と強度があります。

デメリットとしては、リマインダーの融通が利かないことです。基本的には何らかの集団生活に身を置き、かつ同じ場所に物理的に集まる必要があります。最近ですとバーチャルオフィスがあるのでリモートでも可能ですし、Remotty などリアルタイムに顔写真を共有させることで皆の様子を可視化するものもあったり、と後者の集合手段についてはある程度融通を利かせられますが、「14 時の会議をリマインドしてほしい」といった個人的なリマインドには応えられません。あるいは雑談が活発な組織であるなら「私、14 時から会議なんすよ~、前もすっぽかしたんで怒られないようにしないとですねあはは」のようにヒューマンリマインドに持ち込む(誰かが覚えていてくれる&自分が忘れていたときにツッコんでくれることを期待)こともできるでしょう。

余談: なぜ出社するのか

雰囲気リマインドの余談ですが、長くなったので新しい項にしました。

パンデミック以降リモートワークが実現可能だとわかったにもかかわらず、出社に回帰する動きが目立ちます。GAFAM もハイブリッドワーク(週に n 日は出社せよ)ですよね。なぜかというと、従業員のタスク管理能力が乏しいからです。タスク管理が十分行えるのならタスクにせよコミュニケーションにせよ(予定を忘れることなくこなすための)リマインドにせよ問題なく行えるはずですが、これには強い自律性とスキルが求められます。自然に身につくものでもありませんし、学術的な体系があって勉強できるわけでもありませんし、そもそも個人差が大きすぎて体系化できるものでもありませんし、と身につけている可能性も低いです。筆者が本書を書いた理由の一つは、そのような現状を憂いてのことでもあります。

そもそも現代のビジネスは「多忙なシチュエーションに身を置いて瞬発的に行動していく」「密に連携していく」を是としており、その根幹は生産性競争を是とする搾取的価値観にあると私も考えます(他にも成功者や権力者のメンタルモデルが偏っている等もありますが割愛)。

この多忙縛りとも言うべきあり方にはタスク管理もリマインダーもさして役に立ちません。次に何をするかは雰囲気が教えてくれるし、何なら雰囲気に従わなければならないからです。つまり強度強めの雰囲気リマインドが使われているに等しいです。たとえば会議についても、その場で「ちょっと話そうか」と始めたり、あるいは雑談中に仕事の話が始まったりします。

まとめると「多忙縛りなやり方で成果を出せている」、かつ「タスク管理やリマインダーを使いこなすスキルと自律性はおそらくない」の双方が備わっています。後者を使えばリモートワークでも仕事はできますし、リモートなので出社よりも各自のペースを尊重できて QoL も上がりますが、前者ができて後者ができない状態でこれを目指すかというと、ノーではないでしょうか。

リマインダーをつくるには

リマインダーをつくる際の戦略は二つあります。

一つが オンデマンド戦略 です。On Demand――要求があったらすぐに、とのニュアンスですが、「あ、これリマインダーにしておいた方がいいな」と気付いたら、その時点ですぐ行動して設定します。これはスタンスの章で取り上げたスプリンターそのもので、タスク管理ツールに入れるのすら面倒だし、すぐ終わるんだからその場でやってしまおうというわけです。逆を言えば、リマインダーの設定を「すぐ終われる」レベルで行えるようになっておく必要はあります。リマインダーを手元に持っておくことと、設定や運用などに手慣れておくことですね。たとえば筆者は「2週間後に面談があるから準備しておくように」と言われたとしても、(PCが手元にあるなら)その場ですぐに「面談当日のリマインダー」と「面談以前にどこか3日くらいチェックポイントとしてのリマインダー」を仕込むことができます。1分もかかりません。メモの章にてメモは素早く書くことが大事と書きましたが、同じことです。この手先の早さは妥協せず、とことん追求してください。早ければ早いほどスプリントしやすくなります。

もう一つが 定期戦略 です。筆者が使っているのは「カレンダーの今日の予定を見て、それぞれ 10 分前にリマインダーを入れろ」タスクを平日朝一に設定している、というものです。これにより毎日出社時に筆者はカレンダーを見て、予定がたとえば 3 つあったのならリマインダーも 3 つ登録します。会社の iPhone のアラームを使っており、すでに何度も使っているので 9:50、10:20、10:35、10:50 など選択肢がたくさんあります。選んでオンにするだけです。用件はいちいち入れていません、アラームを聞けば何の会議か思い出せるし、思い出せなくてもカレンダーを見ればわかる(そもそも大体リモートなのでカレンダーが会議開始の動線でもあります)からです。つまり一日一回、今日の予定をリマインド化するタスクを入れているわけですね。筆者はこれで足りていますが、別の頻度でも構いません。肝心なのは「リマインダーを設定するタスク」を定期的に仕込むことです。タスクだとわかりづらいなら予定でも構いません。まずは定期戦略に慣れる意味でも、頻度は毎日が良いでしょう。一日の最初にその日必要なリマインダーを全部セットする、から始めてみるのです。

この二つの戦略は併用すると便利です。定期戦略により今日の予定を取りこぼさなくなりますし、ちょっと離れた予定や仕掛けておきたい用件などはオンデマンドでさっさとやります。オンデマンドが苦手なら、週に一度くらい「リマインダーを設定する会」なるものを開催するのもいいでしょう。

どちらの戦略にせよ、重要なのは リマインダーを仕込む機会を意識的に確保する ことです。馬鹿らしくて、面倒くさいかもしれませんが、仕込みとはそういうものでしょう。このちょっとの手間により、頭の外に追い出せてしかも忘れない(というより直前で思い出させてくれる)ようになれるのですからお得です。

まとめ

  • 動線やリマインドを工夫することで忘迷怠を減らせる
    • 特に予定など「開始タイミングを逃すと問題になる事柄」を忘れないために使う
  • 動線にタスクを置いておくと、目に入るので思い出せるし、思い出せたら行動できる
    • タイミングが早すぎると認識から落ちる(ネグレクテッド)
    • 逆に遅すぎるとそもそも開始が間に合わない(ロスト)
    • ネグレクテッドもロストもしないバランスが重要だが、この設計や調整は意外と難しい(動線のデザイン)
  • 動線にはハブとジョイントがあるが、可能ならハブを確立したい
  • リマインダーはよく知られているが、やり方は意外と豊富
    • リマインダーは知らせてくれるところまでしかしない。行動に確実に繋げたいなら強度を強くするべきだが、仕込む手間とのトレードオフである
    • ヒューマンリマインドや雰囲気リマインドなど、不確実だがツールに頼らなくてもいいやり方もある
    • 必要なときにすぐ仕込むことと、定期的に仕込む機会をつくって備えることの両輪を使うと死角がない