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無職転生 - 異世界行ったら本気だす -  作者: 理不尽な孫の手
第16章 青年期 人神編
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第百五十五話「日記 前編」

 未来から俺を名乗る人物が現れた翌朝。


 俺は寝不足でボンヤリした頭で考える。

 まず何をすべきか。

 未来の俺は言った。


『ナナホシに相談しろ』

『エリスに手紙を送れ』

『ヒトガミを疑え、でも敵対はするな』


 エリスへの手紙は書いた。

 一応ながら、彼女を受け入れてもいい、という文面だ。

 だが、これを送るのは、シルフィとロキシーに相談してからだ。

 相談結果次第では、内容を大幅に変えなければならない。


 ヒトガミを疑い、でも敵対はしない。

 これは、次にヒトガミが夢に現れた時にでも、そう宣言するとしよう。

 いつ現れるかわからないが。


 ナナホシへの相談。

 相談はしたいが、こんな荒唐無稽な話をして、信じてくれるだろうか。

 いや、あいつもトリッパーだ。

 荒唐無稽な話でも、受け入れる下地はあるはずだ。


 だが、その前に――日記だ。


 俺は日記を読むことにした。

 これを放置して、何かをするわけにはいくまい。

 この日記は、あの老人の軌跡なのだから。


 未来の俺が持ってきた日記は古ぼけており、最初のほうのページは色あせてボロボロだった。

 だが、読める。

 どうでもいい部分は読み飛ばしつつ、重要な部分を拾って読む。



-----


 今日から日記を付けようと思う。

 それにしてもこの十日は色々あった。

 ペルギウスのこと、ゼニスのこと。

 召喚魔術に、転移魔術。

 やることは多く、忘れないように色々と書き記していこうと思う。


 アイシャが朝から「変なネズミが死んでた」とブルーになっていた。

 ネズミ、嫌いなのだろうか。


 近所で魔石病にかかった猫が発見されたらしい。

 怖いことだ。

 家族には、手洗いうがいを徹底するように言っておこう。


 なんと、エリナリーゼが妊娠したらしい。

 クリフは不安そうだったが、エリナリーゼは嬉しそうだ。

 一応、みんなで祝福しておいた。

 こういう時はパーッと騒ぐべきだ。



-----



 この辺りまでは普通の日記がつづられている。


 ペルギウスに召喚魔術を教えてもらったりとか、

 ザノバと空中城塞の芸術品を見て回ったりとか、

 ロキシーのベッド上での弱点を発見したとか、

 ルーシーの寝顔が天使のようで将来は美人になるに違いないとか、

 毎日が随分と楽しそうだ。 


 最初は日付が書いてあったが、途中から日付が書かれなくなっている。

 めんどくさいと思ったからだろうか。

 そのせいで何日経過しているのかわからないが、老人の話を思い出すに、恐らくは二週間以内だろう。


 しかし、ここから、変わる。



------



 ロキシーが倒れた。

 この頃、調子が悪いと言っていたが、とうとう熱を出してしまった。

 しばらく学校を休むように連絡を入れておく。

 上級解毒まで試してみたが、効果が無い。

 また難病なのだろうか。

 はやいうちにクリフに見てもらおうと思う。


 ロキシーの足の先が紫色の結晶になりはじめた。

 すぐにクリフを呼び、識別眼で見てもらった。

 病名は『魔石病』。

 神級の解毒魔術でしか治らない、難病だ。


 解毒魔術の詠唱を手に入れるべく、転移魔法陣を使ってミリス神聖国へと向かう事にした。

 メンバーは、俺とクリフ、ザノバの三人だ。

 シルフィも行きたがっていたが、留守番をお願いした。


 ミリシオンにたどり着いた。

 神級の詠唱は、大聖堂の奥にあるらしい。

 クリフが場所を知っているらしいが、大司教レベルにならないと入れない場所にあるとか。

 なので、深夜に忍び込むことになった。

 そこで詠唱を書き写し、戻ってくればいい。


 侵入はできた。

 だが、神級の解毒の詠唱が、辞書ぐらいの分厚さを持つ本一冊だとは思ってもいなかった。

 その場で写本するのは不可能だった。

 持ち出したが、脱出する途中で発見された。

 現在、追っ手から逃げている。


 転移魔法陣で奇襲を受けた。

 戦闘の余波で、転移魔法陣が壊れ、使えなくなった。

 クリフが毒を受けて倒れ、意識不明の重体だ。


 ……俺は初めて人を殺した。

 まだ、手に感触が残っている。

 気持ち悪い。

 くそっ。


 別の魔法陣へと移動する事にした。

 クリフの意識が戻らない。

 ミリス神聖国中に、俺たちの顔が出回り、指名手配されている。

 完全に、ミリス教団を敵に回してしまったらしい。


 クリフが死んだ。

 しばらく、何も書きたくない。


 なんとか別の転移魔法陣の所までたどり着いた。

 あと少しだ。


 手遅れだった。

 今日はもう、何も書きたくない。


 昨日のことを書いておこうと思う。

 町の入り口でエリスとギレーヌに出会った。エリスは何かわめいていたが、すでに二人も妻がいて、お前の相手はもうできないというと、愕然とした顔をして去っていった。

 最後に、ギレーヌが残した侮蔑の視線が不愉快だ。

 家に帰り着くと、みんなが鎮痛な面持ちをしていた。

 ロキシーは体の半分を結晶化させて、死んでいた。

 詠唱は、無駄になった。


 それから、エリナリーゼにクリフの死について話した。

 エリナリーゼは俺の頬を叩き、泣きながらどこかへと走っていった。

 やるせない。


 ロキシーの葬式をした。

 何もやる気がおきない。

 涙だけが出てくる。

 何もかもが、どうでもいい。


 エリナリーゼが町から姿を消したらしい。

 身重の体だろうに、どこへ行ったというのだろうか。

 まあ、どうでもいいか。


 シルフィが元気付けようとしてくれているが、俺の心は晴れない。

 もう、ロキシーがいないのだ。

 あの、ロキシーが。

 何事にも一生懸命だったロキシーが。

 俺を家の外に出してくれて、パウロが死んだ時もやさしく慰めてくれたロキシーが。

 俺の行動の指針になってくれた、あのロキシーが。

 (紙面は涙の跡でしわしわだった)


