2024/10/01
はじめまして!!天使夜一と申します。大好きなアニメ、舞HiMEの20周年を記念して、何かしたいと思い立ちブログを始めました。夜一が初めて舞HiMEを観たのはかれこれ15年前に遡ります。当時は女の子達が武器を持って戦う系のアニメにハマっており、舞HiMEもその中の一つとして視聴したのですが。アニメの後半戦、泥沼化していく人間模様の中で明かされた藤乃静留の正体(HiMEであること、スーパーサイコレズであること)に衝撃を受けました。また、そんな静留を精神的に追い詰めるほどの魅力を持った玖我なつきに興味を持ち、何度も何度も二人の登場回を見返しました。そして、気が付けば二人のカップリング「静なつ」を愛でるようになり、また見るだけでは飽き足らず、夜一自身も創作をするようになりました。まだこちらのサイトは作ったばかりで何もありませんが、おいおい静なつ小説をUPしていく予定です。文章ははっきり言って拙いものですが、一生懸命に想いを込めて書きます。なにとぞ、温かい目で見守って頂けると嬉しいです。
2024/10/01
sister in law 6
ぴかっ!と窓の外が白く光る。続いてバリバリ!と響く雷鳴。分厚い雷雲が空を覆いつくし、強い風が吹いている。
「降ってきたぞ」
リビングの窓から外の様子を伺っていたなつきはキッチンに立つ静留にそう言った。
「テレビで嵐になるゆうとったからねえ」
相変わらずつけっぱなしのテレビでは、雨がっぱを着たリポーターが強風に吹かれながら天気を伝えている。
「なつき。懐中電灯用意しといてくれはる?」
「ん?懐中電灯?」
「停電になるかもしれへんやろ?」
「ああ、そうか。わかった」
夕飯は夏という季節に似合わず寄せ鍋だった。台風のおかげでだいぶ過ごしやすい気候であることや、近頃のクーラーばかりの生活でなつきが体を冷やしてばかりいたのを見て、静留が提案したのだ。
「うん。熱い。けど、美味い」
「たまにはええやろ?」
「ああ。この大根なんか出汁が染みていいな」
「おおきに」
鍋から上がる白い湯気越しになつきを見ると額に汗をかいていた。静留は立ち上がってキッチンへ行くと冷蔵庫からコーラを取り出した。
「はい、なつき」
差し出されたお馴染み黒い液体の入ったペットボトルになつきが顔を明るくした。
「いいのか?」
いつもは食事中のジュースは紗江子に禁止されていた。なつきがすぐにお腹いっぱいになってしまうからだ。
「ええよ。紗江子さんもおらんし、内緒な?」
ちゃんとご飯も食べるんよ?という静留の言葉に嬉しそうに頷いて、なつきはペットボトルの蓋を開けた。美味しそうにコーラを飲むなつきに静留は「ふふ」と微笑んだ。
「静留も悪い事するんだな」
「あら、この位の事はよおするよ」
「へえ、意外だな」
「人を見かけで判断しとったらあかんえ?」
「はは!そうか。なんだか新鮮だな。私はもっとお前という人間を知っていた気でいたよ」
「そうなん?」
「ああ。でも考えてみれば、いつもお前が私の方に寄って来てくれていたな」
なつきは箸で練り物を口に入れ「はふはふ」と熱気を逃がした。
「……なつき、聞いてもええ?」
「はふ。なんだ?」
「うちらが出会うた時の事、覚えてはる?」
静留は手に持っていた箸を皿の上に揃えて置いた。
「ん。ああ。学園の花園だろ?」
「そうや」
「それが?」
「あんた、あん時、花を……」
静留は何と言ったらいいかというように言葉を濁した。
なつきはペットボトルを持ち上げてコーラを口に含むとゴクンと飲み干し「あの時な」と切り出した。
「あの頃は……なんて言ったらいいかな。まあ簡単に言うと、荒れてたんだ」
「そうなん?」
なつきは鍋の湯気を追いかけるように天井を見上げた。何か思い出しているのだろう、翠の両岸が揺れている。
「……父さんが家を出て行ってな。母さんが仕事から帰ってこなかったし」
なつきの言葉は切れ切れで、文脈を得ていなかったが記憶を遡っているのだろう、思い浮かんだ事をそのまま言葉にしているようだ。静留はなつきの言葉を聞き逃さないように静かに話を聞いた。
「よそに女を作って、それで。母さんと喧嘩したりは、見たこと無かったけど、でも。ある日から帰って来なくなったんだ」
「……」
「父さんにとっての母さんとか、自分とか。そんなもんだったんだなって思って」
なつきが椅子の背もたれに寄り掛かって椅子がきしりと鳴いた。
「なんだか。信じてた世界が嘘みたいっていうかさ。父さんが、っていうか、世の中が汚く思えて」
