『ひろゆきくん』連載中止騒動の顛末…小学館、反対する外部編集者に嫌がらせか

 小学館の漫画サイト「コロコロオンライン」の「週刊コロコロコミック」で連載を予定していた漫画『論破小学生ひろゆきくん』(以下、『ひろゆきくん』)の連載をめぐり、ひと騒動が起きている。いったい何があったのか。

『ひろゆきくん』は、タイトルの通り「論破王」として有名な西村博之(ひろゆき)氏を題材とした漫画で、雑誌「月刊コロコロコミック」では昨年12月17日からの連載開始をPR。「あの論破が得意な有名人をまんが化だ!恐い先生や難しいテストなど、学校生活のあらゆる問題をぶった斬る!!」の文字が踊っている。またひろゆき氏に似たキャラクターも描かれている。しかし、この連載は現在も始まっておらず、「連載が中止されたのでは」との憶測が広がっている。

 小学館は昨年12月7日、ひろゆき氏を起用した学校生活のお悩み相談形式児童書・学習漫画として『よのなかの攻略法 学校編』(以下、『よのなかの攻略法』)を発売したばかり。ひろゆき氏を活用したコンテンツ作りに力を入れ始めようとしていたのだろうが、なんらかのトラブルがあった可能性がある。

 ひろゆき氏といえば、前述の通り「論破王」としてさまざまな議論を展開し、「それってあなたの感想ですよね?」と相手を論破する姿が「ある意味」で印象的な人物だ。最近では昨年10月、沖縄県・辺野古基地移設問題で抗議活動が続く現場を訪問し、「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」と笑顔でピースしている写真とともにTwitterへ投稿。炎上したのが記憶に新しい。

「取引先の副編集長が連絡を無視してきて困っている」、関係者とみられる人物がツイートか

 ではなぜ今回の騒動になっているのか。それはとあるツイートの存在がカギとなる。

<小学館のひろゆき氏の児童書への反対とコロコロオンラインの「論破小学生ひろゆきくん」の連載中止を求めるツイートをしてから、それを問題視した取引先のコロコロコミックの副編集長が連絡を無視してきて困っている。

これじゃ仕事になんないよ。やる気を失せさせて辞めさせたいのかもしんないけど。>

このツイートはフリー編集者・ライターの石川裕二氏が2月3日に投稿したものだ。石川氏のツイートを遡ってみると、『よのなかの攻略法』に関し、小学館の漫画編集者である水野隆氏がツイートした<「ひろゆき 児童書」に厳しい意見も届くことは予想してました。>等の投稿を石川氏が12月7日に引用リツイートし、<「厳しい意見も届くことは予想してました」は、つまり、炎上でバズるという認識ですよね。さらにタチが悪い。「それでも~」は、あなたの編集者としての良心を疑います。小学館のホームページの企業理念の解釈が変わりました。仕事で出入りしている者として恥ずかしいです。>と苦言を呈している。

 ツイートから察するに、石川氏はコロコロコミックの関係者なのだろう。その石川氏がひろゆき氏の児童書等への反対の旨をツイートしたことが社内で問題視され、「無視」等の嫌がらせを受けていると推察される。

 またそれに関連して、フリー編集者の浅原裕久氏は今年1月18日、<小学館の漫画サイト「週刊コロコロコミック」で連載開始予定だった「論破小学生ひろゆきくん」が頓挫したらしいな。>などとツイート。「らしい」としているため信憑性は不明だが、漫画の企画が中止となった可能性があるとも受け取れる。

ひろゆき氏の行為は「他者を中傷する、または侮辱する」にあたるのか

 小学館が定める「ソーシャルメディアポリシー」の「2.自覚と責任」には「インターネットによる情報発信においては、様々な背景を持つ不特定多数の利用者のみなさまが接していることを常に意識し、その声に耳を傾け、真摯な姿勢で運営いたします」等の文言がある。

 前出の石川氏は2月4日のツイートで、次のように怒りをぶちまけている。

<小学館のひろゆき氏の児童書と漫画に反対するツイートをしたところ、SNSの利用ガイドラインが同社から送られてきた。内容には「他者を中傷する、または侮辱するような情報」「人種、思想、信条等で差別し、あるいは差別を助長させる情報」を投稿するなとある。笑わせるな。同氏に同意させてみろよ。>

