機密戦隊ポリコレンジャー(不定期更新中です)   作:あばばばばsho

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第1話

 A.D.2018 4/7 9:13 都内某所

 

 薄暗い部屋で、煌々と明るいモニターに向かう1人の女。彼女は呟く。

「ついに完成した。人類史に残る、魂の解放。さあ、新世界(ニューゲーム)の始まりだ……」

 

 

 A.D.2018 4/8 8:02 隅田区 東隅田のとある住宅街

 

 私、政 正子(まつりごと しょうこ)。今日から中学二年生。お母さんは、新学期早々遅刻しないように早く寝なさいって言ってたけど、クラス分けが気になって気になって、昨日は全然寝付けなかった。その結果、今は遅刻街道真っしぐらなんだけど。

 

「お母さん、行ってきまーす」

「行ってらっしゃい。あと、今日早く帰っておいで、お父さんが一緒に夕飯食べようって言ってるし」

「はいはい」

 

 私のお父さんは仕事の都合で、いつもはなかなか帰って来ない。しょうがないんだけどね。

 食べてすぐ走るとお腹痛くなるなぁ。春休みにぐうたらしてたツケが回っちゃったかも。

 

「痛っ、あ、ごめんなさい」

 背の高い男の人にぶつかっちゃった。あ、こういう時はパンを咥えてるといいんだっけ。

「こちらこそごめんなさい、政 正子さん」

 

 いえいえ……ってなんで私の名前知ってるの?! もしかしてストーカー? 怖い怖い!! 

 

「いきなり名前呼んで、驚かせちゃって、ごめん。僕の名前は原須 面人(はらす めんと)だ」

 

 原須さんは私に名刺を渡してくれた。どれどれ……

 

『NPO法人 機密戦隊 ポリコレンジャー所属 技術担当 原須面人』

 

 えぇぇー!! ポリコレンジャーって何?! テレビとかでやってる、なんとかレンジャーってやつの仲間?? 私はどっちかっていうとポリキュア派なんだけども……

 

「そのポリコレンジャーという組織は、端的に言って、世界を守る仕事だ。そして、今日君を仲間として迎えたい、という訳だ。取り敢えず事務所に来てもらえないかな??」

 

 世界を守る、かぁ……って、世界?! しかも私なの? もしかして怪しい勧誘だったりして……

 

「安心してね? 君の学校には連絡も行っていて、休んでも良い事になってるからそこは気にしなくても良い。いま確認の電話をしても良いが……」

「いやいや! 大丈夫です!! それより、なんで私なんですか?」

 

 取り敢えず、怪しい人でもないらしいけど……。てかその組織名で学校の許可出るものなの? 

 

「その理由については、僕のボスが詳しく話してくれるから、まず事務所に来てくれないかな?」

「まぁ、いいですけど」

 

 そんなこんなで原須さんの運転する車に乗り、ポリコレンジャーの事務所に行くことに。

 私が住んでいるのは、隅田区の東の方。近くに粗川が流れている。割と賑やかな街で、生まれも育ちもここ。原須さんたちの事務所は、湊区の代場シティーセンタービルというビルの13階なんだそう。

 原須さんは結構感じの良い人だったけど、恋愛対象が男だって聞いた時はびっくりした。

 原須さんによると、ポリコレンジャーのラボも同じビルにあって、内部を見たら驚くこと間違いなし、だそうだ。

 

 

 A.D.2018 4/8 8:32 湊区 代場シティーセンタービル

 

 

 私と原須さんは代場シティーセンタービルに着くと、ガラス張りのエレベーターに搭乗した。

 エレベーターが13階に到達し、私が降りると、原須さんはとある一室の扉を指した。

 

「ここだよ」

「ありがとうございます。では……お邪魔します」

 

 鉄の扉を押し開けると、内装は普通のオフィスの様だった。その狭さと、窓が無いことを除いて。

 

「やあ、君が政正子さんだね」

 

 2台しかない普通のデスクの奥にある、少し大きなデスクに座っていた、明らかに賢そうな長髪の女の人が話しかけて来た。あの人がポリコレンジャーのボスなのかな? 

