Chapter 12

イベント

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2024.09.09に更新

イベントの概要

概要

イベント(Event) とは開始時間と開始場所の少なくとも片方を拘束され、かつ終了のタイミングも指定されているか調整が必要となる事柄を指します。いわゆる「予定」のことです。別の言い方をすると「参加が伴うもの」とも言えます。

イベントは拘束が重たいため、基本的に事前に調整するべきです。アポを取るともいいますよね。一方で、割り込まれたり雑談から延長したりといった形で不意に発生することもあります。ちなみに雑談自体もイベントと捉えることができます。開始まわりの拘束はありませんが、終わらせるために空気を探ったりしますよね(暗黙の拘束)。

イベントの本質は儀式です。言ってしまえば、「今からここでこのようなことを始めるぞ」と決めて、皆がそれに合意して参加しているわけです。参加自体にそれなりのコストが発生します(指定時間に指定場所に集まる等)し、参加中も拘束され続けますし、終わるときも指定の終了タイミングまで待たないといけないか、あるいは自分からタイミングをうかがう必要があります。要は 面倒くさい事柄なのです

イベントの種類と対処

イベントはどこが拘束されるかで分けることができます。イベントでないものは❌をつけます。

No 開始が拘束される 最中に拘束される 終了が拘束される
1 y y y 予定全般
2 y y 雑談の延長で打ち合わせを始める
3 y y リモートワーク
4 y 閉館の概念を持つ場所
5 y y デスマーチ、監禁
6 y 雑談など会話全般
❌7 y -
❌8 -

本項では各種類の概要と、タスク管理としてどうアプローチすればいいかを解説していきます。

なおタイプ 7 と 8 はイベントではないため扱いません。7 については、開始だけが拘束されるもの、というイメージしづらいカテゴリなので割愛します。8 については、何の拘束もない事柄――つまりイベントではない事柄なので扱いません。

1 予定全般

No 開始が拘束される 最中に拘束される 終了が拘束される
1 y y y 予定全般

基本的にはすべて拘束される 1 が多く、予定という言葉もこれを指すことが多いです。開始時間があって、開始後も終了時間までは拘束されます。

タスクとして管理するのは難しいので、カレンダーで管理するべきです。開始を忘れないことが何よりも重要であり、そのためにはいつ何があるかを俯瞰して頭に入れておく必要があるのです。必要に応じてリマインダーを使ったり、そもそも誰かや雰囲気が教えてくれる場に居たりすることでも防げます。つまり 自分が忘れていたとしても誰かが or 何かが思い出させてくれれば良い とも言えます。

実は集団で同じ場所で過ごす意義はまさにここにあって、自身に予定どおりに動ける力がなくても、誰かが教えてくれたり皆が動いているのを見れば思い出せるのです。学校生活の移動教室にせよ、職場の会議室への移動にせよ、極めて身近なやり方でしょう。

2 延長による割り込み的な開催

No 開始が拘束される 最中に拘束される 終了が拘束される
2 y y 雑談の延長で打ち合わせを始める

次に、開始のみが拘束されないケースは 2 であり、たとえば雑談しているときに打ち合わせを始める等のケースです。これは事前に決められた開始時間や場所に行くというよりも、その場で「今から始めようか」「わかりました」と始まっています。あるいはいつの間にか始まってしまっていたり、明示的に同意したわけではないが始められてしまったりといったこともあります。

タスク管理としては予定外のイベントであり、いわゆる 割り込み と呼ばれるものの一種です。できればその場で参加するか、やめるかを判断して伝えたいところです。難しい場合は、いったん休憩をはさんで(体裁を保つために言い方や言い分は工夫が必要かもしれません)一時的に離れます。しかし、人やチームによってはそのような行動を「空気が読めない」とみなす場合もあります。良くも悪くも読み合いです。もちろん、心理的安全性の担保された職場など信頼関係が十分な場合はこのような心配は要りませんが稀でしょう。特に一方は「信頼関係がある」と思っていて、他方はそうは思っていないこともよくあります。

最も悪手なのが、この割り込みをとりあえず受け入れてしまうことです。受け入れてしまうと以後の予定がすべて狂いますし、この割り込みによるイベント自体もいつ終わるかがわかりませんし、そもそも急に始まったものなので集中もあったものではありません。生産性はもちろん、単に QoL の観点でも望ましくないのです。このタイプ 2 のイベントが多い職場やチームは要注意だと筆者は考えます――と書くとわかりづらいかもしれませんが、要は割り込みが多いわけです。割り込みが多いのは好ましくない、と言えばしっくりくるのではないでしょうか。

