みやざきフェニックス・リーグ5年目の現地取材です。今回は阪神の高卒プロ2年目、井坪陽生外野手(ひなせ・19=関東第一)の走塁と、守備について忌憚(きたん)のない指摘となりました。

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フェニックスリーグに足を運ぶ楽しみのひとつが、普段は球場で見ることができないウエスタンリーグの選手を見ることだ。中でも、関東第一の後輩を見る機会に恵まれると、ついつい視線が行ってしまう。

もっと視野を広くとも思うものの、こうしてフラットな目で後輩のプレーをじっくり見て、今後の参考になるように指摘、解説ができたなら、それは先輩としても最大の喜びだ。この日、私が足を運んだSOKKENで、井坪が1番ライトで先発出場したからには、ここは巡り合わせとして井坪に注目した。

ヒットは2本。どちらも自分のスイングだった。恐らく本人も打つべくして打ったと感じているだろう。1試合の中で複数安打をする難しさは私にはよく分かる。これを自信にして、どんどん確率を上げる、これしかないだろう。

気になったのは、走塁と守備だった。そこには試合前に和田監督から聞いた井坪の内面の課題もあっただけに、余計に気になった。初回、井坪は左前打で出塁。続く山田の中前打で、井坪は三塁を狙い楽々アウトになった。

解説が仕事だけに、結果論になる側面はある。それを踏まえて厳しく指摘するならば、初回無死一塁で、後続打者もヒットで続いたなら、無死一、二塁とチャンスが広がることが大前提だ。そこは、セオリーとして井坪も理解はしているだろう。

ではなぜ、明らかなボーンヘッドと言える暴走で三塁でアウトになったのか。山田はフルカウントで中前打している。井坪は打球がセンター前に抜けるところは走りながら確認している。そのまま二塁ベースを踏み、三塁を狙うのだが、厳密には二塁ベース手前ではセンターはゴロを捕球していない。

しかし、井坪の視界にはゴロのコースと、そこに反応したセンターのチャージしてくる勢いは入っていたはずだ。井坪も外野手だ。ならば、センターの捕球がどのタイミングになるのか、自分の二塁ベースを回る流れを加味して判断する材料はあった。

セカンドを回ったところで、もう井坪は視覚から情報を得ることができない。つまり、セカンドを回る直前の情報を元に、自分で打球判断するしかない。しっかり準備していれば、まず間違いなく二塁ストップ。それを三塁を欲張ったのには、井坪なりに理由があったのだろう。

私の推論だが、フルカウントであったことから井坪はスタートを切っていた。つまり、エンドランの形になっており、その一連の流れから、一、三塁を思い描くあまり冷静な視点を度外視にして、暴走に踏み切ってしまったのだろう。

それほど足が速くない井坪だが、常に先の塁を考えた走塁を課題にしているはずだ。1番で起用してもらい、試合開始直後のヒット。そこで深く考えずにエンドランと同じタイミングでスタートしたために、やみくもに三塁を狙い失敗したのだと感じた。

トライすることは大切だが、完璧アウトのタイミングでのトライは、トライとは言わない。本人は完璧にアウトとは思わなかったとしたら、自分の走力と、相手外野手の動き、ゴロの勢いを加味した上での判断力に、冷静さを欠いていた、ということだ。

場面は変わり6回裏の日本ハムの攻撃は2死一、二塁。打者の右前打に井坪は打球処理に走る。捕球して、本来はホームか、サードに送球すべき状況だったが、井坪は一瞬だけ判断に迷ったように見えた。そして、中継に入った二塁ベース近くのショートに送球した。

この時、一塁走者は三塁手前で止まっていた。つまり井坪がダイレクトで三塁に投げていれば、完全にアウトのタイミングと判断し、挟殺プレーに備えて三塁ベース手前でストップしていた。今度は日本ハムの走塁ミスと言える場面だったが、井坪の判断が中途半端だったために、結果として中継に送球したところで、一塁走者は三塁まで進んでしまった。

井坪の送球、その判断は非常に中途半端に映った。打球処理の動きも、捕球もそれほど違和感はなかった。しかし、肝心の送球のところで頭の中が整理できていない。ホームかサードか、目の前の視野に入っていた情報から、二塁走者のホーム生還か、一塁走者の三塁進塁、このどちらかに狙いを絞っていれば、無駄にショートに返球することはなかった。

この2つのプレーを見て、試合前の和田監督の言葉がふに落ちた。「まだ、いい時と悪い時の波がありますね」。言葉を選んでくれたのか、表現は柔らかかったが、内容はとてもシビアで大切なことだった。

調子がいい時は、走塁でも守備でも気持ちが乗ったプレーができる。半面、ひとつのミスが心に残ると、それが尾を引いて、負の連鎖を起こしかねない。

プロ野球は、試合が連続する。立ち止まってじっくり考え、時間をかけて心を落ち着かせ、頭の中の思考を整理する時間はない。次から次へと実戦が続き、その1試合1試合、1打席1打席が自分の生活と直結する。

初回の走塁ミスを引きづり、守備での中途半端な送球をしたのなら、もしくはそう首脳陣や味方選手に見られてしまったのなら、それは井坪にとっては大きなマイナスだ。「ああ、やっぱり」と思われてしまえば、いい時は使われても、調子を落とした時やミスした時はチャンスがなくなる。

初回、ヒットを打ちながら走塁ミスをしたところで、井坪にはそのあとのプレーに全神経を集中させてもらいたかった。負の連鎖に陥らないように、そういう側面があるという自分自身を深く見つめて、そのサイクルから脱するプレーを心がけてほしい。

そのために、打球が飛ぶ前に頭の中で幾通りもシミュレーションをして、それに応じた動きをイメージすることだ。そして、その時こそ、思い切ったトライで、井坪はどう判断して送球したのか、味方にしっかり伝わるプレーを心がけてほしい。

今回の井坪のケースとは異なるが、プロ野球の1軍のレギュラーでも責任感が強いあまり、打てない時に守備にも悪影響がでる選手は何人もいた。そして、そういう自分のメンタル面の弱さを克服しようと準備を怠らない姿もたくさん見て来た。

井坪は高卒2年目。19歳。ファンの皆さんはまだ19歳と言われるだろう。しかし、自分の内面をつぶさに見て、その特質、弱点を把握し、その対策のためにいろんな工夫をしないと、プロ野球のシーズンは風のように過ぎ去っていく。

走塁ミスをした後もヒットを放っているんだ。そういう考え方もできる。1つの試合で、2つのミスをあっけなく重ねないこと、まずはそこからスタートしてみてはどうか。関東第一から高卒でプロに飛び込んだ後輩に、厳しい言葉をかけるようだが、そこから目を背けてはダメだ。

ミスした後や中途半端な判断をした直後こそ、しっかり切り替えて判断したプレーを早く見せてほしい。(日刊スポーツ評論家)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「田村藤夫のファームリポート」)