 

「原須に同行してくれてありがとう。私の名は狩野 言葉(かりの ことのは)。早速説明に入りたいのだが、大丈夫だろうか」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 原須さんとここに来る間、ポリコレンジャーについて詳しいことをちょっと聞いておけばよかったかな……。そういえば世界を守るとかなんとかって言っていたけど……。

 

「まず、君はポリティカル・コレクトネスというワードを知っているかな?」

「めっちゃダメージとか入るやつですか?」

 

 原須さんと狩野さんは同時に深いため息をついた。もしかして別なものだったりするのかな……

 

「それはクリティカルだ。ポリティカルというのは、政治的、という意味だ。ポリティカル・コレクトネスというのは、元来は政治的、社会的に公正、中立な言葉や表現を使用することだ。例えば、昔は看護婦と呼ばれていた職業は、男女平等の観点から看護師という表現にかわった。ポリティカル・コレクトネスは、今ではポリコレと略され、しかもその意味はもっと広義的になってはいるが」

「よくわからないけど、平等にしようって感じなんですか?」

 

 原須さんと狩野さんはまた同時に深いため息をついた。私また変な事言ったかな……? 

 

「まあ、その程度の理解で十分だ。君は今は気がついていないだろうが、世界はポリコレ派と、あえて名付けるならアンチポリコレ派の戦争が起きつつある」

「戦争ですか?! めっちゃ平和なんですけど?」

 

 戦争って、爆弾とか、銃とかが使われて、人が怪我したり、死んでしまったりするものだよね? 確かにニュースとかで中東の方がなんとか、とかやっている気がするけど、ポリコレ派とかは聞いたことない……。

 

「まあ、起きつつあるだけだから、まだそこまで激しくなっていないが、今後、最悪の事態が起きる可能性がある。そしてそれを防ぐための組織が我々ポリコレンジャー。そして、戦争を早々に終わらせる為、われわれはその適任者を探していたのだが、それが君だった、というわけだ」

「私、戦争なんか起こしたくないです。私がやらなかったら、戦争が起きてしまうんですよね? そんなこと嫌です」

「なら話は早い。だが、ここから先はもう君は後戻り出来なくなる。それでもいいか? 君は大義の為に戦う覚悟はあるか?」

 

 一瞬、頭に私のお母さん、お父さん、クラスのみんなの顔が浮かんだ。全てがいきなり過ぎて、よく分からないし、正直言うと怖い。けど、私は前に進まなくちゃいけない。世界を守る為に。戦争を止める為に。

 

「はい。あります」

「よし。それでは君を我々ポリコレンジャーに歓迎する。早速、奥の部屋に君を案内しよう」

 

 奥ってどこ? どこにも奥になる部分が見当たらないんだけど? こんな狭い事務室に何かあるの? 

 そんなことを思っているうちに、狩野さんは自身のデスクに戻って何やら机の上のタブレットを操作している。

 

「ちょっと揺れるけど、大丈夫だからね」

「揺れるってどういうことでゥェ?!」

 

 原須さんに返事をする前に、いきなり揺れが来て、へんな声が出ちゃった……。けど、どういうこと?! なんか下に下がっているような気がするんだけど?! 

 

「さあ、こちらが私たちのラボだ」

 

 そう狩野さんが指差した方に、扉のような枠が現れていた。どうなっているんだろう。

 狩野さんを先頭に、私と原須さんがそのドアを通り抜けた。ラボって、研究室みたいな所ってことだよね? 機械とかが沢山あったりするのかな? 

 

「えぇぇぇぇ?!」

「そう、これがポリコレンジャーの真髄だ」

 

 ラボの中は事務所と違って、上階が吹き抜けとなっていて、あらゆる機材が置いてあるけれど、時々目を引くものがある。真っ赤なバイクとか、それに……真ん中のアクリルだかガラスだかのケースに入っているのは……鎧? 