「……」
「あの花園で咲いてる花を見たら、何も知らずに綺麗に咲いてて、さぞ気分が良いんだろうなって。だから、まあ、八つ当たりだけど。散らしてやろうとしたんだ」
「……そやったん」
静留はなつきの淡々としゃべる声を聞いて、その言葉の抑揚のなさに大きな自制心を感じた。
「そんな顔するな」
「え」
ぱ、と顔を上げるとなつきが困った表情で静留の顔を見ていた。
「あの時は、その……お前が止めてくれて良かったと思ってる」
「……」
「あの時、花を散らしていたら。なんていうか、大事な何かを無くしてたんじゃないかと思うんだ」
そこまで言ってなつきは静留に微笑んだ。
「だから、ありがとな。静留」
「……ええんよ、そのくらい」
「あれからだよな」
「なにが?」
「静留が私に関わるようになったの」
「ああ、そうやねえ」
「私がまた花にちょっかい出すと思ったのか?」
「そんなんちゃうけど」
言えへん。あんたが放ってた鋭い雰囲気とその瞳の輝きに惹かれました。なんて。
「なつき、ご飯ちゃんと食べきらんとコーラは一週間禁止や」
「ええ!」
2024/10/01
sister in law 5
静留を迎えて一週間が過ぎた。静留はすぐ玖我家に馴染んだ。朝起きると、静留がすでに朝食の支度をして、朝食と三人分の弁当までこしらえていた。
紗江子は静留が用意してくれた食事の美味しさに感激した。
「静留ちゃん、今日もお弁当ありがとう!静留ちゃんがこんなにお料理ができるなんて知らなかったわ」
お揚げとえのきとネギの入った味噌汁を味わいながら紗江子が静留を褒める。静留は制服の上にエプロンを着けた姿で同じ食卓に着いていた。
「そう言ってもらえて良かったどす」
「でも、朝早起きして作るの大変じゃない?」
紗江子は静留が気を遣ってしまっているのではないかと心配なのだ。静留は「大変やか、ありません」と言ってほかほかの白米を口に含んだ。
紗江子の隣の席で、まだ半分夢の中にいるなつきはおぼつかない箸づかいで綺麗に巻かれた卵焼きを摘まんだ。
「……うまい」
卵焼きの感想をいうなつきに静留は柔らかく微笑んだ。
「おおきに」
つけっぱなしのテレビでは快活な天気予報士が週末の天気を読み上げている。それによると大きめの台風が上陸するとのことだった。紗江子がそれを聞いて「困ったわね」と呟いた。
「母さん、なんか予定があるのか?」
「今は繁忙期だから、土曜日も出勤なのよ~」
「そうなんだ」
「金曜日会社に泊まろうかしら?」
「泊まり?」
「台風の中、車の運転したくないし。仕方ないわね」
「そっか」
ようやく目覚めてきたのか、なつきがうんと伸びをした。
学校で静留は今まで通り「藤乃静留」として生活している。戸籍上の苗字は「玖我」になったが、何かと事情に踏み込まれるのを避けるため家の中以外では「藤乃」を名乗っていた。
「最近は購買のパンじゃなくてお弁当なのね」
静留が持たせてくれた弁当を昼休みに中庭で広げると舞衣が同じく持参の弁当を広げながら言った。
「まあな」
「お母さんが作ってくれたんだよね?」
「ああ、まあ、そうなんだ」
親友の舞衣に嘘を吐くのは心が痛んだが、まさか、あの生徒会長藤乃静留と義姉妹になって寝食を共にしています、というわけにもいかず。なつきはお茶を飲み込んだ。
「あ、会長さんだ」
「ぶーーーっ」
なつきは盛大にお茶を吹きだした。
「ちょっと何してんのなつき」
「ごほ、ごほっ」
渡り廊下の方を見れば、舞衣のいったとおり静留が通っているところだった。相変わらずたくさんの取り巻きを引き連れて、微笑みを振りまいている。静留はこちらに気が付いたらしく、群衆の隙間からこちらに小さく手を振った。
「相変わらずすごい人気ね、会長さん」
なつきにハンカチを手渡しながら舞衣がため息を吐く。
「先月の学力テストも1位だったし、本当に何でもできる人っているのね」
「へえ」
「あんたもいい順位だったけど、もう少し授業に出た方がいいわよ」
「むう」
舞衣のちくりとした言葉に口を尖らせて、なつきは頭をかいた。
金曜日。何日か前に天気予報で聞いたとおりに天気は荒れ模様となった。
2024/09/28
sister in law 4
成績優秀で容姿端麗、完全無敵の生徒会長が、まさか孤児だなんて誰も思わないだろうな。
紗江子の運転する車の後部座席で、流れる景色を見ながらなつきは思った。
