食&酒

2024.03.13 15:15

ハワイと広島、ブームの「おまかせ寿司」が繋ぐ意外な「絆」

後押ししたのはハワイの許認可問題

実は、この「おまかせ」ブームの裏には、それを牽引する「ある事情」がある。

昨今、ハワイの許認可がとても厳しくなり、それを得るための待ち時間がかなりかかる。新たに飲食店をオープンするのにキッチン設備などの認可を取ろうと思ったら、10カ月待ちなどザラだ。

それでまず増殖したのが、「フードホール」「フードコート」という営業形態。新たに出店しようという飲食店オーナーにとって開店にまつわる許認可申請が不要(商業施設の担当者がまとめて取得するから)というのが大きなメリットとなっている。すでにキッチン設備などが整っている施設に入ればすぐに営業できるからだ。

もう1つ、このキッチン設備の許認可問題で増殖したと思われるのが前述の「おまかせ寿司」だ。寿司店は焼き物や揚げ物をしなければ、極端な話、炙り寿司などに使用するバーナーがあれば料理を提供できる。商業対応のフルキッチンがなくとも営業できてしまうのだ。

店内もカウンターがあれば十分。元々バーやカフェだった物件を居抜きで借りても、寿司店を開業できることになる。許認可で何カ月も待つ必要がない。さらに、おまかせ形態ならメニューも固定だから、食材の仕入れに無駄もない。いまのハワイの飲食店事情では良いことづくめと言えるのが、「おまかせ寿司」なのである。

そんな「おまかせ寿司」のなかで、今年、少し変わった寿司店が登場した。

ワイキキから車で10分ほどのカハラモールの向かいにあるショッピングモール「クオノ・マーケットプレイス」に今年1月にオープンした「與平(よへい)寿司カハラ」だ。

與平寿司は、ホノルルのダニエルKイノウエ国際空港近くのカリヒ地区で1990年から営業してきた老舗寿司店。広島から移住してきた小原一人夫妻が、ハワイの人々にも日本の寿司文化を味わってほしいという想いでオープンした同店は、まだ日本スタイルの寿司店がほとんどなかった当時のハワイでは貴重な存在で、地元の常連客でいつも賑わう寿司店だった。

ところが、その小原氏も高齢となり、引退を口にするようになった。高架鉄道開通による立ち退きの話もあり、2017年にはもう店を閉じようかと考えていたという。それに待ったをかけたのが、現在の與平寿司オーナーである松田哲也氏だった。

象徴的なロゴマークはカリヒで30年以上の歴史を持つ本店から受け継いだ

象徴的なロゴマークはカリヒで30年以上の歴史を持つ本店から受け継いだ

次ページ > 「広島とハワイの絆を絶やしてはならない」

文=岩瀬英介

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ホノルルで「日本人の生徒が語学学校を買収」話題の主に話を聞いた

ハワイの観光市場はだいぶ復活してきたようだ。

2023年9月末時点のデータによると、観光客数全体で言えば、コロナ禍前の2019年対比6.5パーセント減とほぼ回復している。ただ、日本人観光客に限ると、まだコロナ禍前の半分にも到達していない。

ハワイ在住の筆者からすると、ワイキキやアラモアナ、カカアコなどで日本人カップルやファミリーの姿をよく目にするようになったなぁと微笑ましく見ていたが、実態はまだまだ、とても微笑ましいと言えるレベルではないようだ。

一方で、ビジネスでのハワイ進出や、インターンシップ、留学などの問い合わせや視察は確実に増えている。留学マーケットに関わる、ある会社の人間は次のように語る。

「ビジネスでの移住前にとりあえず語学学校に入学してF1ビザ(留学ビザ)を取得し長期滞在しながら現地を視察するなど、留学やインターンシップはハワイ進出やハワイ移住のゲートウェイになってきている。円安の影響で、語学留学は物価の安いカナダやオーストラリア、フィリピンに流れる傾向があったが、やはり米国、そしてハワイのブランドは強い。ここへきて着実に戻ってきている」

確かにホノルルで学校見学する日本人の親子の姿もちらほら見かけるようになった。

そんなハワイの留学マーケットで、この年末に気になるニュースが流れた。「長い歴史を持つ語学学校が廃校を決めたところ、通っていた生徒が買収して復活させた」というものだ。

学校を生徒が買う!? そんな劇的な展開がハワイで起こったことにまずは耳を疑った。しかし、取材を進めるとまさに真実らしく、さらに筆者の身近なところに当事者がいることがわかってきた。そこで今回は事実を確かめるべく本人に話を聞き、いち早くこのニュースの裏側をお届けしたい。

