『青天を衝け』視聴率半減の真相~大河で見たいのは“偉人伝”でなく“人間ドラマ”~(鈴木祐司) - エキスパート - Yahoo!ニュース

アーカイブされた 2023年8月3日 07:41:19 UTC

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『青天を衝け』視聴率半減の真相~大河で見たいのは“偉人伝”でなく“人間ドラマ”~

鈴木祐司|次世代メディア研究所代表/メディアアナリスト
番組ホームページから
吉沢亮主演『青天を衝け』が世帯視聴率11.2%で最終回を終えた。
コロナ禍の影響で例年より放送回数が少なかったが、2月14日の初回は20.0%だった。
舞台が視聴者の注目を集めやすい幕末明治維新であること、主人公が日本資本主義の父・渋沢栄一と大河として異色だったこと、演じたのが人気俳優の吉沢亮(27歳)だったことなどから、『八重の桜』以来8年ぶりの大台と船出を飾った。
視聴者の期待の高さがうかがえた。
ところが3月末には15%を切り、秋には12%台が普通になった。
コロナ禍や東京五輪で放送が中断されるなど、不運が重なったことは否めない。それにしても、最終回の11.2%は『八重の桜』の3分の2、以後の大河では史上最低だった『いだてん』を除くと最悪だった。
大河ドラマとして好条件が揃いながら、『青天を衝け』はなぜ最終回までに視聴者のほぼ半分が消えたのか。
視聴データから浮かび上がる課題と可能性を考えて見た。

初回の特徴

関東で5000人のテレビ視聴実態を調べるスイッチメディアの特定層別個人視聴率の動向を分析すると、誰がどう『青天を衝け』から脱落したのかが浮かび上がる。
まず7~8月の3週中断と、8~9月の2週中断は、多少の影響があったものの決定的とまでは言えない。
むしろ『真田丸』『西郷どん』は序盤4話で勢いを保ったまま物語が本格化していったのに対して、『青天を衝け』は序盤4話に問題があった。
ここで4分の1の視聴者に逃げられていたが、大河ドラマの最大顧客たる50歳以上の中高年がたくさん脱落していたのが痛かった。
筆者は初回放送後に、拙稿「『青天を衝け』好調大合唱への疑問~世帯視聴率で空騒ぎする発表記事を憂う~」で見た目の視聴率に惑わされ、番組内容の危うさに気をつけなければならないと警告した。
制作陣の誤算は北大路欣也扮する徳川家康による解説コーナー。ここで多くの人が視聴をやめていた。SNSではこの演出を面白がる声が多かったが、サイレントマジョリティは必ずしも評価していなかったのである。
さらに8年ぶりの20%という数字を支えた層の問題。
実は“経済ビジネス番組”関心層や“企業に務める部課長”が、いつもの大河ドラマよりかなり多く見に来ていた。彼らのお眼鏡にかなう内容となることが重要だったのである。

序盤の課題

ところが序盤の3話で、かなり危険な兆候を示した。
序盤3話終了後に書いた「展開なきドラマの憂鬱~主人公・渋沢栄一の出身地からも見放され始めた『青天を衝け』の課題~」で詳しく述べたが、時代の状況説明や登場人物の顔見世が多く、物語がなかなか展開しない“退屈さ”が致命的だった。
特に番組冒頭10分で数字が上がらないのは問題で、明らかに視聴者の関心が薄れたことを示していた。
結局最終回まで頻繁に登場した徳川家康の解説コーナーも、ブレーキとなり続けた。
夜帯ドラマのランキングで、3話までで47都道府県の大半がトップ3の圏外としていた。渋沢栄一の出身地・埼玉県ですら、初回の首位から4位に後退していた。
「ドラマとして面白くない」と感じた視聴者が少なくなかったのである。

誰に向けた番組か?

初回から最終回までの特定層別視聴率を見てみよう。
大河ドラマは今では唯一の時代劇だが、“歴史・伝統”関心層は当初の16%から秋以降は10%前後と3分の1以上が離反していた。
いつもの大河より初回で大量にいた“企業に務める部課長”も、最終回までに6割が離脱した。
日本資本主義の父を描いた物語だったはずだが、彼らの関心をつなぎ留めることは出来なかった。
初回でいつもより多く集まったのは、他に女性若年層だった。
吉沢亮の人気が大きかったと推測されるが、この層も最後までで半分以下となってしまった。特に女子大生に至っては、初回3.0%がラスト2回は0%だ。残念ながら、期待と大きくズレたドラマだったようだ。
ちなみに大河ドラマは、最終回で視聴率が大きく跳ねることが多い。
1年間続いた大団円への期待からだろうが、去年の『麒麟がくる』は年間平均の3割増だった。18年の『西郷どん』も1割高い。件の『いだてん』ですら平均よりやや高く、ラスト2回で6.1%から8.3%まで上げていた。
ところが『青天を衝け』最終回は、平均を2割下回った。
終盤3話は12.6%から11.2%に落としている。ラストの盛り上がりに欠ける展開だったのである。

