Chapter 03

タスク管理を眺める

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2024.09.05に更新

タスク管理のやり方や考え方は人それぞれです、ゆえに自分に合ったものを自分で探していく必要があります。そのためには、タスク管理としてどんな要素、性質、事例があるかを眺めることが有益です。眺めた上で、自分に合ってそうなものを試していけばいい――という話をします。

この捉え方は本書の根幹となっています。本書の目的は、色んなやり方や考え方があることを提示して、読者のみなさまが自らのタスク管理を模索するお手伝いをすることです

模索の重要性

本質は「人それぞれ」

タスク管理の本質を一言で言うと、「やり方や考え方は人それぞれ」です。ここから導けることも至って単純で、「自分に合ったものを探っていきましょう」となります。

そうは言ってもゼロから模索するのは現実的ではありません。そもそもタスク管理について勉強することからして難しいです。教科書もなければ教育もありません。一応、有償のセミナーはありますが、高額ですし、合う・合わないの差も顕著です。書籍やインターネットからも多くのヒントを得ることはできますが、玉石混交としており一筋縄には行きません。色んな人が色んなやり方や考え方を好き勝手に発信している――それが現状なのです。

さて、多くの人が思い浮かべているのは「ツール」だと思います。タスク管理とは何らかのタスク管理ツールを使うことに等しい、と。たしかにツールは必要不可欠ですし、下手な思想やプロセスよりも百倍役に立ちます。しかし、タスク管理は上述したように「人それぞれ」が本質ですから、受け身でツールを使っているだけでは不十分なことが多いです。実際、色んなツールを渡り歩く方も少なくないのではないでしょうか。

自分で模索する

結局、自分に合ったタスク管理は自分で模索する他はありません。

タスク管理は趣味のようなものです。趣味と言っても消費、対戦、運動、創造、奉仕と様々ですし、何がどれだけ合っているかも人それぞれです。ついでに言えば、同じ人であっても年月が経てば変わりますし、経たなくても調子や状況によっても変わります。タスク管理も同じです。

「いいや、違う。タスク管理は仕事だからセオリーがあるはず」と考える方もいるかもしれません。たしかに、そのとおりではあるのですが、大前提として私達は人間です。抱えているものも、体力も、モチベーションの源泉も人それぞれですし、そもそも人に共通する特徴として、人は怠けますし、迷いますし、そもそも忘れます。仮に「このやり方と考え方に従っていればすべてうまくいく」という魔法のようなものがあるとして、では本当にそれに従い続けることができるでしょうか? すでに仕事、特にチームでタスク管理をされている方はよくご存知だと思いますが、仕事という真面目な文脈であってもうまくいかないのが当たり前ではないでしょうか。

タスク管理は本質的に個人的なものです。これくらいならできそうだ、続きそうだ、というバランスを探る他はありません。そのバランスは人それぞれですし、たいていは自分の細かい癖や状況も(意識的に、少なくとも感覚的に)踏まえねばなりませんから、自分自身で探る他はないのです。

魔法のようなツールはないのか? → ないです

自分で模索し続けるだなんて、とても面倒くさいですよね。ツールでなんとかならないのか、と思うかもしれません。

現時点では「ならない」と筆者は考えます。上述したとおり、タスク管理は本質的に個人的なものであり、ツール程度でこれに寄り添えるとは思えません。2024 年現在では生成 AI が盛り上がっていますが、これも同樣、サポートにはなっても全面的に頼れるものではありません。

一方で、昔からよく知られた考え方もあります。いわゆる「委譲」と呼ばれるもので、具体的には秘書や執事が有名でしょう。財力や権力を持つ人は、タスク管理などという面倒くさいことを自分でやる必要はなく、任せられます。ツールというプログラムではなく、人ですから、融通も利いて便利です。あえて解説するまでもなく、よく知られた概念だと思いますが、同時に一般人には縁のない存在です。そもそも秘書や執事が使えるからといって、人生のすべてのタスク管理を任せられるわけではありません。すべてを丸投げしている経営者や資産家はいないでしょう。結局、面倒くさい雑務を任せたり、予定というダブルブッキングの許されない事象を管理してもらったり、と限定的に頼る程度になります(それでも喉から手が出るほど欲しいでしょうが)。秘書や執事を代替できるツールが登場すればありがたいですが、まだまだ時を要すると思います。

