メモの概要
概要
メモ(Memo) とは、あとで処理することを想定した一時的な記述を指します。
今すぐ処理はできないが、何もしないと忘れてしまうためささっと書いておくのです。もちろん、書いただけでは意味がないため、あとで読み返さなくてはなりません。また読み返すだけでは意味がなくて、そのメモが想定しているはずの行動もちゃんとするべきです。最後に、メモがいつまでも残っていると邪魔ですから処分も必要です(問題ないなら放置も可能)――と、言葉にするとなんだか大げさですが、メモを正しく扱うためにはこの流れを押さえておきたいです。
メモのフロー
メモの流れを図でも示します。
書く → 読み返す → 行動と処理、の 3 段階になっています。
読み返すときは一度の読み返しで次に進むのが理想ですが、そうならないときもあります。つまり同じメモを複数回読み返すことがあります。たとえば「読んだけどよくわからなかったのでスキップしよう」と明日以降に先送りしたりします。
行動と処理については、行動とはメモが表す内容に取り組むことであり、処理とはメモ自体をどうするか(捨てるか消すか放置するか等)という話です。たとえば新しい水筒を買いたくて「水筒」というメモがあったとき、行動というと Amazon で水筒を探してブクマしたり、今すぐ近所の店に出かけて買いに行ったり、今日の退勤時に買いたいからとリマインダーを仕掛けたりといったことを指します。処理というとそのメモを消すのか、放置するのかといったことです。付箋で書いて貼り付けているならその付箋を捨てるでしょうが、日記に書いているとするならおそらく放置するでしょう、あるいは打ち消し線を引くかもしれません。
メモは任意
メモのフローにおいて重要なのは、行動はしないが処理するケースもあれば行動はするが処理しないケースもあるということです。もっと言えば行動しなくてもいいし、処理しなくてもいいわけです。別の言い方をすると、行動できたらいいな、処理できたらいいな、です。できたらラッキー の気持ちですね。
メモとタスクは違います。タスクはやらなきゃいけないものもありますが、メモはそうではありません。もしやらないといけないメモがあるのだとしたら、それはタスクとして扱うべきです。
一般的にメモはたくさんつくられます。慣れてない人や必要ない人はほとんど書かないと思いますが、慣れてくると「書けば書くほど便利」になるので、メモはどんどん増えます。たとえば後でやりたいことが 1 日平均 10 個浮かぶとしても、メモを適切に扱えれば 全部回収できます。1 年で 3650 個のメモを扱えることになります。もちろん全部に対して行動できるわけではありませんが、それでも 3650 個を扱えているわけです。全く扱わない人との差(たとえば QoL の差)は歴然でしょう。さて、3650 という数字を見てもわかるように、メモを全部律儀に処理できるかというと、まず不可能です。よって、できたらラッキーくらいの気持ちで割り切ることが求められます。そうでないと不出来な自分に落ち込んでしまい、メンタル上よろしくありません。完璧主義な人は挫折しがちですが、そもそも完璧主義を捨てねばならないのです。
メモの扱い方
ではメモはどのように扱えばいいのでしょうか。またタスク管理はどう役立てればいいでしょうか。フローの各ステップごとに解説します。
メモを書くとき
最も重要なのは素早さです。一秒でも早く書き始めることができて、一秒でも早く書き終えられるのが望ましいです。一秒どころか 0.x 秒でさえも突き詰めたいです。それくらいのつもりで、とにかく素早くメモを取ることを目指してください。
まずはツールです。手帳とペンなのか、付箋や紙とペンなのか、スマホのメモツールなのか、PC上でテキストエディタなのか、あるいは何らかの Web アプリなのか。デジタルの場合、入力方法もフリック入力なのかタイピングなのか、タイピングの場合はローマ字入力なのか、かな入力なのかなど様々です。ボイスレコーダーだったり、作業風景を常時録画したり(「今からメモを喋ります」と明示的に言ったり、人差し指を立てている間に喋るようにしたりすれば、後で見返したときにわかります)といった方法もあります。どんなやり方が最適かは人次第、かつ状況次第ですので、自分で模索することになります。
