『青天を衝け』好調大合唱への疑問~世帯視聴率で空騒ぎする発表記事を憂う~(鈴木祐司) - エキスパート - Yahoo!ニュース

アーカイブされた 2023年8月12日 20:33:59 UTC

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『青天を衝け』好調大合唱への疑問~世帯視聴率で空騒ぎする発表記事を憂う~

鈴木祐司|次世代メディア研究所代表/メディアアナリスト
番組ホームページから
ビデオリサーチの視聴率は、通常は平日の朝9時頃に発表される。
大河ドラマ『青天を衝け』初回が放送された翌日、YAHOO! JAPANの検索によれば、直後からお昼までに22本の記事がネットにアップされた。
うち17本が「視聴率20%」「好発進」などと絶賛の嵐。ハッキリ言って、世帯視聴率とあらすじをコピペするだけの記事が大半で、新聞・スポーツ紙・雑誌などの発表記事の安直さに呆れるばかりだった。
本当に吉沢亮主演の新大河がそんなに名作だったのか。
今やどんな人がどう見たのかを検証するデータはふんだんにある。同ドラマのもっと突っ込んだ分析を期待したい。

世帯視聴率こそ20%だが・・・

17本の記事タイトルには、「視聴率20%」の他、こんな言葉が躍った。
「大河8年ぶり大台の好発進」
「高視聴率スタート」
「『八重の桜』以来」
「いきなり『麒麟-』超え」
確かに世帯視聴率20%は、13年『八重の桜』以来で低い数字ではない。
それでも16年『真田丸』19.9%や20年『麒麟がくる』19.1%とは、統計学上は誤差の範囲で、ことさら今回が突出しているとは言えない。
しかも1週間前の『麒麟がくる』最終回が18.4%と高かったことの余波もある。さらに19.9%だったら大騒ぎしたかどうか。「大台に乗った」と囃し立てる各メディアの安直さが痛い。
では、世帯視聴率を支えたのは誰か。
スイッチメディアラボ関東地区データでも、『青天を衝け』の世帯視聴率が一番高い。ただし若年層では、MT(男性13~19歳)で一番高いが、他の層では必ずしも傑出していない。
しかも大河ドラマは、1層(男女20~34歳)までは高くても3%台しかない。
つまり若者に人気のある俳優を主人公に起用しても、世帯や個人の全体視聴率には大きく影響しない。
若者に見てもらえないNHKの長年の課題を、同ドラマも全く解決していないのだ。
では『青天を衝け』の世帯視聴率が高くなったのはなぜか。
高齢者の支持が大前提だ。F3+(女性65歳以上)やM3+(男性65歳以上)が共に個人視聴率20%台となったが、近年で最高値を記録してお陰だったのである。
前作『麒麟がくる』は舞台が人気の戦国時代だった。
やはり65歳以上の高齢者によく見られ、大河ドラマの視聴習慣がついた人が多かった点も影響している可能性が高い。
『青天を衝け』の実力と判断するのは時期尚早なのである。

エリアによって分かれる評価

しかもよく見られたのは、47都道府県別では一部の地域だけだ。
全国でインターネット接続テレビ255万台のテレビ視聴状況を調べるインテージ「Media Gauge」によると、ドラマの分野で『青天を衝け』がトップとなったのは、東京・埼玉・京都など6都府県。2位が神奈川・千葉・山梨など15県。3位が茨城・兵庫・福岡など7県。
残り19エリアでは、ランク外だった。
ドラマの主人公・渋沢栄一は、現在の埼玉県深谷市で生まれ育った。
このためか埼玉県での接触率は10.23%で、47都道府県の中で最高値となった。実は同県はテレビ視聴率が高く、しかも人口も多い。同県での視聴動向は、関東地区の世帯視聴率に影響しやすいのである。
渋沢は21歳で江戸に出て、尊攘派志士から26歳で幕臣となる。
さらに明治新政府以降は、今の財務省関係の仕事に就く。さらに30代で実業家となり、今の埼玉りそな銀行・みずほ銀行などの設立にかかわる。さらに現在のIHI・日本経済新聞社・東京海上日動火災保険・東京電力・キリン・清水建設・帝国ホテルなど、多種多様な500以上の企業の設立や運営にもかかわった。
そうした企業の本社がある東京でも、9.65%と高い接触率となったのも納得できる。
ただし大阪や愛知では、接触率7%台とベスト3に入らなかった。
中には埼玉県の半分の5%台に終わった沖縄のように、ドラマ部門でベスト10からも漏れたエリアが8地区あった。
“東高西低”傾向など、どうやら物語は地域によって好き嫌いが際立ったようだ。

属性によって分かれる評価

スイッチメディアラボによると、見られ方の差は視聴者の属性によっても大きく異なる。
例えば未婚の男女・主婦や無職では過去の大河6作初回に大きな差はなかった。バラエティ番組好き・世帯年収400~700万円の家庭・一般社員・一次二次産業従事者の間でも大きな差は生じなかった。
ところが三次産業従事者・世帯年収1000万円以上の家庭では、『青天を衝け』がトップに躍り出る。
しかもビジネス番組好きだと2位以下にかなりの差をつけた。さらにサラリーマンでも役職が課長や部長になると、他の大河の2倍近い視聴率となった。
明らかに同ドラマ初回は、金融や公務員などの三次産業従事者、その中でも管理職、さらにはビジネス番組をよく見る層に高く支持された。
要は高所得で組織の中のエリートが好む番組になっていたのである。
このことを象徴する場面がある。
番組冒頭で北小路欣也扮する徳川家康が、「こんばんは、徳川家康です」と語り始め、渋沢栄一登場までの日本史を解説するシーンだ。
SNS上では、この演出を面白がる声があった。
「とりあえず今日は『こんばんは、徳川家康です』のインパクトがすごすぎた」
「『こんばんわ、徳川家康です』から始まる大河面白い」
「北大路欣也演じる徳川家康の歴史講釈からスタートで度肝を抜かれたよ」
「いきなりの家康登場に騒然!遊び心あふれる演出話題」
ネットの記事でも、SNSの盛り上がりを紹介しつつ「一連のセリフで、家康がコントのような存在になり、時代劇ファン以外の若い世代を最後までつなぎ留めたのではないか」と称賛していた。
ところが視聴者の受け止めは一様ではない。
番組冒頭での視聴者の流出率を直近4作と比べると、2分15秒あった解説コーナーで見るのをやめた人が明らかに多かったことがわかる。
ドラマらしくない演出を「面白い」と評価する人もいれば、「歴史の勉強みたいで嫌」と逃げだす人もいたのである。

2話以降が勝負

以上のように、多くの記事は世帯視聴率が20%の大台に乗ったことで、とにかく評価する方向に走った感がある。
数字とドラマのあらすじを紹介するだけの記事は論外だが、PV狙いで安易にSNSにプラス材料を探す記事も如何なものか。
初回は主な登場人物の顔見世といった感じで、まだ物語は本格的に展開していない。
高所得で企業の管理職以上の人々は、自社創業にかかわる偉人のドラマだけに、話題についていくために初回をとりあえず見ただけかも知れない。
肝心なのは渋沢栄一に関係のない地域や組織の人々にも、「面白い」と思ってもらえるかどうかだ。
物語の展開や切り口として卓越したものとなるか、2話以降の健闘を期待したい。
次世代メディア研究所代表/メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。主催する次世代メディア研究所では、激変するメディア状況を時々のキーマンにプレゼン頂き、次はどんな状況になるか、各プレイヤーが活躍するためのポイントは何かを議論している(詳細は公式サイトへ)。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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