総じて、使うだけですべてがうまくいくような魔法は現時点ではありえないと言えます。

模索から逃げない

いきなり厳しい現実を突きつけてしまいましたが、大事なことです。自分に合ったタスク管理を模索していくことからは逃げられませんし、逃げている限りは辿り着けません。

とはいえ、意外と悲観するほどのことでもなかったりします。知ってみれば「なんだそんなことか」と拍子抜けすることもあります。逆に「思っているより大変だ……」「いや無理でしょ……」と絶望する可能性もありますが、そういうものです。たとえば、この先で詳しく扱いますが、タスク管理ができるかどうかは特性にかかっているところがあり、できない側の特性を持っている人にはタスク管理は難しかったりします(解としては人や仕組みに頼りましょうとなります)。

辛辣になりますが、タスク管理の現実――適性や限界というものを提示することもまた本書のテーマの一つです。それでも本質的に個人的である以上、やりようはあります。部分的に取り入れて、少しだけ楽をするのでも全然違います。繰り返しになりますが、自分に合ったタスク管理を模索することから逃げないことが重要です。社会も、人間関係も、仕事も何かと面倒くさいですが、タスク管理も同じです。面倒の荒波を自分なりに乗り越えていきましょう。

模索するために眺める

では模索しましょう、と言われても、前述したようにゼロから考えるのは現実的ではありません。幸いにも「タスク管理」と呼ばれるものにはある程度の型があります。事例や方法論やツールもあります。学問レベルで体系化されているジャンルではないものの、一個人で盛り上がっているものから、界隈で知られているもの、あるいは言葉にせずとも大多数の人が薄々知っているものまで、先人の知恵が色々ととっ散らかっています。

本書ではこういったものを言語化して、可能な限りわかりやすく提示していきたいと思います。読者のみなさまは本書を読むことで模索をショートカットできます。具体的には「ああ、そういうやり方もあるよね」と思い出したり、「それは私には合いそうにない」と適性を判断したり、あるいは純粋に「良さそう」「試したい」とか、「うーん、くだらん」「やる気出ないわ」といったことを考えるでしょう。

タスク管理は本質的に個人的なものです。どういうやり方や考え方を選ぶかはあなた次第――どうか肩の力を抜いて、店頭や EC サイトで品物を物色する感覚で漁っていただけたら幸いです。

ようこそ

それでは、模索の旅を始めましょう。早速内容に入っていきます。

タスク管理は 3P で分類できる

プロジェクト、パートナー、パーソナル(個人)の 3 種類があります。

特にタスク管理というと、仕事でチームで取り組むものを思い浮かべる人もいれば、各個人が自分のタスクを管理するものを思い浮かべる人もいます。両者の違いを認識しておくことは極めて重要です。

本書では主に後者の、パーソナルな方を扱います。したがって、前者のプロジェクトの方を望まれている方にはあまり参考にならない可能性があります。それでも端的にはまとめていますし、プロジェクト向けであってもパーソナルの側の知見は役に立ちますので、ぜひ立ち寄ってみてください。

さて、3P 分類の中身に入っていきましょう。

3P 分類

タスク管理は 3P で分類できます。

名前 対象 主な性質
Project プロジェクト(チーム) 割り当て、調整、全体俯瞰と個別詳細
Partner パートナー(夫婦、親子) タスクの共有とメッセージのやり取り
Personal パーソナル(個人) 人それぞれ

プロジェクトタスク管理

仕事におけるチームなど、複数人で行うタスク管理を プロジェクトタスク管理 と呼ぶことにします。

  • ツール例
    • Trello
    • Asana、ClickUp、monday.com
    • Redmine、JIRA、GitHub Issues
    • Microsoft 365、Notion
  • フレームワーク例
    • WBS(Work Breakdown Structure)、ガントチャート
    • PERT(Project Evaluation and Review Technique)、CPM(Critical Path Method)
    • カンバン
    • バーンダウンチャート

昔は主にプロジェクトマネジメントベースで考案されたフレームワークが使われており、手作業でも運用可能でした。あるいは Excel や Google スプレッドシートなど表計算ソフトウェアで記入する例も多かったと思います(未だに現役でもあります)。