静留はてっきりどこかの良家のお嬢様だと思い込んでた。だって、いつも姿勢が綺麗だったし、たまに一緒にお昼ごはんを食べた時だって、盛り付けの綺麗な弁当を持参していたし。なにより、静留は悲壮な顔など見せたこともない。きっと学校のやつらの誰にも。
なつきは隣に座ってじっと前を見つめている静留を見た。その姿はしゃんとしていて、膝に乗せた指先にまで「品」ってものが通っている気がした。
「お前を養子に欲しいという話は今までにもあったんじゃないか?」
ふと、思いついて静留に話しかけた。
「どうして、そう思うん?」
静留は穏やかな笑みを浮かべてなつきの方を向いた。
「いや。何となくだけど……お前は頭がいいし、その、可愛いし」
何だか恥ずかしいことを言わされた気分になって、なつきの言葉は尻すぼみになった。
「ふふ、おおきに。なつきに可愛いなんて言われる日が来るなんて。うち、生きてて良かったわあ」
「……話を逸らすな」
「ふふ、堪忍。せやなあ、いっぱいお話しはもらっとったけど」
静留は遠くの方に視線をやって、それから「ほっ」と息を吐いた。
「……けど?」
話の先を促す様になつきが相槌を打つ。
「どの人も、なんでうちが欲しいんか、よお分らんかったし。付いていきとうなかったんよ」
「ふうん」
それなら、なんで母さんとは話が進んだんだろう?なつきは疑問に思ったが、紗江子が黙っていたので今は聞かないことにした。
これからゆっくり知ればいい。なんせ静留と私は家族になったんだから。
「もうすぐ着くわよ」
なつきにとっては見慣れた自宅周りの景色。静留にとっては初めての場所。静留は周囲を観察するように窓から外を眺めた。
「紗江子さん、アレを」
「あ、そうね。今のうちに目を通しておくといいわね」
紗江子が右手でハンドルを握りながら、左手で助手席のバッグから白い紙を取り出した。静留はそれを座席越しに受け取ると、二つ折りにされていたその紙を広げて目を通し始めた。
「なんだ?」
なつきが静留に肩を寄せて紙を覗き込む。そこには……
6:30 起床
7:00 朝食
7:45 片付け終了
8:00 登校
というような生活の内容が時間ごとに朝から夜まで書き連ねてあった。
「なんだこれ?」
「時間割りや」
静留が印刷された文字を人差し指でなぞりながらそう言った。
「時間割り?」
「静留ちゃんはこれまで施設で生活してたからね」
紗江子がバックミラー越しになつきと目を合わせた。
「ルールどおりに時間を守って生活してきたのよ」
「ふうん」
「うちでは特に守らなきゃいけないルールはないけど、目安はあるからね。それを事前に知っておきたいってお願いされていたの」
「ふうん」
なつきは早速興味を無くしたように静留から離れて窓の外を見た。
「紗江子さん、おおきに」
「いいえ。いいのよ、これくらい」
車が自宅マンションについて地下の駐車場へ滑り込んでいく。
「ここがうちよ」
紗江子が扉の鍵を開けて静留を中へと招き入れる。
「よろしゅうお願いします」
玄関を上がるときに紗江子となつきに向かって静留が頭を下げた。
「そんなに気を遣わなくて大丈夫よ。静留ちゃん」
紗江子が静留の背中を手で擦る。
「そうだぞ、静留。もうお前の家でもあるんだからな」
「おおきに」
静留が珍しく頬を少し赤くして二人に礼を言った。
「ここがお前の部屋だぞ」
なつきが静留を案内したのは、数日前になつきが片づけをした例の部屋。フローリングが綺麗に磨かれていて、壁際には勉強机、窓際にはベッドが置かれていた。
「まだ何もない部屋だけど、おいおい何か置けば生活感もでるだろ。隣が私の部屋だからな。何かあったらすぐ呼べよ」
なつきにそう言われて静留は初めての「自分の部屋」にそっと踏み込んだ。
2024/09/22
sister in law 3
それからの話はとんとん拍子だった。
喫茶店での紗江子との話し合いから、一週間後には、晴れて玖我家に養子を迎えることが決定した。
自宅のマンションで、紗江子からメールでその旨を聞いたなつきは「よかった」と一言返信した。
なつきは長い髪を後ろに結い上げ、自室から廊下へ移動すると隣の部屋の扉を開けた。そこは長い間、使ってなかった部屋だから荷物が散乱していた。
「よいしょ」
一番手前にある積み上がった段ボールを持ち上げて部屋から運び出す。それから、乱雑に放ってあった雑誌類を紐で纏め、それも廊下へ出した。黙々と部屋を片付けていく。なつきはそれ程、片付けというものが得意ではない。しかし、紗江子から「お姉ちゃんの部屋を作ってあげてね」とお願いされたのだ。
「お姉ちゃん、か」