 最近、酒ばかり飲んでいる気がする。

 酔っていないと、ロキシーのことを思い出して、泣いてしまうのだ。

 シルフィがそれじゃいけないといっているが、彼女に何がわかるというのだろうか。

 ロキシーは、俺に大切なことを教えてくれたのに。


 家で飲んでいるとリーリャが小言を言ってくるようになった。

 外で飲むことにする。

 酒場で飲んでいると、たまにエリスが絡んでくる。

 言いたい放題いって、殴ってくる。

 なんなんだ、あの女。

 ギレーヌも、なんで止めないんだ。

 あと、最近ノルンが口をきいてくれない。侮蔑の視線で見てくる。

 誰も俺の気持ちなんてわからない。


 最近、シルフィが露骨に誘惑してくる。

 自分を抱いてロキシーの事を忘れて……なんていってくる。

 あまりにもしつこいので、怒鳴ってしまった。

 そんな考え無しな事を言われて、抱けるわけがない。

 けど、それだけじゃない。

 今シルフィを抱いたら、俺は彼女を酷く乱暴に扱ってしまうだろう。

 ロキシーの代わりとして、そして八つ当たりの対象として。

 それは……よくないと思う。


 失敗した。

 酒場で飲んでいると、娼婦に声を掛けられたのだ。

 酒に酔った勢いもあり、そのまま宿屋で抱いてしまった。

 やはり商売女ということもあって、非常に上手だった。

 なんというか、今まで俺が女だと思って抱いていたのは、所詮は少女に過ぎなかったというか……。

 いや、そんな事はいい。

 問題はシルフィに泣かれてしまったことだ。

 彼女は、女の匂いをさせて帰ってきた俺を見て「なんで、ボクじゃダメなんだよ……」といって、泣いて自室に篭ってしまった。

 リーリャには説教され、アイシャにまで露骨に顔をしかめられた。

 今もなお、扉の奥から嗚咽が聞こえてくる。

 ノックをしても返事はない。

 失敗した。

 彼女は乱暴にされてもいいから、俺に悲しみをぶちまけて欲しかったのかもしれない。

 明日になったら、謝ろう。


 シルフィが口をきいてくれない。

 どうしよう。

 こんな時に、エリナリーゼがいれば……。


 シルフィがいなくなった。

 朝起きると、部屋はもぬけの空だったのだ。

 正確に言うと、俺があげた服や装飾品だけが、残っていた。

 リーリャは俺に、すぐに追えと命じた。

 だが、俺に追う資格はあるのだろうか。

 シルフィに離婚されて、当然の男なんじゃないだろうか。


 ぐじぐじと悩んでいると、ゼニスに頬を叩かれた。

 彼女は何も言わなかったが、何度も何度も俺の頬を叩いた。

 まるで、今の俺の行動を諌めるかのように。


 シルフィを追うことにした。

 情報を集めてみると、シルフィはアリエルと共に、アスラ王国へと向かったらしい。

 まだ卒業まで数ヶ月はあったはずなのだが、どうしてこんな急に動いたのだろうか。

 理由はわからないが、アスラ本国で何かが起こったのかもしれない。

 俺も急ぐことにする。


 またエリスと出会った。

 彼女は今なら許してあげるだのなんだのと、わけのわからない事を言ってくる。

 俺が聞く耳を持たないと、いきなりぶん殴ってきた。

 いい加減うざったくなってきたので魔術でぶっとばすと、剣を抜いて襲い掛かってきたので、逃げた。

 エリス……俺を捨てたくせに、なんで今更……。


 雪で足止めをくらった。

 シルフィはもう豪雪地帯を抜けているだろうか。

 焦りが沸いてくる。


 アスラ王国にたどり着いた。

