タスク管理の戦略とは、どんなやり方や考え方で望むかという方針のことです。これは「何を拠り所にするか」で分けることができます。眺めればわかるとおり、戦略によってだいぶあり方が異なります。自分に合ったものを使っていくことが肝心です。また手札が多いと応用範囲も広くなりますので、余力があれば馴染みのない戦略を練習してみるのも良いでしょう。
本章では各戦略を詳しく取り上げていきます。ツールやメソッドは参考文献をご覧ください。本章ではあくまでも考え方を述べます。
時間で区切る
時間をどのように区切るか、各区域をどう使うかを考える系の戦略です。メリハリをつけるのに適しています。
Dailer
概要
タスクを「日単位」で捉える戦略です。
特に「今日」と「それ以外」に二分し、今日のタスクが全部終わったら今日はもうおしまいにします。そうすることでエンドレスを防いでメリハリをつけられますし、今日やらなくていいものを明日以降に回すことで先送りもできます。明日になったら、その日を今日とみなして同じことをします。
このような概念は デイリー(Daily) と呼ばれます。筆者は デイリーエリア と呼んでいます。今日やるタスクを集めたデイリータスクリストの他、情報全般に適用したデイリーページやデイリーノートもあります。ソシャゲなどゲームでもデイリークエストなんてものもあったりします。結構身近な概念で、触れたことがある方も多いかもしれません。
別の言い方をすれば、今日というエリアがあって、そこに今日扱うものを放り込むイメージです。できれば全部処理したいですが、無理に完遂する必要もありません。あくまで目安です。なので、今日はもうだるいのでこれは明日でいいや、と明日にまわしてもいいです。もちろん状況次第では余談を許さないこともありますが、人間は所詮脆弱で怠惰な生き物にすぎません。たかが知れています。日単位で毎日仕切り直す、くらいの緩さで良いのです。それだけでも、何も区切らなかった頃と比べると驚くほど生産性が出ます。日という単位は睡眠をはさんだ最小単位でもあって「きりのいい単位」であり、使い勝手は抜群なのです。
応用: エリアの分割
どれだけ分けるかに好みが出ます。
最も単純なのは「今日」と「明日以降」の二分です。何したかのログ(記録)も残したいなら「今日」「明日以降」「昨日以前(のログ)」の 3 つになるでしょう。律儀に分けると「今日」「明日」「明後日」「しあさって」――とカレンダーのように日単位になります。それぞれ ツイン、トリプル、インフィニティ(無限) と呼ばせてください。
分割数が少ないほど運用がシンプルですが、「今日以降」の方に溜まりやすくなります。TODO リストは肥大化することで有名ですが、特にツインやトリプルだと「今日以降」が肥大化しがちです。これを防ぎたければ、インフィニティが良いでしょう。先送り先を具体的に指定できるようになります。「3日後くらいにするか」、「一週間後でいいか」、「しばらく用はがないが忘れたくはないので、そうだなぁ、20日後くらいに」など柔軟にできます。たとえば今日が 2024/05/01 なら、それぞれ 05/04、05/08、05/21 のエリアに置いておけばいいからです。ただし、分割数が多いほど先送り先の判断にエネルギーを使うようになります(つまり面倒くさく感じます)。
インフィニティが面倒と感じるなら、もう少し減らしてもいいでしょう。「今日」「明日」「今週」「今月」「それ以降」の 5 分割がいいかもしれません。これを クインタプル と呼ばせてください――と、これらは一例で、他にも色んな分け方があります。ご自身にあった分け方を模索してみるのも良いかもしれません。
ちなみに、トリプルで取り上げましたが、ログについても好みが分かれます。自分が何したかを振り返りたい場合は、確保した方が良いでしょう。といっても、昨日以前に使ったデイリーエリアをそのまま残しておくだけです。一方で、記録を残したり振り返ったりするのが面倒くさいか、要らない場合は無視しても構いません。邪魔になるなら消したり捨てたりしてもいいでしょう(特に紙や手帳などアナログな手段で行う場合)。履歴や日記としての面白さもあるので、筆者としてはぜひ残すことをおすすめしたいです。
メリデメ
メリット:
- 日単位で区切りをつけることによる恩恵
- メリハリをつけられる(今日はここで終わり、ができる)
- 先送りしやすい
- 日単位でログが残り、振り返りしやすい
デメリット:
- 軽微なメンテナンスが毎日必要になる
- 今日エリアの切り替え、内容の転記など
- 先送り時やメンテナンス時の意思決定コストが高く、認知資源を食いやすい
- 特に毎日、その日の始まりに「昨日のデイリーエリアと今日以降のエリアを見て」「今日エリアに何を残すかを決める」との判断
適性
作家、クリエイター、フリーランスなど予定が少なく裁量が大きい人に適しています。このような人達はまとまった時間を使って何をするかを全面的に自分で決めなくてはなりませんし、インプットやアイデアの管理や成果物の振り返りといったメンテナンスも必要になります。Dailer の戦略を使うと、日単位で何やるかを決めたり振り返ったりできるので、何かとおさまりが良くなります。融通も利きやすいので、気分や状況のイレギュラーにも対応しやすいです。
カレンダーが手放せない予定駆動型の人には適していません。一見すると Dailer に見えますが、Dailer はタスクへの取り組み方に裁量があることが前提 です。だからこそこれは午後にやろう、これは明日に先送りしようといった微調整ができます。予定駆動の場合、調整は効かないでしょうから向いていません。
Calendarer
概要
カレンダー片手に、予定ベースで動く戦略です。タスクも予定として登録します。
最もわかりやすく馴染み深い戦略だと思います。カレンダーを使って予定を俯瞰し、ひたすらそのとおりに動くというものです。
カレンダーは「使ったことがない」人の方が珍しいかもしれませんが、Calendarer とは単にカレンダーを使っている様を指すものではありません。むしろ「重用している」ニュアンスです。カレンダーがないと話にならない、一日に何回も見ている、見ないなんて考えられないというレベルです。率直な言い方をすると、カレンダー中毒者とも言えそうです。
予定とは「開始時間と開始場所を守らなければならないもの」を指しますが、これを忘迷怠なくこなせる手段は限られています。厳しく誰かに管理されるか、予定の接近に気づかせてくれる場に居るか、そうでなければ時間軸に可視化してそれを高頻度に眺めて忘れないようにするか、のいずれかかです(直前にアラームを鳴らすこともできます)。いずれにせよ、カレンダーの形で時間軸を俯瞰する営みは、疑うまでもなく浸透しているものです。だったら、もうこれを重用して、タスクもなるべく詰め込んでしまえばいいのでは、と考えます。それが Calendarer です。
カレンダーは防御網でもあります。時間という有限性のあるものを消費しているので、「これ以上は入らない」がとてもわかりやすいのです。タスクはキャパオーバーになるほど抱えがちですが、Calendarer には無縁です。ただし予定を入れすぎて過負荷になることはあります。
応用1: 行動制御
カレンダーは自分への命令書とみなすこともできます。
ということは、どんな命令(予定)を書き込むか次第で、自分の行動を制御できます。たとえば「休憩」「昼休憩」「個人ワーク」「退社前の準備」といったタスクを明示的に予定に入れておくことで、忘れずこなせるようになります。自分で入れた予定に自分で従う茶番が通じない人は、人や環境を巻き込んでもいいでしょう。休憩タイミングを友人や同僚と合わせたり、定時退社後にジムやエステに行く用事を入れてしまったりすれば比較的従う気になります。
応用2: 公開範囲の絞り込み
特に仕事の文脈では自分のカレンダーが公開されることがあります。チームメンバーに自分の予定を見せて、空きがあれば会議を入れてもらったりするためですね。このように共同を意識したカレンダーが スケジュール です。皆のスケジュールを上手く可視化、共有するツールがスケジューラー(グループスケジューラー)と呼ばれるものです。本章は個人タスク管理の話なので、グループスケジューラー自体については取り上げません。
しかしながら、グループスケジューラーを個人的なカレンダーとして使うことがよくあります。特に仕事だと実質的にグループスケジューラー≒個人の(業務時間中の)カレンダー、になりがちでしょう。これはつまり 「他の人から見える」個人のカレンダー を使っていることと同義です。さて、Calendarer は、予定をバンバン書き込む戦略でした。他人から見えてしまっては困るような、個人的なタスクも扱えるべきですが、書き込みづらいですよね。じゃあどうするか、書き込まないようにするか、それとも他人が読んでもわからないようにダミーの予定名を書いておくか、はたまた別のカレンダーをつくってそっちを使うか。やり方は色々ありますが、いずれにしても面倒です。
面倒でも越えるしかありません。魔法のような方法は無いと思います(あったらそれを売り出してご飯を食べられると思います)。方法をいくつか挙げます:
- 書き込まない
- プライベートでは Calendarer をやめる
- 別の私的なカレンダーを使う
- カレンダーが分散して運用が面倒くさい
- 自動化してデータを同期できれば楽だが、コンプライアンス的に許されないケースがある
- Dailer は毎日メンテナンスを行うが、同様にカレンダー間の同期を手作業で行うというメンテナンスを受け入れてしまう手もある
- ダミーの予定を書き込む
- たとえば定時退社後にジムに行きたい場合、「ジム」とは書きづらいかもしれない。「私用」などと書くはず
- 牽制として使える
- この場合、定時間後に予定がありますよ(この日は残業しませんよ)との牽制をしている
- 業務中は Calendarer にならない
- 業務中はスケジューラーを使わないか、必要最小限でのみ使うようにする
- 私的なカレンダーの方では、おそらく業務時間部分を「仕事」という単一の予定で埋める格好になる
- フルオープン
- 経営者など限られた人にしか使えないが、開き直って私的なカレンダーとしても使う
応用3: リマインダー
デジタルなカレンダーツールはリマインダー機能を持っていることがあります。
リマインダーとは n 分前に予定を教えてくれる仕組みで、目覚ましのアラームが最も有名でしょう。ツールとしてはポップアップメッセージの形でお知らせしたり、通知として教えてくれたりするものが多いです。いずれにせよ忘迷怠、特に忘れることを防ぐ意味で重宝します。たとえその予定を忘れていたとしても気付けるからです。
この性質上、忘れっぽい人や作業にのめりこみがちな人には特に重宝します。筆者も日頃から多用しており、リマインダーのおかげで会議のすっぽかしを恐れず仕事できています。ポップアップだけだと怪しいので音も鳴らすようにしてます。
一方で、すべての予定にリマインダーをセットするのはやりすぎでしょう。「別に忘れてないよ、わかってるから」というときでも構わず通知されるとかえって鬱陶しいです。何事にも麻痺はありまして、リマインドされたときにいったん無視して――そのまま普通に予定をすっぽかしてしまう、なんてことも起こり得ます。 リマインダーは「ひとりだけで」すっぽかしを防ぐための最後の砦 なので、麻痺してしまわないよう、使いすぎないことが実はかなり重要だったりします。特に Calendarer は予定をたくさん書き込むだけあってリマインダーも増えがちです。
