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5.極悪王女は義弟に会う


憂鬱だわ。


今日は、私の弟となるステイルが城にやってくる日だった。

また、ゲーム通りに人生が進んでいる。


父上から義弟の話題が出た時は本当に焦った。まだ八歳ですし、義弟なんてまだ…とやんわり断ろうと努力はしたが、王位継承者には代々補佐として年下の男性を国民から王族の養子としてとることが義務付けられている。

八歳とはいえ、既に王位継承権が確立したのなら今から補佐として義弟をつけなければならない。事実上、私の側近であり、未来の摂政だ。そう言い切られてしまえば、私も何も言えなかった。

義弟というが、正直にいえば王位継承者専用の特別な補佐であり従者だ。

王族の従者になるには優れた特殊能力を持っていること等が条件になるが、王位継承者は且つ、年下の男性を養子にしないといけない。理由としては暗殺などを企てないよう、王族の立場を与えるとしても成り変われない性別、年齢の人間を条件にしているらしい。


「すている…」


ハァ…とため息を吐きながらまだ会ってもいない義弟の名前を呟いた。

ゲームでは主人公であるティアラの義兄になるキャラクターだ。

きっと、既に彼は傷ついている。王族の命令で大好きな母親と引き剥がされて。


ステイル・ロイヤル・アイビー

父親を早くに病で亡くし、幼くして母一人子一人の庶民の出。

自分を含め、触れる物を好きな場所に転移することができる特殊能力者だ。確か瞬間移動とかテレポートとかだっただろうか。

彼は引き離された母親に会いたい想いをプライドに利用され、嵌められてしまう。〝隷属の契約〟を結んだことで、彼女の命令に逆らえなくなり〝補佐〟どころか完全な彼女の〝奴隷〟になってしまう。


勿論、いまの私にはそのつもりは無い。…といっても、心の隅に「庶民出の他所の子供なんて、義姉だからって本当に私の言うことをちゃんと聞いてくれるのかしら?」という不安が無いわけでも無い。きっと、こういうところが妹の存在を発覚した上に父親を亡くしたばかりのプライドに魔を差したのだろう。

そしてこの時のステイルの怒りや憎しみの反応が楽しくなって人を苦しめる快楽を覚えちゃったんだろうな。その後もステイルに取り返しのつかないことをさせているもの。


そんなことを悶々と考えていたら侍女のロッテの声が聞こえた。ステイルが着いたとのことで父上が私に紹介したいとのことだった。


「プライド。この子が今日からお前の義弟、ステイルだ。年はお前の一つ下の七歳。これから先、お前の補佐をする…将来摂政となる人間だ。庶民の出だが、瞬間移動という非常に優れた特殊能力を持っている。仲良くするんだよ。」


そう言って父上が紹介してくれた男の子は、やはり私が前世で知っているゲームのステイルに面影があった。

綺麗な黒髪と黒い瞳、白い肌に高い鼻筋。幼顔で今は可愛らしい男の子だけれど、将来はクール系の眼鏡をかけた、知性派キャラになるのよね…まだ眼鏡装備はしてないけれど。

そう思ったところで眼鏡より遥かに物騒なある一点に目が集中し、私は思わず一歩引いてしまった。

服装や身嗜みは城に来る前に最低限整えられたのだろう。しかし、整った格好だからこそ余計目立つ両手枷。下を俯いた暗い表情と相まって、まるで罪人のようだ。腕と腕の間が、ある程度の余裕をもった長さの鎖で繋がれている。腕輪のようなものはその光沢や宝石のような装飾から普通の素材ではないことが子どもの目にもわかる。

「ああ、この手枷か。可哀想なんだが…少しの間だけね。彼はここに来るまで何度も瞬間移動で逃げたり、衛兵に怪我をさせたりと色々あってね…今は納得してくれたが、また居なくならないように枷で能力を封じさせてもらっているんだ。」