次に言語化をどの程度行うか、にも傾向が出ます。基本的にちゃんと書けば書くほど後で思い出しやすいですが、その分、面倒くさいです。逆に単語だけ書くなど手抜きをすれば書くときは楽ですが、後で思い出せなくなる可能性も上がります。どれくらい書けば最低限思い出せるかは自分次第なので、自分のクセをつかめると良いでしょう。また、そもそも言語化するのかという話もあります。本質は行動したいことをあとで思い出すことですから、写真を取っておいたり、印をつけておいたり、イラストをささっと描いたりといったこともありえます――が、これらはメモの領域からは逸れるため本章では扱いません。メモはあくまで言語化して書くことです。描くことはメモには含みません。ということは、言語化だったり書くことが苦手だったりする人は、そもそもメモも苦手だということになります。メモという営みを諦めるか、言語化や書くことの苦手意識を減らすかが先です。
メモをどこに書くかですか、複数用意するのが望ましいでしょう。たとえば自宅と外出先と会社、と 3 つの文脈があるならこれら 3 つ分のメモ環境をつくるのが良いですね。メモはとにもかくにも、まず素早く書くことが第一です。書いた後の取り扱いはどうとでもなるので、まずは書くことだけを――素早く書き残せるよう整備することを考えます。自分が置かれた文脈の数だけ環境を用意しましょう。あるいは、「スマホを常に持っているのでそっちにメモする」が可能ならそれでもよいです。というより、慣れたツールでメモするのが一番なので、狙えるならそうしたいところです。ただ実際は業務中に私有のスマホでメモできないとか、通勤中に満員電車で手帳を開くスペースすらないとか、あるいは人目があって素直にメモを取るのが恥ずかしいとかいったことがよくあり、単一ツールでは厳しいことが多いので、文脈ごと・環境ごとにメモ手段を確立してしまった方が早いのです。ここで環境を用意すると書きましたが、インボックスを用意すると読み替えても構いません。
メモを読み返すとき
メモを扱う際の最大のハードルがこの部分、読み返しだと思います。具体的には二つあります。
タイミングの壁
一つは、いつ読み返すかという タイミングの壁 です。メモは書いている最中は最もモチベーションが高いですが、その後は(書いているときの)文脈を失ってしまうのでモチベーションが湧きません。加えて、何を書いているか一見では読み取れず粘り強く解読にあたる泥臭さも求められることがあります。気が重いですよね。ですので、「毎日 18 時に今日書いたメモを全部読み返そう」などとしても、十中八九成功できません。アスリートタイプの人なら比較的楽勝だと思いますが、それでも仕事の後で疲れていて解読や行動に繋げられない、といったことはよくあります。
つまりタイミングの壁を越えるためには「モチベーションに左右されず定期的に振り返る(メモを読み返す)」ことと、「読み返す際の解読やその後の行動に繋げる」ことの二つが必要ですが、これは要は メモを読み返す時間を、疲れていない時間帯にしっかりと確保する ことに他なりません(※1)。たとえば 2 日に 1 回、朝一に 15 分、メモを読み返す時間を確保できるでしょうか。もっと言うと、それを行うだけの価値がメモを読み返すという行動にはある、と思えるでしょうか――そうです、結局のところ、メモにそれだけの価値があると考えるかどうかという納得感の話に帰着されます。
とはいえ、一見すると価値がないと思える人でも、状況を限定すれば価値が出ることがあります。特に仕事では、あとでやるべきことをすっぽかすのはよろしくないことで、たいていの人が「何とか頑張ってやる」と決めて行動できるでしょう。たとえば昼休憩の前後でメモを 5 分チェックする、くらいなら採用しやすいのではないでしょうか。まとまった休憩の前後、特に直後に確保するのは自然なのでおすすめです。ただ、日頃から会議で忙しい人はそのせいで忙殺されがちなので、まとまった休憩の後、10 分くらいのゆとりは確保したいものです。あるいは開き直って休憩時間を 10 分削る手もあります。
- ※
- 1 ちなみに「いや、単に状況が落ち着いたら速やかに読み返せばいいのでは」と思われるかもしれませんが、それで済むならもちろんそれで良いです。しかし、そうかんたんにはいかないと思います。一方で、単に上から降ってくるタスクを消化するだけの過ごし方をしていて、かつタスクが多すぎるからメモしておく機会が多い、という人であればこのやり方で済む可能性が高いです。もっと一般化すれば生活を「タスクを処理する時間」と「今抱えてるタスクを見返すプチ整理時間」に二分して、メモは前者の処理時間中にサクッと行っておき、後者のプチ時間で読み返す営みをする――となります。別の言い方をすれば「仕事」「休憩」の二分(WR Life)を「仕事」「休憩」「プチ整理(読み返し)」の三分にする、とも言えるでしょう。Work, Rest, Reread ということで筆者は WRR Life と呼んでいます。休憩の概念は言うまでもなくよく知られており、適宜はさむと思いますが、これと同じ概念として「プチ整理」も新たに加えるイメージです。仕事でもなく、休憩でもなく、その中間くらいのプチ整理という営みを新たに追加するのです。
