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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第38回「まぶしき闇」】
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陰鬱な現実に、陰鬱な物語を
そのころ、まひろは構想を書きつけています。
宿命
密通
不義
幸不幸
出家
『源氏物語』を構成する要素ですが、改めてなんなのでしょう。
確かに『源氏物語』は傑作です。
しかし読んでいると、なんでこんなに重苦しくて辛い話を読まねばならないのかと憂鬱になることはあります。
私だけでもなく、解説書にもそんなことは書いてあります。作者は暗い性格だという見解も一致しているものです。
これが国民的文学なのか。
どうしたものでしょう。来年大河舞台の江戸っ子たちは、「『水滸伝』みてーに、ヤベー奴らが集って暴れる、そういう明るい話が読みてェわけよ!」となるのもやむなしでしょう。
日本文学史でいうと、陰気な上方、陽気な関東になると思います。
本作のおそろしいところは、そんな陰気な話を書く作者は暗いだけでなく、メンタル猛者だと描くところでしょう。
まひろのもとに道長がノコノコ顔を出すだけで、どこか不穏な空気は漂います。すごい目をしている赤染衛門を想像してしまいます。
道長に、父の官職の礼をいうまひろ。
彼女の娘が11だと聞き出すと、敦康様と同い年ならもうすぐ裳着だと道長が言い出します。
するとまひろが、硬い顔のまま、娘の裳着に左大臣様から何か一ついただきたいとねだってきました。
おねだり下手なまひろにしては珍しい。
実の父の形見にでもするつもりでしょうか。
道長は「考えておく」と返します。彼がどこまで賢子を娘と認識しているのか、これもわかりにくい。
さらに道長は、裳着を終えたら娘を藤壺に呼び出すことを提案します。
さすがに引き攣るまひろの顔。
道長は「人気の女房になって、亡き定子様の登華殿のように華やかな場を演出できるかもしれない」と笑顔を浮かべてますが……。
ますますひきつるまひろの顔。
結局、道長って、まひろにも倫子にも鈍感で不義理にすら思えてきます。
ききょうのように「こんなツッコミたくなる男をメインにして、よくもまあ、こんな面白い話にできますわ!」と言いたくなりますねえ。
もう道長、何を考えているんだ。
すると本人も気づき「まひろに人気がないというわけじゃない」と言います。
ただ、まひろは自分が人気者でないことは理解しているので、そこは織り込み済みです。物語さえ人気になればいいと返します。
おじさんのセクハラは千年前から迷惑です!
もうひとつの要素は、これも『源氏物語』読者はピンとくるでしょうか。
光源氏は、本命女性の娘世代にも手を出します。
永遠の憧れの相手である藤壺。
その姪にあたる紫の上と、女三宮。
夕顔の娘である玉鬘。
六条御息所の娘である秋好中宮は入内しているにも関わらず、ひたすら気持ち悪いセクシーな言動を重ねる。
ききょうが呆れるほどひどいセクハラ三昧を展開するわけです。
ふと、昨年の大河ドラマ『どうする家康』を思い出しました。
あのドラマでは「お市と淀という母娘が家康に恋をしている」という不気味な設定を展開していました。
おまけに家康は、孫の千姫相手にまで「俺に惚れるなよ」オーラを出していたものです。
信長も娘の顔を無意味に鷲掴みにしていましたね。
あれは要するに、おじさんの「俺はいくつになっても若い女にモテモテ!」というファンタジー描写でしょう。
そんなもんは薄気味悪いだけだと、千年以上前に紫式部は喝破していたのです。あのような描写にした昨年の制作陣は反省して欲しい。
そんな物語を書く作者からすれば、まひろ二号として娘に近寄らないか、警戒心は出てくることでしょう。
道長は、実の娘と気づいているのかどうか。
あかねを「和泉式部」として藤壺の華とする
警戒心を募らせたまひろは策士ぶりを発揮します。
正面突破タイプなら、娘のことをしっかり打ち明けるのでしょうが、まひろは迂回させる。
藤壺にふさわしい人気者の女房候補、しかもこぼれ落ちるほどのセクシーさを誇る女性を挙げる――そう、あかねです。
まひろの腹黒さ全開ですね。
『紫式部日記』において、彼女のことを「和歌の才能は素晴らしいけど、一体どういう貞操観念なのか」とチクリと嫌味を書いていた。
それを踏まえると、色気全開の彼女を、本人の承諾前に差し出すまひろはどういう性格なのかと突っ込みたくなります。そりゃききょうも、ああいう態度になるでしょう。
そして、そのあかねが藤壺にきました。
宮の宣旨が「和泉式部」という名を与えると、別れた夫の感触は嫌だとあかねは拒否。これにはまひろ以下、皆が目を泳がせています。
あかねは最愛の人(しかも兄弟)である「宮」をつけた「宮式部」を希望しました。
これはまひろの作戦勝ちでしょう。空気を読めない才人枠が増えました。
宮の宣旨も呆れ、文句を言わずに「和泉式部」と名乗るように命じます。
あかね気持ちを切り替えたようです。ただ案の定、他の女房たちは“変人天才枠”に不満そうですが……。
そのあかねは敦道親王との思い出を綴った書をまひろに見せています。
『和泉式部日記』ですね。
書くことで己の悲しみを救う――そんなまひろの言葉がなければ自分は死んでいたかもしれないとあかねは心情を漏らします。
書いているうちにまだ生きていたいと思った。書くことで命が再び息づいたと語る。
まひろはその作品を受け取り「胸が躍る」と笑顔になっています。
本気で嬉しいのでしょう。
プロ意識の高いまひろは、作品と作者への感情を完全に切り分けます。それができない側からすれば「なんだあいつ」となってしまうんですけどね。
あかねも「まひろが物語を書くことで気持ちを救っているのか」と問うてきます。
淡々と「そのような思い入れはない」と語るまひろ。頼まれて書き出したと認め、書いていればもろもろも憂さを忘れると言います。
あかねに「仕事なのか」と言われ、笑い認めるまひろです。
藤壺の庭で女房たちが貝合わせを楽しみ、その様子を帝と中宮が見守っています。
そこには藤原頼通や、源明子の子である藤原頼宗といった若手公卿もいます。
あかねの色香にすっかりカチコチになってしまい、画面越しに動揺が伝わってくるようですが……大丈夫なのでしょうか。
まひろはそんなときでも執筆中でした。
我が子を頼む母の思い
源俊賢が、高松殿にやってきた頼通を出迎えています。
いい飲みっぷりだとおだてる様は、実資が日記で腐したような“追従気質”を思わせます。
俊賢と明子の兄妹としては、頼通にとっては異母弟である頼宗を引き立ててくれるよう頼みたいのでしょう。
俊賢は金峰山での頼通のことも褒め称え、頼宗も兄上が藤壺で人気だと褒めます。
明子はさらに頼宗の引き立てを念押しすると「それは父上に仰ってください」と困惑気味。
家族の団欒に、そんな生々しい話を持ち出されても嫌かもしれませんね。
それでも明子はこれからは頼通様の世、道長様が道綱様を大事にしているように、頼宗の引き立てを頼み込んできます。
明子は、道綱の母であった寧子と同じく、我が子の出世を願う母になりました。
倫子とは異なり、もう殿の愛は求めていないようです。
明子は「六条御息所に近いのではないか?」と指摘されますが、確かに彼女もあれだけ色々あった光源氏との関係が、結局は娘の秋好中宮の身元保証を頼む流れに収束していったものでした。
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