01.聖女、追放される
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「聖女【キリエ】。貴様をこの国から追放する」
……わたしことキリエ(16)にそう言い放ってきたのは、この国の王太子、モーモック様だ。
ここ、ゲータ・ニィガ王国の王都に住んでいるので、何度か顔は見たことがある。
しかし……謎だ。
モーモック様とわたしは、接点なんて全くない。
こっちは天導教会が所有する大神殿で、聖女としてまじめに働いてる身。
御祈りとお勤め、あとはボランティアと、毎日忙しく、けれどつつましく暮らしているだけだったのに……。
なぜ、わたしが追放される羽目になるのか?
これがわからない。
「言い返さないのだな。ということは、罪を認めるということだな」
……いえ、言い返さないのではなく、言い返せないのだ。
わたしは元々王都でパン屋を営む夫婦の、一人娘として育った。
しかしある日、うちに強盗が入る。
両親を殺され、わたしも死にかけたそのとき、神様に祈りが届いたのか、奇跡の力がわたしに目覚める。
強盗を撃退したわたしは両親を失うだけでなく、ショックで言葉がしゃべれなくなったのだ。
しかし怪我の功名とでもいえばいいのか、わたしには聖女としての力が宿った。
その後、天導教会が経営する孤児院に引き取られたのち、ここ大神殿にて、聖女として働くことになった次第……。
っと、話がそれた。
とにかく、わたしはしゃべれないのである。
そのことを、神殿の人たちや、街の人たちは知ってるのだけど……。
どうやらモーモック様は、わたしの事情をご存じない様子。
わたしは懐から、メモ帳を取り出す。
しゃべれないわたしは、こうしてメモに字を書いて、会話するしかないのだが……。
「そうなんですモーモック様ぁん♡ この女があたしを、いじめてきたんですぅう♡」
……媚びに媚びた、気色の悪い声。
その声は王太子の隣に立っている女から聞こえてきた。
ハスレア。わたしと同じ、天導教会に所属する聖女だ。
わたしより一つ年下で、田舎の神殿から、王都にある大神殿へと配属されてきたらしい。
「なんということをしてくれたのだ! ハスレアは、期待の聖女なんだぞ! 彼女が王都に来てくれたおかげで、街を守る神の結界が強化されたのだからな!」
……この世界には魔物とよばれる、とても強力な力を持った獣が、外をうろついてる……らしい。
らしいというのは、王都育ちで、外に出たことがないので、実物を見たことがないからだ。
魔物の脅威から人々を守っているのは、町々を覆う神さまの結界。
かつてこの世界を作った神様は、人々の安寧のために、各所に魔物除けの結界を張ってくださった。
しかし結界の威力は、放置すると経年劣化する。
そこで、聖女の出番だ。
聖女の力で、神様の結界を補強する。
そうすることで、結界は維持されて、人々は平穏な生活を送れているという仕組みだ。
天導教会は結界維持のため、聖女を各地へと派遣している。
ハスレアがここ王都に派遣されてから、モーモック様が言う通り、魔物の被害が激減してる……とのこと。
まあ、外にほとんど出ないので、真意はさだかではないけれど。
「キリエ! 貴様は強い力を持ち、王都民から愛されるハスレアが妬ましかったのだろう!? だからいじめた、そうに違いない!」
……そういわれても、身に覚えがないというか。
というより、ハスレアが王都民に愛されてる?
どこ情報だろうか、それは。
ハスレアは、わたしが見ている限り、かなり聖女として失格な女の様な気がする。
神様に祈ることはほとんどせず、貧民街に炊き出しにいくなどのお勤めもしない。
困っている人がいても手を差し伸べないし、けが人がいても、聖女の癒しの力を使おうとしない。
はっきり言って、なぜこの子が、王都の大神殿に派遣されてきたのか理解できない。
また、彼女の言動もひどいものだ。
お金持ちの貴族様には愛想よく振る舞うも、孤児や平民には全然優しくしようとしない。
その結果、王都民たちからかなり毛嫌いされている(とわたしの見たところはそうなってる)。
そんなハスレアを嫉妬?
