感覚のおかげで学習効果が高まるという事実は直観に反するかもしれないが、触覚や運動感覚が刺激される活動は、学習や記憶に関わる脳の領域を活性化させると、米南カリフォルニア大学脳・創造性研究所の教授リサ・アジズ・ザデー氏は述べている。
「人の脳は感覚情報と運動情報を処理するように進化しました」とアジズ・ザデー氏は話す。「感覚処理と運動処理をつかさどる脳の同じ領域が、今では高次認知にも関与しています」
脳の大部分が使われている
私たちの感覚が認知に与える影響をよりよく理解するには、脳を道路網のように考えればいいとノルウェー科学技術大学の神経心理学教授オードリー・ファン・デル・ミーア氏は説明する。氏によれば、子どもの脳のネットワークは、森の曲がりくねった小道のようなものだという。練習と経験を重ねることで、脳のさまざまな部位が接続され、情報を素早く効率的に伝達する高速道路になる。
ファン・デル・ミーア氏は共著者のルード・ファン・デル・ウィール氏と2024年1月に学術誌「Frontiers in Psychology」に発表した研究で、大学生36人を対象に調査を行った。学生たちは表示された単語をデジタルペンで画面上に書くか、キーボードでタイプする課題を与えられ、作業中の脳波を記録した。(参考記事:「言語を学ぶのに大人ならではの能力や大きな見返り、思考も柔軟に」)
「最も驚いたのは、デジタルペンで手書きしているときは脳全体が活性化するのに対し、キーボードでタイピングしているときは活性化する領域がはるかに小さかったことです」とファン・デル・ミーア氏は振り返る。「この結果は、自分の手で文字を書いているときは、その作業を完了させるため、脳の大部分が使われていることを示唆しています」
この研究ではさらに、手書きによって活性化された脳の各部位間の情報伝達で、学習に関連する脳波が使われていることが報告された。
「学習や記憶に有益な脳のアルファ波やシータ波に関する研究は数多く存在します」とファン・デル・ミーア氏は話す。「これらの脳波は、手書きをしているときは活発で、タイピングをしているときは不活発なことがわかりました」
ファン・デル・ミーア氏らはこの研究結果を踏まえ、手書きというスキルの維持を推奨している。ノルウェーでは、多くの学校が筆記体の授業をやめ、生徒たちはiPadで読み書きを行っている。ファン・デル・ミーア氏は自身の研究によって、この流れを変えたいと考えている。(参考記事:「スマホがあると退屈で集中力低下、海外の研究事例」)
「発達中の脳にとても良いため、少なくとも小学校のカリキュラムに最低限の手書きを取り入れるべきだと思います」
米国では、全州共通の学習基準(コモンコア)から筆記体の習得が削除されたが、学習面での利点から、いくつかの州で再導入が決定された。
大人についても、ファン・デル・ミーア氏はペンと紙を使うよう助言している。
「手で文字を書く習慣は、脳にとって非常に良い運動です」とファン・デル・ミーア氏は話す。「交通量の多い道路でメンテナンス作業を行うようなものです」(参考記事:「怒りは紙に書いて捨てると鎮められる、名大など実証」)
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