実況・小野塚康之 時代を越える名調子

引退の広島・野村祐輔への思いから私の〝名調子〟が生まれた 2007夏の甲子園決勝「がばい旋風」の佐賀北から逆転満塁アーチ被弾

広陵高3年時の07年夏の甲子園決勝で8回に佐賀北高・副島の満塁弾を浴び逆転負け。筆者の名実況とともに語り継がれる試合となった
広陵高3年時の07年夏の甲子園決勝で8回に佐賀北高・副島の満塁弾を浴び逆転負け。筆者の名実況とともに語り継がれる試合となった

広島・野村祐輔投手(35)が引退します。通算13年、80勝64敗。「来たるべき時が来たか。ご苦労様。ありがとう」という心境です。多くのプロ野球選手の実況や取材をしてきましたが、野村とはとても縁が深く、こちらとしても大変お世話になりましたという印象です。

以前までの当コラムのタイトル「時代を超える名調子」は、夕刊フジで連載を始めたときにデスクに付けて頂いたものです。実況アナウンサーを続けていて、名調子と呼ばれるほど幸せなことはありません。そのもとになったのは、2007年夏の甲子園決勝の実況によるところが大きいと思っています。「がばい旋風」で公立の佐賀北が、優勝候補筆頭の強豪、広島の広陵を8回裏の満塁本塁打で逆転し、優勝をさらった決勝戦です。

「あり得る最も可能性の小さい、そんなシーンが現実でーす!」というフレーズが多くの皆さんに注目され、名実況とか神実況とか最高の過分な賛辞を頂きました。8回裏の佐賀北の大逆転劇、3番・副島浩史三塁手のグランドスラムの直後に吐き出したもので、佐賀北が主役に聞こえますが、実は野村祐輔への思いから生まれました。

決勝戦の野村の投球は圧巻でした。初回に珍しく2四球でピンチを招きましたが、ゼロに抑えると2回以降は速球の切れと精度の高いスライダーに加え、小林誠司捕手(現巨人)とのコンビで打者との駆け引きも存分に発揮し、7回まで1安打投球。特に試合をつくる意味では、2回に得点を挙げた後、好機がありながら点の取れない打線を鼓舞するかのように、6回を三者三振の快投乱麻で打線に勢いをつけ、追加得点に結びつけました。その直後、相手の4番から6番を2三振を含む三者で切って取りました。この上なくゲームをつくる投球内容でした。7回まで1安打10三振、勝ちゲームを呼ぶに最高の投球のはずでした。

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