冗談でしょ。
「ハスレアはこの国の宝! 彼女の心を傷つけた罪は重い! よって聖女キリエ! 貴様をこの国から追放処分とする!」
……モーモック様は高らかにそう宣言する。
その隣で、ハスレアは邪悪な笑みを浮かべていた。
これは、あれだ。
この女がモーモック様を取り込んだのだろうか。誘惑などして。
まあ、たしかに、この女は見た目は結構いい。
背が低く、ピンク色のふわふわの髪に、大きな胸。
一部の殿方が喜びそうな見た目をしてる。
一方でわたしは、茶髪に、すとんとした体つきと、あまり男の人から好かれない見た目をしてるから。
まあ、しょうがないのかもしれない。
「キリエ。何も言い返さないということは、罪を認めるということだぞ?」
……だから、わたしはしゃべれないのですよ、モーモック様。
そうメモ帳に書こうとするも……。
「王太子の前でよそ見など、無礼千万!」
といって、わたしの手を強くはたいて、メモ帳を落とされてしまう。
これでは反論のしようがない。
……そもそもモーモック様はわたしがしゃべれないこと、そこのハスレアから聞いてないのだろうか。
「そうですよぉ、キリエさん。モーモック様がおしゃべりしてるのにぃ、メモ帳なんて見て、無礼ですよぉ」
……この女はわたしがしゃべれないことを知ってる。
なにせ、彼女がここへ配属されてからしばらくは、わたしが先輩として面倒を見てやったのだから。
まあ、すぐに外れることになったのだけども。
ああ、そういえばその時も、『キリエさんが毎日小言を言ってきていびってくるんですぅ』とか言っていたな。
ハスレアはそういう女だった。
……今度も同じだ。
ハスレアはわたしが気に入らなかったのだろう。
だから、王太子を抱き込んで、わたしを追い出そうとしているのだ。
まあ、そこまで強く恨まれるようなこと、わたしはしたつもりはないけども。
「沈黙は肯定とみなす。よって、貴様をここゲータ・ニィガ王国より追放処分とする! これは王太子であるこのボク、モーモックが独断と偏見で行うものとする!」
……あれ?
上の許可を取らずに、勝手に聖女を追放していいのだろうか。
まあ、今から追い出されるわたしには関係ないし、王太子に抵抗する力も権力も、わたしにはないか。
「その女を連れていけ」
「ばいばーい、キリエさーん♡ ……永遠に」
☆
ハスレアの言葉の真意を知ったのは、わたしを乗せた馬車が、大きな森にて、わたしを置いて帰っていったときだった。
どうやらわたしは、森に置き去りにされたらしい。
森には、魔物だけじゃない、野生の獣だっている。
このままではわたしは食べられてしまうだろう。
と思っていたそのとき、案の定、大きなクマが襲ってきた。
「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
わたしは、ただ神に祈った。
どうかこの獣が……。
わたしを、襲うという、【過ち】をしませんようにと。
「ぐ、ぎゃ……」
するとクマは立ち止まる。
よかった……神に祈りが通じたようだ。
わたしはカバンから、干し肉を取り出す。
神殿を出るときに、食堂のおばちゃんからたくさんもらった、保存食のひとつだ。
わたしはクマの前にお肉をたくさんおいておく。
……するとクマの後ろから、子供らしき小さなクマが現れたのだ。
おなかがすいていたのだろう。
だからって、人を襲ってはいけない。
人を襲った動物は、害獣として、冒険者たちに駆除されてしまう。
そうしたら、子供が残されてしまい、かわいそうだ。
わたしの思いは、神様に届き、そしてこのクマを冷静にしてくれたのだろう。
ありがとうございます、神様。
「きゅ~……くるるう……」
小熊が近づいてきて、ペロペロと、わたしの手をなめる。
よかったね、おまえ。
お母さんを失わずに済んだよ。
『ありがとう、お姉ちゃん!』
……はい?
何だこの声は?
周りに人らしい姿はない。
今の、子供の声は、いったいどこのだれから?
『おねえちゃん、おいらの声が聞こえてるの!?』
え?
おいら?
『おいらはおいらだよ! 目の前にいる、おいら!』
……まさか、この子どもの熊から?
いや、おかしい。
なんでクマの声が聞こえるの?
そもそも、わたしの声が、聞こえてる……?
『うん! 聞こえてるよ! ねえ、おかあちゃん!』
小熊が大きなクマにむかって、そういう。
だが母らしい熊は戸惑ったように首をかしげていた。
『! わかったぞ! お姉ちゃん、こっちきて』
ぐいぐい、と小熊ちゃんがわたしの手を引っ張る。
そしてわたしの手を、母熊の体に、ぴたりと、触れさせる。すると……。
『な、なんだいこの人間。あたいのことが怖くないのかい?』
! 声が聞こえる……!
どうなってるの?
『! あ、あたいの声が聞こえるのかい!?』
は、はい……。
『なんてことだい。あたいら魔物の声が聞こえる人間がいるなんて。そんなの、前代未聞だよぉ!』
……え?
ま、魔物……? この熊の親子、魔物、だったの……?
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