<この内容を外部の編集者に求めてくるような会社が、ひろゆき氏を起用して子どもになにかを植え付けようとしている。どうかと思いますよ。おれがおかしいのか?>

 すなわち、石川氏は小学館に対して「矛盾ではないか」と訴えたいのではないか。

前述の通り、ひろゆき氏は辺野古ツイート問題で炎上し、「侮辱行為だ」等として反対運動を続ける市民らから反発を受けている。

これはあくまで本稿記者の推測だが、石川氏はこのような行為こそが、自身がツイートした「人種、思想、信条等で差別し、あるいは差別を助長させる情報」にあたり、さらにそれを子どもを対象とした児童書等でも展開する可能性があると懸念しているのだろう。そのため、子どもたちへ向けたひろゆき氏の考えを掲載した児童書等を発売・掲載するのは反対だと訴えていると推測する。

ひろゆき氏を教育分野で活用させるのは難しいのか?

 本稿記者が思うに、現在のひろゆき氏は「ネットテレビやネットニュースに出てくる人物」や「論破する人物」とのイメージであり、頻繁に賛否両論を引き起こしている印象がある。昨年12月1日にベネッセホールディングスが公開した『「進研ゼミ小学講座」小学生1万3000人に聞きました!2022年総決算ランキング』によると、「今年一番流行った言葉」として、ひろゆき氏の「それってあなたの感想ですよね?」が堂々の1位を獲得している。

 これから育っていく小学生の間でも、このような言葉が流行しているのだ。すなわち、「それだけたくさんの小学生がひろゆき氏を見ており、それだけ世の中を盛り上げている」といえるのも事実。ひろゆき氏は「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」を作ったことや、世の中を盛り上げている人物という事実では評価すべきだが、ひろゆき氏のこれまでの言動や行動をそのまま教育に活用できるのかと考えると、石川氏の問題提起の通り、活用は難しく、厳しいのではないかと思わざるを得ない。

 なお、本稿記者は小学館広報部の担当者に取材を申し込んだが、「色々と動いていることもあり回答できない」と回答を拒否された。これから小学館側が何か情報を発表することはあるのだろうか。続報があり次第、追って報告する。

(文=小林英介)

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半導体の盟主インテルが微細化競争から脱落…台湾TSMCと韓国サムスン、世界2強が激突

微細化競争からインテルが脱落

 世界最大のプロセッサーメーカーであるインテルは2016年、最先端の微細化を14nmから10nmへ進めることに失敗した。その後、何度も「今年は立ち上がる」という発表を繰り返してきたが、その期待は裏切られ続けた。

現在も、充分に10nmでプロセッサを量産しているとはいいがたい。

 そして、7月末に開催された2020年第2四半期の決算発表で、インテルのボブ・スワンCEOは、次世代7nmが1年以上遅延していることを認めた上で、「プロセッサ生産の外部委託を検討している」と述べた。実際、インテルは画像プロセッサ(GPU)を台湾TSMCに生産委託したという報道がある。委託された生産量は12インチウエハで18万枚であり、6nmプロセスで製造される見込みである。それだけでなく、インテルは、同社の基幹ビジネスであるPC用やサーバー用プロセッサについても、5nmおよび3nmでの生産委託をTSMCに打診している模様である。

 もしこれが事実なら、長らく半導体業界の盟主として君臨してきたインテルが、微細化競争から脱落することになる。その結果、半導体の微細化競争は、TSMCとサムスン電子の2社に絞られるということになろう。

 本稿では、この2社の微細化競争の勝敗が、最先端露光装置EUVの分捕り合戦によって決まることを論じる。しかしその前に、微細加工の原理と露光装置の歴史について解説する。

微細加工の原理

 半導体の微細加工の原理を図1に示す。微細加工は、大まかに、リソグラフィ工程とエッチング工程の二つに分けられる。

 リソグラフィ工程では、まず加工したい膜の上に感光性材料のレジストをスピンコートする。

次に、回路パタンの原板(レチクル)を介して光を照射する。すると、光照射されたレジストが化学反応を起こして溶解性になる。その後、現像液を塗布すると、光照射された部分が溶解し、微細なレジストパタンが形成される。これはポジ型と呼ばれるレジストで、逆に光照射された部分が不溶性になるネガ型のレジストもある。

 リソグラフィ工程の後は、プラズマを用いて、実際にエッチングを行う。エッチング後は、不要なレジストを酸素プラズマによるアッシングによって除去する。リソグラフィ工程では、いかに微細なレジストパタンを形成するかが重要であり、エッチング工程では、いかにまっすぐ加工するかが重要となる。