現在は SaaS 型のタスク管理ツールが使われます。タスクという個別の単位をつくり、その個別ページで担当者のアサインを情報のやりとりを行いつつ、すべてのタスクをリストやボードで視覚的に並べて俯瞰できます。各担当者が独立して個別に更新できますし、管理者は全体を俯瞰して状況を把握できます。

近年では高度な機能――たとえば他ツールとのデータ連携、一部ワークフローの自動化、設定項目や分類項目の柔軟なカスタマイズ、俯瞰用ビューのカスタマイズなどを備えたものも目立ちます。キーワードでまとめると連携、自動化、カスタマイズです。

いずれにせよ、右記のような本質があります。大きなタスクを小さなタスクに分解すること、タスクに締切を設定すること、タスクに担当者(遂行の責任者)を割り当てること、複数のタスクを俯瞰するためのビューを用意すること、チームメンバーの全員が同じ場所を見ることやメンテナンスすること(一元化)。要は皆の方向性と認識をあわせるために、タスクという情報を外に出してそれを原本にしようというものです。ものすごく単純に言えば、ただの見える化にすぎません。

逆を言えば、 見える化する以上の能力は無い とも言えます。結局口頭やチャットで催促したり、更新が形骸化してツールではなく聞きまわったり、そもそも聞いた方が早いので高頻度に会議体を設定していたり、はあるあるではないでしょうか。また目の前のタスクをひたすらこなすことに専念しがちで、改善や勉強や新規検討といった中長期的な取り組みもおざなりになりがちです。

この性質上、主に現場で使われるツールになっています。中間管理職以上のマネジメント以上の層では(現場をマネジメントする立場として関与する以外では)ほとんど使われていません。そもそもマネジメント以上の人は、扱う情報の量も、やりとりする人の数も多いですし、状況もよく変わりますから、ツールではなく自分の脳内で何とかしがちです。それがミーティングの多発という形で現れています。

総じて、プロジェクトタスク管理とは、やると決まったもの(あるいは決めたこと)を確実にこなすために、やることを外部化すること、およびそれをメンテナンスすることと言えるでしょう。

パートナータスク管理

夫婦や親子など、恒常的に一緒に暮らしている親密な少人数の家族間で使われるタスク管理です。

元々は何のツールも使わず、口頭でやり取りされるものでした。親密ゆえに遠慮も要らず、口で言った方が早いからです。そもそも「男は仕事、女は家事」など男尊女卑的な価値観が長らく続いており、家庭のタスクは妻側が一方的に抱えるシチュエーションも多かったと思われます。

次にコミュニケーションツールが台頭したことで、やりとりが行われるようになりました。最も有名なのは LINE でしょう。やってほしいことをパートナーに依頼したり、催促したり、といったことは日常的に行っているのではないでしょうか。しかし、LINE のようなシンプルなツールはメッセージをやりとりするだけですから、タスク管理としてはいささか不十分です。たとえば古いやりとりは流れてしまいますし、流れたら忘れます。また、いちいち通知も飛ぶので、あまり高頻度にはやりとりできません or してもスルーされます。

近年では Slack や Discord といった「高機能なチャット」を夫婦で使う、といった取り組みが表れています。また TimeTree や Cross など夫婦間・家族間で使う用のタスク管理アプリも登場しています。これらの特徴として、一般人でも使えること(たとえばスマホアプリとして使える)、タスクや話題といった分類観点を使用できること・保存して後から参照できること、メッセージによるやりとりができることなどが挙げられます。

要するに、パートナーという遠慮のない間柄ゆえにやり取りは必須ですし、仕事ではないので本格的なタスク管理を使うのも面倒(あるいはビジネスマンでもなければそもそもスキルがない)だからかんたんに使いたいですし、でも記録がないとこじれるからタスクでも話題でもいいから特定単位で区切って記録が残るようにしたい――といったニーズがあるのです。このジャンルを筆者は パートナータスク管理 と呼んでいます。

今のところ筆者が観測できているのは夫婦間や家族間だけですが、シェアメイトでも可能かもしれません。

個人タスク管理

個人が自分のタスクを自分で管理する形のタスク管理を 個人タスク管理 と呼びます。本書で主に扱うのも、この個人タスク管理です。

前述したように、本質は「人それぞれ」です。たとえば本当に重要なタスクだけをこなしたい A さんがいれば、掃除や爪切りやゴミ捨てといった日常の家事も完璧にコントロールしたい B さんもいますし、予定表につっこまれた予定をひたすら消化していくマシーンと化した C さんもいます。A さんのタスク管理は、B さんや C さんには通じないでしょうし、他の人もまた然りです。

