日本公開が決まった6月の時点で、複数の映画関係者が注釈なき宣伝に懸念を表明していたことが記憶に新しい。
いわゆる「Qアノン」がつくった児童売買陰謀論の映画『サウンド・オブ・フリーダム』が、日本国内でなんの注意もなく公開とのこと - 法華狼の日記
宣伝において注意するまでもなく観客が上記のような情報を認識して鑑賞するのならいいが、現時点では宣伝の時点でなんらかの断り書きがほしいところだ。
この映画は陰謀論的な人身売買観にもとづいていると指摘されており、さらにもとになった実話の真実性もうたがわれ、モデルになった人物の不祥事も発覚している。
シネマンドレイクの感想エントリで、周辺情報とあわせてくわしくまとめられている。
『サウンド・オブ・フリーダム』感想(ネタバレ)…Q世主になりたいだけでは | シネマンドレイク:映画感想&レビュー
本作は2018年に完成しており、企画はもっと前なので、Qアノンが拡大した時期ともズレています。
しかし、『サウンド・オブ・フリーダム』の製作陣の多くは公然とQアノンを支持する者たちやQアノンに支えられる保守右派系の人たちで成り立っています。
それ以外にも「Operation Underground Railroad」の組織活動の中身にも以前から批判があったことが再注目され、さらには劇場公開後に主人公の“ティム・バラード”について致命的な問題が発覚し…(こちらは後半の感想で)。
そもそも左派有力者が児童人身売買をおこなっているという陰謀論はQアノンが支持する「Q」の登場以前から存在した。現場とされたピザ屋への襲撃にいたったピザゲート事件は2016年に起きた。
ピザ屋の地下で子ども殺害を繰り返している…米国「陰謀論者」が起こしたトンデモ事件の顛末 | ニュースな本 | ダイヤモンド・オンライン
2016年12月、ワシントンの小さなピザ店を銃で武装した男が襲撃するという事件が発生しました。幸いにして死傷者こそ出なかったものの、男を駆り立てたのは、ツイッターへの書き込みを起点として広まった「ヒラリー・クリントンを中心とする組織の拠点がそのピザ店の地下にあり、子どもへの性的虐待や殺害を繰り返している」という陰謀論でした。
つまりQアノン以前につくられたことは陰謀論的であることの決定的な反証にはならない。どちらかといえば「Q」は既存の陰謀の裏づけを語ることで支持されたという時系列で考えるべきだろう。
モデルとなった団体に対する批判としては、シネマンドレイクで紹介された性的目的より労働目的が多いという当事者の指摘や*1、暴力的な誘拐よりも弱い立場の人間を誘惑したり購入することが多いという指摘がある。
『サウンド・オブ・フリーダム』を観た人身売買対策の専門家の指摘。映画では10歳にも満たない少年少女が突然誘拐される姿がセンセーショナルに描かれるが、実態として人身売買は身内や知人の犯行が大半で、被害者の多くは行き場のないLGBTQ+の10代後半の子供である。
screenrant.com
日本軍慰安所制度や黒人奴隷制度でも、直接的に暴力をつかう拉致は少なかった。暴力をともなう奴隷狩りは耳目を引いて印象にのこりやすいが、加害者にとっても手間がかかるので手段として選ばれないものだ。
懸念されるなかで一般公開された『サウンド・オブ・フリーダム』だが、何人かの著名人が映画に感動して情報を拡散したり、指摘をうけて投稿を削除しているようだ。
"サウンドオブフリーダム"観てきました。全米興業収入第1位
児童人身売買の実話を基に制作された映画。
アメリカで公開に5年、更に日本公開まで1年もかかっての公開だそうです。たくさんの方に今すぐ
見てほしいなと私は感じました。
特に、小さな子どもがいる親は必ず観るべき。。何度も何度も胸が張り裂けそうになり
苦しかったです。
でも、決して私たちにとっても
他人事ではない
「児童人身売買」について。
本当に恐ろしい事がリアルに起きています。そして今、世界では人身売買の
マーケットは過去最大に拡大していて、
何百万人もの子ども達が被害に遭っている…
と映画の最後に記載がありました。日本も例外ではないです。
国内でも年間にたくさんの子ども達が
行方不明になっているそうです。
事実を知らないと守れるものが
守れなくなる可能性もあるので
おぞましい現実から目を背けず子ども達が安心して暮らせる未来をみんなで守っていきたいと感じました🌏🤝🏻
#サウンドオブフリーダム
女優でもある板野友美氏のSNS投稿は、スポーツ紙が否定せず注釈なく掲載したことで、さらに拡散されているようだ。
板野友美、児童人身売買描く映画「サウンドオブフリーダム」観賞「子どもいる親は必ず観るべき」 - 芸能 : 日刊スポーツ