 が、困ったことに、国境で止められた。

 ミリス教団から指名手配されている俺は、アスラ王国でも犯罪者として扱われているらしい。

 拘束されそうになり、あわてて逃げ出した。

 なんとか密入国する方法を探さなきゃいけない。


 盗賊ギルドと渡りをつける事に成功した。

 こういう組織は、どこにでもいるな。

 俺は盗賊連中の中では話題の人物らしく、羨望の目で見られた。

 ミリス神聖国から神級の詠唱を盗み出した、今注目の盗賊として。


 彼らに事情を話すと、トリスという妖艶な女盗賊が案内してくれる事になった。

 こんな女と一緒にいることでシルフィに誤解されないか、それだけが不安だ。


 アスラ王国内に入った。

 顔を隠すためにフードと仮面を付けることにした。

 俺の名前は、今日からルード・ロヌマーで、呪いのせいで素顔を見られると石化する、という設定が追加された。

 ロヌマーはバシェラントから出稼ぎにきた魔術師で、従姉妹のトリスに案内をしてもらっている所、という事になった。

 色々考えてもらって、頭が下がる。


 国王が病気で死にかけている、という情報を入手した。

 その後釜に誰が収まるか、王子たちが争っているという噂もある。

 これのためにアリエルは帰還を早めたのだろう。


 もうすぐ王都だ。

 だが、アリエルに関して、なにやらきな臭い話ばかりを聞く。

 兵を集めてクーデターを起こそうとしているとか、なんとか。

 世論によると、勝てる要素は無いらしいが。

 まぁ、アリエルもそこまでバカじゃないだろう。

 ただの噂だ。


 王都にたどり着いた。

 トリスに情報収集を任せて酒場にいると、エリスの姿を目撃した。

 俺をここまで追ってきたのだろうか。

 いや、違うな。

 彼女の故郷はもともとアスラ王国だ。

 もともと、行き先が同じだったのだろう。


 アリエルは姿をくらましたらしい。

 当然、ルークとシルフィも。

 見つけられるのだろうか。


 見つからない。

 トリスの予想では、すでに王都から別の町に移動したという事だ。

 アリエルが行きそうな所……ルークの実家だろうか。

 明日、ノトス家が治める領地に行くように、トリスに提案してみよう。


 ピレモン・ノトス・グレイラットの治めるミルボッツ領へとやってきた。

 ついでにアリエルがノトス家にかくまわれているらしい、という情報も得た。

 だが、どうやってシルフィに会おうか。

 侵入してみるか。


 ノトス家に侵入した所、なぜかエリスがいて、ぼこぼこに叩きのめされた。

 捕らえられ、地下牢でピレモンと名乗る、顔だけはパウロに良く似た男に口汚く罵られた。

 どうやら、俺がノトス家をのっとろうとしていると思われたらしい。

 明日にでも処刑して、ミリス教団に首を差し出してやると言い残し、去っていった。

 その後、脱走したが……ピレモンの館にアリエルはいなかった。


 王都でクーデターが勃発した。

 『アリエルがミルボッツ領にいる』という噂はデマだったのだ。

 アリエルは王都に潜伏し、機会をうかがっていたらしい。

 間に合うだろうか。


 王都まであと1日という所で、クーデターが鎮圧されたという情報を聞いた。

 無謀にも第一、第二王子を同時に殺害しようとしたアリエルは、

 ちょうどその時、剣客として招かれていた水神や北帝らに阻まれ、手勢は全滅。

 アリエルは捕らえられ、後日、処刑されるらしい。

 手勢は全滅。

 全滅……。

 シルフィは……?