応用4: オプラン
Calendarer は予定をひたすらこなすマシーンのようなものですが、その予定を律儀に守ると非常に疲れます。頭の切り替えや物理的な移動や準備が要りますし、何より予定≒誰かと話すことなところがあり人付き合いです、人付き合いは(たとえ多少慣れた相手であっても)気を張るため疲れます。メンタルも削れます。そうして疲弊しきってしまうと、ほとんど何もできなくなってしまいます。よくオンとオフの切替とか週末に寝溜めとかいいますが、そういったことが必要なのは単に疲労しきっているからです。疲労しきっている人は、たとえ定時退社であってもそうなります。残業ならなおのこと。それで疲労していて生産的なことができないから、いわゆる夜更かしでカバーしようとします。報復性夜更かしとかリベンジ夜更かしと呼ばれています。夜更かしをすると睡眠不足になりますから――と負のスパイラルです。この諸悪の根源は 日中に予定が多すぎて疲弊しきっているから のことが多いと筆者は見ています。
一部の鉄人や生き急ぎでもなければ、人は予定まみれの生活には耐えられません(本当に才能がある人もいますが、たいていは単に意思決定や割り切りが人一倍上手ゆえに消耗ペースが緩いだけです、非情とも言えます)。どうすればいいかというと、予定を減らすのです。あるいは「最悪破ってもいい予定」「手を抜いてもいい予定」を取り入れます。後者のような予定を オプラン(Oplan, Optional Plan) と呼ばせてください。本当は前者、予定そのものを減らせればいいですが、そうもいかないでしょうから残るは後者、解釈を変えるオプランとなります。
オプランはどのように増やせばいいのでしょうか。
まず、人との約束など本当に破れない予定については バレないようにサボりを入れます。会議でギッチギチの中間管理職を例にすると、前の会議が遅れてますとか、機材トラブルで音声が聞こえないのでとか、ちょっと緊急の電話入ったのでとかいった言い訳を入れて 10 分くらい稼いだりします。あるいは会議には参加しているが内職をしていたり、今はリモートワークも多いですからデバイスは繋いでいるがのんびりトイレしたり家事をしたり、といったこともあるでしょう。体裁は重要ですからバレないように、は前提として、サボること自体は意外と受け入れられます。これもまさに、そうしないともたないからです。
次に自分個人のタスクを予定として追加したもの(Calendarer はタスクも予定として扱うことで予定ベースで動く戦略なのでしたね)の場合は、単に「この予定は最悪破ってもいいものだ」と捉えます。たとえば休日 14~15 時で「生成AIを勉強する」予定を入れていたとしたら、本来ならちゃんと 14 時から 1 時間勉強するべきですが、この律儀さばかりだと疲弊するという話でした。かわりに、「14~15時と1時間分勉強できたら理想だけど、別にできなくてもいい」と捉えます。買い物してなかったからちょっと 20 分くらい行ってきて 14:30 くらいから 30 分だけ行う、でもいいですし、なんか気分が乗らないなぁと思ったら開き直ってゲームしてもいいでしょう。オプランはそういうものです。守られないことはよくあります。
ただし、以後ずっとカレンダーを無視します、だと意味がないので、きりのいいところで、なるべく早めに(予定をちゃんと守ることを)再開してください。再開を試みて、またオプランをサボったとしても、それはそれで構いません。仮にオプランをサボらずにちゃんとこなせる率が 25% だとしても、4 回に 1 回は守れているわけでして、何も管理せずグダグダになるよりははるかにマシです。このマシを手に入れるために、再開というアクションが必要なのです。
ここで「そんなことに意味はあるのか」、「そもそもタスクを予定として書かなければいいのでは」と思われるかもしれませんが、意味はあります。予定に書かなくても生活がまわるのならそれでいいのですが、Calendarer の人はおそらくそうではなくて、まわしたいからこそ、少しでも多くのタスクを予定として書き込むわけです。ただ、そうして書いた予定を律儀に守るとメンタルが持たないので、オプランとして扱いましょうという話です。予定にすらしなくて何もしないでもなく、逆に予定として律儀に扱って疲弊するのでもない、その間を取るのです。
オプランを増やせるようになると、予定でギッチギチのカレンダーであっても持続できるようになります。一つの目安としては、Calandarer は 睡眠以外の予定がギッチギチの日が一週間続いても生活が持続する状態 が適正です。オプランによりガス抜きが出来ていると、ギッチギチでももつのです。オプランの部分はほとんど守れていない可能性もありますが、それはそれでいいのです。少なくとも何も管理していない形骸化よりも(よりタスクをこなせている、少なくとも着手できているという点で)はるかにマシです。
もし適正に至れない場合、おそらくはオプランが少なすぎます。あるいは Calendarer には向いてないのでしょう(他の戦略を使いましょう)。もしかすると「そもそもタスク管理が要らない」生活がすでにできているかもしれません。それでも仕事や忙しい時期などでカレンダーを多用する時間帯や時期はあるでしょうから、このオプランは覚えていて損はないです。
メリデメ
メリット:
- 直感的で運用しやすい
- 時間という有限性によりタスクを抱えすぎる事態を防ぎやすい
- 行動制御的に使ったり、リマインダーですっぽかしを防いだり、など強力なサポートも使える
デメリット:
- 仕事でスケジューラーを使っていると使い分けが面倒
- 詰め込みすぎると疲弊しやすく、特にメンタルにくる
- 自分ひとりの予定ならオプランにすると良い
- 予定に書き込まなかったタスクがこぼれやすい
- ないしは「忙しいから」と確信犯的にスルーしがち
- 取捨選択や意思決定
適性
予定が多い方に適しています。会議の多い管理職、指定場所への訪問が多い学生や営業職、作業や準備の多い指導者教育者やアスリート、その他も多数当てはまるかと思います。
役職の高い方など権限が集中している方にも適しています。このような人は基本的に「いつ誰に自分を使ってもらうか」の取り合いになるので、スケジュールを開放して空いたところに勝手に入れてくれ方式にするか、秘書など調整役をはさんだりします。予定の選別や判断にかかる認知コストがバカにならないので、最初から諦めて、「私はスケジュールのとおりに動く機械になります」とするのです。
自己管理が苦手な方にも適しています。自己管理とは自分で決めたことをそのとおりに実行する能力のことで、たとえば今日はこれをすると決めてタスクリスト 6 行分を書いたら、基本的にそのとおりに上から行動することです。得意な人は「誰でもできるのでは」と思いがちですが、集中力が無い人や気分屋な人、特に特性上脳内が慌ただしい人などはこれが難しいのです。自己管理が苦手な人は、自分ひとりで自分を御するのはほぼ不可能なので、人や環境の力に頼ります。応用1で挙げたとおり、約束が発生する予定を積極的につくればいいのです。約束であれば(自己管理が苦手な人でも)比較的守ろうという気になります。
クリエイターなど創造性の高い仕事をしている方には向いていません。創造はアイデアとモチベーションの世界ですから、予定などという事前の制約など邪魔以外の何者でもないからです。ただし「作業」を行うときや人からの合意を得るときなど創造性が要らない場合は、その限りではありませんし、(特に仕事だと)たいていはそれで事足ります。創造に頼ったクリエイターは非常に少ないので、通常気にする機会はありません。強いて言えば、普段から時間を持て余している趣味人でしょう。
Slotter
概要
スロット(時間帯という枠)を設け、各枠の中で何をするかを考える戦略です。
Dailer は「日」、Calendarer は「予定」という形で時間を区切っていましたが、Slotter は「時間帯」で区切ります。時間帯とはタスク管理用語では セクション(Section) と呼ばれることがありますが、30分~数時間くらいの帯をイメージしてもらえればと思います。
以下に特に有名な時間帯(の分け方)を挙げます。
- 朝、昼、夕方、夜
- 午前、午後
- 出社前、午前、昼休憩、午後、退社後、帰宅後
- 一時間目、二時間目、……
時間帯に注目する理由は何でしょうか。二つあります。時間割などで馴染み深いのが一つ、そしてもう一つは私たちの生活は時間帯的なリズムがつくことが多いからです。特に後者は、自覚できていないだけで、通常はかなりのところまでパターン化します。朝は大体こういうことをしていて、昼休憩前後ではこうしていて……のようなパターンがあるはずです。曜日ごとに違ったり、繁忙期で乱れたりすることはありましが、一週間のスパンで見ると大体パターン化していると思います。
Slotter は、この時間帯的なリズムを捉えます。自分にとって自然な時間帯を自覚し、必要なら設計や調整もして快適に過ごすことを目指します。タスク管理としてはそこまで細かくはなく、この時間帯の間は大体こんなことをしようかと決めたり、普段はこれをしているけど新しいことがしたいからちょっとずらそうかといった調整をしたりするくらいです。よく Calendarer と混同しがちですが、Slotter はあくまでも時間帯という枠を設けているにすぎません。予定のような強制力はありませんし、グループスケジューラーで人に見せる意図もありません。あくまでも自分の、自分による、自分のための時間帯設計にすぎません。
応用1: スロットの把握と運用
今現在の自分の生活にもすでにスロットが反映されています。これを自覚するためには、日々自分が何をしているかを記録して可視化する必要があります。
タスクシュート はまさにそのために設計されたものですが、煩雑かつ神経質な運用を求めるので人を選びます。Toggl などタイムトラッキングツールは比較的シンプルに記録できます。アナログが好みであれば、時間枠を表現できる手帳を使って「ここからこの時間帯まではこんなことをしてました」を記録するのも良いでしょう。仕事は赤、家事は青、趣味は緑など色を使い分けて塗りつぶせば、視覚的にも楽しくなってモチベーションが持続します。いずれにせよ、自分の行動を明示的に記録するという本質的な面倒くささからは逃れられませんので、記録したい方はご自身のモチベーションを保てそうな方法を探してください。
一週間、できれば一週間分の記録を数回(数週間)くらい取ってみたいところです。俯瞰してみると、どの曜日のどのあたりにどれくらいの大きさのスロットがあるか、といったことが見えてきます。おそらくたいていは「思っているよりも余暇が少ない」「仕事や家事に忙殺されてすぎている」という悲しい現実が見えてくると思います。一方で、「木曜日の午前はちょっと空いてるな」などスキマも見えるかもしれません。