 

「さて、早速紹介しよう。君が今見ているその鎧、これが我々の開発した次世代型パワードスーツ、pc.anti virus Mk-Ⅱだ。君にはこれを装着してもらう」

 

 そう紹介された鎧は、真っ赤な鎧で、所々炎の意匠がある。鎧といっても、結構動きやすそうな格好で、頭や肩、胸、腰、腿、脛、そして足に多少のアーマーが付いているだけだけど。これを着て何かと戦うらしいけど……。

 

「さて、君はこのスーツを着てコンピューターウィルスと戦ってもらう」

「ちょっと待ってください。コンピューターウィルスって本当にウィルスだったんですか?」

 

 コンピューターウィルスって、確かウィルスでもなんでもないよね? 似ているだけで。そんなことを学校で聞いた気がするんだけど。

 

「まあ、普通はそうさ。だが、君が戦うのは、新種のウィルス、とでも言っておこうか。最近の度重なる電波障害については知っているかな?」

「知ってます。ここ数週間で時々起こっているやつですよね?」

「そう。そしてそのウィルスはアンチポリコレ派が発生元であろう事が分かったのだ。ただ、電波障害はその副産物に過ぎないのだが」

 

 そう言って、狩野さんはあるケースに私たちを手招きした。

 

「これは電脳世界を可視化できるようにした装置で、この中にはそのウィルスがいる」

 

 そのケースを覗き込んだ。そこには黒いモヤモヤした丸いものがいた。

 

「この黒いのがそのウィルスですか?」

「そう。これは我々が捕獲し、それを鎮静化させたものだから、今は危害を加えないものだ。昨今、我々だけでは手に負えないウィルスが増えてきた。そこで我々はウィルスに対抗できる装備を開発し、その装備に適合する人材を探すこととなった。そしてその人材こそ君、というわけだ」

 

 電脳世界を可視化するとか、ウィルスを捕獲するとかよくわかんないけど、多分本当のことだと思う。なんで私が選ばれたのかはよくわかんないけど。

 

「そして、この鎧と君を繋ぐのが、このブレスレットとメモリだ」

 

 そう言って、またしても狩野さんは私たちを手招きし、なんちゃらⅡとかいう鎧の隣にある赤と黄色の二色のカラーリングのブレスレットがあるところまで案内した。

 

「これはポリコレチェンジャーと、ポリコレメモリだ」

 

 そう言って狩野さんはポリコレチェンジャーとポリコレメモリが繋がれた機械からそれらを取り外し、私に手渡した。

 

「このpc.anti virus Mk-Ⅱを装着するには、この2つのアイテムが必要だ。このブレスレットを腕につけ、メモリをブレスレットの穴に挿入し、横についているトリガーを引けば装着が出来る」

 

 これ、本格的になんとかレンジャーの変身アイテムみたいになってる……。ただ、こういうの結構憧れていたから、ちょっと楽しみ。

 

「そしてこのバイクは、ポリコレイダーだ。これは現実世界でも使えるし、電脳世界でも使うことができる」

「電脳世界ってどんな所なんですか?」

「その説明は、原須からしてもらおう。その世界を創ったのは、原須だからな」

 

 え、原須さんって世界を創っちゃったの? 頭良さそうだったけど、かなり凄い人だったりする? 

