登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
テトラ「おもしろいですっ! 秘密の宝物を発見したみたいですね……」
僕「秘密の宝物?」
テトラ「はい、そうです。メネラウスの定理で
テトラちゃんはそういうと、元気よく両手を挙げた。
きっと、おもしろさを表現しているのだろう。
僕「うん、そうだよね。僕も知らなかったよ。 たまたま、メネラウスの定理をベクトルで証明して気付いたんだけどね」
テトラ「あたしも、その場でユーリちゃんといっしょに考えてみたかったです……」
テトラちゃんはそういうと、眉根を寄せて口をとがらせた。
今度は、不満を表現しているのだろう。
僕「じゃあ、いっしょに考える?」
テトラ「え?」
僕「いま話したのはメネラウスの定理の証明だけど、 後でベクトルを使って考えてみようと思ってた図形の問題があるんだよ。 そんなに難しくないと思うな」
テトラ「はいはいはいはいっ! ぜひぜひぜひぜひっ!」
テトラちゃんは右手を大きく挙げて、身を乗り出してきた。
そんなふうにして、 僕はテトラちゃんといっしょに図形の問題を考えることになった。
僕「こういう問題だよ」
問題
平面上に三角形
辺
線分
直線
このとき、点
参考:モノグラフ『ベクトル』(科学新興社)
テトラ「なるほどです。
これをベクトルを使って証明すればいいんですよね。
三つのベクトル
僕「おっとっと! テトラちゃん、ちょっと待って!」
僕は思わず声を出してしまった。
テトラ「はい?」
僕「考え始めようとしているのに止めちゃってごめんね。 ベクトルを使うかどうかによらず、 図形の問題の最初は、ちゃんとセオリー通りに進もうよ」
テトラ「セオリー通りといいますと?」
僕「図形の問題が出たときに、一番最初にやることは何?」
テトラ「一番最初にやること……ああ、図を描くことですか!」
僕「そうだね。 《図をかけ》 はポリアの『いかにして問題をとくか』にもある。大事だよね」
テトラ「失礼しました。先輩の解き方を見ていて、 あたしもベクトルを使って《腕力》を振るう計算をするつもりでしたので、 つい先走りをしてしまいました。 図を描かずに図形の問題を考え始めるのは無茶ですね」
僕「図を一歩一歩描いていくのは、問題を把握するためにも有効だし」
テトラ「では、問題を読みながら、一歩一歩描いていきますっ!」
【1歩目】(三角形
平面上に三角形
【2歩目】(二点
辺
【3歩目】(点
線分
【4歩目】(点
直線
【5歩目】(点
このとき、点
テトラ「確かに、一歩一歩図を描いていくと、わかってきますね。 どのようにしてその点が生まれたか、それがわかります」
僕「うん。これで図が描けた。 次にどんなふうに考える?」
テトラ「あのですね……図を描いているうちに、 相似な三角形が見つかりました」
僕「どれのこと?」
テトラ「今回の証明に関係があるかどうかわからないんですけど、
相似な三角形
僕「なるほど。確かにその二つの三角形は相似になるね。
まず
テトラ「はい。三つの角がそれぞれ等しいので、
僕「その他にも、何か見つかったものはある?」
テトラ「いえ、そのくらいですね……」
と、ここでテトラちゃんは軽く爪を噛んで考え始めた。
テトラ「あたしは、図形の問題をどんな風に考えているんでしょう……」
僕「うん?」
テトラ「先輩から『次は何を考える?』や『何か見つかったものはある?』のように尋ねていただくと、 あたしは、自分の考える道筋を意識します。 あたしって、普段どんな風に考えているんでしょうね。 図形の問題……特に証明の問題を考えるとき、 あたしは適当な三角形や直線を注目して、 何か成り立つことが見つからないかなあ、 と考えているみたいです。 自分が知っている公式や定理に合うものが見つかりますように、と願いつつ。 図形の問題は、嫌いではないですけれど難しいと思います」
僕「決まり切った方法はないから、 ある程度は試行錯誤しないといけないと思うよ。 補助線が必要になると、さらに難しくなる」
テトラ「そうっ! 本当にそうです!」
【CM】
ユーリ「はい、ここでCMでーす。 三角形の合同、相似、証明の書き方と考え方。そして平行線の公理まで。 図形の証明はこちらをどーぞ!」
ノナ「どうぞ
テトラ「あ、でも、ベクトルを使うと計算に持ち込めるので、 補助線を見つける《ひらめき》は要らなくなるんでしょうか?」
僕「ユーリと話しているときもその話題になった(第432回参照)けど、 《ひらめき》が要らなくなるというのは言い過ぎだし、 ベクトルを機械的に当てはめると、それこそ計算がものすごく大変になっちゃうから難しいよね」
テトラ「がんばって根気よく計算すれば必ず解けるとしたら、うれしいですけれど……」
僕「テトラちゃんはかなり《腕力》があるからね」
テトラ「そ……それは計算の話ですよね? 《腕力》?」
テトラちゃんは真面目な顔で腕を曲げ、力こぶを作るジェスチャをして僕を見る。
そして、僕たちは大笑いした。
僕「じゃあ、今回の問題を、ベクトルで表しながら考えていく?」
問題(再掲)
平面上に三角形
辺
線分
直線
このとき、点