自分のスロットがわかったら、あとはこれを尊重する形で、どのスロットで何をしようかを考える・微調整していくだけです。気に入らない場合は再設計することになりますが、スロットの大掛かりな修正は新たな習慣の獲得と同レベルの高難易度なので通常は気にしなくていいです。再設計は引っ越しや転職など環境が無理やり変わったときのお楽しみにしておきましょう。しかし、環境が変わった場合でも結局は元々の自分のスロットに回帰したりします。自分のスロットを自覚できてないと、回帰して落ち着くまでが遅れます。逆を言えば、前もって把握しておけば、環境が変わってもそこに合わせに行くという形で能動的に素早く安定を引き寄せることができます。
ちなみに、稀に自分のスロットに固執しない人がいます。旅行好きな人や、寝たいときに寝て起きたいときに起きて仕事したいときに仕事する人(生活リズムを持たない人)などがそうです。
応用2: 自分の拘束方法
スロットの最中に、いかにして自分を拘束するかには好みが出ます。
最も端的なのは上述した Calendarer――つまりはカレンダーを使うことです。たとえば「朝」「午前」「昼休憩」「午後」「終業前」の 5 つのスロットがあるとして、これをカレンダーに反映し、かつリマインダーも設定します。するとカレンダー上はこの 5 つの太い予定がぎっしり詰まった見た目になります。毎日、朝や午前の直前にリマインダーがお知らせしてくれるので切り替えもしやすいでしょうし、カレンダーをこまめに見ることで「あと 40 分で昼休憩か……」と次のスロットに備えることもできます。この例だと単純すぎていまいち効果がわかりませんが、スロットが 7 個、10 個など増えてくると結構効いてきます。
集中術を使うこともできます。タイムボックス のように「仕事はこのスロットだけで行うぞ」と割り切ればメリハリをつけられます。筆者も「創造的な仕事は午前スロットだけにする」など、体力や精神力をセーブするためにタイムボックスは結構使っています。ポモドーロ・テクニック も使えそうです。それこそポモドーロ・スロットなるスロットを設けて、その時間帯では何か一つタスクを選んでポモドーロを回すことに専念する、という過ごし方もできそうです。スロットの切り方と、その中で何をするかは自由ですが、集中術含めた仕事術は上手く取り入れると便利です。
場所を変えるのもアリでしょう。たいていの会社員は午前と午後の 2 スロットで仕事を行ないますが、出社してから行ないますよね。場所が変わっているからこそメリハリがついていたところがあります。これがリモートワークで崩れてしまい、メリハリをつけられなくなって体調やメンタルを崩す人が増えたとはよく聞くことです――とこれはわかりやすい例の一つにすぎません。出社に限らず、もっと柔軟に場所を使うことはできます。朝活ができて、かつ金銭も許すなら、出社前に「カフェ」というスロットをつくって、喫茶店で何か活動してもいいでしょう。あるいは週に1、2回くらい就業後にボーナススロットをつくってどこかに出かけるプチ贅沢を許すのもアリです。
メリデメ
メリット:
- 時間帯という大半の人がすでに無自覚に持つパターンに則れるため、QoL が高くなる
デメリット:
- 自分のパターンを知るためには辛抱強い記録作業を要する
- 自分のパターンから抗うのが難しい
- 環境が変化してやむを得ず崩れる場合でも、結局自分のパターンに回帰しがち
- 良くも悪くも枠を設定しているだけであり、実際タスクを回せるかは本人の力量次第
適性
生活リズムを持たない人(持てない人というよりも持ちたくない人)には向いていません。旅行家や一部のクリエイターが当てはまります。
話題で区切る
1タスク1ページなどタスクごとに専用の領域を設ける類の戦略です。情報を残しつつ一つの対象にじっくりと取り組み続けるので、継続したい人や寝かせたい人に適しています。
Issueist
概要
GitHub Issues など BTS を使う戦略です。
先に BTS について軽く触れておくと、バグ管理システム(Bug Tracking System)の略です。1タスク1チケット(ページ)でタスクを管理するツールであり、その名のとおりソフトウェア開発におけるバグを一つずつ確実に管理するものでした。Redmine や Backlog などプロジェクトタスク管理の文脈で多数のツールが存在します。開発プラットフォーム GitHub にも Issues と呼ばれる同様の機能がありますが、こちらは特に個人タスク管理としても使いやすい仕上がりとなっており、主にエンジニアが活用しています(※1)。今でこそプロジェクトタスク管理は俯瞰と注視が当たり前ですが、この概念は BTS から来たのだと筆者は考えています。
Issueist は、BTS を用いて俯瞰と注視に専念する戦略と言えます。まず1タスク1ページになっていますので、各タスクとじっくり向き合うことができます。情報を書き残しておけば、2週間後とか1ヶ月後に来ても(それを読めば)状況を思い出せます。チャットのようにテキストや画像を残せるので残すのにも苦はありません。次に俯瞰機能も備えており、フィルタリングやソートも柔軟に行えます。適切に運用されているなら、数百件、1000件以上のタスクの中から必要なものを取り出すこともできるでしょう。また最近のツールですとカンバンのようなボード機能を有していることもあり(GitHub にも Projects というボード機能がある)、リストビューが苦手な人でも俯瞰しやすくなりました。
- ※
- 1 イメージで言えば、Slack や Discord といった業務用・チーム用のツールをひとり用で使っている感覚です。通常、そのようなツールはひとり用で使うには多機能すぎて辛いのですが、GitHub は使い心地が(特に当時は)群を抜いていて、快適性にうるさいエンジニアでも唸るほどでした。現代的なタスク管理ツールをつくっている人達を含め、多くのエンジニアにインスピレーションを与えたのは間違いないのではないかと思うほどです。筆者もそのひとりです。
応用1: どこまで丁寧に運用するか
丁寧に運用すると、それこそプロジェクトタスク管理になります。個人の生活全般でそれをするのは息切れしますし、オプランの項でも述べたとおりメンタルももたないと思いますが、大きな仕事や用事をスポットで丁寧に運用するのはアリでしょう。特に GitHub はリポジトリ(プロジェクトと同義)という単位で自由につくれますから、引っ越しリポジトリ、書籍執筆リポジトリなどをつくってその中では丁寧にやる、とすればいいのです。
雑に運用することもできます。筆者としてはこちらが多い印象です。やらなくてもいいけどやりたいこと、特に考え事や調べ事や新しく試したいこと等のタスクを雑多にぶちこんでおき、気まぐれに眺めて気まぐれに消化するという使い方をします。いいかげんな分、消化量やペースは安定しませんが、それでも何も管理しないよりは進捗が出ます。
後者と前者はトレードオフです。後者のように雑に管理すると楽ですが、消化の進捗は安定しません。前者のように厳しく管理すると消化は捗りますが疲れます。ご自身の適性と仕事に応じて使い分けると良いでしょう。
よくある折衷案はバックログ(在庫)的な使い方です。今後やりたいタスクを Issue としてとにかくつっこんでおき、余裕がある時にそこを眺めて消化していきます。余裕がない時は一切触れなくても構いません。しかし、やりたいタスクを思いついたら、忘れず追加しておきます。追加しておけば忘れることはありません(取り出せるかは別問題ですが少なくとも存在はする)。永遠に触れないのを懸念するなら、週一や月一などで棚卸しをするといいです。休日の午前に数時間くらい時間を取って、バックログを眺めながら何するか考えるひとときは楽しいと思います。
もう一つ、インボックス的な使い方も可能です。つまり「オープンになっている Issue」が 0 件の状態を日々目指すという前提のもと、日々タスクとして Issue をつっこみ、消化して、消化できたらクローズにします。別の言い方をすると Dailer のやり方を Issue で行ないます。あるいは Dailer ほど極端でなくとも、仕事や生活の一部のみをインボックスゼロにするだけでも便利でしょう。
応用2: 何のツールを使うか
特に問題なければ GitHub Issues 一択でしょう。リポジトリ単位で区切れますし、動作も軽快ですし、と柔軟性と軽さの観点で優れています。
すでに他のタスク管理ツール(特に BTS などプロジェクトタスク管理寄りのツール)を使っているのであれば、それに慣れているでしょうからそれを使うのが良いでしょう。Issue 系のツールは機能に大差は無いので、最終的には慣れや好みの問題です。ただし個人が使うには料金的に割に合わない可能性があります。
いずれにせよ、どれもエンジニア向けの高度なツールであることが多いので、初学者の方が手を出すのは厳しいと思います。たとえば GitHub は日本語 UI がありません。
メリデメ
メリット:
- すでに BTS に触れてる人にとっては馴染み深い
- 俯瞰と注視に専念できる、シンプルな使い心地
デメリット:
- 初学者のハードルが高い
- 概念まわりにしてもツールの使い方にしても
- 管理をどこまで厳しくするかのトレードオフが難しい
- バックログ的な使い方という折衷案に落ち着くか、TODOリストと同様に形骸化しがち
- 細かいタスクや多数のタスクを扱いづらい
- タスクの操作に手間がかかるので、粒度が大きめのタスクを主に扱いがち
- また小回りを利かせたい用途には不向き(例: 買い物に関するタスク管理だけ行ないたい)
- 俯瞰を機能させるのが難しい
- フィルタリングやソートの場合は、優先度やタグやラベルなどを上手く使いこなす必要がある
- ボードの場合は、タスク(付箋)の置き場所を日々メンテナンスする必要がある
適性
BTS に慣れている方には適している可能性が高いです。一つの目安は GitHub Issues を知っているか・使えるかどうかです。主にソフトウェア開発者が当てはまります。可能性が高い、と書いたのは、あくまで慣れにより順応しやすいという意味であって、話題で区切る(1タスク1ページ)戦略に合うかどうかがわからないからです。BTS には慣れているが合わない、もありえます。
ナレッジワーカーにも適しています。この人達は知らないことを調べたり、正解が無いことを考えたりといったことが必要ですが、Issueist としては 1-検討事項 1-ページ の形で思考を蓄積していけます。特にしっかりとしたノートや資料ではない、ラフな残し方で済ませたいタスクを扱うのに適しています。たとえば「~~について考えてみる」のようなタスクを気軽につくれます(※1)。
- ※
- 1 この感覚はナレッジワーカー特有だと思います。タスクとして通常浮かべるのは「外部環境から降ってきたものを忘れず処理する」か「未来の脅威に備える」です。しかしナレッジワーカーは、新しいナレッジをつくりたい・つくることで成していきたい人達であり「別に降ってきてはないし、備えるつもりもないし、何の役に立つかもわからないけど考えたい」ことがよくあります。頭の中だけだと忘れちゃいますし、雑なメモだけだと一度考えただけでおしまいです。かといって、ちゃんとしたタスク管理をするほどではないし、思考は創造的であり管理するものでもありません。バランスで言えば、「~~について考えるためのエリア」をつくっておいて気まぐれでいじくる――くらいのものが欲しいわけです。話題で区切れる BTS はまさにうってつけなのです。
Topician
概要