さらに、どんなタスク管理を使うかは同じ人であっても変わります。たとえば平日はマネージャーとして C さんのような予定消化マシーンと化しているが、休日は有益に使いたくて重要なタスクを優先順位をつけてこなしていく(つまり A さん的) D さんもいれば、逆に平日は予定にとらわれず自分の裁量でのびのびと働きたいが、休日はアクティブに動きたいので予定をぶっこんで C さん的に過ごすという E さんもいます。

「人それぞれ」というと、まるで投げやりですが、一方で傾向はあります。ここまで書いてきた「予定に頼る」やり方は、おそらく多くの人がご存知でしょうし、何なら使っていると思います。また管理職など忙しい方は、(明示的に抗わなければ)割とこのスタイルになってしまいます。本書では、この傾向なるものも、上手く整理しつつ取り上げていきたいと思います。

もう一つ、我々は人間であり、怠けるし迷うし忘れる生き物だとも述べました。そうでなくとも集中力やモチベーションといった概念はよく知られています。いくらタスク管理が完璧でも、タスクに取り組む人間自身が上手く動けなければ意味はありません。そういう意味で、タスク管理は、実はタスク管理の周辺の要素こそが重要だったりします。この点についても、本書では詳しく扱っていきます。

狭義と広義

タスク管理には狭義のものと広義のものがあります。

狭義のタスク管理

まず 狭義のタスク管理 については、純粋にタスクを管理するという意味でのタスク管理です。特にプロジェクトタスク管理はこの側面が強いです。タスクの管理しか見ていませんので、タスク自体の是非や、タスクを扱う人、さらには環境といった視点は持ちづらいです。そもそも想定されてもいません。良くも悪くも、人はタスクを消化する機械です。

広義のタスク管理

しかし、先ほども述べたように私達は人間であり、機械のようには過ごせません。労働者としては機械的であるべきかもしれませんが、ウェルビーイングの水準が高まった昨今、歓迎はされません。また、VUCA の時代ともいわれるように、個々人が主体的な意思決定を下す必要性も増えています。そうなると、単に狭義的なタスク管理を行うだけでは事足りず、その周辺要素も考えることになります。

たとえば目標は何かとか、ビジョンとか何かとかいった「方向性」に関する話は、うんざりするほど聞かされている方もいるでしょうが、重要なことです。結局、目標やビジョンがどうあるか次第で、生まれてくるタスクも全く変わってくるからです。他にも誰とつるむかとかどういう組織にいるかといった「環境」の話や、どんなツールを使うのかなど「ツール」の話もありますし、個人的なことを言えば集中力やモチベーションといった「精神」の話、体調など「調子」もありますよね。

本当の意味でのタスク管理とは、このように狭義のタスク管理に限定せず、その周辺要素も考慮に入れるものではないでしょうか。これを 広義のタスク管理 と呼ぶことにします。

タスク管理にとらわれないということ

狭義のタスク管理にとらわれていると、そのタスクやタスクを取り巻く環境がおかしい場合に詰んでしまいます。

特に忙しいシチュエーションはただでさえ余裕がないですし、悪質な場合だと情報遮断や洗脳、あるいはそれらと同等の呪いがかけられていることもあります。こういうと仰々しくて、縁がなさそうに感じてしまうかもしれませんが、他人事ではありません。精神的に心身を崩して退社・休職した人や、おかしな言動をするようになった人、依存していて抜け出せていない人などは決して珍しくないと思います。このようなときは、タスク管理は無力です。一時しのぎにはなっても、いずれ力尽きます。自分が好きで一世一代の勝負をしているのなら構いませんが、そうでないのならただの自滅行為です。

たとえばブラック企業に勤めて搾取されている場合、タスク管理を習得してもっと仕事をこなせるようになるぞー、とはならないでしょう。そんな場所からは逃げる方が優先度が高いと思います。連日、徹夜クラスの深刻な睡眠不足が続いている場合も、タスク管理で何とかしようとは思わないでしょう、まずは寝て体調を戻すべきですし、そもそも睡眠不足が続く仕事の仕方そのものが間違っているわけで改善(できないなら逃避)するべきです。

