<16回目までのあらすじ>母との生体腎移植手術を目前に控え、2019年7月31日、聖マリアンナ医大病院(川崎市宮前区)に入院した。一方、腎機能(eGFR)は7%、熱も入院前から37度を超え、さらには血糖値のコントロールもままならなくなりインスリン注射も始まった。担当医から「少しだけ人工透析をするかもしれません」と告げられる。「ここまで傷んだ体では、移植を受けても元の生活に戻れないかもしれない」と落ち込むが、その後主治医となる丸井祐二医師や、先輩の友人の入院患者との出会いに支えられ、手術日の8月8日へと近づいていく。
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「免疫抑制剤、今日から飲んでくださいね」。看護師さんはそう言って、ベッドの横のテーブルに、普通の錠剤より二回りほど大きなカプセルを四つ置いた。のどにひっかかりそうになりながら、大量の水で流し込む。8月5日、手術3日前の朝。術後の命運を握る薬の服用が始まった。
「透析、なしでいきましょう」
薬の殻を回収しに来た看護師さんが、念を押した。「免疫抑制剤は決められた時間と量を、必ず守ってくださいね。倉岡さんは午前7時半と午後7時半の2回。飲み忘れは、拒絶反応が起きる原因の半分を占めるという調査もあるようですよ」
拒絶反応――。移植を受ける側の免疫機能が、“異物”であるドナーの臓器を攻撃したり、抗体を作って排除しようとしたりすることだ。放っておけば、移植された臓器は機能を失う。それゆえ、免疫抑制剤を生涯飲み続けなければならない。移植手術後の治療の柱だ。
人によって効き目が違う。効き過ぎても、効果が薄くても、移植された臓器や体に悪影響を及ぼす。手術前から飲むのは免疫抑制剤に体を慣らし、「効き目のゾーン」を探るためだという。
薬価も安くはない。
私が当初飲んでいたものは1日当たり7000円を超える。ただ、障害者の医療費負担を軽減する「自立支援医療制度」の対象になり、私の1カ月の医療費負担は2万円を超えずに済む。免疫抑制剤を飲んでいる期間、つまり一生、障害者と見なされるからだ。
この日の夕食後。慣れない免疫抑制剤を何とか飲み終え、ベッドの上に座って本を読んでいると、「倉…
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毎日新聞医療プレミア編集部
1977年生まれ。2003年に早稲田大を卒業し、毎日新聞社に入社。佐世保支局を振り出しに、福岡報道部、同運動グループ、川崎支局、東京運動部、同地方部などを経て23年4月からくらし科学環境部医療プレミア編集グループ。17年に慢性腎不全が発覚し、19年に実母からの生体腎移植手術を受けた経験から臓器移植取材をライフワークとしている。スポーツの取材歴(特にアマチュア野球)が長い。高校生となった一人娘が生まれた時、初めての上司(佐世保支局長)からかけてもらった言葉「子どもは生きているだけでいいんだよ」を心の支えにしている。著書に「母からもらった腎臓 生体臓器移植を経験した記者が見たこと、考えたこと」(毎日新聞出版)。