例外として、日頃から積極的に雑談を行ない、そこから仕事に関するイベント(打ち合わせなど)につながることも許容する、むしろ狙うといった合意が取れているのなら問題ありません。例としては GitLab 社の Coffee Chat があります。社員はいつでも誰にでも雑談ミーティングを申し込めるようになっています。2024/06/11 現在、ハンドブックを見ると「週に数時間程度を推奨」「日頃は仕事の話ばかりだからこそ雑談や共有を」とありますが、いつでも誰にでも雑談を申し込むとの部分は汎用的に使えるでしょう。うちはいつでも誰でも雑談していいことにするよ、喫煙室や給湯室での雑談も別に一日複数回とか一時間とかしてもいいよ、そこから仕事の話に繋がることも多々あるからね、などと決めてもいいわけです。もっとも注意深く設計しないと、一部の権力者とその取り巻きによるノリが形成されてしまって政治的になってしまいますが。

3 リモートワーク

No 開始が拘束される 最中に拘束される 終了が拘束される
3 y y リモートワーク

最中のみ拘束されないケースは 3 であり、わかりづらいですがリモートワークが当てはまることがあります。

リモートワークのあり方として「勤務開始時と終了時にのみ連絡を行う」「その間どこでどう過ごすかは自由」というものがあり、このタイプ 3 はこれのことを言っています。実際はちゃんと仕事しなければならないわけですが、少なくとも職場という場所には拘束されていません。自宅でもいいですし、ワーケーションとして避暑地や観光地にいてもいいわけです。

このようなあり方は昨今珍しくはなく、裁量が大きくて自律的に働ける仕事やチームでは実現できます。ただし、単にリモートワークやフルリモートをしているからといって、これであるとは限りません。少なくともオンライン会議が多い場合はここには当てはまりません。目安は ミュートデイ ――一日全く打ち合わせがない日が当たり前にあるかどうかです。雑談やちょっとした相談などは問題ありませんが、それらもすべて廃した、純粋に一日誰とも喋らない日というものをやろうと思えばできるかどうか、です。これにイエスと答えられない場合、3 は満たしていません。

さて、タスク管理ですが、まずこのような自律的な働き方を支えられる程度に、各自が各自の管理を行わなくてはなりません。筆者は以前、同僚から「吉良野さんはチャットのすべてのメッセージに全部答えてくれるからすごい」と言われましたが、3 のあり方を実現するならこれくらいは当たり前にできなくてはいけません。要は、すべてのメッセージを理解して、現実的な時間で返事を出せる程度のタスク管理を「自分で」しているということです。

次に、こちらの方が重要ですが、自律的に働けるよう働き方や仕事自体を調整する必要もあります。たとえば普段から検討内容は Wiki に書き込んでいこうとか、投票や議論は 1-トピック 1-ページで書いて、全員必ず意見(特になければ無い旨)を書こうとか、孤独に耐えられなくて迂闊に打ち合わせをしたがるけどそういうのはやめよう、あるいは必要に応じて誰かに申し込んで全員同意した場合に限りやろうとか、そもそも耐えられない人向けの耐え方や満たし方もナレッジとして貯めよう、必要なら教育もしよう――といったことです。これらはやり方の話ですが、場合によってステークホルダーとの調整や交渉も要求されます。すでに何度か盤外戦との言葉で述べていますが、望みの過ごし方を実現するためには、それを阻む根本自体への対処がどうしても必要です。

4 閉館時間を持つ場所

No 開始が拘束される 最中に拘束される 終了が拘束される
4 y 閉館の概念を持つ場所

4 は終了のみ拘束されるケースであり、これもわかりづらいですが、閉館時間や閉店時間を持つ場所が相当します。店舗でもなんでもいいですが、いつ来てもいいし、どう過ごしてもいいが、終わりの時間はあるため永遠には居られないというものです。

タスク管理的には、このような場所は「終わりの時間まで使うことができるリソース」と捉えて、終わりが来るまでに最大限使うには、と考えるといいでしょう。たとえば空いている時間帯に使えれば快適だ → 空いてる時間帯に行くには? → その時間帯を空けるには、とブレイクダウンしていけば、自分のタスクを調整して空ければいいのだとわかります。

筆者の例で言うと、人混みが嫌いなのと、朝型体質なのとがあって、普段は 5 時起き 21 時就寝、仕事も朝 6 時から 15 時くらいで勤務にしています。この生活リズムですと昼休憩が 9~10 時、終業後の夕食が 15~16 時になるので、店も空いているのです。この生活をキープするためにはタスク管理をフル活用しています。制約として拘束の強い仕事はできません、これはつまりチームプレイも全般的に不得手というわけで、仕事はかなり選ばなくてはならなくなります、それでも仕事を手に入れるための鍛錬、鍛錬のために計画もまたタスク管理して――とそれなりに苦労しています。