と、これらは極端な例ですが、軽い例であれば日常の至るところに存在します。特に社会人の方であれば、くだらない茶番や習慣、手続きや様式や文化には思い当たりがあるはずです。タスクそのものを疑い、対処するべきシチュエーションで「いやもっと頑張ろう」「頑張るためにタスク管理を工夫しよう」などと捉えるのは、愚かですらあります。もちろん、だからといって怠け癖、逃げ癖がつくのも考えものですが、ご自身の心身と時間と思いはもっと尊重したいところです。組織的な場面だと、複雑で重たい力学が働いているので自分ひとりでは何とかならないケースも多いですが、それでも自衛することはできます。

タスクで忙しいときは、まずは広義な目線で疑ってみることをおすすめします。行動が必要なら、一気にやるなり準備するなりしてやっていきます。別に失敗してもいいのです。広義的な問題を見て見ぬふりをして消耗し続けるよりはマシでしょう。広義な目線で行動しない限り、状況は続きます(運が良ければ好転することもありますが所詮は神頼みです)。

ここまで長々と小難しく書きました。当たり前のことを言っていると思われるかもしれませんが、これが案外難しいのです。知らないと発想を持てませんし、知っているだけでは(特に忙しくて余裕がないときには)やはり頭が切り替わりません、また他人から冷静に指摘されるとイラついて反抗したくもなりますよね。一筋縄にはいきません。だからこそ、きちんと向き合い、上手く扱えるようになりたいところです。本書でもこの広義的な視点はしばしば登場します。

タスク

そもそもタスクとは何でしょうか。

タスクとは

タスク(Task) とは何でしょうか。仕事、やること、TODO、アクション(行動)、アクティビティ(活動)、プロジェクト――様々な呼び方があります。

正解はありません。というより文脈によって変わります。個人タスク管理であればその個人が決めればいいですし、チームで仕事に取り組む場合はそのチーム特有の定義があるかもしれません。またタスク管理のツールやメソッドにおいても定義があるかもしれません。そうかと思えば、定義が存在せず解釈が各人に委ねられていることもあります。

以下にいくつか例を示します。

  • 1 タスクとは「やること」全般である
  • 2 タスクとは「やることが確定した事柄」である
  • 3 タスクとは「締切」と「担当者」が設定されたものである
  • 4 タスクとは「一回の行動で終了させることはできないが、短期的な着手で終了に導ける程度の粒度を持つ事柄」である
  • 5 タスクとは「具体的な手順や達成条件が定義された事柄」である

1 は最も意味が広くて、ほとんど何でも含まれてしまいます。2 は「やることが確定した」とあるので、会社の仕事や上司からの命令、あるいは役所手続きなどクリティカルな私事などが当てはまるでしょう。3 は締切と担当者に言及しており、プロジェクトタスク管理で見かけそうな定義ですね。4 は小難しく書いてますが、要するに「複数回着手すれば終了できるサイズの仕事」とでも言えましょう。これはタスクというよりプロジェクトと呼ぶのが似合いそうです。最後に 5 ですが、具体的であることを強調しており、これも仕事の文脈って感じがしますね。

どれが正しくて、どれが正しくないといったことはありません。どれも正しいです。どの定義も、それぞれ有効なシチュエーションがあります。自分にとって、あるいはチームや家族にとって必要な定義を使えばいいのです。

悲劇を回避する

もっとも通常はツールを使う形でタスク管理を行いますから、いちいち定義なんて意識しません。しかし、それでも事実上存在はしています。タスクの定義を意識することで、タスクではないもの(定義から外れた異分子)を無理やりタスクだと扱う悲劇を減らせます。

たとえば 5 の「具体的手順と達成条件が定義されたものがタスク」という定義に基づいている場合に、手順や条件が曖昧なタスクがあったとしましょう。これに対しては「それはタスクじゃないです」「手順を具体的にしてください」「できないのならそもそも登録しないでください」といった形でガードできます。秩序を保てるわけですね。秩序を保たないと、具体的でない曖昧なタスクが混ざり込んでしまい、あとで見返したり更新したりするときに混乱します。タスク一個だけなら大した手間ではありませんが、積み重なると厄介です――最終的にはタスク管理そのものが形骸化してしまいます。

