第百五十五話「日記 前編」
未来から俺を名乗る人物が現れた翌朝。
俺は寝不足でボンヤリした頭で考える。
まず何をすべきか。
未来の俺は言った。
『ナナホシに相談しろ』
『エリスに手紙を送れ』
『ヒトガミを疑え、でも敵対はするな』
エリスへの手紙は書いた。
一応ながら、彼女を受け入れてもいい、という文面だ。
だが、これを送るのは、シルフィとロキシーに相談してからだ。
相談結果次第では、内容を大幅に変えなければならない。
ヒトガミを疑い、でも敵対はしない。
これは、次にヒトガミが夢に現れた時にでも、そう宣言するとしよう。
いつ現れるかわからないが。
ナナホシへの相談。
相談はしたいが、こんな荒唐無稽な話をして、信じてくれるだろうか。
いや、あいつもトリッパーだ。
荒唐無稽な話でも、受け入れる下地はあるはずだ。
だが、その前に――日記だ。
俺は日記を読むことにした。
これを放置して、何かをするわけにはいくまい。
この日記は、あの老人の軌跡なのだから。
未来の俺が持ってきた日記は古ぼけており、最初のほうのページは色あせてボロボロだった。
だが、読める。
どうでもいい部分は読み飛ばしつつ、重要な部分を拾って読む。
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今日から日記を付けようと思う。
それにしてもこの十日は色々あった。
ペルギウスのこと、ゼニスのこと。
召喚魔術に、転移魔術。
やることは多く、忘れないように色々と書き記していこうと思う。
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アイシャが朝から「変なネズミが死んでた」とブルーになっていた。
ネズミ、嫌いなのだろうか。
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近所で魔石病にかかった猫が発見されたらしい。
怖いことだ。
家族には、手洗いうがいを徹底するように言っておこう。
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なんと、エリナリーゼが妊娠したらしい。
クリフは不安そうだったが、エリナリーゼは嬉しそうだ。
一応、みんなで祝福しておいた。
こういう時はパーッと騒ぐべきだ。
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この辺りまでは普通の日記がつづられている。
ペルギウスに召喚魔術を教えてもらったりとか、
ザノバと空中城塞の芸術品を見て回ったりとか、
ロキシーのベッド上での弱点を発見したとか、
ルーシーの寝顔が天使のようで将来は美人になるに違いないとか、
毎日が随分と楽しそうだ。
最初は日付が書いてあったが、途中から日付が書かれなくなっている。
めんどくさいと思ったからだろうか。
そのせいで何日経過しているのかわからないが、老人の話を思い出すに、恐らくは二週間以内だろう。
しかし、ここから、変わる。
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ロキシーが倒れた。
この頃、調子が悪いと言っていたが、とうとう熱を出してしまった。
しばらく学校を休むように連絡を入れておく。
上級解毒まで試してみたが、効果が無い。
また難病なのだろうか。
はやいうちにクリフに見てもらおうと思う。
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ロキシーの足の先が紫色の結晶になりはじめた。
すぐにクリフを呼び、識別眼で見てもらった。
病名は『魔石病』。
神級の解毒魔術でしか治らない、難病だ。
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解毒魔術の詠唱を手に入れるべく、転移魔法陣を使ってミリス神聖国へと向かう事にした。
メンバーは、俺とクリフ、ザノバの三人だ。
シルフィも行きたがっていたが、留守番をお願いした。
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ミリシオンにたどり着いた。
神級の詠唱は、大聖堂の奥にあるらしい。
クリフが場所を知っているらしいが、大司教レベルにならないと入れない場所にあるとか。
なので、深夜に忍び込むことになった。
そこで詠唱を書き写し、戻ってくればいい。
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侵入はできた。
だが、神級の解毒の詠唱が、辞書ぐらいの分厚さを持つ本一冊だとは思ってもいなかった。
その場で写本するのは不可能だった。
持ち出したが、脱出する途中で発見された。
現在、追っ手から逃げている。
