カルチャー

2024.10.11 13:15

「SHOGUN 将軍」に出演、ハワイ在住俳優・平岳大「日本人俳優よ、いまこそ海外に出よ」

英語で演技する日本人俳優という立場

その平が今回とくに「日本人俳優の海外での活躍」に言及するのには理由がある。

「僕自身、海外に出るのは大きな決断でした。けれど、それ以上に日本人俳優が日本に固執していては未来がないと感じていたのも事実。演技の勉強は日本で積み、日本の芸能界には恩義も感じていますが、約20年の日本での俳優生活で、出演料はほとんど上がりませんでした(苦笑)。

もちろん僕の実力不足もあるでしょうが、海外のエンターテインメント業界の常識とはあまりにかけ離れていた。一種独特な日本の芸能界で汲々としているならば、日本の役者はもっと海外に出るべきだと常々思っています」

平は若手の俳優を集めて、英語での演技を勉強し合うワークショップも続けている。自身の演技のブラッシュアップという意味もあるが、「日本人俳優」の地位向上をはかるライフワークでもある。

「結局、英語で勝負できる俳優が少なすぎるのです。自分の場合、きっかけはサッカーでしたが、米国に留学したことで英語が身についた。そのおかげで海外作品に出演できている面は、当然ながらあります。監督やプロデューサーとのコミュニケーションも必要ですからね。

米国に限らず、海外のプロデューサーや監督が自分の作品に日本人俳優を起用しようと考えた時、語学力も含めて候補として名前が挙がる日本人俳優はまだまだ少ない。最近は日本で撮影する海外作品も増えているし、日本の要素を取り入れる作品も目立ちます。そのソフトとなる日本人俳優が、もっと頑張らないといけません」

英国BBCとNetflixの共同制作ドラマ「Giri / Haji」で海外作品デビューを果たした平。「退路を断つため」(本人談)日本の所属事務所を辞め、海外のエージェントと契約。居住地も米国の1州であるハワイに移した。

「ところが移住した途端にコロナ禍に。一切の仕事がなくなり、収入はゼロ。家族を連れてきておいて、さすがにこれはヤバいぞと冷や汗の日々でした。久々にいただけた仕事が、Huluがローマで撮影した『THE SWARM(ザ・スウォーム)』という作品。衣装を着てメイクし、撮影現場に立った時の嬉しさと言ったら。涙が出そうでしたよ。コロナ禍で僕は演じることの喜びを改めて実感できました。そのロケ中に『SHOGUN 将軍』の出演が決まったのです」

「SHOGUN 将軍」の撮影は、2021年からバンクーバーで始まった。

半年も続いた「SHOGUN 将軍」のロケ地バンクーバーで

8カ月間も続いた「SHOGUN 将軍」のロケ地バンクーバーで

「日本語で演技する『SHOGUN 将軍』なのに、何百人もいるスタッフはほとんど日本語がわかりません。セリフの切れ目で場面を切り替えるのに撮影スタッフがとても苦労していました。一方で俳優は、セリフ回しでスタッフにアピールすることができない。そこで、気付きました。僕はこれまで誰に向かって演技してきたのかと。制作陣に演技を見せるのではない、とにかく役になりきって相手役に向けて演技する。そんな基本に立ち戻れました」

平は、今年の7月に齢50歳を数えた。人生の節目とも言えるが、どうも平にとっては違う感慨があるようだ。

「不思議なもので、米国で50歳を迎えてようやく、役者としてのキャリアを積んでいる実感があります。徐々に出演作品を積み上げ、知名度や地位が上がっていく。日本での20年間の俳優生活で味わえなかった感覚です。出演料の交渉にも慣れてきました。海外では提示された出演料を弁護士と共に交渉して何倍にも吊り上げるのが常識。その際にエミー賞受賞などのキーワードは交渉の力になります。

先日の全米映画俳優組合のストライキでは、ストリーミングサービスで再生される作品での二次使用料の支払いなども整備されました。興行収入を競う映画の世界からサブスク配信系へと、俳優を取り巻く環境も過渡期にある。そんな中で我々俳優がどう立ち振る舞うか、それは今後の課題です」
次ページ > プロデューサー真田広之の存在は大きかった

文=岩瀬英介

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経済・社会

2024.07.25 14:15

ハワイで112年の歴史を持つ日系新聞社「ハワイ報知」が突然の倒産

Shawn Azizi / Shutterstock.com

ハワイで112年の歴史を持つ日系企業「ハワイ報知社」が、7月8日、突然倒産することになった。「私的整理」という形だが、長年の歴史を持つ日系企業が倒産というニュースは一気にハワイを駆けめぐった。

ハワイのある関係者によれば、現地の社長に倒産が知らされたのは実に倒産の2営業日前だったそうで、まさにドタバタの倒産劇だった。それにもまして、ハワイ報知社の親会社である静岡新聞社の動きも、いささか急だったようだ。

2023年12月に廃刊となった新聞「ハワイ報知」。海外では最古の日本語日刊新聞だった

2023年12月に廃刊となった新聞「ハワイ報知」。海外では最古の日本語日刊新聞だった

何故「私的整理」に踏み切ったのか

実は、以前から経営危機は噂されており、昨年12月には、1912年から発行を続けていた日刊新聞「ハワイ報知」の発行を取りやめたばかり。その後は印刷会社として経営を続けていたものの、もう持ち堪えられないと私的整理に踏み切った形だ。

何故ここにきて私的整理に踏み切ったのだろうか。

「日系人読者の高齢化やコロナ禍の影響でホテルや航空会社などの契約先を失って部数減に悩んでいたのは事実。売上の多くは別の新聞やパンフレットなどの商業印刷業でまかなっていた。ただ、赤字経営はいまに始まったことではなく以前からの課題。再建に取り組んでいたなかで、日本の親会社が何故いま決断を下したのは不可解」(地元メディア関係者)