解読の壁
もう一つは 解読の壁 です。書いてある内容を理解できなければ行動しようがないので、理解できるまで粘る必要があるのですが、ここも難しいのです。前述のとおり、メモを読み返すときはモチベーションなど死んでいますから、中々粘ろうとは思えません――し、より残酷なことを言えば、粘ったところで解読できないことも多いです。解読できない自分を責めて、と負の作用に繋がることもあります。手強い壁です。
この解読の壁を超える方法は、実は一つしかなくて、そもそもすぐ理解できるようなメモを書いておけ、これに尽きます。別の言い方をすると解読が不要なくらいわかりやすく書け、です。つまり読み返すときの努力ではなくて、その前の、書く段階の話になります。自分が理解できる程度に、しかし(素早く終わらせるために)最小限に済ませる、というバランスを見つけます。これは自分自身にしかできません。メモはスキルです。経験を積んで、少しずつ養っていくことになります。この現実と向き合えない人は、一向にメモを扱えるようにならず形骸化します。
これ以外の方法も無いことはないです。解読をやめて、解釈をします。メモとして書かれた内容を正確に解読するのは諦めて、今現在そのメモから何を読み取れるかを解釈し直すのです。その結果、メモを書いた当初とは異なる意味で理解するかもしれませんし、やっぱり意味わかんねえやと破棄することになるかもしれませんが、ともかく開き直って再解釈してしまうわけです。正解の無いアイデアを扱うクリエイターの方には適しています。
行動するとき・処理するとき
書いたメモを読み返して理解できたら、あとは行動と処理が待っています。
Act first, Manage second
行動については Act first, Manage second(可能なら行動してしまう、無理そうならタスク管理に回す) が良いでしょう。
戦略の章でスプリンターを紹介しましたがすぐ終われるタスクならさっさと行動してしまった方が良いです。2分で終われるものは終わらせてしまうとか、ボールが自分にあるのならさっさと投げてしまうなど、できることは色々あります。すぐ終われるものは管理した方がかえってコストがかかるので、さっさと処理してしまったほうがいいのです。
とはいえ、何でもかんでもすぐ終わらせられるわけでないので、たいていはタスク管理に回す必要があります。あとで適切なタイミングでこなせるよう、ツールに入れておきます。タスクリストに追加しておくとか、カレンダーに予定として入れておくとか、あるいは直近行う必要がないものならもっと低頻度に目に入る場所に置いておく程度でもいいかもしれません。
この部分、要はメモから読み取れた「行動」をどう管理するかの判断は、できるだけ素早く行ないたいです。メモを書くときと同様、ここをもたつくとメモの運用はかんたんに形骸化します。特に「目に入ったものを一つずつ行動していく」という条件反射現象はあるあるで、好例は通知が来るたびにそれをチェックして返事をする人達です。メモを適切に運用できていると、確認と行動は分離できます。確認したときにメモだけ取っておいて、あとでメモを読み返せばいいからです。これができない人が確認と同時に行動もしてしまいます。まるで条件反射のように、目に入ったものから行動していくのです。
つまり 行動とは実質的にはタスク管理(ツール)に追加すること です。ただ、何でもかんでも追加すると後で苦しいですから、すぐ終われるものは追加せずにその場ですぐ終わらせてしまおう、というだけの話です。行動という言葉のニュアンスを裏切っているようにも聞こえますが、それでよいです。何でもかんでもその場で終わらせようとするから条件反射現象になってしまうのです。いったんタスク管理に突っ込んで、あとから落ち着いて処理する、くらいの心持ちを持ちたいところです。もちろん、そんな余裕など許されず、条件反射的に次々捌かないといけないケースもありますが、そういうケースではそもそもタスク管理など役に立ちません。あるいは盤外戦をして、そのような忙しい状況そのものを何とかしましょう。
処理≒捨てる
次に処理――行動し終えた後のメモの残骸をどう処理するかについては、あらかじめ処理方法を決めておくのが良いでしょう。その場で残したり残さなかったり、どこにコピーするかとか考えたりすると疲れるので、「この場所に書いたメモはこう処理する」と最初から決めておきます。
さらに言えば、行動し終えたメモはただのゴミですので、残さず捨てた方が良いです。付箋であればぐしゃっと丸めてゴミ箱に捨てましょう。紙のメモなら該当部分を打ち消し線などで打ち消します。デジタルであれば該当の記述を消します。私たちにはもったいない精神があり、特に日本では八百万の神や付喪神といった宗教観の影響で「なんでも大切にしがち」「取っておきがち」なので、意識的に抗うくらいがちょうどいいでしょう。