露光装置の歴史

 リソグラフィ工程のうち、光を照射する露光においては、次に示すレイリーの式によって、レジストパタンの微細性Rが決まる。

R=K1・λ/NA

 ここで、K1は比例定数、λは光の波長、NAは露光装置におけるレンズの開口数である。この式から、より微細なレジストパタンRを形成するには、光の波長λを短くする、または、レンズの開口数NAを大きくすれば良いことがわかる。

 実際に露光装置の歴史をみると、光の波長を短くする方向で、装置が開発されてきた(図2)。水銀ランプのg線(436nm)、i線(365nm)、次は、エキシマレーザーKrF(248nm)、ArF(193nm)と短波長化された光源が開発された。

 また、ArF(193nm)では、レンズとウエハの間に水を入れる“液浸”と呼ばれる露光装置が開発された。“液浸”にすると、レンズの開口数が大きくなるため、より微細なパタンが形成できるからだ。

 そして、2000年頃から、X線に近い波長13.5nmの極端紫外光(Extreme ultraviolet)を使ったEUV露光装置の開発が始まった。その装置開発は困難を極め、何度も絶望視されたが、とうとう2017~18年頃にオランダのASMLが量産機の出荷に漕ぎつけ、19年にTSMCとサムスン電子が最先端半導体の生産に適用し始めたのである。

 振り返ってみれば、EUV露光装置の開発には、20年弱の歳月を要した。その間に、露光装置業界の勢力図は大きく様変わりした(図3)。1995年にシェア1位だったニコンと2位のキヤノンに代わって、ASMLが台頭してきた。2019年の企業別シェアでは、世界で唯一EUV露光装置を供給しているASMLが88.5%を独占し、ニコンは7.2%、キヤノンは4.4%にとどまっている。

 そして、インテルが脱落し、TSMCとサムスン電子の2社に絞られた微細化競争の勝敗の行方は、1台160億円以上するASMLのEUV露光装置をどれだけ多く導入できるか、その分捕り合戦にかかってきたのである。

EUVの出荷台数と受注残

 ここで、四半期毎にASMLが出荷したEUV台数、および受注残の推移を見てみよう(図4)。ASMLは、2016年第1四半期から2019年第4四半期にかけて、合計59台のEUVを出荷した。年間では、2016年に5台、2017年に10台、2018年に18台、2019年に26台と徐々に増えている。

この中で、2016年の5台は試験機(3350シリーズ)で、2017年以降が量産機(3400シリーズ)である。 

 ASMLもEUVの製造キャパシティを増やしてはいるが、その能力が受注にまったく追いついていない。その結果、受注残は増えていく一方であり、2019年第4四半期には49台に達してしまった。

 そして、この49台の受注残のうちの大部分が、TSMCとサムスン電子であると推測している。では、TSMCとサムスン電子は、今後どのような計画でEUVを導入していくつもりなのか。

TSMCとサムスン電子のデッドヒート

 信頼できる筋からの情報によれば、今年2020年に5nmの量産を開始したTSMCは、2020~22年の3年間に、合計約60台のEUVを導入する計画であるという。また、来年2021年から生産を開始する3nmや現在開発中の2nm用に、2023~25年の3年間に約100台のEUVを導入する見込みであるという。すると、TSMCは現在稼働していると思われる約20台との合計で、2025年には約180台ものEUVが導入されていることになる。

 もはやTSMCの一人勝ちか? と思ったが、2030年までにTSMCに追いつくと明言しているサムスン電子も(計画では)負けていない。現在、ファソン工場に約10台のEUVが導入されている。これに加えて、ピョンテク工場にEUV棟を建設し、ここに約100台のEUVを5年ほどかけて導入する予定であるという。したがって、計画通りいけば、サムスン電子は、2025年に約110台のEUVを導入していることになる。

 TSMCもサムスン電子も凄まじい計画である。しかし、果たしてASMLは両社の発注に応えることができるのだろうか? ASMLは、2019年第4四半期に8台のEUVを出荷した。したがって、2020年の1年間で32台のEUVをつくることは可能だろう。ところが、これでは両社の要求には応えられない。

 ASMLは、最低でも年間40台以上、四半期で10台以上のEUVを製造する必要がある。といっても、超精密機械であるEUVの製造能力を短期間で増大することは困難である。したがって、TSMCとサムスン電子が最先端の微細化の頂点を目指して、EUVの分捕り合戦を行うことになるだろう。

 今のところTSMCが優勢であるように見えるが、どちらに軍配が上がるだろうか? その行方に注目していきたい。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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