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日本のAI政策は、EUと異なる道に──平デジタル新大臣 「法的拘束力のある規制は必要最小限に」

» 2024年10月07日 17時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 平将明デジタル大臣は10月7日、日本経済新聞社が東京都内で開催したイベント「GenAI/SUM」で基調講演を行った。講演では、日本のAI政策の方向性や、デジタル政府におけるAIの活用など、幅広いテーマについて言及した。

photo 平将明デジタル大臣

 平大臣は、今回の石破内閣でデジタル大臣に就任した政治家だ。自民党内ではAIに関するプロジェクトチームのリーダーを務めるなど、政界でもデジタル政策の専門家として知られる。今回の講演は大臣就任後初の外部イベントでの登壇となり、日本の今後のAI戦略を示す重要な機会となった。

日本のAI政策アプローチは、既存法とガイドラインを主軸に

 平大臣は、日本のAI政策アプローチがEUとは異なる道を歩むことを明確にした。「既存の法律とガイドラインを中心に活用し、法的拘束力のある規制は必要最小限にとどめる」という。

 平大臣がこの方針を掲げる背景には、イノベーションと規制のスピードの不一致がある。平大臣は「技術革新のスピードと、それを管理する制度設計のスピードが合っていないことが本質的な問題だ」と指摘。「デジタル技術によるイノベーションは急速に進んでおり、その成果を効果的に取り入れているのは、主に英米法系の国々だ」と分析する。

 一方日本では、柔軟性と迅速性を重視したアプローチを取るという。「可能な限りガイドラインや既存の法律で対応し、高リスクな分野に限って法的規制を設ける」と方針を説明した。

 ただし、全てを自主規制に委ねるわけではない。「革新的なAIが開発された際、大手テクノロジー企業が米国政府には報告するのに、日本政府には報告しないという事態は避けるべきだ」と述べ、一部の分野では法的規制の必要性も認めた。

 このアプローチについて「日本はAIの研究開発や実用化がしやすい環境にあると評価されている。また、政策立案者との対話も円滑だと国際的に認識されている」と平大臣は自負を示す。実際、この方針によっていわゆる“GAFAM”や米Oracleなど主要IT企業から約2.9兆円の投資を呼び込むことに成功したことも強調した。

「1対1の行政サービス」目指す 政府におけるAI活用

 平大臣は「大臣になる前の時点での問題意識である」と断った上で、政府におけるAIの活用について具体的なビジョンも示した。平大臣は、従来の画一的なサービスから脱却し、個々のニーズに対応した「1対1の行政サービス」の実現を目指すという。

 その一つが、行政サービスの効率化と質の向上を目指す「政府AI」の構想だ。「デジタル庁は比較的AIを導入しやすい環境にある」とし「行政を支援するAIの開発が可能ではないか」と、潜在的な可能性を強調した。民間企業のコールセンターでのAI活用を例に挙げ、「行政における問い合わせや手続きのサポートにもAIを活用できる」と述べた。

 構想の背景には、行政の縦割りと横割りの問題があるという。当時内閣府副大臣としてかかわった新型コロナウイルス対応を例に挙げ、「国、都道府県、市区町村の間で情報がスムーズに共有されなかった」と当時の問題点を指摘。「デジタル化、クラウド化、標準化によって、縦割りも横割りも壁を壊し、1対1の行政サービスを実現したい」とした。

 AIの活用は行政サービスにとどまらない。平大臣は教育分野での可能性にも言及した。「GIGAスクール構想で1人1台端末が実現した今、AI家庭教師のようなものができれば、生徒の興味ある分野を深掘りすることもできる」と述べ、個別最適化された学習支援の可能性にも話は及んだ。

 さらに、高齢者支援の分野でも、AIの活用に期待を寄せる。「高齢者の会話の相手としてAIを活用する」といったアイデアも示した。

Web3活用・地方創生におけるAI活用の可能性は

 平大臣の技術政策への関与は生成AIに限らない。自民党内ではWeb3プロジェクトチーム(PT)の座長も務めており、ブロックチェーンなどの新技術の活用にも積極的だ。

 講演で平大臣は、自身が石破茂首相に「地方創生2.0」を提案したことを明かした。「10年前にできなかったことが、今はブロックチェーンなどの技術で実現可能になっている」と述べ、テクノロジーの進化が地方の課題解決にもたらす可能性に期待を示した。具体例として「(地方でのレクリエーションなど)体験をNFT化してグローバル価格に対応させる」などのアイデアを挙げ、新技術が地方経済に新たな可能性をもたらすと説明した。

 地方創生におけるAIの活用については、行政サービスの効率化や教育、高齢者支援など、幅広い分野での可能性を示唆した。「民間の皆さんから『こうやってもいいかな』とか、『投資をしてもいいかな』とか『起業してもいいかな』と思えるような環境を作っていきたい」と述べ、官民連携によるイノベーション促進への意欲を示した。

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