五十人くらい連続して「今、不倫しています」と言う人に会った。会った人から坂爪さんの生き方は勇気がありますねと言われるが、不倫するあなたも相当勇気がありますよと思う。俺ってつまらない人間だなと思う。家も金も仕事も過去も未来も自分自身も捨てて生きる姿は勇気にまみれて見えるかもしれないが、そんな私に「会いたい」とか「家に泊まって行きなよ」と言う人も、相当に勇気があると思う。人にはそれぞれ勇気がある。

街を歩くと「大切な人に贈りましょう」みたいな広告を目にする。大切な人だなんて、気色悪い。大切ってなんだよ。大切な人なんていねえよ。惚れた人ならいるけれど、大切だなんて所有物じゃないか。あなたは大切な人だからとか言われたら「重い」と思う。愛より、怨念の束縛を感じる。いたるところに怨念の束縛が充溢しているから、街を歩くたびに不快になる。俺が消えればいいのか、俺が死ねばいいのかと思うが、せっかく生まれたのだから、死ぬ前にひと暴れしたいと思う。

大阪在住の女性から「いい人だと思われたくて、いい人をやめられない」と相談を受けた。なぜ、いい人になりたがるのか。それは楽しいのか。清楚な振りをして、あなたの何が満たされるのか。本当にいい人と思われていると思っているのか。俺には全然そう見えないぞ。清楚系モンスターに見えるぞ。表面的には「人のため」とか言いながら、結局全部「自分のため」なんだろ。それを人のためとか言うから、歪む。ズレる。臭くなる。札付きのワルは、札をつけているだけ親切なんだよ。ピアノの先生とか、国語の先生とか、表面的には清楚な服を着ている奴が一番危ないんだよ。

自己啓発や占いに多額の金を出してきたとか言われると、金を出さないと本音を出せないなんて情けないと思う。その金を俺にくれよと思う。俺と一緒に何処かに行って、美味いものを食べたり、綺麗な景色を見たりしようよと思う。自分を大事にするから弱くなるんだよ。自分なんか捨ててしまえよ。自分なんてどうでもいいんだよ。自分なんてどうでもいいから「これが最高！これのためなら死んでもいい！」ってものに、自分の命を捧げるんだよ。あんまり自分に捕まるなよ。自分のことばかり考えるなよ。そんなんで生きてて楽しいのかよ。笑って死ねるのかよ。自分の好きに殉死しろよ。生きようとなんかするなよ。死ねよ。

傷つかないための予防線を張り巡らせて、死なせてもらえない。失敗させてもらえない。祭りは、本来、死者が出るものだろ。瞬間瞬間に死に、瞬間瞬間に生まれ変わる。一貫性のなさが一貫性。自己矛盾こそ生きる筋。昨日と違う自分になる。命を大事に扱うほど、命がどんどん重くなる。私は、命を、軽いものとして扱いたい。もっとめちゃくちゃになってくれよ。もっとだめになってくれよ。最低最悪の中に、最高最善があるんだよ。死んだら死んだで関係ないんだよ。死んだら死んだで「またね」でおっけー。「あばよ」でおっけー。生きることも死ぬことも、本来、全部、祭りだ。自分でも予想していなかった自分になり、自分でも予想していなかった今日を生きる。制御することなんてできない、内なる力を解き放つ。先の見える日々なんて、死んでいることと同じだ。