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転移魔法陣で奇襲を受けた。
戦闘の余波で、転移魔法陣が壊れ、使えなくなった。
クリフが毒を受けて倒れ、意識不明の重体だ。
……俺は初めて人を殺した。
まだ、手に感触が残っている。
気持ち悪い。
くそっ。
■
別の魔法陣へと移動する事にした。
クリフの意識が戻らない。
ミリス神聖国中に、俺たちの顔が出回り、指名手配されている。
完全に、ミリス教団を敵に回してしまったらしい。
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クリフが死んだ。
しばらく、何も書きたくない。
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なんとか別の転移魔法陣の所までたどり着いた。
あと少しだ。
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手遅れだった。
今日はもう、何も書きたくない。
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昨日のことを書いておこうと思う。
町の入り口でエリスとギレーヌに出会った。エリスは何かわめいていたが、すでに二人も妻がいて、お前の相手はもうできないというと、愕然とした顔をして去っていった。
最後に、ギレーヌが残した侮蔑の視線が不愉快だ。
家に帰り着くと、みんなが鎮痛な面持ちをしていた。
ロキシーは体の半分を結晶化させて、死んでいた。
詠唱は、無駄になった。
それから、エリナリーゼにクリフの死について話した。
エリナリーゼは俺の頬を叩き、泣きながらどこかへと走っていった。
やるせない。
■
ロキシーの葬式をした。
何もやる気がおきない。
涙だけが出てくる。
何もかもが、どうでもいい。
■
エリナリーゼが町から姿を消したらしい。
身重の体だろうに、どこへ行ったというのだろうか。
まあ、どうでもいいか。
■
シルフィが元気付けようとしてくれているが、俺の心は晴れない。
もう、ロキシーがいないのだ。
あの、ロキシーが。
何事にも一生懸命だったロキシーが。
俺を家の外に出してくれて、パウロが死んだ時もやさしく慰めてくれたロキシーが。
俺の行動の指針になってくれた、あのロキシーが。
(紙面は涙の跡でしわしわだった)
■
最近、酒ばかり飲んでいる気がする。
酔っていないと、ロキシーのことを思い出して、泣いてしまうのだ。
シルフィがそれじゃいけないといっているが、彼女に何がわかるというのだろうか。
ロキシーは、俺に大切なことを教えてくれたのに。
■
家で飲んでいるとリーリャが小言を言ってくるようになった。
外で飲むことにする。
酒場で飲んでいると、たまにエリスが絡んでくる。
言いたい放題いって、殴ってくる。
なんなんだ、あの女。
ギレーヌも、なんで止めないんだ。
あと、最近ノルンが口をきいてくれない。侮蔑の視線で見てくる。
誰も俺の気持ちなんてわからない。
■
最近、シルフィが露骨に誘惑してくる。
自分を抱いてロキシーの事を忘れて……なんていってくる。
あまりにもしつこいので、怒鳴ってしまった。
そんな考え無しな事を言われて、抱けるわけがない。
けど、それだけじゃない。
今シルフィを抱いたら、俺は彼女を酷く乱暴に扱ってしまうだろう。
ロキシーの代わりとして、そして八つ当たりの対象として。
それは……よくないと思う。
■
失敗した。
酒場で飲んでいると、娼婦に声を掛けられたのだ。
酒に酔った勢いもあり、そのまま宿屋で抱いてしまった。
やはり商売女ということもあって、非常に上手だった。
なんというか、今まで俺が女だと思って抱いていたのは、所詮は少女に過ぎなかったというか……。
いや、そんな事はいい。
問題はシルフィに泣かれてしまったことだ。
彼女は、女の匂いをさせて帰ってきた俺を見て「なんで、ボクじゃダメなんだよ……」といって、泣いて自室に篭ってしまった。
リーリャには説教され、アイシャにまで露骨に顔をしかめられた。
今もなお、扉の奥から嗚咽が聞こえてくる。
ノックをしても返事はない。
失敗した。
彼女は乱暴にされてもいいから、俺に悲しみをぶちまけて欲しかったのかもしれない。
明日になったら、謝ろう。
■
シルフィが口をきいてくれない。
どうしよう。
こんな時に、エリナリーゼがいれば……。
■
シルフィがいなくなった。
朝起きると、部屋はもぬけの空だったのだ。
正確に言うと、俺があげた服や装飾品だけが、残っていた。
リーリャは俺に、すぐに追えと命じた。
だが、俺に追う資格はあるのだろうか。
シルフィに離婚されて、当然の男なんじゃないだろうか。
■
ぐじぐじと悩んでいると、ゼニスに頬を叩かれた。
彼女は何も言わなかったが、何度も何度も俺の頬を叩いた。