と、筆者の例は極端ですが、一般的には 「終わりの時間が決まっている場所」の使い方を自分なりに調整する営み と言えます。タイプ 1 の典型的な予定は「とにもかくにもまず開始を守る!」と注力していましたが、このタイプ 4 はそうではなくて、終わりの時間までそれなりに時間があって、いつどれだけ使うかが自由に決められるので、自分に適した使い方を模索しましょうとなるわけです。

かんたんな例を言うなら、昼休憩で通ってる店に混む前に行きたいが、普通に 12 時の休憩を待つと確実に間に合わない、15 分くらいフライングできれば混む前に席を取れるとわかった、なら実際フライングを取るためには――とかはどうでしょうか。おそらくあなたは 11 時 45 分までに午前の仕事を終わらせる要領を身につけたり、15 分フライングしてもいい旨をチームや上司に共有して合意してもらったりが必要でしょう。裁量が高いのであれば堂々とできるかもしれませんし、ルール的には OK だが職場の雰囲気的に難しいならこっそりやれば見逃してもらえるかもしれません。ちなみに、閉館の概念はここでも存在するはずで、おそらく店が 13:00 で閉まるとか、昼休憩が 12:59 で終わるとかいったことがあります。4 のケースとして捉えるなら、これらは守らねばなりません。

と、このようにタイプ 4 のイベントに勝つための調整行動には、そもそもその時間帯に行動できるように過ごし方を変えることと、その過ごし方を実際になぞれるように自己管理することの二点が求められます。

5 エンドレス

No 開始が拘束される 最中に拘束される 終了が拘束される
5 y y デスマーチ、監禁

開始も最中も拘束されているのに、終わりが拘束されていないシチュエーションとは何でしょうか。「いつでも終わってもいいですよ」とのパターンは考えづらいし、あったとしても好きに帰れるなら問題無いため割愛します。現実的には終われるまで帰れないという過酷なシチュエーションでしょう。

例としてデスマーチ(恒常的な過重労働)を挙げていますが、プロジェクトが炎上しているケースや、要領が悪かったり優柔不断だったりするメンバーや顧客と重要な仕事をしているケース、終了タイミングが横暴な権力者の気分によってコントロールされていて嫌がらせや洗脳を受けているケースなどがあります。いずれにしてもブラック企業のブラックの形容詞が似合う有り様ですし、より率直で極端な例として監禁も入れてみました。

このタイプ 5 のイベントは地獄でしかなく、タスク管理でどうにかなるものではありません。盤外戦として根本に働きかける――そもそもこのように陥らないようにする、近寄らないようにする、もし陥ってしまった場合は早々に逃げるか、刺し違えでも戦って抗うかといった行動が必須です。偶然終わることもありますが、神頼みでしかありませんし、その前に心身を壊しかねません。盤外戦をできるかどうかがすべてです。そして、盤外戦をされると逃げられることがわかっているからこそ、ブラック企業なりカルト集団なりマルチ商法なりホストクラブ(など一部の客商売)なりはこれを封じてきます。情報を遮断し、他の人に頼ることも許さず、閉鎖的な環境でアメとムチを使い分けて報酬を制御し、そもそも思考させないためにノルマや通いを課して疲弊させ、としてくるのです。人間の感情に訴えるために非言語情報を浴びせてくることも特徴で、そのためには現地で実際に会う必要もあるため、場所的な拘束も入りがちです。

こう書くと非日常的で自分には無縁と思われるかもしれませんが、意外とそうでもありません。軽めのシチュエーションではよくありますし、そうでなくとも昭和の時代は長時間労働が常態化していました。その名残は今でもありますし、その世代の人達が権力を握っているので、ともすると「終わるまで残業してでも働きなさい」なんてことになりかねません。盤外戦としては、そもそも残業を常態化させないと務まらない状況からしておかしいから改善するべきだ、となるのですが、この視点が通じないことはざらにあります。第一、自分が望んで仕事を受けてその状況になってしまった場合は、仕方ないと耐える道を選ぶ人も多いのではないでしょうか。