もう一つ、もっと個人的な管理を例にしましょう。締切が無いと腰が上がらない A さんがいるとします。この場合、A さんにとってのタスクとは「締切を持つ事柄」のような定義であるのが良いでしょう。そうしないと、いつまで経っても腰が上がらないからです。腰が上がらないだけならまだしも、締切の無いタスクもどきがたくさんあっては、本来のタスクさえも見失う可能性があります。タスク管理そのものに嫌気が指して挫折するかもしれません。何らかのツールを使ってタスク管理をするわけですが、A さんの場合、きちんと各タスクに締切を設定するべきでしょう。設定漏れを通知する仕組みがあればなお良いですし、A さん自身のキャパシティ(どれだけのタスクを抱えられるか、また捌けるか)を理解した上で総量を調整できたらさらにグッドです。

このように、タスク管理を行う人(達)自身が想定する「タスク」とは何かを定義し、定義したタスクだけを扱うようにするのが望ましいです。定義が堅苦しければ、大雑把な認識でも構いません。「私(達)にとって、タスクとは大体こんな感じのものを指す」くらいの認識でも、あるのとないのとでは違います。

タスクとそうでないものを区別する

ここまでタスクとは自分なりに捉えるものだ、のような話を書きましたが、あるセオリーを押さえておくとだいぶ楽ができます。タスクと「タスクのように見えるが、その実、そうではないもの」とを区別することです。

このようなものを オルタスク(Altask) と呼びことにします。Alternative Task、略して Altask です。直訳すると「代替タスク」となります。タスクの代わりに行うもの――タスクとは異なるやり方で対処する必要があるもの、との意味を込めています。

オルタスクとしては以下が存在します。

  • 入れ物
    • フォルダ、カテゴリー、タグといった分類の概念
  • 予定
  • ビジョン、理念、標語や心がけといったもの
  • メモ
  • 習慣や日課

詳細は後の章で述べます。ここでは軽く取り上げるに留めます。

一番わかりやすいのは予定でしょう。予定はカレンダーというツールで管理するのが王道です。開始時刻を守らねばならないので、うっかり忘れないようにする必要もあります。出社して「場が賑やかになったり誰かが教えてくれたりするから気付ける」ようにしたり、リマインダーを設定して音を鳴らしたりといった対策があります。あるいは人と会う予定であれば、相手にフォローしてもらうこともできますよね(そうでなくともやりとりがいくらか発生しますから思い出しやすい)。

習慣や日課については、意外と思われるかもしれませんがタスクではありません。オルタスクです。というのも、習慣や日課からタスクが生まれる、という対応だからです。たとえば「早寝早起き」という習慣はタスクではありません(し、タスクとして管理してもおそらく役に立たないでしょう)が、この習慣から「朝 6:00 に起きる」「夜 22:00 に寝る」「夜 22:00 に寝るための諸々の準備を……」といったようにタスクが生じます。もちろん定着した習慣であれば管理などしませんが、新しく習慣をつくる場合は別です。習慣からどんなタスクが必要かをブレイクダウンした上で、それらを管理する必要があるわけです。もっと言えば、このようなやり方や仕組みを確立できれば、(学校や会社やパートナーといった外部要素に頼らずとも)必要に応じて習慣をつくったり削ったりできるようになります。このような営みはタスク管理だけでは行えません。習慣というオルタスクに対する方法も必要なのです。

このとおり、オルタスクは奥が深いものですが、まずはオルタスクがタスクではないこと、そしてタスクとは違った扱い方が必要になるという点を押さえてください。オルタスクをタスクとして管理しても上手く行きません。

タスク管理

タスクについて取り上げました。ではタスク管理とは何でしょうか。

タスク管理とは

タスク管理(Task Management) とはタスクを管理することです。

管理とは何でしょうか。先ほどから「人や状況による」のような言い方ばかりしていますが、すみません、管理についてもそうです。

管理のニュアンス

まずは「管理」のニュアンスを見ていきましょう。

MCA の 3 つに大別できると思います。元ネタは右記です: 1 2

名前 解説 一言で
Management あらゆる手段を使って「うまくやる」 総合格闘技
Control 計画や基準のとおりに動いているかを「保証する」 ギャップを埋める
Administration 方向性や仕組みを定めるなど「舵取りをする」 トップダウンな支配