まるで、今の俺の行動を諌めるかのように。
■
シルフィを追うことにした。
情報を集めてみると、シルフィはアリエルと共に、アスラ王国へと向かったらしい。
まだ卒業まで数ヶ月はあったはずなのだが、どうしてこんな急に動いたのだろうか。
理由はわからないが、アスラ本国で何かが起こったのかもしれない。
俺も急ぐことにする。
■
またエリスと出会った。
彼女は今なら許してあげるだのなんだのと、わけのわからない事を言ってくる。
俺が聞く耳を持たないと、いきなりぶん殴ってきた。
いい加減うざったくなってきたので魔術でぶっとばすと、剣を抜いて襲い掛かってきたので、逃げた。
エリス……俺を捨てたくせに、なんで今更……。
■
雪で足止めをくらった。
シルフィはもう豪雪地帯を抜けているだろうか。
焦りが沸いてくる。
■
アスラ王国にたどり着いた。
が、困ったことに、国境で止められた。
ミリス教団から指名手配されている俺は、アスラ王国でも犯罪者として扱われているらしい。
拘束されそうになり、あわてて逃げ出した。
なんとか密入国する方法を探さなきゃいけない。
■
盗賊ギルドと渡りをつける事に成功した。
こういう組織は、どこにでもいるな。
俺は盗賊連中の中では話題の人物らしく、羨望の目で見られた。
ミリス神聖国から神級の詠唱を盗み出した、今注目の盗賊として。
彼らに事情を話すと、トリスという妖艶な女盗賊が案内してくれる事になった。
こんな女と一緒にいることでシルフィに誤解されないか、それだけが不安だ。
■
アスラ王国内に入った。
顔を隠すためにフードと仮面を付けることにした。
俺の名前は、今日からルード・ロヌマーで、呪いのせいで素顔を見られると石化する、という設定が追加された。
ロヌマーはバシェラントから出稼ぎにきた魔術師で、従姉妹のトリスに案内をしてもらっている所、という事になった。
色々考えてもらって、頭が下がる。
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国王が病気で死にかけている、という情報を入手した。
その後釜に誰が収まるか、王子たちが争っているという噂もある。
これのためにアリエルは帰還を早めたのだろう。
■
もうすぐ王都だ。
だが、アリエルに関して、なにやらきな臭い話ばかりを聞く。
兵を集めてクーデターを起こそうとしているとか、なんとか。
世論によると、勝てる要素は無いらしいが。
まぁ、アリエルもそこまでバカじゃないだろう。
ただの噂だ。
■
王都にたどり着いた。
トリスに情報収集を任せて酒場にいると、エリスの姿を目撃した。
俺をここまで追ってきたのだろうか。
いや、違うな。
彼女の故郷はもともとアスラ王国だ。
もともと、行き先が同じだったのだろう。
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アリエルは姿をくらましたらしい。
当然、ルークとシルフィも。
見つけられるのだろうか。
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見つからない。
トリスの予想では、すでに王都から別の町に移動したという事だ。
アリエルが行きそうな所……ルークの実家だろうか。
明日、ノトス家が治める領地に行くように、トリスに提案してみよう。
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ピレモン・ノトス・グレイラットの治めるミルボッツ領へとやってきた。
ついでにアリエルがノトス家にかくまわれているらしい、という情報も得た。
だが、どうやってシルフィに会おうか。
侵入してみるか。
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ノトス家に侵入した所、なぜかエリスがいて、ぼこぼこに叩きのめされた。
捕らえられ、地下牢でピレモンと名乗る、顔だけはパウロに良く似た男に口汚く罵られた。
どうやら、俺がノトス家をのっとろうとしていると思われたらしい。
明日にでも処刑して、ミリス教団に首を差し出してやると言い残し、去っていった。
その後、脱走したが……ピレモンの館にアリエルはいなかった。
■
王都でクーデターが勃発した。
『アリエルがミルボッツ領にいる』という噂はデマだったのだ。
アリエルは王都に潜伏し、機会をうかがっていたらしい。
間に合うだろうか。
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王都まであと1日という所で、クーデターが鎮圧されたという情報を聞いた。
無謀にも第一、第二王子を同時に殺害しようとしたアリエルは、
ちょうどその時、剣客として招かれていた水神や北帝らに阻まれ、手勢は全滅。
アリエルは捕らえられ、後日、処刑されるらしい。
手勢は全滅。
全滅……。
シルフィは……?