Wiki やノートツールを使う戦略です。
タスクも含めた「トピック(話題)」を 1-トピック 1ページ で扱います。メインはノート管理であり、その中でタスク管理も行うという位置づけになります。ノートの取り方は色々ありますが、Topician の哲学は 1-トピック 1ページ です。A という話題はページ A に書きます。トピック指向 と呼ばせてください。トピック指向に話題の混線や脱線を防ぎ、A について扱いたければページ A に行けばいい、と単純化できます。集中や再開がしやすいとも言えるでしょう。その分、A について書くためにページ A にいちいち行かなきゃいけない手間はありますが、この手間を負うだけの価値があるのです。千や万のページを破綻無く持つことすら可能になります。
部分的には他の戦略を含んでいます。たとえば「2024/05/01」「2024/05/02」のようなページをつくる運用をするなら Dailer になりますし、タスクだけを扱うと Issueist になります。ならば Issuiest で良いのではないか、と考えがちですが、Topician はタスク管理がしたいのではなくノートを書きたいのです。そのついでにタスク管理も行ないたいのです。タスク管理は二の次です。実際、用途を限定したいのであれば Issueist が適しています(あるいは日単位でメリハリをつけたいなら Dailer が良い)。そうではなく、自分なりにノートを取りたい、それを貯めていきたい、そういう営みをしていきたいからこそ Topician を選ぶのです。
Topician がどのようにタスク管理を行うかですが、結論をいうと 何とか工夫してタスク管理の能力を実現する です。単純なやり方ですと、たとえばタスクとみなしたい行に #task
のようなタグをつけておき、タスクを見たい場合は #task
で全文検索をする、になります。この場合は全文検索(テキストエディタの文脈では Grep と呼ばれます)の知識や律儀にタグをつける行動は求められます。単純なやり方であってもこの程度は要求されるのです。この他には、Dailer のように毎日(あるいはもっと高頻度 or 低頻度で定期的に)ノートを見返してタスクを手作業で抽出する「振り返り方式」、hown のように一覧表示や連結表示など表示の工夫や、指定日が近づくと徐々に項目上位に浮かんでくる仕組みなど高度な工夫を凝らした「テキストエディタ拡張型」、最近ですとノートを生成AIに読み込ませて知りたいことを尋ねる「生成AI方式」もあります。DIY と同様、どのように工夫するかは自由自在ですし、筆者が知らない工夫も様々存在するでしょう。もちろん自分でツールをつくる人もいます。共通するのは プログラミングやテキストエディタのカスタマイズなど、技術的なスキルが要求される 点です。
応用1: どのツールを使うか
古典的には Mediawiki、Pukiwiki などの Wiki が好まれます。Wiki というと Wikipedia やゲーム攻略 Wiki など有志が多数集まって書き込んで辞典レベルの巨大なコンテンツをつくりあげるものをイメージしますが、Topician はそれをひとりで行ない、自分の自分による自分のためだけのコンテンツをつくりあげていきます。しかし、これら従来の Wiki には右記のデメリットがあります――セルフホストのハードル(自分でサーバーを立ち上げる必要がある)があること。単純な機能しかなく拡張性にも乏しくてタスク管理を成立させる余地が少ないこと。これらを 第一世代 と呼ばせてください。
Wiki のようなノートツールの重要性は近年注目されており、この手の製品も増えてきました。Microsoft の OneNote、Box の Box Notes、Dropbox の Dropbox Paper など商用のものもあれば、esa.io や Qiita Team などエンジニア向け発の使いやすいツールもあります。Notion もこのカテゴリに入ります。また、Workflowy や Dynalist などアウトライナーと呼ばれるツールもここです。これらを 第二世代 と呼ばせてください。第二世代はノートとしては使いやすいですが、やはりタスク管理を行えるほどの柔軟性はありません。あるいは、できてもプロジェクトタスク管理のような「しっかりしたタスク管理」になりがちです。
もう一つ、第三世代 ともいうべきツールも登場しています。Scrapbox、Obsidian などです。第三世代の特徴はリンクを重視していることで、ページからページにリンクを張ることがかんたんに行えるようになっています。また「このページにリンクしているページの一覧」などリンクベースで関連ページを辿ることで周辺の俯瞰も充実しています。第三世代はノート全体をネットワーク構造と捉えており、ノートツールのパラダイムシフトであると筆者は捉えています。ネットワーク構造は脳の構造でもあり、記憶の特性としても自然で思い出しやすいのです。一覧のフィルタリングやボードのメンテナンスではなく、リンクを辿りながら思い出していく体験になります(どこから辿るかのスタート地点決めには従来の検索や一覧化も使う)。言葉では説明しづらいですが、一度体感すればやみつきになると思います。生成AIの仕組みも脳を模倣していますし、脳の仕組みは親和性が高いということでしょうか。今後ますます主流になってくると思います。
タスク管理用途でも発想の転換を余儀なくされます。主に前述の「振り返り方式」に頼ることになります。言い換えると、こまめにノートを書いたり、読み直したり、書き写したりすることでタスクに関する情報を継続的にメンテナンスし続けるイメージ、とでも言えばいいでしょうか。このあたりの話は高度になりますし、Topician とも外れていきますので後の章で扱うことにします(文芸的タスク管理)。
最後に、世代ごとに特徴をまとめておきましょう。
- 第一世代
- ⭕ 古くから親しまれている
- ❌ セルフホストのハードル
- ❌ タスク管理を成立させる余地に欠ける
- 第二世代
- ⭕ 様々なツールが存在し、自分に合うものと出会える可能性が高い
- ❌ ツールが多いので選定や試行が必要、定着まで時間がかかる傾向がある
- ❌ タスク管理を行うにはまだ柔軟性に欠ける or できてもプロジェクトタスク管理的になる
- 第三世代
- ⭕ リンクで繋いだネットワークというパラダイム、自然に辿りやすい・思い出しやすい
- ❌ 新しい概念であるため学習や適応に手間がかかる可能性
- ❓ タスク管理として使う場合、タスクに関する情報を継続的にメンテナンスしていく営みになる
メリデメ
メリット:
- ノートの延長でタスク管理を行える
- 情報とタスクを自然に扱う(結びつける)ことができ、情報を得やすいため主体的な行動がしやすい
デメリット:
- タスク管理の実現がそもそも難しい
- マンパワーによるメンテナンスを前提とした原始的なあり方か
- プログラミングやテキストエディタ拡張など高度なスキルを用いて自分でつくる、工夫するか
適性
適性は「日頃からデジタルな手段でノートを取る側の人間かどうか」です。たとえばプライベートでも好き好んで書くか、年単位で継続的に書いているかとか、そういうレベルです。イエスと答えられる人だけが向いています。というより、イエスと答えられない人には(ノートを日々書くことが)苦痛になるため耐えられません。
忙しいとノートを取りづらいという意味では、日頃からノートを読み書きできるだけの余裕があるかどうかも適性に含めて良いでしょう。たとえば 1 日 1 時間、できれば 2 時間以上を恒常的に確保できるでしょうか。「ない」「できない」人は向いていません。あるいは、せいぜい「メモを取る」「あとでテキトーに活かす(大体生かせません)」か「散文的に書いて自己満足しておしまい」が関の山でしょう。
一箇所にまとめる
タスクや物タスクを一箇所にまとめる戦略です。手間暇かけず済ませたい人に適しています。
前提知識: 物タスク
先に前提知識を書いておきます。
物タスク とは、タスクを想起するものやタスクの構成要素となっているもののことです。たとえば「壊れた時計」は「時計を修理する」タスクを生み出すので物タスクですし、「上司の顔画像」も「上司から頼まれていたこと」を思い出すという意味では物タスクになりえます。
ある物が物タスクかどうかは、その人の解釈によります。同じ人でも状況が違えば解釈も変わります。
タスクとの違いですが、タスクは「やることが文章化されたもの」です。手帳だったりアプリだったりしますが、何らかのタスク管理ツールに入力されていることが前提です。このあたりはタスク管理の公理として述べました。一方、物タスクとは上記のとおり、タスクになるかもしれない物のことです。
本戦略ではタスクも、物タスクも、どちらもまとめようとします。タスクをまとめるとは、たとえば今日やるタスクを付箋に書いてディスプレイに貼り付けておく等です。物タスクをまとめるとは、たとえば今日出社時に外で済ませたい用事(に必要な物)――壊れた時計と縛ったゴミ袋と終業後オフ会用のおめかしセットを玄関前に置いておく等です。より厳密に言えば、普段から「外で済ませたいものは玄関に置いておけ」というルールを決めておくニュアンスです(その場限りで行うのではなく)。
Richild
概要
物タスクを一箇所に集める戦略です。
イメージは「裕福な子供」で、名前も Rich な Child → Richild としています。偏見になって申し訳ないですが、裕福な子供はたくさんの物を与えられます。一方で、整理整頓に時間を割く必要がないほど空間も潤沢ですが、散らかしているとさすがに不便なので、一箇所に押し込みます。おもちゃ箱は良いイメージで、おもちゃをとにかく箱の中に雑でいいのでぶっこみます。遊ぶときはガサゴソと漁って探します。
Richild の典型例はデスクとデスクトップです。散らかった机や、アイコンで散らかった PC のデスクトップ画面、あるいはスマホのホーム画面、他にもブラウザのブックマークやメールの受信箱やチャットツールサイドバーのチャンネル一覧など色々ありますが、とにかく一箇所にまとめて散らかしているのが特徴です。
Richild がタスク管理として成立する原理は二つあります。
まず、散らかっているとはいえ一箇所にあるので、そこを探せば見つかりやすいことです。一見すると面倒くさそうですが、どこにあるかわからないものを探したり、その整理整頓に時間をかけるよりも、「一箇所の中から探せばいいだけ」の方が実は効率が良かったりします。何より疲れません。探すときはだるいですが、整理整頓というメンテナンスに手間をかけなくても良いことが非常に大きいです。天才は整理整頓が下手、とのイメージがありますが、これは理に適っていて、単に天才と呼ばれるほど突き詰めてる人は意思決定コストの節約にもシビアであり、タスク管理なんかに費やさないからです。
次に、散らかった状態でも気にせず仕事をしたり、散らかった状態から必要なものを見つけたりといった「頭の性能」も必要です。これがないと、ただの管理破綻者、ただの「散らかし癖を持つ無能」になってしまいます。ここで「汚くても見逃してもまあ何とかなるよね、的案楽観性なる資質も要るのでは?」と思われるかもしれませんが、筆者としては楽観性は頭の性能次第だと考えています。性能があるからこそ楽観になれるのだと思います。