続いて、これを用いて●●管理のニュアンスを整理します。網羅は難しいので主なものを挙げます。

名前 MCA 解説
進捗管理 Control 期限までに完了できるか、進行ペースは問題ないか
完了管理 Control 何ができたのか、何を終えたのか
見積管理 Control 完了にかかる時間はどの程度か、正確な予測をするにはどうしたらいいか
会議管理 Management うまくいくためにどんな会議体を設定するか、スポットや緊急で誰と何を打ち合わせるか
稼働管理 Administration 人材のリソースをどう定義するか、何を持ってリソースの消費とするか ※1
在庫管理 Administration あとでやるタスクや中長期的にやるタスクをどう管理するか ※2

こうして見ると、Control(ギャップ埋め)とAdministration(トップダウンな支配)が多いことがわかります。

Management は少ないですが、会議はわかりやすいでしょう。定例会議やレビューなどの会議体設計だけなら Administration ですが、現実はそう甘くはなく、割り込みや緊急はあります。そうでなくとも雑談などカジュアルなコミュニケーションもありますし、1on1(※3)の考え方もすっかり定着しています。リーダーやマネージャーの腕の見せ所でしょう。まさに総合格闘技です。

    • 1 典型的なのは工数管理です。 工数 = (所要時間) x (単金)
    • 2 バックログ、いつかやるリストなど、この手のタスクをプールし定期的に棚卸しする考え方はよく使われます。
    • 3 1on1 とは上司と部下が1対1で話し合う打ち合わせのこと。シリコンバレー発祥で、国内ではヤフー(現 LINE ヤフー)の取り組みから広まったとされています。内情は雑談重視だったりキャリアに関する真面目な対話の場だったりと様々で、筆者としては 1on1 を見ればその企業の体質がわかると思っています。

タスク管理は Management

一方で、タスク管理は英語では Task Management といいます。Control でも Administration でもなく、Management です。これはここまで説明してきた「タスク管理は本質的に個人的なもの」「状況次第で最適解も変わる」とも一致する捉え方ではないでしょうか。要するにうまくやれれば何だっていいのです。Control や Administration は手段としてはよく知られていますし、効果も出ますが、それだけではないのです。

本書ではタスク管理と呼ばれるものの中身を色々と紹介していきますが、どれをどう使うかはあなた次第です。タスクを Management するために、枠にとらわれず、使えるものは使って、使えないものは捨てて、と自分なりに模索していきましょう。

タスク管理の公理

「タスク管理」についても、これまでの歴史の中でおおよそ共通されてきた前提があります。これを タスク管理の公理 と呼ぶことにします。公理というのは、理論の出発点としてとりあえず正しいとみなす事柄です。まさに前提です。

タスク管理の公理は、以下の 2 つです。

  • 1: ツールの公理
    • タスク管理には必ず何らかのツールを使う
  • 2: 解釈の公理
    • ある事柄がタスクであるかどうかは人が決める

ツールの公理

ツールの公理は、要するに 頭の中だけで完結するものはタスク管理ではない ということです。

そもそも頭の中で完結するのならタスク管理なんて面倒くさいことはしなくていいですし、実際頭の性能に自信がある方はやろうとも思わないでしょう。しかし、人間ひとりが扱える情報量などたかが知れていますし、人間は怠ける迷う忘れる生き物でもあります。この限界を越えるために、タスクという形で外に(ツールに)出して、その出したものをメンテナンスするのです。

プロジェクトタスク管理など複数人で行う場合も、やはり外に出すことが必要です。そうでないと、いわゆる「言った・言ってない論争」が起きますし、状況を確認する際にいちいち尋ねたり会議したりが必要になって面倒です。ツールに出しておくと、そこを見たりそこを更新したりすれば済みます。

解釈の公理

解釈の公理は、ここまで散々強調してきたことでもあります。ある事柄がタスクなのかどうかはその人次第ですし、同じ人であっても変わります。

極端な話をすると、本書を書くことは 2024/04/30 現在の筆者にとってはタスクですが、筆者以外の全人類にとってはタスクではないでしょう。また一年後はおそらく筆者にとってもタスクではなくなっているはずです。もう少し広げて「タスク管理を体系化する」「タスク管理を啓蒙する」と捉えた場合、これをタスクと捉えている人は複数人はいそうです。筆者もそのひとりです。