■
…………もういやだ。
なんで、こんなことに、なってるんだ……。
■
先日のことを、書こうと思う。
王都の片隅の処刑場では、アリエルの手勢の死体が晒されていた。
その中にはルークと……そしてシルフィもいた。
シルフィの死体は片腕がなく、顔に大きな斬り傷が残っていた。
何人かの人々が、石を投げていた。
王都の平和を乱した犯罪者として、シルフィに石を投げていた。
石が投げつけられるたびに、死体をついばんでいたカラスが飛び立っていた。
俺は我慢しきれなくなって、火魔術でシルフィたちを燃やした。
邪魔する奴も、みんな燃やした。
こんな国は、滅びればいい。
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俺は、日記帳をパタンと閉じた。
読むのが辛い。
もう、読みたくない。
本当にこれ、読まなきゃいけないんだろうか。
なんで俺はこんなものを読んでいるんだろうか……。
「うぇ……」
気分が悪い。
これは、きっとあの老人の妄想小説だ。
そうに違いない。
こんな未来がありえるなんて、考えたくもない。
「……」
だが、読まなければいけない。
知っておくことが、きっと力になるのだから。
と、日記帳を見るが、ページを開き直す勇気が持てない。
気分が悪い。
あの日記には、これからどんな辛い事が書いてあるのだろうか。
それを考えると胃がムカムカする。
「少し、休憩……」
俺は椅子から立ち上がり、部屋を出てトイレに行った。
吐いた。
涙がボロボロと出てきた。
自分の書いた文章であるせいか、俺がその時、どう感じたのかを、まざまざと想像することができてしまった。
ロキシーが死んだ時の悲しみ。
シルフィに出て行かれた時の焦り、諦念。
追いかけた時の気持ち。
そして、死んだシルフィを見た時の喪失感。
「おぇぇ……」
便器に顔を埋めるようにして、吐けるだけ吐いた。
胃の中は綺麗にスッカラカンだ。
けど、食欲は無い。
今日は何も食べなくていいだろう。
水魔術で口をゆすいで出てくると、シルフィが心配そうな顔で立っていた。
「る、ルディ。どうしたの? 大丈夫?」
肩口まである白い髪に、ややガードが甘い感じのする普段着。
彼女の顔に傷がついて、腕がなくなり、殺されて、冷たくなって、晒されて。
そんな想像が光景が思い浮かんでしまって……。
「わっ、なに?」
俺は無言でシルフィを抱きしめた。
シルフィの体は柔らかくて、暖かかった。
「ルディ、そんなにアトーフェと戦った時の事、引きずってるの?」
「……うん」
「しょうがないなぁ……よしよし。辛かったら、いつでもボクが慰めてあげるからね。ボクはルディがそんなに強くないって、ちゃんとわかってるからね?」
シルフィがやや背伸びをしつつ、俺の背中をぽんぽんとなでてくれた。
辛かったら、いつでもボクが慰めてあげるからね。
この言葉を、未来の俺は無視したのだ。
「うん。シルフィ、ごめん」
「いいんだよ」
「俺さ、もしかすると、すっごく辛い時、シルフィに頼れなくて、嫌なこととか、言ったりしちゃうかもしれない」
「えぇ……」
「けど、いなくならないでください」
「えっと……その時は、ボクもちょっとイラッとしてルディに冷たく当たっちゃって、喧嘩になっちゃうかもしれないね……でも、仲直りできるよね?」
「うん。もちろん出来るよ。うん、仲直りできるよ……」
シルフィはやさしいな。
こんなやさしい子を、俺は裏切るのだ。