応用1: おもちゃ箱の文脈と箱数をどうするか
まず Richild には文脈があります。たとえば「仕事」と「私生活」なら二つです。複数の肩書を持つ人は仕事の方は複数あるかもしれませんし、多拠点生活をしている人も拠点ごとに文脈が増えるでしょう。
次に文脈ごとに箱(タスクをまとめる先)があります。仕事の場合、デスクとデスクトップがあるなら二つです。デジタルで完結できる人はデスクは綺麗だがデスクトップは汚いかもしれません――と、これは例の一つにすぎません。デスクとデスクトップはわかりやすいですが、それ以外もあります。特に近代ではチャットなどのワークスペースも増えており、そちらが箱になっていることもよくあります。
このあたりのバランスはどのようにすればいいでしょうか。
基本的には 必要なときに必要な箱をその場のノリで追加して試す になるかと思います。Richild ならそうなります。一方で、それだと場当たり的で、頭の性能が足りてて上手くいっているならいいのですが、いかないときがあります。「なんか何やっても上手くいかないんだよなー」になりがちです。ここでさらに二通りに分かれます。開き直って諦めるか、腰を据えて考えるかです。後者を行ないたい場合に、文脈と箱を設計すると良いです。
かんたんな手順を挙げておきます:
- 1: 文脈を洗い出す、あるいは決める
- 2: 文脈ごとの箱を洗い出す、あるいは決める
- 3: 複数の文脈を横断する「横断箱」を洗い出す、あるいは決める
最後の横断箱については、フリーランスなど仕事と私生活を絡めやすい人限定の概念でしょう。無理して箱を分けず、いっしょくたにしてしまった方が Richild として快適になることがあります。サラリーマンからするとだらしないと感じるかもしれませんが、Richild 自身が頭の性能でカバーして仕事を上手く回せるとしたら失態もしないため問題ありません。
最後に、例として筆者の運用を軽く紹介しておきます。私生活文脈の箱として「玄関」と「洋室」の二つを用意しています。玄関の下駄箱の上には「外出時に持っていくもの」と「郵便受けに入っていた書類群」が雑に置いてあります。洋室には「今の季節で着る衣類」が下着含めて全部雑に並べてあります。季節外のものはクローゼットに仕舞ってます――と、これは少々几帳面であり Richild らしくないですが、文脈に応じた箱を設定して、そこにぶちこんでいる点に注目してください。
応用2: Richild はタスクではなく物タスクを扱う
鋭い方は気付かれたかもしれませんが、Richild の説明として
物タスクを一箇所に集める戦略です。
と書きました。これは意図的です。Richild は 物タスクを 管理する戦略だからです。
物タスクは「物」であり、物とは現実空間に三次元的に存在し、多種多様な情報をばらまいているものです。一方、タスクとは言語であり、概念的意味的には豊富で詳細な情報は含められますが、物よりも情報の広さ(非言語的な情報の広さ)に乏しく、認知に労力を使いやすいです。
Richild が成立するのは「物」を扱っているからです。デスクトップは電子的な世界ですが、アイコンがありますよね。アイコンは絵であり、非言語的な情報が豊富です。物寄りです。仮に、これがただの文章や単語の羅列だとしたらどうでしょう。成立しないと思います。TODO リストが破綻するのもまさにそうです。タスクという言語的な情報は、一箇所に集めるだけでは中々機能しません。人間にその能力がないからです。だからこそ個人タスク管理が必要で、色々苦心するのです。
そういうわけで、Richild を心がける人は「物タスク」だけを、あるいはデジタルの場合でもなるべく非言語が豊富な情報を扱うようにしてください。言語で書かれたタスクを扱おうとしても、おそらく失敗します。一応、タスクを一箇所に集める戦略も無いことはなくて、それが次の Monolith だったりします。
メリデメ
メリット:
- 手間暇がかからないし、疲れにくい
- 一箇所に集めているので「この中にある」という安心感がある
デメリット:
- 頭の性能でカバーできないと破綻する
適性
頭の性能が高い方に適しています。頭の性能の定義や測定方法を論じるのは難しいですが、筆者は IQ が端的な指標になると思っています。これも筆者の印象ですが、Richild で仕事ができてて有能と評価される人は、IQ でいうと 110(上位 25%)を超えているイメージがあります。このあたりは本格的に調べてみたいところです。
タスク管理を行う気がない人にも適しているでしょう。一応本書は読んでみているものの本心ではその気がないとか、タスク管理などたかが知れていると考えているとか、タスク管理を下に見ているといった人達を指します。頭の性能があって、それで打開できることを知っている・経験している人達です。このような人達は自身の性能に頼ればいいので、タスク管理などという面倒くさい営みに対する忌避感が強くなります。逆に、そうではない人はタスク管理の必然性がわかるので、(面倒くさいと感じはしますが)忌避感はありませんし、期待もします。前者の忌避感があるとその気がなくなるわけですが、それはそもそも性能が高いからそうなっているのだと筆者は考えます。大体に言えば、忌避感の強さと Richild の適性には相関があると思います。
発達障害、特に ADHD の人にも適している可能性があります。多動性があると自身で脳内の指向性を制御できませんが、散らかったおもちゃ箱の中はそれなりに情報量が多いため、脳内の「持て余し」を上手く費やしてくれます。とはいえ優先順位まではフォローできないため気休めにすぎないのですが、箱やその中身の傾向を工夫すれば「なんかよくわからんけど意外と回っている」を実現できるくらいの余地はあります。
Monolith
概要
タスクを一箇所に集める戦術です。
Monolith とは一枚岩の意味であり、IT の文脈では「何でも詰め込んだあり方」のたとえとして用いられることがあります。この場合は、タスクを一箇所に詰め込んだあり方を指します。具体的には 一つのテキストファイルに すべてのタスクを書きます。エンジニアやクリエイターなどテキストエディタによるテキストの書き込みに長けた人がいますが、この人達が、自分が扱う文章に対して Richild のような発想を行おうとすると、自然と「一つのファイルに書く」に行き着くことがあります。
例を示します。たとえば stakiran.txt というファイルを一つつくります。stakiran は筆者の名前なので、筆者から見れば私に関するすべてが入っているニュアンスです。内容は ■
で区切って「一つの塊」にしながら書いていきます。
■今週のタスク
...
■引っ越し検討
...
■ ---
■2024/05/24
...
■2024/05/23
...
■2024/05/22
...
上の方が作業領域になっており、■ ---
で区切られた下の方が過去の記録だと想像できますね。基本的にはこれだけです。このファイルを生活導線として、何でも書き込みながら日々過ごしていきます。タスク管理については、原始的に一覧化したり、終わったものは下に移すなり stakiran_old.txt など別ファイルに退避させたりします。原理は単純ですし、これで本当にまわるのかと思いがちですが、意外とまわるのです。特に Monolith は文章入力スピード、言語化のスキル、テキストエディタの操作やカスタマイズの知識を備えているので、手足のように自在に操れます。テキストエディタ自体も強力であり、数百万文字くらいなら耐えられます。管理対象も stakiran.txt ただ一つなのでバックアップや同期もラクチンです。
上記はあくまで一例です。他にも人の数だけやり方があります。筆者は普段秀丸エディタを使っており、実践入門なる電子書籍を書いてしまうほど傾注しているのですが、一時期は Markdown 記法ベースの Monolith で仕事やプライベートを回していました。見出し記法を区切りとして用いることで目次化や見出し間移動が可能となり、塊単位でザックザック移動していました。これはアウトライン機能とも呼ばれ、デジタルメモ「ポメラ」も搭載しているほど便利なものです――と、このようにテキストエディタとカスタマイズの沼に陥りがちなのも特徴ですが、ともかく、Monolith は一つのテキストファイルにタスクを(タスクも)集める戦略なのです。
応用1: タスクだけか、タスク以外の情報も管理するか
Monolith でどこまで扱うかに好みが出ます。
具体的には、タスクだけを扱った Task Monolith にするか、割とあらゆる情報もぶっこんだ Note Monolith にするかです。Task Monolith でも、タスクに関する調べ事や考え事はするので色んな情報は書き込みがちですが、Note Monolith はその日ではなく、たとえば毎日の日記や、ネットを見てて気になったこととか、仕事や私生活の問い合わせで使う下書きなども全部書き込むほど重用します。
昔は SaaS がさほど発達しておらず手段が乏しかったため後者が好まれがちでしたが、今では色んなツールがあるため前者派が多いと思います。少しネットで検索してみました(※1)が、
- プレーンテキスト最強に同意 | トドの日記2.0
- 様々なTODOアプリやタスク管理方法を試行した結果最終的にプレーンテキストに行き着いた話 - みんからきりまで
- なにもかもシンプルに。私がいまだにプレーンテキストを愛用している理由 | ライフハッカー・ジャパン
見た感じ、前者の Task Monolith が多いですね。
- ※
- 1 検索するときは「プレーンテキスト」なるキーワードを使うと良いでしょう。プレーンテキストとはソフトウェアによる装飾の無い、生のテキストのことで、どのツールでも使える、たとえばコピペできる汎用性があります。詳しい話は後の章に譲ります(プレーンテキストタスク管理)
応用2: クラウドツールで Monolith は可能か
結論を言うと、難しいです。
Monolith では圧倒的な操作性――手足に馴染んでおり 0.1 秒の違和感もないことが 前提です。テキストを自在に扱うためには、それくらいスピーディーかつ快適でなくてはならないのです。そうでないとストレスでとてもじゃないですがやってられません。もっというと、それを実現するだけのスキルも要ります。
さて、昨今ではクラウドによるツール、つまりは SaaS が当たり前になりましたが、SaaS にはオンラインであることによる微妙な遅延があります。また、テキストエディタほど柔軟なカスタマイズ性も備えていませんし、数万文字はまだしも数十万文字レベルの巨大なテキスト量をスムーズに扱える安定感もまだありません。SaaS が本格化して十年以上経ち、様々なノートツールも出ていますが、元 Monolith の筆者に言わせれば、まだまだテキストエディタの域には至っていないのです。そもそもそんな時代でもないでしょうし、今後は生成 AI により人間は書くよりも(AI が出したコンテンツを)見る・微修正する機会が増えるでしょう。そもそも回線技術が足かせとなっています。今後も至ることはないと思います。
応用3: テキストだけでは扱いづらいタスクをどうするか
たとえば予定や日課・習慣を Monolith で扱うのは面倒くさいです。