陰謀論という批判に反論するような投稿をリツイート*2もしている。投稿に登場する永田有理氏は米国で警官として勤務するインフルエンサーだが、同時に一部で有名な陰謀論者だ。
板野友美氏が直接観て影響受けたのかは勿論分からないけれど、投稿順を見る限り、「陰謀論じゃなかった…人工地震」「(この映画を)Q◯ノンって何?」「2024 選挙がなくなる」などの発信をしてきた「LA初 日本人女性警察官」永田有理 aka YURI氏の2024/9/24 YouTube配信動画が大拡散された効果よね。
小説家の山田正紀氏は注意すべき作品だったと知って感想を削除すると説明していたが、その説明も削除して現在に確認できるのは下記の返信だけ。
情報、ありがとうございます。少し、この映画のことを調べてみますね。確かに、ポリティカル・サスペンス映画としては、極めて出来の良い作品ではあるのですが。
説明を消した理由はわからないが、削除する判断を批判する山形浩生氏*3のような反応が複数あったためかもしれない。
ひどい話だ。ある映画がアメリカで政治的に利用されることが多いからといって、なんでそれを見たストレートな感想まで (それも日本で) 検閲されねばならんのだ。
こういう言論弾圧=人権抑圧が当たり前とする信仰を抱えてると大変どすなあという感じがするが。。そんな不自由を尊重するリベラルってのもなんなんだろね?とも。あといちいち検索回避するために「サウンド オブ フリーダム」なんて表記する姑息さとか含めてクズいっすねとかもまあ。w
脅迫などで強制されたわけでもない撤回を「検閲」や「言論弾圧」と表現するのもよくわからないが、問題の映画は単純に「政治的に利用されることが多い」だけではない。実話の真実性からしてあやしく、中心的な人物が不祥事で団体から追われている。
そもそも映画自体が、エンドロールに新たな鑑賞者のためにチケットを購入できるQRコードを表示する手法をつかったり、映画サイトで団体への寄付をつのったりしている。「政治的に利用されることが多い」などと受動的に表現しては映画関係者にも失礼だろう。
映画『サウンド・オブ・フリーダム』公式サイト
事実にもとづくと宣伝された作品が実際には虚構に満ちていることは少なくないし*4、カルト宗教のプロパガンダ映画を鑑賞する権利も否定はできないが*5、後から情報をあつめて感想をとりさげる自由もあるはずだろう。
ちなみに「魚か@naakass」氏などは、日本の歴史を題材にしたゲームの話題に学術的な検討をもとめ、実際の学術的な見解が自身の好まない方向*6であれば「キャンセル」の責任を負わせている。
弥助問題、これ、偽史であることをファクトチェックして学術的にキッチリ検討した反論を日本からの声明として出す。。あれ?日本ファクトチェックセンターさん。。。。日本学術会議さん。。。。あれ????お仕事??????あれ?????
しかし弥助問題がこう急速なキャンセル運動にまで過激化してきたのも、まあ単に歴史戦とか偽史を巡る論争だったはずの議論に、人文界隈のまあオールスターズが参戦してきて無駄に大衆の感情を煽るように小馬鹿にしだしたのが契機で。。。あいつら出てきたことで拗れてるぞこれ???w
国家として反論を声明として出すようなことをすれば、それこそ話がこじれることになりかねないと思うが、ならば『サウンド・オブ・フリーダム』やそれを安易に信用したことが批判がされるくらいは受けいれるべきだろう。
*1:I’m a Sex Trafficking Survivor. I Have Concerns About ‘Sound of Freedom’ - Progressive.orgを機械翻訳で読んだ。また被害者よりも支援者が英雄的に物語の中心になっているという批判もされているが、それは社会問題を描いた娯楽作品が少なからずかかえていて批判もされてきたので、この作品の問題だとしても突出した固有の問題ではないとは思う。
*2:現リポスト。
*3:はてなアカウントはid:wlj-Friday。
*4:作品の価値を致命的に下げるとはかぎらないとも思っているし、ドキュメンタリにも演出は必須という考えをもっているが、その立場ですら演出が鼻につくことがある。 『世界まる見え!テレビ特捜部』ドキドキもハラハラも止まらない危険な旅SP - 法華狼の日記
*5:私自身も何作か視聴してきた。『UFO学園の秘密 The Laws of The Universe - Part0』 - 法華狼の日記
*6:呉座勇一氏の問題発言をきっかけに出されたオープンレターを揶揄する表現「オープンレターズ」をつかっているが、弥助について好まない方向の発信をしている平山優氏が呉座氏と関係が深いことを知らないのだろうか。『春木で呉座います。』平山優さんゲスト回、本日20時より配信です。 - 呉座勇一のブログ