この処理フェーズはできるだけ頭を使わず、かつなるべく捨てるように倒したいところです。そうしないと、ここで使う頭の消耗がバカにならず首が締まってきます。特にデジタルだと「別に残しても空間を占有するわけじゃないし」と残しがちですが、残していると後々目に入るたびに判断が入って認知資源を消耗します。一つ一つは軽微でも蓄積すると馬鹿になりません。「使い終えた付箋」ならわかりやすく「まあ捨てるよね」と判断できると思いますが、この感覚を大事してください。付箋だろうと、紙だろうと、デジタルで書いたテキストだろうと、行動し終えたメモはゴミですので、さっさと捨てましょう。ただし捨てなくていいシチュエーションであれば放置で構いませんが、高度になるので補足に飛ばします(※1)。
- ※
- 1 捨てなくてもいいシチュエーションは主に 3 つあると思います。
- 1 つ目は、デジタルにおいて「後で目にいれる可能性もほとんどない」場合です。たとえばメモ領域を日付ごとに分けている場合、過去の日付のメモは(所定の読み返しタイミングを除けば)ほぼ見ることはないと思います。毎週日曜日に今週分のメモを読み返す運用をしているなら、読み返すのはその週の日曜日だけであり、それ以降はありません。この場合、消す行動はせず放置してもいいでしょう。
- 2 つ目は、クリエイターの人です。クリエイターは発想が大事であり、発想するためには色んなヒントをいかに目に入れるかが肝心ですが、たまに「一から考え直したい」場合があります。この場合は行動した結果(おそらくよりわかりやすいキーワードや文章を書いている)を見るよりも、それを生み出すもととなったメモを見て再解釈を試みます。再解釈するためには、行動し終えたメモそのものが必要ですので、あえて残しておくのです。とはいえ、そもそも情報の総量が多くて、行動し終えたメモをいちいち読み返す暇や余力など通常はないですから稀でしょう。1 つ目が当てはまる場合で、かつ再解釈したいなと思った場合使う程度でしょう。筆者もメモを多用する人間ですが稀です。
- 最後、3 つ目は生成 AI です。そもそも行動し終えたメモを消すのは人間の事情にすぎず、人間の処理能力が限られているから対象を節約しよう、そのために要らないものは消そうというだけの話ですが AI には当てはまりません。何百万、何千万、それ以上のテキストを学習することなど朝飯前ですし、すでに NotebookLM や Claude など大量のテキストを食ってそれに基づいて回答してくれるサービスもあります。現時点では PDF の入力のみで、文字数として数十万文字程度ですが、今後はもっと増えると思います。そうなると自分が書いた情報をメモ含めて全部渡して、それら情報に基づいて回答してもらえるようになります。現時点で ChatGPT は一般的な回答しか出せませんが、自分の情報も全部食わせてやれば、自分にパーソナライズされた回答を出せるようになります。自分よりも自分に詳しい AI 秘書のような存在も、もう現実に迫っています――と、これは筆者の想像でしかありませんし、生成 AI サービス側としても私物化されると儲からないので食わせられる量は意図的に抑えていますが、何ともわくわくする話ではあります。一方で、メモは AI に食わせるエサとしてもマズイ(役に立たない)可能性もありますが、そこは将来使えるようになってから判断するとしましょう。
- 1 捨てなくてもいいシチュエーションは主に 3 つあると思います。
まとめ
- メモとは後で読み返して行動を起こすための一時的な記述
- 原則 2 つ
- 完璧主義は捨てる
- メモは大量に発生しがちなため、すべてを扱うのは不可能
- とはいえ諦めたり形骸化したりするとメモの恩恵を丸々捨ててしまうことになる
- メモ自体は扱うが、全部は扱わなくていいという塩梅
- できるだけ早く書き、しかし後で読み返しても理解できるというバランスを模索する
- 読み返し時に「解読」が必要な場合は、おそらく情報が足りないのでもっとちゃんと書いた方がいい
- 完璧主義は捨てる
- メモのフロー
- 書く → 読み返す → 行動と処理、のステップから成る
- 1 書くときは素早さが重要、1秒でも早く書き残せるよう最適化したい
- 2 読み返す際はタイミングが大事だが、結局は納得感なので、メモを運用するだけの価値があると思える状況を見出すのが良い
- 3 行動は Act first, Manage second(可能なら行動してしまう、無理そうならタスク管理に回す)が良い。処理、つまりは行動し終えたメモをどうするかは「捨てる」一択