住所・職業不詳の森田梨公哉容疑者(24)は今月1日の未明、埼玉県所沢市の住宅に「闇バイト」で集められたとみられるほかの3人とともに押し入り、この家に住む夫婦を刃物で切りつけるなどして現金などを奪ったとして全国に指名手配され、7日、新潟県で身柄を確保され強盗傷害などの疑いで逮捕されました。
調べに対し容疑を認め、「生活がぎりぎりだった」などと供述していて、警察は指示役についても捜査しています。
捜査関係者によりますと、所沢市で事件のあったその日の日中に埼玉県三郷市内で特殊詐欺事件があり、目撃情報や防犯カメラの映像などからこの特殊詐欺事件にも容疑者が関わったとみられるということです。
また、7日も新潟市内であった特殊詐欺事件で「受け子」をした疑いがあることが分かっています。
警察は所沢市の現場から逃走したあと、タクシーなどを使って各地を転々としながら別の事件にも関わっていた疑いがあるとみて詳しく調べています。
所沢強盗傷害事件 24歳容疑者 逃走中も特殊詐欺事件に関与か
今月1日、埼玉県所沢市の住宅に4人組が押し入った強盗傷害事件で7日逮捕された24歳の容疑者が、事件後、所沢市の現場から逃げたその日のうちに埼玉県内で特殊詐欺事件に関わったとみられることが捜査関係者への取材で分かりました。容疑者は7日も新潟県内で特殊詐欺事件に関わった疑いがあり警察が詳しく調べています。
容疑者 “『金渡す』が話変わり『強盗しろ』に” 供述
森田容疑者は、その後の調べに対し「指示役に『金を渡す』と言われて所沢に行ったら話が変わり『強盗をしろ』と言われた。断れなかった」などとも供述していることが捜査関係者への取材でわかりました。
9月30日に東京 国分寺市で起きた強盗傷害事件についても関与をほのめかしていて、警察は容疑者が複数の「闇バイト」に関わっていたとみて足取りなどを調べています。
逮捕までの容疑者の足取り
警察が防犯カメラの映像などを追跡した結果、森田容疑者は所沢市の事件の現場から逃走したあと20時間余りの間に東京、埼玉、仙台と数百キロをタクシーや新幹線で移動したとみられるということです。
警察が防犯カメラの映像などを追跡したところ容疑者は午前2時半ごろに所沢市で事件が起きたあと
現場から、いずれかの車で東京 小平市にあるJR新小平駅近くまで移動し
事件からおよそ30分後の午前3時ごろタクシーに乗って東村山市内まで移動していました。
その後、10時間ほど足取りが途絶えますが
午後0時50分ごろに東村山市でタクシーに乗っていました。
その後、東村山市から埼玉県内に入り、狭山市、三郷市、さいたま市西区、さいたま新都心周辺へタクシーを少なくとも6回乗り継ぎJR大宮駅で降りました。
午後10時ごろに、大宮駅から東北新幹線に乗り、日付が変わる前に仙台駅で降りていました。
捜査関係者によりますと、7日、新潟市の高齢の女性が被害に遭う特殊詐欺事件があり、市内の駅に現れた現金の受け取り役の「受け子」が女性から現金を受け取ったあとタクシーに乗ってその場を離れたということです。
通報を受けた新潟県警がタクシーの行方を捜査した結果、新潟県柏崎市内で見つけ乗っていた人物を確認したところ、指名手配中の森田容疑者だと名乗ったことなどから身柄を確保しました。
森田容疑者は、仙台駅に移動するまでは所沢の現場から逃げたときと同じ黒色のTシャツに黒色半ズボン姿でしたが7日、新潟県で見つかったときには上下黒色のスウェット姿で逃走中に服を着替えたとみられるということです。
タクシーなどの料金はいずれも現金で支払っていて確保された際、現金およそ1万円やスマートフォンなどを所持していたということです。
警察はさらに詳しい足取りや逃走資金の出どころなどについても詳しく調べています。
所沢 事件現場付近の住民たち“容疑者逮捕”に安どの声
逃走を続けていた実行役の容疑者の逮捕を受けて、所沢市の事件現場の近くに住む人たちからは安どの声が聞かれました。
小学生の子どもがいるという40代の父親は「子どもの小学校からも気をつけるよう言われていました。保護者どうしでも心配して情報交換するなどしていたので捕まってホッとしています」と話していました。
同じく現場の近くに住む50代の男性は「捕まったと聞いて一安心しましたが、強盗事件があるなんて改めて本当に怖いです」と話していました。
所沢の自治会 知らないナンバー車などに注意
所沢市の地域の自治会では、戸締まりなどに気をつけ、知らないナンバーの車が集まっていないかなどにも注意することにしているということです。
現場近くで1人暮らしをしている80代の女性は「息子から毎日『大丈夫?』と気遣う連絡がきています。日頃から戸締まりはしていますが大丈夫か不安で物置なども確認しました」と話していました。
別の60代の女性は、「夜中との話で怖いと思いました。この辺りは静かな場所で強盗なんて聞いたことなかったので驚いています」と話していました。
相次ぐ強盗事件とは
発生した時期が近く被害に遭った対象が似ていることなどから、各地の警察が関連を調べている「闇バイト」を実行役にした強盗事件は東京、埼玉、千葉、神奈川で少なくとも合わせて7件に上ります。
