2024.09.07 08:00
【偽情報対策】過度な政府関与に懸念
総務省の有識者会議がインターネット上の偽・誤情報への対策をまとめた。情報の真偽を確かめるファクトチェックの在り方も含め、政府は来年の通常国会も視野に法整備を進める。
偽情報は、意図的に作成された虚偽の情報のことだ。勘違いや誤解による誤情報と共に、生成人工知能(AI)の普及もあってインターネットや交流サイト(SNS)で拡散し、社会問題となっている。
能登半島地震では、実際の被害とは異なる偽の救助要請が拡散し、救助活動を妨げたとされる。著名人の画像を無断使用した偽の広告による詐欺被害も広がっている。
SNSでは、閲覧数を稼げば収入増につなげられる仕組みを背景に、真偽不明な情報が拡散しやすい。個人への誹謗(ひぼう)中傷に関しては、今年5月に成立した情報流通プラットフォーム対処法に基づき、不適切な投稿への迅速な対応を事業者に義務付けている。だが偽情報については、事業者の自主的な対応の要請にとどまっていた。
対策では、投資詐欺広告を巡っては、SNS事業者に広告の事前審査基準の策定や公表を求めた。
広告の審査体制も整備した。事業者には海外企業が含まれるため、日本に関する十分な知識を持つ人員を配置することを義務化した。そのほか、広告主の本人確認徹底や広告の掲載停止を申し入れる窓口の整備も求めた。
違法な偽情報に関しては、行政機関からの申請に基づく削除の迅速化も盛り込まれた。
事業者任せでは限界があることに間違いはない。一方、行政の関与が行き過ぎると弊害を生む。
有識者会議は、SNS事業者やメディアなどの関係者が議論する協議会の設置を提言した。ガイドラインの策定や、事業者の対応を検証する役割を想定しているという。
政府の制度設計の下でつくられるため、行政が主導権を握るのではないかとの指摘がある。
最も重要なファクトチェックについても同様の懸念がつきまとう。行政が情報の内容に口を出し、削除を申請することは検閲につながる恐れがある。
今回の有識者会議の報告に先立ち、ファクトチェックの民間団体が政府関与の懸念を表明した。日本新聞協会も意見書を出している。
こうした懸念を踏まえ、有識者会議が政府や公的機関などからの独立性確保を提言したのはもっともだ。独立性が担保されなければ、客観的な検証ができず、政府批判を封じてしまうことにもつながりかねない。恣意(しい)的な申請を防ぎ、表現の自由を保障する仕組みが欠かせない。
政府は今後、制度設計を詰めていく。法整備の段階でなし崩し的に関与を強めることがないよう、肝に銘じてもらいたい。