「あの、ルディ。お尻を触る手つきがやらしいんだけど」
「……触っちゃだめか?」
「減るものじゃないから、いいけど……わっ」
許可が出たので、俺はシルフィを抱き上げた。
向かうところは、寝室である。
別にエロいことをするつもりじゃない。
ただちょっとこう、二人きりでイチャイチャしたい気分なのだ。
なんていうか、無くしたものを取り戻したいというか。
よくわからんな。
あんな日記を読んだせいで、センチな気分になっているんだろう。
なんて思いつつ、シルフィにセラピーしてもらった。
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ロキシーが帰ってきた後。
俺は彼女につきまとった。
ソファに座る彼女の隣に座り、三つ編みの先を弄び。
「どうしましたか?」
と言われるまで、横でもじもじとしていた。
「えっと、ロキシー。ちょっと、お話しませんか?」
「お話はいつもしているじゃないですか……それとも、何か特別なお話ですか?」
「いえ、こう、もっと、イチャイチャっとした感じで」
「はぁ……まあ、いいですが、今日はそういうのはダメですよ?」
「はい。ちょっと引っ付きたいだけなので、ダメでしょうか」
「ダメではありません」
ロキシーは俺の膝の上に乗り、肩の辺りにコロンと頭を載せてきた。
俺は彼女の肩を抱きつつ、至近距離で見つめ合う。
といっても、俺の方から話題があるわけではなかった。
「えっと、今日は一日、どうでした?」
「どうもありませんよ。いつも通りです……校長先生のヅラが、生徒のイタズラで飛ばされたぐらいですかね」
「ああ、それはちょっと見たかった」
「それから――」
ロキシーは一日働き詰めで、お疲れだった。
それでも、俺に構ってくれた。
他愛無い話でクスクスと笑いあいつつ、なんとなく尻の辺りを撫でてみるとペシリと手を叩かれた。
それでも、密着していたかったのでそう言うと、ロキシーは「しょうがないですね」と許してくれた。
その後、一緒に風呂に入り背中を流してあげて、肩をもんであげたり。
俺はまるで子供のように、ロキシーに孝行した。
「今日のルディは何かアレですね。何か辛いことでもあったんですか?」
「いえいえ、何も、ロキシーが生きていてくれるのが嬉しいなー、と再確認していただけですよ」
「そうですか……まあ、転移迷宮では、本当に死ぬかと思いましたからね、存分に確認してくださってもいいですよ」
ロキシーは湯船で俺の膝に乗りつつ、そんな事を言った。
俺は彼女の細い肩をもみほぐしつつ、聞いてみた。
「ロキシー、最近、体調に変化とかありませんか?」
魔石病は回避できた。
と、思うが、あのネズミを始末すれば大丈夫だという保証はない。
未来の俺の研究結果が間違っている可能性もあるからな。
「ええ? 元気ですよ。なぜそんな事を?」
「いやね、ロキシーにはぜひとも長生きしてほしいなぁ、と思っていましてね」
「種族の寿命で考えれば、わたしはルディより長生きですからね。ルディの方こそ、長生きしてくださいよ」
「もちろんです」
そう言うと、ロキシーは嬉しそうに微笑んでくれた。
とりあえず、大丈夫そうだ。
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シルフィとロキシー。
二人がまだ生きている。
あの日記のようにはならない。
絶対に回避する。
そう決意した事で、また日記を読む気力が湧いてきた。
覚悟完了だ。