そのまま父上は「明日、“従属の契約”をお前としてもらう。そしたらこの枷はすぐに不要になるから」とステイルの頭を撫でた。

前世の倫理観で酷いとも思うが、この世界では当然のことだった。王位継承者を裏切らない為に義弟は〝従属の契約〟を交わされる。

〝従属の契約〟はこの国にしかない契約。特殊能力者により作られた契約書、それにお互いが名を記せば生涯それを破ることができなくなる。といっても、〝従属〟は単に主を裏切らない、主人の意思無しに一定距離以上は傍を離れない。というだけの契約なのだけれど。

ただ、ゲームのプライドがステイルに交わさせたのは〝隷属〟だ。〝従属〟の裏切らない、傍にいますに加えて主の命令には絶対に背かないという拘束力の強いものだ。それをプライドは亡くなった父親の書庫からこっそり盗んで、〝従属の契約〟を結ぶ前夜、ステイルにサインを書かせる。「これにサインを書いたら母親に会えるようにしてあげる」といって。

契約は拘束力の強いものが優先されるから、後から〝従属の契約〟をしたところで上塗りはされない。庶民出で自分の名前以外読み書きのできなかった七歳のステイルがそのサインの恐ろしさを知ったのは、契約を終えた後だった。


でも、そんなこと私は絶対にしない‼︎


私は下を俯くばかりのステイルに駆け寄ると、ぎゅっとその枷のついた両手を握りしめた。

「プライド・ロイヤル・アイビーよ。お会いできて嬉しいわステイル。家族になるんだもの、これからどうか宜しくお願いね。」

そう言って笑って見せるとステイルは驚いたように顔を上げ…また再び俯くと小さな声で「はい…」と呟いた。


あれ⁇これどっかで見たような…。


思わず笑顔が引き攣りながら、ゆっくりとステイルから離れる。そうだ、これもゲームでみたシーンと台詞そのままだ。

ステイルから語られた過去で幼いプライドは優しい笑顔でステイルに近づき、その晩に優しい姉を装って隷属の契約をさせるのだから‼︎

やっぱり、ゲームのシナリオ通りの運命なんだわ…。

絶望感でいっぱいになりながら、ステイルから距離をとると父上が「今日は疲れただろう。明日に備えてゆっくり部屋で休みなさい。」とステイルを部屋に連れていった。

そういえば…今回、ステイルを紹介してくれたのは父上だった。ゲームでは父上の補佐の…なんとかって人が紹介してくれた気がするけれど。父上が生きているからかしら?あれ、補佐の人って何かあったような…。


思い出そうにも父上は基本私に会いに来るときには補佐無しの1人で来るからわからない。たぶん会ったことなんて数えたくらいしかないし。


…っと、それよりステイル‼︎


今はあやふやな記憶より目の前のステイルだ。私は父上とステイルの後を追うように駆け出した。


部屋がわからないとこの後どうしようもないもの‼︎


ステイルの部屋は私の一つ下の階だった。

足音ですぐに父上にバレた私は場所だけ教えてもらったらそのまま「今日はそっとして置いてあげなさい」とロッテとマリーを呼ばれて自分の部屋に戻されてしまった。

でもそれじゃだめ!明日、従属の契約をされる前にステイルと話さないと‼︎

確かゲームでプライドがステイルを罠に嵌めるのは夜だった。なら、ゲーム通りなら夜になったらステイルと話すチャンスがあるはず!


自分の部屋に戻された私はロッテ達が居なくなったあと、父上に会いに行くといって部屋をでた。実際は父上ではなく、父上の書斎に。ゲームでもプライドが忍び込んでいたし、警備もなんとかなるわよね?と思ったら予想以上に簡単に忍び込むことができた。

そこで目当ての品を引き出しから見つけると警備が来る前に急いでそれを服の中に入れて書斎から逃げ出した。

もう一度部屋に戻り、一息つく。




あとは、ステイルに会うだけだ。


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