通常は別ツールを使います。予定は言わずもがなカレンダーを使うのがベターですし、日課や習慣は Todoist や タスクシュート など「定期的なタスクを扱う能力を持ったツール」、あるいは習慣なら習慣トラッカーを使うのが理に適っています。ちなみに筆者も、Monolith の時代でも別ツールを使っていましたし、何ならつくっていました。
どうしてもテキストエディタでやりたい、Monolith でやりたいというのなら、それができるだけのカスタマイズや機能の自作をご自身で行うことになります。Topician と同様、自分の力で何とか工夫しなければならなくなります――が、試行錯誤してきた先人から言わせてもらうと、かなり分が悪いです。要はカレンダーや定期タスク機能で扱っているようなものを、何とかして単純なテキストの世界に落とし込むわけで、分が悪いどころか無理のレベルです。まるで三次元の立体を二次元の平面に変換しろと言われているような感覚です。できるにしても、まめな振り返りやメンテナンスにより手作業で無理やりカバーすることになります。DIY のようで楽しくはありますが、手段の目的化感は否めませんし、純粋に面倒くさくてキツイです。
メリデメ
メリット:
- テキストファイルで一つで済むシンプルさ
- テキストエディタの扱いに長けたベテランにはフィットする
デメリット:
- テキストエディタ、タイピングスピード、言語化など非常に軽いフットワークが要求されるため、合う人が少ない
- 時代の流れには沿っておらず、今後の発展を見込めない
- 予定、日課や習慣などただのテキストでは扱いづらい性質のタスクを扱いづらい
適性
日頃からテキストエディタを愛用している方には適している可能性があります。目安は「普段文字入力に用いる手段としてテキストエディタが最も多いかどうか」です。そうではない場合、たとえばスマホがメインだったり、クラウドツールがメインだったりする人はおそらく適していません。そのような手段が普及した現在でも、あえてテキストエディタを使っているほどの重用っぷりでなければ務まらないと思います。
エンジニアやプログラマーの人には向いていません。意外に思われるかもしれませんが、エディタや入力速度の強さよりも、自分が書いたテキストを管理、修正していくことを楽しめる感性が大事です。通常、彼らは技術やコーディングには傾注していますが、テキスト自体には傾注していません。そういう意味では、ブロガーや作家の方がまだ向いている可能性があります。
繰り返しの力でまわす
タスクを「繰り返し着手する対象」と捉える戦略です。自分のリズムを尊重したい人に適しています。
前提知識: ルーチンタスク
ルーチンタスク(Routine Task) とは、定期的に実行するタスクを指します。
定期的とはたとえば毎日行う、2日に1回行う、週一で行う、毎日朝と夜と2回行う、などです。
タスクは基本的にルーチンタスクとして捉えることができます。ごみ捨ては毎週特定の曜日に行うでしょうし、メールやチャットのチェックも「1日2回行う」と決めればルーチンタスクになります。日課や習慣もルーチンタスクの一種ですし、新しく読みたい本や始めたい行動なども「3日に1回くらい時間つくってやるか」とすればルーチンタスクです。
わざわざ小難しい概念を導入する理由は、タスク管理しやすいからです。タスク管理ツールには定期性のあるタスクを扱う機能があり、これに頼ることでルーチンタスクをまわしていけます。本節の戦略は、この機能に全面的に頼るものです。
Robot
概要
「このとおりに動けば一日が上手くいく」というレベルで詳細なタスクリストをつくり、それに従って行動する戦略です。
人の生活の大半はルーチンタスクに帰着できるため、Robot におけるタスクリストには多数のルーチンタスクが並びます。最初からそんな都合の良いタスクリストを捉えることはできないため、記録や仮説に基づいて、少しずつ明らかにしていきます。定着まで長い道のりを要し、一ヶ月どころではありません。
例として、仮に筆者が Robot を採用するとした場合、どんなタスクリストになるかを書いてみます。ルーチンタスクには 🔁 をつけており、括弧内に出現頻度を書いています。
-5:00 🔁(毎日)睡眠おわり、起床
-5:04 🔁(毎日)トイレとカーテンと顔洗い
-5:07 🔁(毎日)お湯を沸かす、マットレスを片付ける
-5:10 🔁(毎日)コーヒーとパンを持ってデスクに
-5:40 🔁(毎日)情報のキャッチアップ、コミュニティへの返信
-5:50 🔁(平日毎日)勤務準備
-5:50 🔁(火・木)可燃ごみ ごみ捨て
-5:55 🔁(平日毎日)リモート勤務勤務開始
-6:10 🔁(毎日)今日のカレンダーを見て 10 分前にアラームをセット
-6:10 🔁(平日毎日)勤務開始連絡
-6:10 🔁(平日、2日に1度)勤怠入力
-6:10 🔁(平日毎日)チャットとメールを読む、アクションが必要なものはタスク化だけする
-6:20 🔁今日やることを組み立てる
...
個人的すぎる内容のため理解は放棄して構いませんが、雰囲気はおわかりいただけるかと思います。見ての通りルーチンタスクばかりです。通常のタスクが登場するのは 6:20 以降です(今日やることを組み立てた結果のタスクが並びます)。決まったリズムで動く様はまるでロボットですね。病気に見えるかもしれませんが、筆者にとっては自然です。むしろ自分の過ごし方を洗い出しただけにすぎません。他の人も、自覚がないだけで自分なりのリズムがあります。Robot はそのようなリズムを明示的に捉えて、タスクリストに落とし込んで、改めてその通りに動くことを目指します。
その結果、Robot が手に入れるのは安定感の継続です。仮に自分のリズムに完璧に沿えることがベストだとするなら、ベストに至るためには「できるだけ沿えるように過ごせ」となりますよね。これを意図的に狙うのです。
Robot を行うためには、ルーチンタスクを扱えるツールが必要不可欠です。「今日はどのタスクを行えばいいのかな」といちいち手作業で判断するのは現実的ではありません。ツール側でタスクごとに頻度を設定しておけば、そのとおりに自動で出現させることができます。国内ではタスクシュートが火付け役となりましたが、Todoist などシンプルなツールでも扱えます。しかし、カレンダー系のツールでは力不足です。Robot は一日何十という(ルーチン)タスクを扱い、何百何千という操作も行ないますので、これができるだけの軽さがないと挫折します。人によってはタスクシュートや Todoist でも足りませんし、筆者も Monolith の延長で Robot を行うツールを自製していました(※1)。
- ※
応用1: どこまで固めるか
Robot としてどこをどこまで扱うかには好みが出ます。
- 時間帯
- 朝起きてから寝るまでのすべて
- 勤務中だけ扱うことにして、プライベートでは一切扱わないようにする
- 逆にプライベートだけ扱うことにして、勤務中は扱わないようにする
- 平日の出勤前と退勤後という慌ただしいタイミングのみ etc
- タスク
- 掃除、買い物、整理整頓などこまめにやっておかないと首が締まっていく系の日常タスク
- 日課や習慣全般
- チャットやメールの確認、RSS や SNS の確認、読書などコミュニケーションやインプット系のタスク
- 勤務中の定型作業全般 etc
- 実行の記録
- いつ開始していつ終了したかまで記録する(タスクシュートはここ)
- いつ終了したかだけ記録する
- 終わったかどうかだけ記録する
- 記録すらしない(終わったら消す、筆者の todaros はここ) etc
- 順序性
- タスクリストは必ず上から順に消化しなければならない、とする
- 基本的に上から消化したいが、別に飛ばしてもいい、とする
- 今日行うタスクは表示している(デイリータスクリスト)が、どれをいつ行うかはその場の気分で選ぶ
- リストによる表示さえもやめて、単に今日やるタスクが集まる状態にする etc
つまり生活全域に適用するのか、一部にのみ適用するかということです。
全域への適用はもはや趣味だと思います。まずは少しずつ適用していくのが良いでしょう。あるいは、どうしても早く突破したい「嫌な時間帯がある」という場合に、最短で駆け抜けるために Robot を適用するのもアリです。成し遂げたいことがあるため習慣化したい、という場合も向いていますが、Robot は過剰ですので、後述の Tracker が良いでしょう。
応用2: 強いロボットと緩いロボット
Robot を見ると、タスクリストのとおりに厳しく従うイメージがありますが、そうとも限りません。というより自分で選びます。
厳しく従うスタイルを 強いロボット と呼びます。安定感は抜群ですが、融通が利かなかったり少しでも乱れるとストレスが溜まったりする点がデメリットです。また、人をかなり選びます。強いロボットを運用できるのは、20 人に 1 人もいないのではないでしょうか。おそらくは必要性があって、かつ意思も強くて実践できる人か、そうでなければ単に神経質・几帳面・その他こだわりが強い人だけでしょう。
一応タスクリストは洗っているが、従うかどうかはゆるく決めるスタイルを 緩いロボット と呼びます。緩いロボットでは、「今日ごみ捨ての日だけどだるいから次でいいか」のような先送りも平然と行います(その可燃ごみ捨てタスクを次回日に先送りする操作は必要です)。強いロボットのような安定感とは無縁になりますが、融通も利きますし、サボることはあっても忘れることはないので精神的にかなり楽できます。
「だったら Robot なんてしなくていいのでは」と思われるかもしれませんが、タスクリストが並んでいること自体に意味があります。Richild や Monolith と同様、一箇所に集まっているのです。生活において必要なルーチンタスクのすべてが集まっており、しかも適切な頻度で出現するという安心感 は非常に心強いものがあります。逆を言えば、すべて集めることと適切な頻度で出現されるようにするチューニングは、自分で行わないといけません。この点に限っては緩いロボットであっても避けられません。
応用3: リズムにも色々ある
Robot は自分の生活リズムを可視化する戦略とも言えますが、リズムにはいくつか種類があります。
- タイミング
- いつ実施するか、というものです
- 可燃ごみのごみ捨てを例にすると、朝 6 時が適している人もいれば、朝 9 時が適している人もいます
- またタスクによっては制約もあります。可燃ごみは 8:30 までに出してください、などです
- 頻度
- ルーチンタスクは「n日に1回行うタスク」ということもできます、この n を決めよ、というものです
- 筆者はメールチェックを 2 日に 1 回としています(n=2にしている)が、毎日行ないたい人もいるでしょう
- 1日に複数回行ないたい場合は、ルーチンタスクを複製します
- メールチェックを 1 日 3 回行ないたい場合、n=1 のルーチンタスクを 3 つつくります
- 頻度も制約によってコントロールされる場合があります(よくあります)
- リモートワークでは毎日出勤報告が必要と思いますが、これは事実上「毎日行うルーチンタスク」です
- キャパシティ
- どんなタスクをどれだけ詰め込めるか、というものです
- 人それぞれにモチベーションや認知資源のクセと限界があり、ここを無視するとタスクリストが形骸化します