別の言い方をすると、タスクかどうかを決めるという 意思決定こそが重要 だとも言えます。私達の大半は労働者であり、上から降ってきたタスクを消化する機械と化している側面があると思いますが、それらのタスクも結局は誰かが決めたことにすぎません。ここまで書いてきたように、個人タスク管理では主役は自分自身なので、何がタスクかを決めるのも自分自身です。またプロジェクトタスク管理についても、ただ言われるがままにタスクと向き合うのではなく、自分なりに疑ってみることも大事です(広義のタスク管理の項で述べました)。

現実的には「降ってきたタスクに従うしかない」のかもしれませんが、公理としてはそうではない、決めの問題なのだという点はぜひ押さえてほしいと思います。

タスク管理はスキル

公理から言えることは何でしょうか。

まずはツールが重要だということです。

ツールというと何らかのアプリやサービスをイメージしますが、冷蔵庫にぶら下げる落書きボードやペンで書く手帳などアナログなものも含みます。またメソッドやプロセスやフレームワークといった概念的な道具も含みます。すでに「タスク管理のやり方や考え方を意識せず、とりあえずツールを漁って使ってみる」タイプの人も多いと思いますが、これは言い方を変えれば、ツールにはそれだけの力があるということです。タスク管理を知らなくても、使うだけでタスク管理ができてしまうというポテンシャルがあるのです。

次に意思決定が重要だということです。

何をタスクとみなすかは決めの問題です――と言うは易しですが、これは案外むずかしいことでもあります。決めることには責任が伴うので、負いたくない人は決められません。また決断が苦手という特性もあります。そもそもそのあたりをクリアしていたとしても、では何に基づいて決めるのかという判断指標も必要です。判断指標をどうやってつくるのか・育むのかも考えないといけませんね。また意思決定は疲れるものでもあり、注意資源という言葉もありますが、ヒットポイントのようなものです。睡眠しないと回復しません。ということは、闇雲に欲張るのではなく取捨選択が入りますよね。いわゆる習慣だとか生活の改善だとかいった部分も絡んできます。

マネージャーや経営者などは意思決定が仕事のようなものですが、逆を言えば意思決定は高度な営みとも言えるでしょう。タスク管理、特に何をタスクとみなすのかという広義な目線に立つということは、この高度な営みを始めることを意味します。一朝一夕には身につきません。判断指標のつくりこみやメンテナンス、意思決定という経験の蓄積、注意資源の効率的な使い方 etc、継続的に取り組まないと身につきません。要は鍛える必要があります。

ツールと意思決定。言ってしまえば、これらを行うためにはスキルが必要です。 そういう意味で、タスク管理はスキルなのです

まとめ

  • タスク管理とは
    • 本質は人それぞれ
    • 自分なりに模索する必要がある
    • 魔法のツールはなく、模索から逃げないこと・向き合い続けることが大事
  • 本書の方向性
    • 模索するためには、色々なヒントを眺められたらいい
    • 本書ではまさに「タスク管理」なるものの中身を色々と紹介する
    • 読者は店頭で品物を漁るつもりで、ヒントを漁ってみると良い
  • タスク管理は 3P に分類できる
    • Project プロジェクトタスク管理、チーム
    • Partner パートナータスク管理、夫婦や家族
    • Personal パーソナル タスク管理、個人
  • タスク管理には狭義と広義があり、広義の目線も重要
    • 単にタスクを管理するだけなのが狭義
    • 現実的には狭義を超えた目線が必要
    • ブラック企業など、極端な例を浮かべるとわかりやすい
  • タスクとは
    • 状況次第なので、状況が想定する定義を探すこと
    • タスクとそうでないものを区別すること
    • 特にオルタスクは覚えておくと良い。タスクとは異なるアプローチが必要
  • タスク管理とは
    • 管理という言葉自体は Control(ギャップ埋め)やAdministration(支配)を指す事が多い
    • しかしタスク管理は Task Management であり Management なので、うまくいけばそれで良い
    • ツールの公理と解釈の公理も意識したい
      • タスク管理とはスキルである