 …………もういやだ。

 なんで、こんなことに、なってるんだ……。


 先日のことを、書こうと思う。

 王都の片隅の処刑場では、アリエルの手勢の死体が晒されていた。

 その中にはルークと……そしてシルフィもいた。

 シルフィの死体は片腕がなく、顔に大きな斬り傷が残っていた。

 何人かの人々が、石を投げていた。

 王都の平和を乱した犯罪者として、シルフィに石を投げていた。

 石が投げつけられるたびに、死体をついばんでいたカラスが飛び立っていた。

 俺は我慢しきれなくなって、火魔術でシルフィたちを燃やした。

 邪魔する奴も、みんな燃やした。

 こんな国は、滅びればいい。



-----



 俺は、日記帳をパタンと閉じた。


 読むのが辛い。

 もう、読みたくない。

 本当にこれ、読まなきゃいけないんだろうか。

 なんで俺はこんなものを読んでいるんだろうか……。


「うぇ……」


 気分が悪い。

 これは、きっとあの老人の妄想小説だ。

 そうに違いない。

 こんな未来がありえるなんて、考えたくもない。


「……」


 だが、読まなければいけない。

 知っておくことが、きっと力になるのだから。


 と、日記帳を見るが、ページを開き直す勇気が持てない。

 気分が悪い。

 あの日記には、これからどんな辛い事が書いてあるのだろうか。

 それを考えると胃がムカムカする。


「少し、休憩……」


 俺は椅子から立ち上がり、部屋を出てトイレに行った。


 吐いた。

 涙がボロボロと出てきた。

 自分の書いた文章であるせいか、俺がその時、どう感じたのかを、まざまざと想像することができてしまった。

 ロキシーが死んだ時の悲しみ。

 シルフィに出て行かれた時の焦り、諦念。

 追いかけた時の気持ち。

 そして、死んだシルフィを見た時の喪失感。


「おぇぇ……」


 便器に顔を埋めるようにして、吐けるだけ吐いた。

 胃の中は綺麗にスッカラカンだ。

 けど、食欲は無い。

 今日は何も食べなくていいだろう。


 水魔術で口をゆすいで出てくると、シルフィが心配そうな顔で立っていた。


「る、ルディ。どうしたの? 大丈夫?」


 肩口まである白い髪に、ややガードが甘い感じのする普段着。

 彼女の顔に傷がついて、腕がなくなり、殺されて、冷たくなって、晒されて。

 そんな想像が光景が思い浮かんでしまって……。


「わっ、なに?」


 俺は無言でシルフィを抱きしめた。

 シルフィの体は柔らかくて、暖かかった。


「ルディ、そんなにアトーフェと戦った時の事、引きずってるの?」

「……うん」

「しょうがないなぁ……よしよし。辛かったら、いつでもボクが慰めてあげるからね。ボクはルディがそんなに強くないって、ちゃんとわかってるからね?」


 シルフィがやや背伸びをしつつ、俺の背中をぽんぽんとなでてくれた。

 辛かったら、いつでもボクが慰めてあげるからね。

 この言葉を、未来の俺は無視したのだ。


「うん。シルフィ、ごめん」

「いいんだよ」

「俺さ、もしかすると、すっごく辛い時、シルフィに頼れなくて、嫌なこととか、言ったりしちゃうかもしれない」

「えぇ……」

「けど、いなくならないでください」

「えっと……その時は、ボクもちょっとイラッとしてルディに冷たく当たっちゃって、喧嘩になっちゃうかもしれないね……でも、仲直りできるよね?」

「うん。もちろん出来るよ。うん、仲直りできるよ……」


 シルフィはやさしいな。

 こんなやさしい子を、俺は裏切るのだ。