- 忘迷怠でいう「怠ける」がまず発動し、形骸化が常態化すると認識もされなくなるので「忘れる」も生じるようになります
- たとえば筆者は「業界の情報をキャッチアップする」ルーチンタスクを使っていますが、頻度は 3 日 に 1 回です
- これ以上増やすと苦しいからです
- かといって頻度を減らしすぎると、逆に面倒になって形骸化します
- バランスの良い塩梅が n=3 でした(それでもたまにサボるので実質 4~5 日に 1 回くらいになってますが)
リズムはすぐにはわからないものですが、仮説検証的に微調整するといいでしょう。タスク管理ツール上では仮決めしておき、そのとおりに動いてみて、よさそうなら採用、ダメそうなら微調整するのです。n=2 だと多すぎるから n=3 に増やすかとか、タスク A と B と C を毎日(n=1)午前でやってたけど、ちょっとしんどいので C だけ午後にして、かつ n=2 に落としてみるかとか、といったことです。
こういう微調整ムーブを息するように行えるかどうかが、Robot 定着の分水嶺になる と思います。微調整するのがそもそも面倒くさい、続かないといった場合、まずはツールを疑ってください。次にトレメントを思い出して、トレーニングのつもりで頑張って耐えてみてください。それでもダメなら、向いてないので諦めましょう。Robot はかなり人を選ぶ戦略なので、できなくても不思議ではありませんし、むしろできる方が少ないと思います。
メリデメ
メリット:
- 自分のリズムに則った、安定感のある生活をおくれるようになる
- すべてのタスクが適切な頻度で出現するという安心感
デメリット:
- ハードルが非常に高い
- 人をかなり選ぶ上に、定着の道のりも長い
- 一生微調整の世界観に身を投じることのしんどさ
- 筆者も一時期 Robot でしたが、これがしんどくて今では(部分的には使ってますが)やめてます
適性
毎日同じリズムで規則正しく過ごしているような几帳面な人には向いています。
仕事と家事育児を両立するような忙しいビジネスパーソンにも向いています。意外に思われるかもしれませんが、この人達は(単に忙しさがひどいだけで)生活リズムが固定化される傾向にあります。自身のリズムを可視化できれば、それに従うことが「模範解答的な過ごし方」となるので、忘迷怠も防げて非常に楽(いかに従えるかというゲームに帰着できます)になります。問題は、Robot を始めたりツールを操作したりする余裕すら取れないことでしょうか。これを取るためには盤外戦が必要です。ハードルはもう一つあって、PC デスクの前に座れるとは限らないので、座れるように盤外戦をするか、スマホで操作できるほど習熟する必要もあります。頑張れば手帳や掲示などアナログな手段でも実現できるかもしれません。
決めたとおりに行動できない人――多動な人やずぼらな人には向いていません。すでに述べたとおり、タスク管理の本質はトレメントであり、これをやると決めたことをそのとおりにこなすのが基本になるのですが、特性上、そういうことが苦手な人がいます。特に Robot は戦略の中で最もトレメントが求められるものですから、絶望的に向いていません。そもそもやろうとも考えないでしょうが。
Tracker
概要
タスクを「習慣タスク」として捉える戦略です。
習慣タスク とは時間を気にしないルーチンタスクのことです。何時に行ってもいいですし、何時に行ったかを記録する必要はありません。必要なのは頻度の設定と実行したかどうかの記録だけです。言い換えると、Tracker は毎日「いつやってもいいけど今日中にやるタスク」が書かれたリストや表と向き合う生活になります。Dailer と似ていますが、先送りの概念はありません。Richild や Monolith とも似ていますが、集めるものが習慣タスクのみという点で違います。
と、概念的には小難しいですが、習慣トラッカーがわかりやすいです。Tracker は習慣トラッカーを使います。これを使って、なるべく多くのタスクを処理することを目指します。通常、習慣化のために習慣トラッカーを使う人の「一日にこなす習慣数」は多くても十数個ですが、Tracker はもっと増えます。20、30、下手すればそれ以上もありえます。
本質的には Robot と同じです。普段の生活において必要なタスクをルーチンタスクとして捉え尽くす点は同じで、これをどう処理するかが違います。Robot は愚直に「定期性を持つタスク」として全部ツールに入れて管理――生涯微調整する道を選びましたが、Tracker はもっと雑で、単に習慣トラッカーに全部載せてしまえと考えます。
例として、Robot の項でも挙げた筆者のサンプルを、今度は Tracker 用に書き直してみましょう。
今日が 5/28 火曜日だとして、まだ終わっていないタスクとして「可燃ごみ ごみ捨て」「勤怠入力」「今日やることを組み立てる」がありますね。Robot の時は上から厳密に処理していましたが、Tracker は違います。その日のうちのどこかでできればいい と考えます。Robot でいう緩いロボットと同じです。ここで「だったら緩いロボットでいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、緩いロボットでも Robot には変わりなく、タスク管理ツールへの深い習熟(と高頻度なタスクの操作)が求められます。もっと雑にやりたいのです。習慣トラッカーであれば、雑にやれます。最初にこのような表をつくるのは面倒ですが、一度つくってしまえば、あとは毎日、やったところにチェックをつけるだけで済みます。律儀に一つずつつけなくても、あとでまとめてこれとこれはやったよなとチェックすればいいのです。雑に運用しながらも、今日は何をすればいいかが可視化されているというバランスが手に入ります。
応用1: ツールとして何を使うか
大まかに 3 通りあります。
- 1: 手帳などアナログな手段を使う
- 2: 既存の日課・習慣管理系のツールを使う
- 3: 自製する
1 のアナログな手段については、習慣トラッカーの鉄板です。一から自分でつくってもいいですし、時系列軸のある手帳を使ってもいいですし、習慣トラッカー用の手帳を使うこともできます。メリットは手軽に始められることです。デメリットは、タスクの追加・編集・削除といったメンテナンスがしんどいことです。仮に 1 日平均 30 のタスクがあるとした場合、習慣トラッカーの縦軸には 30 のタスクが並ぶことになります。これを全部手で書かないといけません。
2 のデジタルな手段については、既存の日課管理や習慣管理系ツールを使います。この手のスマホアプリは多数ありますし、Habitica のような本格的なもの(習慣トラッカーというよりは Robot 寄りの世界観)もあります。メリットはアナログよりも各種操作や記入が楽に行えることです。デメリットはツール側のコンセプトや広告が煩わしいことです。また Tracker のように何十ものタスクを扱うことが想定されていなかったりします、たとえば今日全部のタスクを一画面に表示しきれず高頻度なスクロールを求められたりします。
と、このように既存で決め手に欠けると、3 の自製案に行き着きます。エンジニアとして自分でツールをつくるのもいいですし、そこまで行かずともテキストファイルや手帳などで自分なりのやり方・フォーマットを確立してしまうのもアリです。たとえば家の壁にマグネットがひっつくボードを設置して、タスクや時間軸をマグネット付箋で書いて並べてしまうこともできますし、デジタルだとMiroのようなホワイトボードツールで同等のことができます。習慣トラッカーは表ですから、Excelでも可能です。いずれにせよ、縦長にはなるでしょうから、それなりのサイズが必要だと思います。
応用2: どこまでカバーできるか
戦略というからには、なるべくすべてのタスクを管理したいものですが、残念ながら Tracker では力不足になりがちです。
まず、その日その時にスポットで発生するタスクや予定――つまり定期性のないタスクは管理できません。十中八九、他の戦略も使うことになります。
次に、あまりタスクを管理しすぎると形骸化に繋がりやすくなります。たとえば 1 日平均 30 個のタスクを Tracker で管理しても、忘迷怠、特に怠けることが発動してあまり消化できません。Robot の項でも少し書きましたが、認知資源がバカになりません。結局、消化率を上げるためには、Robot など厳しめの制約が要ります。本書でも度々強調していますが、人間は怠け者であり、「この中に今日やるタスクが集まってるよ」「どれをいつやってもいいけど今日中に全部終わらせたいな」程度では終わらないものです。30 個中、10 個くらいしか消化できてない日々が続く、みたいな怠けた生活になる可能性も十分あります。
別にそれでもいいじゃないかと思われるかもしれませんが、人間は強くないので、1/3 しか出来てない、チェックできてない空欄が多い、との現状を目の当たりにするとメンタルをやられます。あるいは、やられたくなくて目に入れる機会から逃げて――となって、ついには破綻します。これは重要な原則の一つですが、タスク管理では形骸化が常態化すると、すぐに破綻します。穴の空いたバケツのようなものです。そもそも形骸化を防がなくてはなりません(穴空き自体を許してはなりませんし、空いてもすぐに塞がねばなりません)。
そういう意味で、Tracker にもバランス調整が要求されます。習慣化と同様、少なめのタスクから始めて、少しずつ増やしていくのが良いでしょう。あるいは、最初から多数のタスクをこなしたいとわかっているのなら Robot を検討してください。
応用3: 習慣トラッカー以外のビューはあるか
あります。
習慣トラッカーは、ビューの種類で言えばテーブル(表)にあたりますが、ビューとしてはリストやボードもありますし、チャートやネットワークやセンテンスもありえるかもしれません。
いくつか挙げましょう。
- スタンプカード式(ボード)
- ラジオ体操のスタンプカードを思い浮かべてください
- あれば「ラジオ体操に参加する」という単一のタスクのみを管理する習慣トラッカーと言えます
- これを一般化すると、1タスク1トラッカーとなります
- 仮に 30 のタスクを扱いたいなら、30 枚のトラッカーをつくればいいのです
- センテンス式(センテンス)
- 一日の理想の過ごし方を日記風に書きます
- 本文は、
- 何度読み返してもうっとりするよう、美しく仕上げます
- 行うべきタスクは「」や『』などで強調して散りばめます
- このような文章があると、毎日それを見ることで今日必要なタスクがわかります
- 実施したかどうかを記入する(打ち消し線を引くなど)するために、複製して毎日印刷できると良いですね
- 曜日ごとに過ごし方が違うのなら、その分の文章をすべてつくりましょう
- スリーエリア式(ボード)
- 準備
- マグネット付箋など移動が容易な文房具(デジタルでも可)
- 付箋を置くエリアを 3 つつくる
- エリアは「プール」「今日やる」「今日やった」の 3 つ
- タスクは付箋に書き、プールに集める
- 運用
- 1: 一日の最初に「プール」を見て、今日やるものを「今日やる」に移す
- 2: 日中は「今日やる」を見ながら過ごす、終わったものは「今日やった」に移す