と、このタイプ 5 のイベントは意外と逃れにくいので、日頃から予防的に行動することをおすすめします。自分の限界を把握してそれを越えないように生活を整えたり、タイムボックスなど働く時間をあらかじめ決めておいたり、あるいは自分の感覚が麻痺しないように日頃から色んな業界や人や働き方を調べておくとか、定期的に内省と振り返りの時間を設けて自分がおかしくないかに自分で気付けるようにするとか、もちろん気の置ける人とおしゃべりしてもいいでしょう、と方法は色々あります。過激な方法で言えば、気難しい人や変人を演じたり、そのような人と仲良くなったりなどして周囲の方から遠ざけてもらう手もあります。予防的な行動は面倒くさいものですが、そうしなければかんたんに飲まれてしまいます。

6 不明瞭な終わり

No 開始が拘束される 最中に拘束される 終了が拘束される
6 y 雑談など会話全般

開始も終了も拘束されず、最中だけ拘束されるというイベントがあります。雑談など会話全般がそうです。突然始まったりしますし、いつ終わるかもわからずだらだら続いたりします。

タスク管理としては、開始と終了をいかにしてコントロールするかの問題となります。といってもアプローチは 3 つくらいだと思います。

  • 1: メリハリ制。自由に会話していい時間帯と、させない時間帯を設けて、メリハリをつける
  • 2: 明示的提案。いつ始めるか、いつ終わるかをちゃんと明示的に提案する
  • 3: ダミーイベント。架空の予定を入れて無理やり終わらせる

メリハリ制は、会話してもいい時間帯(グッドタイム)とそうではない時間帯(バッドタイム)を両方用意して、グッドタイムのときは別に拘束を気にしない、とするものです。友人や親しい人がいる場合は、十中八九こちらになります。通常は明示的に会う予定をつくったり、空き時間をつくったりして、そこで楽しみますよね。逆にグッドタイムを確保できないと(会話ができないので)関係に傷が入っていきます。時間の捻出はまさにタスク管理で行えることですし、ここを捻出したいからこそタスク管理をするものですが、万人に行えることではありません。そこで節目の儀式が重宝されます。誕生日やらお正月といった節目の儀式は、グッドタイムの典型例です。人々がこういった儀式を好むのはグッドタイムを求めているから、そして日頃から自分でグッドタイムを確保するのが苦手だからでもあります。もっと言えば、グッドタイムを意識的に設計して捻出できると強いです。まめな人はモテると言いますが、それはグッドタイムを意識的に確保しているからもであるのだと筆者は思います。

明示的提案は、始めたいときや終わりたいときにはっきりとその旨を言います。味気ないとか、ビジネスライクで嫌だとか思われるかもしれませんが、慢性的なだらだら会話によるストレスも馬鹿になりません。そうでなくとも、だらだらしたいときともういいというときはあるもので、どちらもできるに越したことはありません。明示的提案を使うには、明示的に提案できるほどの信頼関係と、提案しても通じるかどうかとの素養が鍵です。パートナータスク管理の章にてトーカビリティを取り上げましたが、まさにそうです。トーカビリティがある場合は、明示的提案を使ってもいいかどうかとか、いつ使おうかといった話し合いができます。この過程でメリハリ制が登場することも珍しくありません。

最後にダミーイベントについては、終わりを導くための方法ですが、単にダミーの予定をでっちあげてその場を抜けることです。電話がかかってきたとか、そういえば用事があるんだったとか、実世界でもフィクションでもよく見る言い訳ですね。発展的なテクニックとして、普段から忙しいキャラクターを演じておくことでもダミーイベントを適用しやすいです。両親やパートナーからの門限が厳しいとか、寮の門限があるからとか、私はストイックな生活リズムを踏んでいる変人なんです(筆者はこのタイプ)とか、ペットがいるので……などキャラクターのバリエーションは無数にあるでしょう。

まとめ

  • イベントとは開始、最中、終了を拘束される事柄
    • どこが拘束されるか次第でいくつかの種類に分類できる
  • イベントの種類は豊富で、その性質も違えばタスク管理としての対処も違う
    • 予定。開始時間と開始場所を守ることが最優先。カレンダーを使うべし
    • 雑談から打ち合わせに移行する等のケース。本質的には割り込み。一息置いて冷静に対処するか、最初から許容してもいいとの文化をつくるか
    • リモートワーク。自律的に働けることとその許容が必要だが、大半の人には縁が無いほど高度でもある
    • 閉館時間を持つ場所。いつどのように利用するか、と自分の側を調整する必要がある
    • エンドレス。要はブラックなのでできるだけ回避したい
    • 会話などいつ終わればいいかが不明瞭なケース。メリハリをつける、明示的に言う、ダミーをでっちあげるなどの対策がある