舞台はハワイ最古の語学学校

舞台となった語学学校は、アラモアナにある「アカデミア・ランゲージ・スクール(Academia Language School )」。開校は1969年で、実は「ハワイ初の語学学校」という顔を持つ歴史ある学校だ。

「アカデミア・ランゲージ・スクール」が入るホノルルのパンナムビル

「アカデミア・ランゲージ・スクール」が入るホノルルのパンナムビル

以前から立地の便利さに加えて学費が比較的安く、かつ留学ビザでも週4日通学のコースがあるなど柔軟なカリキュラムも魅力で、現地では「ハワイ好きが集まる」という評判で留学マーケットでは不動の人気を誇っていた。
次ページ > M&Aを実行したのはハワイ在住の山口博道さん

文=岩瀬英介

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2023.12.09 12:00

ラリー・エリソンの理想を追求した「先生」という名のハワイ・ラナイ島のリゾート

米国の大手旅行誌『コンデナスト・トラベラー』が実施した読者投票ランキング「2023年リーダーズ・チョイス・アワード」が発表された。同アワードは、旅行業界で最も歴史が古く、権威のある読者投票として知られており、今年は52万人以上の読者が投票を行い、世界各地の旅行先が選ばれた。

このアワードのなかには「ハワイのベストリゾート部門」というものがあり、その内容を覗くと、ハワイに住む筆者としてはたいへん興味深い結果があった。

ハワイのベストリゾートとして堂々第1位に選ばれたのは、ラナイ島にある「センセイ ラナイ、ア フォーシーズンズ リゾート(Sensei Lanai, A Four Seasons Resort)」だった。ハワイのホテルとしては馴染みが薄いかもかもしれないが、実はここは知る人ぞ知る隠れ家リゾート。同アワードの「世界のベストリゾート部門」でも第5位にランクインされており、総合的にも評価が高い。

面白いのは、このリゾートのオーナーはオラクル・コーポレーション共同設立者のラリー・エリソンだということだ。リゾート名にある「センセイ」とは、日本語の「先生」という言葉に由来する。大の日本文化好きだというエリソンらしいネーミングである。

ロッジを貸し切るプライベートスパには、日本風の湯船も完備。敷地内には温泉もある

ロッジを貸し切るプライベートスパには、日本風の湯船も完備。敷地内には緑に囲まれた露天風呂もある

リゾート名は日本語の「先生」から

では、このリゾートの「センセイ」とはいったい何の先生なのか? それは「ウェルネス=健康」というテーマに特化した内容を教えてくれるのだ。

筆者からすると、資産家になればなるほど健康に関心が高くなるように思っていたが、実はテック界の有名ビリオネアに関して言えば、食生活には無関心な人たちが多い。

ビル・ゲイツはコーラやハンバーガーを好むことで有名だし、ジャック・ドーシーは1日の食事が夕食だけだったり断食を度々実践したりすることで知られている。マーク・ザッカーバーグやイーロン・マスクはビジネスタイムの食事には時間をかけず、こだわりもないと公言している。スティーブ・ジョブズも変わった食生活がたびたび報道されている。

安らぎの空間を提供している客室

安らぎの空間を提供している客室

ただ逆に、投資先としては健康や食の分野は活発だ。投資家としての顔も持つ俳優のレオナルド・ディカプリオは、培養肉を開発する2社のスタートアップ、オランダの「Mosa Meat(モサ・ミート)」、イスラエルの「Aleph Farms(アレフ・ファームズ)」、そして代替肉開発の「Beyond Meat」に出資している。さらに、バイオデータ分析をするヘルスケアソリューソン開発の会社やエナジードリンクやコールドプレスジュース販売会社にも出資している。彼自身も食へのこだわりが強いことでも知られている。

前述の食へのこだわりの薄いビル・ゲイツもBeyond Meatに出資している。ちなみに、ビル・ゲイツはエリソンとも交遊があり、結婚式をラナイ島で開催したのは有名な話。

さて、ラナイ島の話だ。ラリー・エリソンは2012年にラナイ島の土地の98パーセントを取得した際に、この島をサスティナブルな島にすることを公言した。その第一歩として、彼は人間のからだにとってもサスティナブルな島にしようと考えた。そのテーマが健康だったわけだ。

ロビーは開放的で、光に溢れている

ロビーは開放的で、光に溢れている

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文・写真=岩瀬英介

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