- これを毎日繰り返す
- その際、前日残った分が「今日やる」に残ってるので、これは 1: のときに引き続き残すかプールに戻すかを選ぶ
- Robot にせよ、Tracker にせよ、タスクの実施頻度はツール側に設定しますが、このスリーエリア式は 1: を見ればわかるとおり、自分の記憶と判断を頼りにします
- 準備
上記は例です。この他にも、自分に合ったビューを考えることはできると思います。
メリデメ
メリット:
- Robot よりも雑な運用で、Robot をメリットを受けられる
デメリット:
- 単発のタスクを扱えない
- 別にタスクリストをつくるなどして、そちらを使う必要があります
- 専用のツールや事例がなく、整備が落ち着くまでに試行錯誤を要する可能性
- タスク数のバランス調整に苦戦する可能性
- タスクの消化を自分の意思に任せる構造であり、形骸化→破綻につながりやすいため、そうならないよう抑える
適性
Robot に挫折した人には向いているかもしれません。Robot でも緩いロボットのやり方はありますが、ツールの重用自体は避けられません。一方、Tracker であれば、習慣タスクとして捉えるというクセこそありますが、ツールの難易度自体はたかが知れています。
習慣化が好きだったり趣味として取り組んでいる人達(ハビタン, Habitan)には向いていません。意外に思われるかもしれませんが、ハビタンは毎日すべての習慣をこなす完璧性を求めています。一方、Tracker の本質は可視化と手抜きです。頑張るのは最初、習慣トラッカー上にタスク(といつやるかの頻度)を並べて可視化するところまでで、その後毎日どこまで消化するかは雑でも良いのです。「半分以上チェックがつきませんでした」と平然とありえます。ハビタンには耐えられないでしょうし、むしろ「毎日すべてのタスクを全部消化しなければ!」と真面目に取り組もうとするでしょう。正直分が悪いです。Tracker のレベルでちゃんと消化したいなら、素直に Robot を使うべきです。
自分の脳内が正義
ツールの利用を最小限にする戦略です。タスク管理やツールといった細々にとらわれたくない人に適しています。
Inboxer
概要
タスク管理としてインボックス(未消化の対象を溜める何か)のみを使う戦略です。
明示的に新しいツールや方法論を整備するのではなく、既存のコミュニケーションツールや環境の一部を拝借してインボックスにします。たとえばメールの受信箱、ブラウザやチャットのブックマーク機能、あとで処理する書類を置いておくスペースなどです。最後のスペースについては、律儀に引き出しやトレイをつくるというよりもどこか適当なスペースをそうだとみなすことが多いです。インボックスは一つではなく、必要に応じて複数存在し、Inboxer はインボックスゼロ――つまりは全部処理して中身を空にすることを目指します。
Inboxer は極めて合理的であり、タスク管理を行っているとの自覚はありません。業務上あるいは生活上必要な動線の中で、一時的に手間のかからないマーキングをしている、くらいの手間しかかけません。その心理は繊細で、自身の頭の性能への絶対的な自信と、そうは言っても全部を覚えたり優先順位をつけたりするのには限度があるので楽をしたい気持ちと、それでもタスク管理なるものに頼るのは面倒すぎるしプライドも許さないという信念とが絶妙なバランスを保っています。その結果、普段使ってる動線が持つ機能を使ってマーキングをする程度、となります。メモではなくマーキングです。いちいちメモを残すなんてことはせず、ボタン一発でマークをつけておくくらいの手間がギリギリの許容範囲なのです。
応用1: Calendarer との使い分け
Inboxer は忙しい人がなりがちです。他に忙しい人向けの戦略としては Calendarer があり、使い分け方に悩むことがあります。
ポイントはカレンダーが動線になっているかどうか、です。動線とは自分が自然に一日何回も通る場所のことです。この場合、毎日自然と何回もカレンダーを見るかどうかです。見る場合で、かつ予定を扱う必要もあるのなら Calendarer も必要でしょう(要はカレンダーが必要でしょう)。このとき、カレンダーをインボックスとして扱うこともできます。たとえば、あとで行うタスクを、普段使わない時間帯に予定として自分でつっこんでおけばいいのです。その時間帯がインボックスであり、ここを空にすれば良いと考えます。
応用2: アクティブレイジー
Inboxer の屋台骨は「既存の」動線を死守することです。自分で新しくインボックスをつくったり、ましてタスク管理のシステムをつくったりなどしません。そんなことはやってられません。たとえば Slack と X と Discord の 3 つを使っている Inboxer がいたとしたら、この人にとっての既存の動線はその 3 つであり、その 3 つが持つ機能のみでインボックスをつくります。手元の手帳でタスク管理しようとか、Notion でノートを取ろうといったことはしません。「新しく仕組みをつくって動線にしちゃえばいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、そういう行動も好みません。この人にとっての動線はあくまでもこの 3 つであり、自分でいちいち増やすだなんて真似はしないのです。
そういう意味で、Inboxer は怠け者(Lazy)と言えます。一方で、動線上で多数のコミュニケーションをバリバリこなしており、人一倍優秀だったり立場や収入を得ていたりする傾向もあります。アクティブなわけです。一見すると相反してそうな、このような Inboxer の特徴を アクティブレイジー(Active Lazy) と呼ばせてください。
Inboxer の気質はアクティブレイジーです。もし「自分用の新しいタスク管理をつくろう」などと考えるのだとしたら、その人は Inboxer 気質ではないでしょう。他の戦略を採用した方が賢いと思います。
逆にアクティブレイジーだと思われるのなら、既存の動線からは外れないようにしてください。外れようとしても、どうせ続きません。アクティブレイジーは怠け者なので、他の戦略なんてできやしません。もちろん状況次第では既存の動線が廃止されたり、新しい動線が追加されることもあるため、その場合はさっさと勉強して適応してください。
応用3: 場や人の力にどれだけ頼るか
※インボックスとは関係のない話になりますが、タイミングが良いのでここで解説します。
Inboxer はアクティブレイジーであり、タスク管理を好みません。Inboxer として自分で管理するのも良いですが、実は外に任せるのもアリです。人に委譲したり、場に居ることで働きかけてもらったりといった形で楽をするのです――とわざわざ言うまでなく、経営者、管理者、その他権力者などはこのスタイルを使いがちです。秘書を雇うなど雇用とは違う点に注意してください。
外部に頼ることをどれだけ狙うかに好みが出ます。おおまかには以下の 4 パターンがあると思います。
- クローズドな委譲者
- 人に頼るタイプです
- 信頼できる少人数(たいていはひとり)に任せます
- 昔からよく知られた概念で、任さる先として秘書、補佐、マネージャー、パートナー等があります
- オープンな委譲者
- 場に頼るタイプです
- 自分の情報を社内に広く公開し、社員の誰かが巻き取る・必要に応じて干渉してくれることを期待します
- ティール組織など現代的な組織の CEO が、この形態を取ることがあります
- クローズドな独裁者
- 頼らないタイプです
- 情報を自分のもとに集め、自分でバッサバッサと判断していきます
- 関係者のみを集めた会議や、関係者しか見えない DM などクローズドな手段を好みます
- オープンな場所や機会で発言することもありますが、たいていは決定事項の伝達です
- オープンな独裁者
- 頼らないタイプです
- 自分で判断する点はクローズドな独裁者と同じですが、手段はオープンであり、皆に見えるチャットチャンネルやメーリングリストなどでも平然とやりとりします
- 一見するとオープンなので委譲的に見られがちですが、本質は頼らないタイプであり、何に反応するかもその人自身が決めます
Inboxer 本人としては、自分がやりやすいやり方で良いでしょう。方法論的に優れているのはオープンなあり方です。クローズドなやり方だと情報格差と政治が発生し、中長期的な目線では分が悪かったり優秀な人材が集まりづらかったりします。どこかで伸び悩みます。組織の力学としては自然ではあります。
Inboxer と関わる側としては、自分に合ったタイプと過ごせると良いでしょう。クローズドな Inboxer は IT に疎く、打ち合わせと政治が多発しがちです。懐に入れたら天国ですが、入れなければストレスです。また、基本的に拘束が長くなるためワークライフバランスは通用しづらくなります。オープンな Inboxer は公平で公正でフランクですが、変化や議論が激しく信念等のクセも強くて、合うなら天国、合わなければ地獄です。
メリデメ
メリット:
- アクティブレイジーの気質(繊細なバランス)を尊重できる唯一の戦略であること
デメリット:
- 人を選ぶ戦略であり、採用しづらいこと
- アクティブレイジーの気質、頭の性能、動線から逸脱しなくても済むことが許される立場等が必要
- 対応が場当たり的になること
適性
経営者、組織長、指導者など人や組織の意思決定を行う立場の人には向いています。Calendarer と同様、誰に言われずともこの戦略になることも少なくありません。
フリーランスなど裁量多め、制約少なめで多くの仕事をこなす立場の人(ラピッド・マルチタスカー)にも向いています。ただし場当たり的な対応しかできませんから、自らを忙しくしがちで、慢性的に不調を抱えがちです。
アクティブレイジーでない人には向いていません。
研究者、作家や芸術家などクリエイティブな人にも向いていません。ただし場当たり的にこなしていける実力とそれで満足できる感性があるなら別です(ラピッド・マルチタスカーの範疇になります)。
まとめ
- 戦略とは
- どんなやり方や考え方で望むかという方針のこと
- 何を拠り所にするか、で分類できる
- ===
- 時間で区切る
- メリハリをつけたい人向け
- Dailer。今日とそれ以外に二分し、今日は何をするかを考える
- Calendarer。カレンダーを片手に、タスクを予定化して予定消化マシーンと化す
- Slotter。時間帯という枠を設け、各枠で何をするか考える
- 主な用語: オプラン
- 話題で区切る
- 中長期的に取り組みたい、寝かせたい人向け
- Issuiest。バグ管理システムを使う
- Topician。Wikiやノートツールを使う
- 主な用語: トピック指向
- 一箇所にまとめる
- 手間暇かけずに済ませたい人向け
- Richild。物タスクを一箇所に集める
- Monolith。タスクを一箇所に集める、特に単一のテキストファイルに全部書く
- 主な用語: 物タスク
- 繰り返しの力で回す
- 自分の脳内が正義
- そもそも管理やツールにとらわれたくない人向け
- Inboxer。動線上でインボックス(未処理を溜める場所)を使うだけで済ませる
- 主な用語: アクティブレイジー