 

「じゃあ僕から電脳世界の説明を。勿論、電脳世界には元々、いわゆる空間、という概念は無いんだけど、ウィルスを有人で倒すにあたって、空間の概念があった方がやりやすい」

 

 ふむふむ……。

 

「また、電脳世界からこちら側の世界に、次元の関係上帰ってこれなくなる可能性も出てくる。このような事態を避けるため、僕は仮想的な電脳空間、というものを作った」

 

 ふむふむ……。

 

「そしてこのウィルスもその空間に強制的に転移させることによって、ウィルスを可視化し、倒すことを可能にしているんだ。世界を創るって言っても、正確には、データ処理の関係上、ポリコレチェンジャーの付近にしか電脳世界は現れることは無いんだけど」

 

 ふむふむ……。

 

「なんとなくわかりました」

 

 全然わからないけど!! まあとにかく、電脳世界があるってことだね。

 

「原須、ありがとう。政、1つ注意点がある。このポリコレチェンジャーを使うところを誰にも見られるな。君の正体を敵に晒すことは、君の命を危険に晒すこととなる」

「了解です」

 

 正体を知られてはいけない、とかこれもう完璧にアメコミヒーローとかにあるやつだよね。ワクワクしてきた! 

 

「あと、電脳世界への行き方だが、電脳世界はあらゆる回線を利用して現実世界と同様の世界を仮想的に作っているものだから、基本的にどこからでも行けるけど、電脳世界からログアウトした時には入った場所に戻ってくるようになっている」

 

 うんうん……。

 

「また、電脳世界の遠近は、無理矢理三次元的にしてしまったせいで、現実世界の遠近と同じになってしまったから、ウィルス発生現場の近くに行かないと、ポリコレチェンジャーの展開する電脳世界にウィルスを捕捉出来ない点は注意だ」

 

 うんうん……。

 今度は少しだけ分かった気がする。

 かのロックウーマンみたいな設定だなぁ。あれも帰ってくるときは同じ所に帰ってくるようになってた気がする。

 

「さて、紹介に戻ろう。このバイクはポリコレイダーだ。このバイクは現実世界でも、そして電脳世界でも使える」

 

 そう言って狩野さんが紹介したバイクは、さっき私が見てたバイク。これも赤を基調として、所々炎の意匠がある。普通のバイクっぽいけど。

 

「このバイクは色々な装備を付け加えることができるが、その説明は後にしておこう」

 

 そう狩野さんが言った瞬間、部屋にサイレンが響き渡った。

 

「さあ、君の初仕事だ。戦い方は連絡するから、ここでポリコレチェンジャーを使い、ポリコレイダーで現地へ向かってくれ」

 

 もう初変身しちゃうの?! まだ説明終わってないのに?! 案外狩野さん、適当な人だったりして。とりあえず向かってみるしかないか。

 

『ポリコレチェンジャー!』

 

 ポリコレチェンジャーを腕に巻くと、軽快な電子音声が流れた。

 

『レッド!』

 

 メモリの起動ボタンを押すと、これまた電子音声が流れた。

 

「ポリコレチェンジ!」

 

 即興で変身の掛け声を作ってみた。なんとかレンジャーで聞くような掛け声。

 

『ポリコレッド!』

 

 メモリを入れ、トリガーを引くと、音楽が流れ、そしてポリコレッドと名前を言った。これ、ポリコレッドっていう名前だったんだ。

 そんなことを思っているうちに、ラボの真ん中にあったスーツが消え、私の身体の周囲にアーマーが展開される。そして一斉にそれらのアーマーが私の身体に装着された。

 

「痛っぁ?!」

 

 一気に身体に装着されたせいで、結構痛かった。装着するたび毎回痛い思いをしなくちゃならないなんて……。

 

「よし、場所のデータはポリコレイダーに送っておいたから、そこへ向かってくれ」

「ここからどうやって外に出るんですか?」

「君とポリコレイダーをこのビルの地下まで転送する。そこから地上に上がれる」

 

 今転送って言ったよね?! 鎧を転送出来るんだから当たり前だけど、つくづくこの組織、やばいなあって思う。

 

「戦い方は向こうに着いたら連絡するから、心配は無用だ」

 

 色々ツッコみたいけど、とりあえず向かうとしますか。

 場所は……品河区の大埼の辺り。

 

「ポリコレイダー、転移システム起動!」

 そう原須さんが言うと、私の視界にはもう先程までいたラボは消えてしまった。

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