ハワイ報知は、1912年12月に故牧野金三郎氏によって創刊。日系移民の人権擁護と人種の垣根を越えた言論活動を展開し、ハワイの日系移民の歴史とともに歩んできた。

1941年12月8日、真珠湾攻撃翌日に発行されたハワイ報知の紙面

1941年12月8日、真珠湾攻撃翌日に発行されたハワイ報知の紙面

1941年12月の真珠湾攻撃も一面で伝えた。1960年代に、静岡新聞社の当時の大石光之助社長の援助を受けて経営存続を図り、海外では最古の日本語日刊新聞となっていた。今回、会社が倒産したことで、現社長が推し進めていた新聞の歴史をアーカイブとして閲覧する取り組みも頓挫してしまった。筆者の実感としても、ハワイの歴史の貴重な記録が失われた観がある。

ちなみに、私的整理の決断を下したのは、静岡新聞社の現会長の大石剛氏。ハワイ報知の支援を決めた大石光之助氏の孫にあたる。年に3〜4回はハワイに出張し、ハワイ報知社の経営にも積極的に関わってきた。今回の私的整理劇でも、自らハワイを訪れて陣頭指揮を取っていた。

ハワイ報知社の旧社屋は、丹下健三氏の設計で1972年に建立。建築マニアが見学に訪れる建物だった(写真は現在の様子)

ハワイ報知社の旧社屋は、丹下健三氏の設計で1972年に建立。建築マニアが見学に訪れる建物だった(写真は現在の様子)


倒産前のハワイ報知社社屋のエントランス。左が同社創業者の牧野金三郎氏、右が静岡新聞社初代社長の大石光之助氏の銅像

倒産前のハワイ報知社社屋のエントランス。左が同社創業者の牧野金三郎氏、右が静岡新聞社初代社長の大石光之助氏の銅像

ハワイ報知社の社屋には2つの銅像が飾ってある。一つは同社創業者の牧野金三郎氏、もう一つはハワイ報知を救った静岡新聞社初代社長の大石光之助氏。その銅像を見て、大石剛氏は、どのように思ったのだろうか。

次ページ > 実は多い日本企業がオーナーの会社

文・写真=岩瀬英介

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ライフスタイル

2024.05.01 15:45

大谷選手はなぜ「ハワイ島」を選んだか 楽園の島のプライベートリゾート事情

Getty Images

大谷翔平が動くと、メディアも動く。その一挙手一投足が話題を生むあたり、プレー以上にメディアへの影響力はパワフルだ。

よくハワイのホテルを、Wi-Fiやパーキング、有料の水など「何か動くたびにチャリンチャリンと課金される」と揶揄する観光客がいたが、何かするたびに世界中が騒ぐのも大変なことだろう。

大谷選手の話題でいま真っ盛りなのが、ハワイ島のリゾートに別荘を購入したこと。場所はハワイ島の西側、マウナケアリゾート内に新たに開発されるハプナエステーツというエリアだ。

マウナケア(maunakealiving.comより)

大谷選手が購入したハプナエステーツを含むマウナケアリゾートの全景(maunakealiving.comより)

別荘自体は米ドルで1700万ドル(日本円で約26億円)とのことで、ドジャースと10年で約1000億円の契約をした大谷選手からすると、ごくごく一部の出費なのかもしれないが、その価格と併せて連日報道が喧しい。

米メディア「ウォール・ストリート・ジャーナル」が不動産購入を報じたのが皮切りとなったようだが、それによれば大谷選手は開発を手がけるカリフォルニア州の不動産会社と、宣伝・販売の際には名前と肖像を使用できる契約を締結したそうだ。また購入したハプナエステーツでは最初の契約者だったために、一等地を占有できたとも報じられている。

ハワイの現地でもそこそこ地元メディアで報道されてはいるが、その反応はやや冷ややか。というのも、ハワイでは「派手な別荘購入話」はあふれていて、マーク・ザッカーバーグがカウアイ島に1億ドル(約156億円)以上を投じて広大な土地を購入した、ジェフ・ベゾスがマウイ島に7800万ドル(約122億円)の豪邸を購入した、などなど枚挙にいとまがない。

オラクル創業者のラリー・エリソンに至っては、ラナイ島の98パーセントを所有している。世界中のセレブたちが巨額なハワイの不動産を購入して、プライベートジェットで乗りつけるのが日常茶飯事となったいまでは、それほど驚くような話題ではないのだろう。

プライバシーが守られる「ゲーテッド」

大谷選手によれば、2つの完璧なビーチ、2つの素晴らしいゴルフコースがあるこのマウナケアリゾートは、冬の間を過ごす自宅になるとのこと。

マウナケア(maunakealiving.comより)

マウナケアリゾート内にあるゴルフコース(maunakealiving.comより)

公式ウェブサイトによれば、「パラダイスを見つけました」とまるで使い古された宣伝文句のような感想を大谷選手は漏らしているが、雪を頂くマウナケア山の頂上から、ハプナビーチの綿のように柔らかい砂浜、コバルトブルーの太平洋まで、遮るもののない眺望と、多彩なアメニティを楽しめる。

テニスやウォータースポーツを楽しめる施設に、オーシャンビューのレストランが8つ。 プールやフィットネス施設、スパなども完備され、会員しか立ち入ることができない。

空港への送迎、自動車のバレーパーキングサービス(鍵を預けるとポーターが車を運んでくれるサービス)、到着前に冷蔵庫に食料品を買い揃えておいてくれるサービスなどもあり、全ては専門のコンシェルジュチームが対応する。
次ページ > 治安の面で安心感

文=岩瀬英介

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