参考:モノグラフ『ベクトル』(科学新興社)
テトラ「はい。点がたくさんありますから、ベクトルもたくさん出来ますね。
僕「そうだね。でも闇雲にベクトルを考えていると、それこそ混乱してしまう」
テトラ「思ったんですけれど、図を一歩一歩描いたときと同じく、 一歩一歩考えてみるというのはどうでしょう」
僕「なるほど」
テトラ「まず【1歩目】の
【1歩目】(三角形
平面上に三角形
僕「ところがね、テトラちゃん。 すごく大事なことがここで出てくる」
テトラ「三角形があるだけで、ですか?」
僕「メネラウスの定理を証明しているときも思ったんだけど、
《三角形がある》ということは《一次独立な二つのベクトルがある》ということなんだ。
具体的に
テトラ「あっ、そういえばユーリちゃんとのお話でも出てきました(第433回参照)」
僕「メネラウスの定理を証明したときには、
一次独立な二つのベクトルに注目するために、
三角形
テトラ「なるほどです」
僕「ところで、 どうして一次独立な二つのベクトルに注目するか、 テトラちゃんはわかる?」
テトラ「はい。それも先輩のお話の中にありました。
僕「さすがテトラちゃん! ただし、
点が決まれば
テトラ「え……何かまちがっていました?」
僕「いや、何もまちがったことは言ってない。 それにきっとテトラちゃんが理解していないわけでもないと思う。 ただ、一意的に決まることが強調されていなかったからちょっと気になっただけ」
テトラ「一意的に決まるというのは、
異なる二点をそれぞれ
僕「そうそう、そういう意味。
どんな点に対しても
テトラ「確かに、あたしはそのことを強調しませんでした。 でも——言い訳に聞こえるかも知れませんけれど——あたしはわかっていました」
僕「うん、そうだろうと僕も思ったよ」
テトラ「でも……でも、はい、やっぱりそれは言い訳に聞こえるだけじゃなくて、言い訳ですね。 強調できなかったということは、 それが大事だと、はっきり意識してなかったということですから」
テトラちゃんは、そういって両手を強く握りしめ、うんうんと力強く頷いた。
僕「【2歩目】もベクトルで考えてみようか」
【2歩目】(二点
辺
テトラ「これはわかります。
僕「そうだね。
少し言葉を補足すると、
テトラ「あらら……いまの先輩の補足は、あたしの主張とどう違うんですか?」
僕「テトラちゃんは、
テトラ「あたしは
僕「もちろん、
テトラ「ははあ……確かに。 あたし、わかっていても強く意識していないことってたくさんあるんですね。 先ほどの《一意的に決まる》もそうですが、 強く意識していないと、いざというとき言葉に出てこないものなんでしょうかね……」
僕「ところで【2歩目】で僕は別のことを考えたよ。 それはさっき見つかった相似のこと」
相似な三角形
テトラ「はい。
僕「テトラちゃんは
テトラ「あっあっあっ。確かにそうです。ぜんぶ
僕「そうすると、僕たちは一次独立な二つのベクトル
テトラ「なるほど、なるほど! 注目する頂点や交点をこうやって
僕「今度は交点だね」
【3歩目】(点
線分
テトラ「これは複雑ですけれど、 先ほどと同じように《ベクトルの方向が同じ》だと考えればいいんじゃないでしょうか。 つまり、
僕「うん、それで行けそうだよ。
これもまた
テトラ「あっ、
僕「同じことを
テトラ「あたし、やってみます。ええと……
僕「うん、これで僕たちは、この式を得た」
テトラ「先輩……これって、
僕「そうそう! そしてここから、
テトラ「ありません! だって、
僕「その通り。同じように
テトラ「ああああああっ!」
僕「ど、どうしたの?」
テトラ「確かに、確かに《一意的に決まる》って大事ですね……だって、 いまの式は、
僕「そうそう、そうだね!
そこで、
テトラ「いまさらながら、納得です」
僕「さっきの『ああああああっ!』はその納得の叫び声だったんだね」
テトラ「し、失礼しました。エウレーカ!と言えればよかったんですが……ところで、
変数が
僕「それはそうだね。だって、僕たちは一般的な証明をしようとしている。
具体的な三角形が与えられているわけじゃないから、
テトラ「それは……はい。もしも
僕「そうそう。それで、
僕とテトラちゃんは計算を進めて、 こんな式を得た。
テトラ「きれいに因数分解できました」
僕「ええと、ここで
テトラ「確かに! 重なったら、交点
僕「ということは、
テトラ「ちょちょちょっとお待ちください。いまわかったのは、
僕「うん。つまりこれで、
テトラ「え、ええと……でも、直線
僕「そうなんだけど、それはすぐにわかるよ。
テトラ「なるほど。
僕「辺
【4歩目】(点
直線
テトラ「これで証明が完成ですね!」
【5歩目】(点
点
僕「無事に証明できた」
テトラ「でも、先輩。 これで証明はできましたが、 なかなか大変ですね……」
僕「そうだねえ、
一次独立な二つのベクトル
そこで、テトラちゃんが声を上げる。
テトラ「先輩? いまの問題でふと思ったことがあるんですけど……」
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(2024年10月11日)