「あの、ルディ。お尻を触る手つきがやらしいんだけど」

「……触っちゃだめか?」

「減るものじゃないから、いいけど……わっ」


 許可が出たので、俺はシルフィを抱き上げた。

 向かうところは、寝室である。

 別にエロいことをするつもりじゃない。

 ただちょっとこう、二人きりでイチャイチャしたい気分なのだ。


 なんていうか、無くしたものを取り戻したいというか。

 よくわからんな。

 あんな日記を読んだせいで、センチな気分になっているんだろう。


 なんて思いつつ、シルフィにセラピーしてもらった。



---



 ロキシーが帰ってきた後。

 俺は彼女につきまとった。

 ソファに座る彼女の隣に座り、三つ編みの先を弄び。


「どうしましたか?」


 と言われるまで、横でもじもじとしていた。


「えっと、ロキシー。ちょっと、お話しませんか?」

「お話はいつもしているじゃないですか……それとも、何か特別なお話ですか?」

「いえ、こう、もっと、イチャイチャっとした感じで」

「はぁ……まあ、いいですが、今日はそういうのはダメですよ?」

「はい。ちょっと引っ付きたいだけなので、ダメでしょうか」

「ダメではありません」


 ロキシーは俺の膝の上に乗り、肩の辺りにコロンと頭を載せてきた。

 俺は彼女の肩を抱きつつ、至近距離で見つめ合う。

 といっても、俺の方から話題があるわけではなかった。


「えっと、今日は一日、どうでした?」

「どうもありませんよ。いつも通りです……校長先生のヅラが、生徒のイタズラで飛ばされたぐらいですかね」

「ああ、それはちょっと見たかった」

「それから――」


 ロキシーは一日働き詰めで、お疲れだった。

 それでも、俺に構ってくれた。

 他愛無い話でクスクスと笑いあいつつ、なんとなく尻の辺りを撫でてみるとペシリと手を叩かれた。

 それでも、密着していたかったのでそう言うと、ロキシーは「しょうがないですね」と許してくれた。


 その後、一緒に風呂に入り背中を流してあげて、肩をもんであげたり。

 俺はまるで子供のように、ロキシーに孝行した。


「今日のルディは何かアレですね。何か辛いことでもあったんですか?」

「いえいえ、何も、ロキシーが生きていてくれるのが嬉しいなー、と再確認していただけですよ」

「そうですか……まあ、転移迷宮では、本当に死ぬかと思いましたからね、存分に確認してくださってもいいですよ」


 ロキシーは湯船で俺の膝に乗りつつ、そんな事を言った。

 俺は彼女の細い肩をもみほぐしつつ、聞いてみた。


「ロキシー、最近、体調に変化とかありませんか?」


 魔石病は回避できた。

 と、思うが、あのネズミを始末すれば大丈夫だという保証はない。

 未来の俺の研究結果が間違っている可能性もあるからな。


「ええ? 元気ですよ。なぜそんな事を?」

「いやね、ロキシーにはぜひとも長生きしてほしいなぁ、と思っていましてね」

「種族の寿命で考えれば、わたしはルディより長生きですからね。ルディの方こそ、長生きしてくださいよ」

「もちろんです」


 そう言うと、ロキシーは嬉しそうに微笑んでくれた。

 とりあえず、大丈夫そうだ。



---

 


 シルフィとロキシー。

 二人がまだ生きている。

 あの日記のようにはならない。

 絶対に回避する。


 そう決意した事で、また日記を読む気力が湧いてきた。


 覚悟完了だ。

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