事件は解析室で暴かれる! 「わらの中から針」探す能力とは? 警視庁のスマホ復元を初取材

2024年01月03日

 警視庁刑事部捜査支援分析センター、通称「SSBC(Sousa Sien Bunseki Center)」。防犯カメラ映像の収集や分析、通信機器の解析を担当する専門チームだ。「ルフィ」と名乗る人物らが海外から指示を出していた一連の広域強盗事件では、秘匿性の高い通信アプリを解析し、事件の解明と指示役の立件に大きく貢献した。これまで解析技術や捜査手法が報道機関に明かされることはなかったが、ベールに包まれていたスマートフォン解析の一部が時事通信に初めて公開された。(時事通信社 社会部 余村由茉)

「交友や生活が丸裸」に

 SSBCは捜査の手の内を明かさないようにするため、活動拠点や人員の規模、使用する機材の種類など、多くを非公表としている。記者は、秘密だらけの解析捜査をこの目で見たいと捜査幹部に取材を申し込み、「デモ機を使った実演であれば見せられる」との了承を得た。

 2023年12月某日、東京都千代田区霞が関の警視庁本部に隣接する警察総合庁舎の会議室に、重厚なハードケースに入った1台の機材が持ち込まれた。一見すると普通のノートパソコンだが、特殊な解析ソフトが内蔵された専用端末だという。

 記者は担当者からデモ機のiPhoneを手渡され、「メモ」アプリに好きな文言を入力し、消去するよう伝えられた。担当者に見えないよう、手元を隠しながら「こちら桜田門です。」と打ち込んだ後に消し、「ゴミ箱」からも削除。デモ機上では完全に見えない状態にしてから戻した。

 手慣れた様子でデモ機と専用端末の機材をコードでつなぐ担当者。見慣れないソフトが立ち上がり、機種を選択すると、ものの30秒ほどでスマホからデータを抜き出す抽出作業が完了した。「連絡先」「メール」「画像」などの項目から「メモ」をクリックすると、消したはずの文言「こちら桜田門です。」が作成日時とともに復元して表示され、記者は思わず「えっ」と声を漏らしてしまった。

 画像や動画の解析サンプルも見せてもらったところ、鮮明に確認できた。LINEは相手とのやりとりがテキスト形式で表示され、何時に何分間通話したかも一目瞭然だ。専用端末で表示できる項目は他にもさまざまあり、スマホに保存されている情報量が想像以上に多いことに驚き、「交友関係や生活ぶりが丸裸にされる」と感じた。それでも今回、実演に使われた機材と解析作業はごく初歩的なものだという。

「テレグラム」も復元

 SSBCは2009年4月に発足した。防犯カメラの映像から犯人の足取りをたどる「リレー捜査」を行う機動分析係、パソコンやスマホなどの通信機器を解析する技術支援係、犯罪データを分析して犯人像を浮かび上がらせる「プロファイリング」や防犯カメラ画像の鮮明化を行う情報分析係から成る。

 いずれも重要な任務だが、近年、特に要請が増えているのがスマホの解析だという。旧来型の携帯電話機「ガラケー」からスマホが世の主流となり、機器のデータ量は飛躍的に増加した。電話帳や発着信履歴だけでなく、画像や動画、LINEなど通信アプリでのやりとり、位置情報など内容も多岐にわたるようになり、重要な証拠が隠されているケースも増えた。

 解析するスマホは年間数千台に上る。刑事部のみならず、生活安全部や交通部からの依頼もあり、特に薬物事件を扱う組織犯罪対策部で需要が高まっている。組対部の幹部は「容疑者の供述を支える証拠として、売人や客がメッセージをやりとりした履歴は必要」と語る。インターネットバンキングで取引された金の動きもスマホ解析から把握できることがあるという。

 一連の広域強盗事件では、海外にいた指示役が実行役らとのやりとりに秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」を使用していたことから、当初、解析は困難との見方もあった。これを覆したのがSSBCだ。合同捜査本部を組んだ京都と千葉、広島、山口の4府県警が実行役らから押収したスマホ数十台を解析。やりとりの復元に成功し、警視庁はルフィらが関与した8事件すべてで指示役を逮捕した。解析により判明した生々しい指示内容は、各地の実行役らの公判で明らかにされた。

わらの中から針を探す

 解析に必要な能力は何か。担当者は「センスと根気」だと語る。

 「25メートルプールに敷き詰めたわらの中から、1本の針を見つけ出すようなもの」。膨大なデータの中から目的の証拠を探し出す解析作業の難しさについて、捜査幹部はそう表現する。端末の画面を数時間も見続けなければならないことがあり、スマホの容量やデータ量によっては、抽出作業だけで丸一日かかることも。「必ずホシ(犯人)を挙げる」という執念が求められるという。

 データの解析と聞くと、エンジニアや技術職を思い浮かべるかもしれないが、実際にSSBCでスマホの解析に当たる捜査員は、大半が刑事経験を持つ。理系の学校を卒業し、高い専門性を持つ者だけでなく、警察署の刑事課や生安課で長く事件捜査に従事してきた刑事など、多様な人材がそろっている。重要なデータは思いがけない場所に隠されているケースもあり、気づけるかどうかは捜査の経験やセンスがものを言うためだ。

 それでも、急な呼び出しや徹夜作業が求められる現場の刑事に比べれば、「働きやすい職場」(警視庁幹部)といい、携帯電話解析の班員は女性が3割を占める。刑事部独自の育児支援制度を利用し、子育てをしながら働く女性も多いという。

「サイバービル」で無念を晴らす

 スマホを巡る情勢は日々刻々と進化し、新機種の発売やアプリのバージョン更新に伴い、解析に使う機材やソフトのアップデートが必須だ。解析できなかったデータが数か月後、技術の進化により可視化できたケースもあるという。SSBCの捜査員はメーカー側と定期的にやりとりし、要望を伝えるとともに、民間の講習に参加するなどして自身の能力向上も図っている。

 抽出されたデータは誰にでも分かるように可視化する必要があり、そこにも高い技術が求められる。それでも、「これまでに何万台ものスマホを解析してきたので、抽出や可視化のノウハウが蓄積されている。捜査員それぞれに得意分野があり、1人ではどうにもならなくても、補い合うことができるのがSSBCの強みだ」と担当者は胸を張る。

 SSBCの執務室がある都内某所の「サイバービル」で日々、携帯電話の解析に当たる捜査員たち。現場に出なくとも「事件を解決して容疑者を捕まえたい」「被害者の無念を晴らしたい」という思いは同じだ。事件解明の鍵となる証拠を見つけ出し、裁判で有罪を勝ち取った時や、否認していた犯人が解析結果により自供に転じ、捜査担当者から礼を言われた時などは、特にやりがいを感じるという。「解析で一つでも多くのデータを出し、いい証拠を見つけたい」。事件解決を願い、日夜、膨大なデータと向き合っている。(了)

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