“偉人伝”では低注視率

視聴者が番組を面白いと感じているか否かの指標の一つに、スイッチメディアが測定する注視率がある。
放送中に顔がテレビに向いていると判定された人の比率だ。テレビに設置されたセンサーで測定されたこの数字が高いほど、より多くの視聴者が内容に見入っていたとみなすことができる。
10月以降を調べると、番組平均は回を追うごとに右肩下がり気味となった。
最も低かったのは、全体平均で33.4%しかなかった10月24日の第32回「栄一、銀行を作る」。同時間の裏番組全体の平均とほぼ同じ水準にとどまった。
物語の内容は、栄一の大蔵省辞職から始まる。
その後、第一国立銀行のスタート、外国人指導者との意見の食い違い、五代(ディーン・フジオカ)や岩崎弥太郎(中村芝翫)とのやりとり、静岡の慶喜邸を平岡やす(木村佳乃)が訪ねた一件、母・ゑい(和久井映見)死去、政府内の騒動と岩崎三菱の台頭などが展開する。
全編を通じて、渋沢栄一の公私と時代状況が短いシーンで次々に登場する。
登場人物の数も膨大で、誰が出ているのか分からなくなることもある。制作陣が偉人伝として必要な要素と考えたのかも知れないが、視聴者としては“歴史の勉強をさせられている感”が拭えない。
こうした展開は、注視率に如実に表れた。
シーン転換の早さは、良く言えば「テンポが良い」となる。しかし「中途半端で消化不良」と感じた視聴者が少なくなかったのか、注視率が急落する場面転換が少なくない。
もう一つの問題は、重要な話をボカシて表現している点だ。
確かに渋沢栄一は、時代を切り拓いた英雄だ。自分でも来し方を振り返り「俯仰(ふぎょう)天地に愧(は)じることなし」と自画自賛している。ただし、この言葉には「明眸(めいぼう)皓歯(こうし)に関することを除いては」という留保がついている。要は、女性問題は例外というのである
第32回では、この中の同じ家に同居した妻・千代(橋本愛)と大内くに(二村紗和)の問題に触れられる。
ただし「見ていればわかるでしょ」的な仄めかし表現で、真正面から取り組むことを避けた。当の栄一がその中でどう考えていたのか、二人の女性は何を思ったのか、生の感情は出てこない。
同シーンが第32回の中で最も注視率が低いのも頷ける。「NHKだから、これが限界」は送り手の論理に過ぎず、視聴者はそんなことは関係ない。

“人間ドラマ”に注目する視聴者

対照的なのが、第36回「栄一と千代」だ。
前半はいつもと同じような“偉人伝”的展開で注視率は低い。ところが千代が病に倒れた後半は、“人間ドラマ”となって数字は急伸した。危篤から死去するまでの、二人の情愛の籠ったやりとり、母を気遣う子供たちの悲痛な想いに、涙した人は少なくなかったようだ。
“偉人伝”と“人間ドラマ”の違いは何だろう。
筆者は30年前、一代で2000億円の資産を築いた風雲児のドキュメンタリーを制作したことがある。放送後、多くの企業から「社長が見たいと言っているから、お金に糸目は付けないのでVTRを頂けないか」と頼まれた。
当時は全録もなければ、TVerやYouTubeもない。何としても見たいシーンがあるというのである。
残念ながらVTRを渡すのはルール違反ゆえ、希望には沿えなかった。
しかしお話をして分かったのは、番組で取り上げた経済論理は本で読めばわかるが、描かれた迫真のシーンはビジネスマンが直面した際にどう対応すべきか、とても参考になるというのである。
この伝で言えば、“偉人伝”としての事実関係は単純化するなり端折って、千代の臨終のような生身の人間ならではのシーンをきちんと描き込めば、視聴者の満足度は上がっただろう。
『青天を衝け』初回では、経済に関心のある人や、企業の部課長がたくさん見に来ていた。
ところが多くが途中で脱落した。ビジネス上での生々しい場面がもっとあれば、最後まで見続けた人はもっと多かったのではないだろうか。
1年付き合うだけの価値があるか否か、眼鏡にかなわなかったとしたら残念でならない。
来年1月からは『鎌倉殿の13人』が始まる。
『真田丸』の三谷幸喜の台本ゆえ心配は無用と思うが、痛快でやがてしみじみ考え込むような“人間ドラマ”を期待したい。
視聴者の視線が画面に張り付きっぱなしとなることを祈る。
次世代メディア研究所代表/メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。主催する次世代メディア研究所では、激変するメディア状況を時々のキーマンにプレゼン頂き、次はどんな状況になるか、各プレイヤーが活躍するためのポイントは何かを議論している(詳細は公式サイトへ)。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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