立憲・野田代表の覚悟が足りない 石破首相と好討論だったけれども

政治Plus

斉藤太郎

 久しぶりに見応えのある論戦だった。だが、まだ足りない。石破茂首相(自民党総裁)と野田佳彦・立憲民主党代表によるの9日の30分間の党首討論のことだ。野田氏が政権を取りにいく熱量が、なお足りない。

 石破氏の答弁スタイルは、ケンカ腰で長広舌をふるう安倍晋三・元首相とは違った。誠実そうに見えて、はぐらかしや繰り返しが目立つ岸田文雄・前首相に比べれば、言葉の中身は率直だった。

 立憲民主党の側といえば、理論派の枝野幸男・元代表は「言っていることは良くても、甲高い声でかみつくイメージ」を党内からも指摘されていた。政権や党中枢の経験が浅い泉健太・前代表はどうしても線が細かった。首相経験者の野田氏は重厚な論客ぶりをみせた。

 論戦を少し振り返りたい。

 自民党の「裏金議員」の公認問題をめぐり、野田氏は「首相は『相当程度の非公認』と言っていたが、公認は30人を超える。正確に言うと『相当程度が公認』、もっと正確に言うと『大半が公認』ではないか」と指摘した。さらに「公認料を払うわけですよね。脱税まがいのことをやった人たちに(政党交付金を通じて)血税が支払われるかもしれない」と詰め寄った。

 石破氏は「裏金というのは決めつけだ。(政治資金収支報告書への)不記載だ」「誰が脱税で立件されたのか」と主張しつつ、「公認しない方が少ないとおっしゃるが、(無所属での選挙戦が)どれほど厳しいものか。よくよく判断した。私は『甘い』とか『いい加減』というようなことを一切考えていない」と反論した。

 野田氏は「私は脱税と断定していない。ある方は2800万円近くを机の中に入れていたという。(所得税の納税対象となる)雑所得と考えられないですか、それは」と切り返した上で、「じゃあ、端的に聞きますよ」と間を置いた。そこでお得意の「ドスンパンチ」を繰り出す。腰が据わっているとの評判から、野田氏についた呼び名である。

 「非公認で立候補された場合、当選しますよね。追加公認されるんですか」

 石破氏は正面から対峙(たいじ)した。

 「主権者たる国民のみなさまがご判断された場合、それは公認する」

 その後も裏金問題をめぐる論戦が続く。野田氏は9月末の安倍派事務局長への東京地裁判決を引きながら、「新しい事実が出てきたら再調査するとあなたは言っている。再調査すべきではないか」と何度も問いただした。石破氏は「今まで(自民党として)調査してきた。今後も必要があれば、そういうことは否定しない」と返し続けた。

 この石破氏の答弁はあいまいそのもの。「再調査をやりたくても、党内基盤が脆弱(ぜいじゃく)な私にはできないんですよ」と言外に言っているような様子だった。別の話題に移したり、無理に反撃を試みないあたり、ある意味で正直だった。

 すると野田氏はたたみかける。「再調査をやろうとしないことがよく分かりました。『裏金隠し解散』じゃありませんか。党がやらないんだったら、予算委員会で証人喚問させてください」

 緊迫したやり取りだった。だが、野田氏はもっと気迫を見せてもらいたかった。これから27日の投開票まで、各党党首による討論の場はあっても、1対1で石破氏と論戦を交わす機会はほぼないだろう。それだけに、物足りなさが残る。

 12年ほど前の党首討論で、民主党政権の首相だった野田氏は野党・自民党の安倍総裁に対し、議員定数削減を迫りながら「解散をします」と唐突に宣言した。現場の議員たちは凍り付いた。安倍氏も明らかにたじろいだ。議員会館でテレビを通して見ていた秘書たちは「いま、何か変なこと言っていなかった?」と廊下に出て確認し合ったという。

 民主党で消費増税に反発する離党者が相次ぎ、衆院の過半数の維持すら危うくなった中での「究極のドスンパンチ」だった。だが、その後は安倍氏との直接対決を演出できなかった。

 衆院選の結果は民主党の大惨敗で、党首討論での野田氏のサプライズの評価はかき消された。だが、当時の民主党幹部の中では一定の評価があった。「党首討論で矢を放てたが、二の矢、三の矢が続かなかった」と悔やむ声があった。一時であれ、野田氏は気迫で風を起こした。あの党首討論で、民主党と自民党の消費増税の合意をめぐり、野田氏は「議員バッジを外す覚悟」で臨んだと明かしていた。

 今回の党首討論を前に、私は夢想していた。野田氏は立憲民主党の衆院選の獲得議席で勝敗ラインを唐突に宣言し、「議員バッジを外す覚悟」を再び口にするかもしれないと。実際は石破氏を追及するばかりだった。いたずらに進退をかける必要はないが、覚悟が伝わるような場面は少なかったように見える。

 かつて政権交代前の民主党の党勢に比べ、立憲民主党の地力が劣ることは間違いない。少なくとも今は「党首力」で局面を打開するしかないだろう。

 野田氏は「1強多弱」の起点をつくったからこそ、「緊張感のある政治」を取り戻す使命や責任を感じている。自らの地位や同僚議員たちの顔色よりも大切なものがあるはずだ。

 野田氏の論戦上手は多くの人が知っている。それだけでは足りない。他党のリーダーたちを凌駕(りょうが)するような強力な発信力と指導力を捨て身で発揮できないなら、野党第1党を率いる政治史的な意味がどこにあるのだろうかと、私は思っている。(斉藤太郎)

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この記事を書いた人
斉藤太郎
政治部|外務省・防衛省担当
専門・関心分野
国内政治、野党、国会