まだ家族が増えるということに実感が湧かないなつきは、むずがゆい思いで「お姉ちゃん」と言葉にして繰り返した。
翌週。紗江子となつきは隣町の施設へ養子になる子を迎えに行った。
広い園庭では小さな子供たちが砂場や遊具で遊んでいて、なつき達を物珍しそうに見ている子もいた。子供たちはとても活発で、なつきが「施設」というものになんとなく抱いていたしんみりした薄暗さなど微塵も感じられなった。
「なつき、こっちよ」
「あ、うん」
紗江子に呼ばれ、建物の玄関へ向かう。すると、小さな女の子が走って来てなつきにぶつかった。
「おっと」
転びそうになった小さな体を両手で受け止める。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい」
女の子はなつきにそう謝ると、再び走っていなくなった。
「あらあら、大丈夫やった?」
「あ、ああ。ちょっと、ぶつかっただけで……え?」
聞きなれた訛りのある言葉になつきは振り返った。
「ど、どうして、お前がいるんだっ」
「どうしてって」
そこには、薄桃色のエプロンを着けた静留が立っていた。静留は困ったように頬に手をあてると、視線を紗江子に投げかけた。
「ああ、出迎えてくれたのね。なつき、藤乃静留ちゃんよ」
「それは知ってるけど!でも、なんで?え?」
状況が理解できずに困惑するなつきに静留が苦笑いする。
「黙っとって堪忍な」
「どういうことなんだ?説明してくれ」
「とりあえず、中へどうぞ」
静留に促されて、応接室へと案内された。
「ちょお待ってな?」
静留が先に応接室へと入り、床に転がる人形やボールを拾い集める。それから……
「こぉら!」
静留がソファの後ろを覗きこんで声を上げると、隠れていた小さな男の子が二人。「キャー」と楽しそうな悲鳴を上げて部屋から走り出て行った。
「お待たせしました」
「大変ねぇ、静留ちゃん」
「いつものことどす」
言葉を交わしながら、静留に勧められて紗江子がソファに座った。茶色いテーブルを挟んで静留が向かいのソファに腰を下ろした。
「なつきも座りなさい」
紗江子がソファをポンポンと叩く。なつきはまだ二人に聞きたいことが山ほどあったが仕方なくソファに座った。
「なつき。もう分かったと思うけど、静留ちゃんがあなたのお姉さんになる人よ」
「やっぱりそうなのか」
紗江子と静留が何やら視線を交わして頷きあう。なつきはそれを見て、二人はずいぶん長い事やりとりしてたんだろうなと感じ取った。
「なつきは家族になるのが、うちやとわかって嫌やない?」
なつきは「ふう」と息をつき、それから心配そうな顔の紗江子と静留の顔を見て、軽く頭を振った。
「驚きはしたけど、母さんがお前を家族に迎えたいと言っているんだ。私も反対はしないさ」
「おおきに……っ」
紗江子と静留が今度は嬉しそうに顔を見合わせた。
手続きがあるからという紗江子を残して、なつきは園庭に戻ってきた。
まもなく、手提げバックを一つ持った静留が玄関から出てきた。エプロンを着けていない、サイズの大きなシャツにジーパンという軽装だ。
「荷物はそれだけ?」
「ええ」
「少なすぎないか?」
「服も本も、なんもかんも。全部、みんなのもんやからね。私物なんてほとんどあらへんよ」
「……そうか」
園庭で遊んでいた子供たちが静留の周りに集まってきた。
「どっか行っちゃうの?」
「行かないで」
「しぃちゃん。遊びに来てくれる?」
子供たちは口々に静留を引き留めた。静留は優しい笑みを見せ、その場にしゃがみ込んだ。子供たち1人1人の名前を呼んで、頭や手に触れ、別れを告げる。泣き出す子もいた。なつきは、その様子を離れた所から見守った。
「泣いたらあかんよ。みんな、強く生きなあかんえ」
まるで自分に言い聞かせる様なその言葉がなつきの心に残った。
「待たせたわね」
紗江子が建物から出てきた。車のキーをバッグから取り出す。
「さあ、行きましょう。静留ちゃん」
「はい」
紗江子の言葉に静留が立ち上がり、一歩こちらへ踏み出した。一歩、また一歩と建物から離れた所で、静留が立ち止まった。そして、くるりと向きを変え、施設に向かって深々と頭を下げた。
「お世話になりました」
静留の小さな声がなつきの耳に届き、その言葉の響きはなつきの胸を打った。なつきは、その時初めて「孤児」ということがどうゆうことか知ったような気がした。
ああ、そうか。ここはお前の家であって、ここに居る人達はお前の家族かもしれないけど。すべては仮の物なのか……