《第1事件 強盗予備》
最も早く事件が起きたのは千葉県で、ことし8月29日の午後6時半ごろ八千代市の質店に2人組が押し入りました。
2人は店の経営者に対し「脅されているので警察に通報してほしい」と伝えたあと逃走しましたが、その後、1人が強盗予備の疑いで逮捕されました。
調べに対し、「金もうけのためだった」と供述しているということです。
《第2事件 強盗傷害》
また、ことし8月31日の午後0時半ごろには、神奈川県厚木市の質店に2人組が押し入りハンマーを振り上げるなどして店員を脅し腕時計など130点、およそ8400万円相当を奪って逃げました。
実行役とされる2人が逮捕されたほか、運転手役とみられる1人も逮捕され、警察の調べに対しいずれも「闇バイトに応募した」と供述したということです。
《第3事件 強盗傷害》
さらに、9月3日の午後6時半ごろ、神奈川県鎌倉市の質店に2人組がバールを持って押し入りショーケースのガラスを割って腕時計2つ、2万2000円相当が奪われました。
この事件では、1人がその場で店員に取り押さえられて逮捕されたほか、逃走したもう1人と運転手役とされる1人も逮捕されました。
このうち1人は「SNSで『高額バイト』という投稿を見つけて応募した」などと供述しているということです。
《第4事件 強盗傷害》
さらに、9月18日午前1時ごろ、さいたま市西区の住宅に4人組が押し入り高齢の親子が縛られて10万円余りの現金などが奪われました。
実行役とみられる4人が逮捕されたほか、奪われたキャッシュカードで現金を引き出そうとしたとして大学生も逮捕されました。
容疑者らは「ネットでアルバイトに応募した。一緒に押し入ったメンバーたちとは全員初対面だった」とか、「SNSで『ドライバーの仕事ホワイト案件』などと書かれたアルバイトの募集を見つけて応募したが、強盗に関わってしまった」などと供述しているということです。
《第5事件 強盗傷害》
9月28日の午前3時前、東京 練馬区の住宅に複数の男がバールのようなもので1階の窓ガラスをたたき割って押し入り、この家に住む親子に打撲などのけがをさせたうえ、金品を奪って逃走しました。
これまでに実行役や見張り役とみられる合わせて4人が逮捕されています。
《第6事件 強盗傷害》
9月30日の午前4時ごろ、東京 国分寺市の住宅に複数の男らが押し入り、この家に1人で住む60代の女性の顔や手足を粘着テープで縛ってハンマーで殴るなどの暴行を加えたうえ逃走しました。
押し入ったのは2人とみられ女性は大けがだということです。
この事件では事件に使われたとみられる2台の車両が近くの防犯カメラに写っていました。
《第7事件 強盗傷害》
そして10月1日の午前2時ごろ、埼玉県所沢市の住宅に4人組が押し入り高齢の夫婦を切りつけるなどして現金およそ8万円を奪って逃げました。
7日に逮捕された森田梨公哉 容疑者(24)を含む実行役とみられる4人が逮捕されていて、調べに対し「秘匿性の高い通信アプリでやりとりして仕事を受けた。指示役に自分の個人情報を送るなどしてしまい強盗に加担するしかない状況になった」などと供述しています。
「闇バイト」 その実態は 埼玉県警に聞く
「闇バイト」の防止にあたっている埼玉県警察本部地域安全対策推進室の市川浩之室長に、その実態を聞きました。
市川室長によると、闇バイトの指示役、リクルーターは、SNSに「高収入」「ホワイトな案件」などと書き込み、割のいい正規の仕事に見せかけて、不特定多数の人たちにアルバイトの募集をかけます。
これを信じて応募すると、続いて、秘匿性の高い通信アプリをスマートフォンに入れてやり取りするように指示されます。
そして、氏名や住所を聞かれた上「アルバイトの登録に必要だ」などと言って免許証の写真などを送らされます。
運転の仕事などと聞かされて指定された現場に着くと話が変わり、指示役から突然、強盗や詐欺などの犯罪に関わるよう命令されます。
驚いて断ろうとしても、指示役に名前や住所を把握されているので「断わればお前や家族に危害を加える」などと脅されて逃げられなくなり、犯罪に加担してしまうというのです。
市川室長は「闇バイトに申し込むと、特殊詐欺の『受け子』や『出し子』、強盗の実行犯など、犯罪組織の手先にされ、自分も犯罪者になってしまう」と指摘します。
指示役は発信元をたどれない秘匿性の高い通信アプリで指示を出しているため、警察が「実行役」を捕まえても、指示役までたどり着くことは容易ではないということです。
指示役は実行役が失敗して逮捕されると連絡を絶ち、また新たに「闇バイト」で次の実行役を探します。
使い捨てにされてしまうのです。
市川室長は「今回の事件で逮捕された実行役たちを見てもわかるように、指示役に『トカゲのしっぽ切り』をされ報酬も得られないケースが多い。残るのは後悔だけです。まず、怪しいバイトに応募せず、もし仮に申し込んでしまっても、犯罪行為は断って、警察や家族に相談してほしい」と話しています。